新編秋田弁講座文法篇第63課：疑問詞・疑問詞疑問文

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文法篇第63課：疑問詞・疑問詞疑問文

　みなさんこんばんは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回は、秋田弁の疑問詞、および疑問詞を使った疑問文、

　すなわち、秋田弁における「疑問詞疑問文」についての

　勉強をしていきます。

　まぁざっくり言うと「YES]「NO」ではこたえられない疑問文のことですね。

　ともあれ、秋田弁学習を進めていきましょう。

　秋田弁長文会話はいつも通り課末に附してありますので、

　力試し等したい方は是非読んでみてください。

　ではでは、今週の秋田弁講座、スタートです。

文法

１．秋田弁の疑問詞

　疑問詞とは、疑問に思った正体が分からない「人」「場所」「時」「物」「理由」などを指す言葉。まぁ言葉の定義云々は別に覚えなくていい。以下のものが秋田弁の疑問詞である。

	秋田弁	標準語
①	いづ	いつ
②	どご	どこ
③	だれ	だれ
④	なに	なに
⑤	どれ	どれ
⑥	どの	どの
⑦	なんだ	どんな
⑧	どーいう	どういう
⑨	なんと	どう
⑩	なして	どうして
⑪	なんとして	どうやって
⑫	なんだえんだ	どのような
⑬	なんだえに	どのように
⑭	なんぼ	いくら
⑮	いぐづ ※年齢「なんぼ」(何歳、の意。)	いくつ ※年齢：「いくつ」(何歳、の意。)
⑯	なん～例：何[なん]時何[なん]日何[なん]回	なん～例：何[なん]時何[なん]日何[なん]回
⑰	なんぼ～例：なんぼ日　なんぼ億　なんぼ組	いく～例：幾日　幾億　幾組

説明

１．赤太字は標準語と違う部分を指す。

２．⑬の「なんだえに」は「あんだえに」から類推で再建した言葉で、実際に使われたところは聞いたことがないのが実情である(詳しくは第19課参照されたい)。もっとも、「なんと」「なんとして」で同じような意味を表せるから、無理に使わなくてもいいだろう。

補足：「何＋『だ』/『ﾝだば』/『でも』/『の』」→「何[なに]ﾝだ/ﾝだば/ﾝでも/の」と読む。

	秋田弁	標準語
例文①	これ何[なに]ﾝだ？	これはなんだ？
例文②	何[なに]ﾝだば良？	なにならばいい？
例文③	何[なに]ﾝでも良。	なんでもいい。
例文④	何[なに]の話ﾝだ？	なんの話だ？

説明

１，秋田弁では、「何」の直後に指定の助動詞「だ」や副助詞「ﾝだば」「でも」、格助詞「の」が付く時、「なん」とならずにそのまま「なに」ということが多い。当テキストではこれを標準としている。

２．もっとも、多いだけで「なん」と発音しても問題はない。そう発音することもある。

３．なお、例文②の「なにﾝだば」は、絶対に「なんだば」とは言わない。そもそも標準語でも「なんならば」とは言わないだろう。例文①と混同しそうだなと思って敢えて注意喚起のために混ぜたに過ぎない。

２．秋田弁の疑問詞疑問文

　疑問詞疑問文とは、疑問詞を用いる疑問文。正体の分からない「人」「場所」「物」「理由」がなんなのかを相手に尋ねる疑問文である。要は「はい」「いいえ」で応えられない疑問文。

・秋田弁の疑問詞疑問文の作り方は、以下の五つ。

	疑問詞疑問文の文型
文型①	「疑問詞を含む文を、用言の終止形で終わらせる。」
文型②	「疑問詞を含む文を、疑問の終助詞『な』で終わらせる。」
文型③	「疑問詞を含む文を、終助詞『って』で終わらせる。」
文型④	「疑問詞を含む文を、伝聞の終助詞『ど』で終わらせる。」
文型⑤	「疑問詞を含む文を、終助詞『がな』で終わらせる。」

説明

１．秋田弁の疑問詞疑問文の文末は、上記の通り終助詞か用言終止形が原則だが、「これ何ﾝだ？」を「何ﾝだこれ？」と言ったりする「倒置」や、「どごさ？」「なして？」のように主語や述語を省いて質問する「省略」は、標準語同様普通に使われる。

２．倒置や省略の例は下記参照されたし。

倒置・省略の例文

	秋田弁	標準語
省略①	かー、聞だが？あれ人どご殴ったど。 ―あいしか。なして？誰どご？	母さん、聞いたか？彼は人を殴ったそうだ。―あらもう全く。どうして？誰を？
省略②	あれあど行ったやは？ ―おや、ほんとにげぁ？どごさ？	彼はもう行ったよ？ ―おや、本当かい？どこへ？
倒置①	なにﾝだこれ？	なんだこれは？
倒置②	めぁなして一人して行ったな、山さ。	君はどうして一人で行ったの、山に。
倒置③	誰殴るって、人どご。	誰が殴るというのだ、人を。
倒置④	あれなんぼパン取るがな、今年。	彼はいくつパンを取るかな、今年は。

説明

１．省略①：「なして？」は「なして人どご殴った(な)？」、「誰どご」は「誰どご殴った(な)？」の省略。疑問詞だけでこのように一文を形成できるのは標準語と何ら変わらない。

２．省略②：「どごさ？」は「どごさ行った(な)？」の省略と文脈から判断できるだろう。

３．倒置①：「これなにﾝだ？」の倒置。疑問詞疑問文の文型①の例である。

４．倒置②：「めぁなして山さ一人して行ったな？」の倒置。文型②の例である。

５．倒置③：「誰人どご殴るって？」の倒置。文型③の例である。

６．倒置④：「あれ今年なんぼパン取るがな。」の倒置。文型⑤の例である。

７．文型④については、意味的に倒置は不可能。

８．ともあれ、このように秋田弁でも標準語と同じように倒置することができるのである。

文型①「疑問詞を含む文を、用言の終止形で終わらせる。」

	秋田弁	標準語
例文①	ん前ぁいづこっちさ来る気ﾝだ？	お前はいつこっちにくる気だ？
例文②	誰こんだごどしたなﾝだ？	誰がこんなことをしたのだ？
例文③	なして今日こー寒び？	どうして今日はこう寒いのか？

説明

１．これは、秋田弁の疑問詞としてはもっとも一般的な疑問詞疑問文の形。相手に尋ねるのみならず、「どうして今日はこう寒いのか」のような、誰に尋ねているわけでもない独り言のような疑問詞疑問文にも使われる。

２．訳し方は臨機応変でよい。最も秋田弁として一般的な形ではあるが、綺麗に対応する標準語がないのである。「～？」「～か？」「～のか？」など、文脈に応じてやるしかない。

補足：①の文型は、標準語でいうところの「疑問詞＋…しよっか？」という、相手の意志を確認する意味でも用いられるので注意しよう。

	秋田弁	標準語
例文①	困ったごど。なんとする？	困ったなぁ。どうしよっか？
例文②	まﾝだ時間あるしなー。いづ出発する？	まだ時間あるしねぇ。いつ出発しよっか？

②「疑問詞を含む文を、疑問の終助詞『な』で終わらせる。」

	秋田弁	標準語
例文①	ん前ぁいづこっちさ来る気ﾝだな？	お前はいつこっちに来る気なの？
例文②	誰こんだごどしたな？	誰がこんなことをしたの？

説明

・こちらは相手に問い詰める感じの疑問文。強く相手に答えを迫る口調なので、独り言の疑問詞疑問文には使えない。常に相手がいる点に注意。

③「疑問詞を含む文を、終助詞『って』で終わらせる。」

秋田弁

標準語

例文①

あれなしてこんだごどするって？

彼がどうしてこんなことをするというのだ？

(彼がそんなことするわけないだろうに、の心情で言う)

例文②

今ﾝでねぁして、いづ行ぐって？

今でなくて、いつ行くってんだい？

(今しか行く機会ないだろうが、の心情で言う)

説明

・こちらの表現は、標準語の「疑問詞＋…というのだ？/ってんだい？」という意味にほぼ等しい。相手の言動に対して「不可解だ」「そんなわけないだろ」「馬鹿じゃないのか」のような、強い訝しみや非難、又は呆れを感じた時に発せられる疑問文である。独り言でも呟かれる。

④「疑問詞を含む文を、伝聞の終助詞『ど』で終わらせる。」

	秋田弁	標準語
例文①	いづ来るど？	いつ来るって？
例文②	誰馬鹿ﾝだど？	誰が馬鹿だって？

説明

・この文型は、標準語の伝聞の疑問詞疑問文「疑問詞＋って？」に対応する表現。聞いた話の確認に使う表現なので、独り言には使わない。

⑤「疑問詞を含む文を、終助詞『がな』で終わらせる。」

	秋田弁	標準語
例文①	いづ来るがな？	いつ来るかな？
例文②	誰どご誘うがな？	誰を誘おうかな？

説明

・標準語の、推量「疑問詞＋～かな？」、意志「疑問詞＋～しよっかな？」に対応する表現。但し、秋田弁ではこれは独り言でしか使わない。自問自答の疑問詞疑問文。つまり、相手がいるところで発言したとしても、それは相手に聞いているわけではなく、心中の迷いとか疑問とか悩みを声に出してるだけである。

秋田弁会話

会話

A：うﾝーん、最近外国の言葉いげぁなったごど。

訳：うーん、最近外国の言葉が多くなったなぁ。

B：…あい、なにしたとーさん、急にそんだごどいって。

訳：…もう、どうした父さん、急にそんなことを言って。

A：んー？なも、今新聞読んでだっけせぁ、仕事すづぎ人さ指示出すごったば「ごーだぶりゅー

訳：うん？いや、今新聞を読んでいたところさぁ、仕事をする時に人に指示を出すならば「５Ｗ

にーえっち」ちゃんとゆわねぁばだめﾝだどって書[け]ぁでだがらせぁ、なにのごどﾝだべ

2Ｈ」をちゃんと言わなければいけないと書いていたからさぁ、何のことだろう

どもって。…かー、めぁわがるが？この「ごーだぶりゅーにーえっち」ってあじ。

と思って。…母さん、お前はわかるか？この「5Ｗ2Ｈ」というの。

B：あい、そえげぁ。そえぐれぁﾝだばおえﾝでもわがるー。たしかあえﾝだー、いづ、どごﾝで、

訳：あら、それかい。それくらいならば私でもわかるよ。たしかあれだよ、いつ、どこで、

だえが、なにどご、なして、なんとして、なんぼやるがはっきり人さ伝えねぁばだめﾝだ

だれが、なにを、どうして、どうやって、いくらやるかをはっきり人に伝えなければいけない

どってゆー話ﾝだべ？英語がらきた言葉ﾝだあんだど。向げぁねの奥さんがらよぐ聞だ

という話だろう？英語からきた言葉なんだそうだ。向かいの家の奥さんからよく聞いた

もんであったっけ。

ものだったよ。

A：…なに、だれがら聞だど？

訳：…え、だれから聞いたって？

B：向げぁねの奥さんだ人がら聞だって。…なに、なしてそーどでﾝしたつらしてだ？

訳：向かいの家の奥さんである人から聞いたって言ったんだ。…え、どうしてそうびっくりした顔をしている？

A：あー、なも、向げぁねの奥さんだ人、そー賢[さが]し人ﾝであったっけがなーどもって。いっつも

訳：ああ、いや、向かいの家の奥さんである人が、そう賢[かしこ]い人だったっけっかなぁと思って。いつも

冗談ばりゆーがら、そんた難し話わがるどもわねぁして。

冗談ばかり言うから、そんな難しい話がわかると思わなくて。

B：あい、めぁもまだもの知らねぁ人ﾝだごど。あっこねの奥さんだば昔の帝国大学さ

訳：まぁ、お前って人はものを知らない人だなぁ。あそこの家の奥さんは昔の帝国大学に

入[は]った、たいした賢し人ﾝだあんだや？なしてそのぐれぁの話知らねぁでごどあるって？

入った、とても賢い人なんだよ？どうしてそのくらいの話を知らないということがあるというのだ？

A：…なっと？

訳：…なんだって？

B：あの人旧帝大さ入[は]ってあったたいした賢し人ﾝだあんだって。

訳：あの人は旧帝大に入っていたとても賢い人なんだって言ったんだ。

A：なに、旧帝大ﾝだど？あの人か゚げぁ？…信じらえねぁごど。そーめねぁたってな。

訳：は？旧帝大だって？あの人がかい？…信じられないなぁ。そうは見えないけどね。

B：うﾝー、まずな。たしかにいっつもばがしゃべして笑ってだがらんだど思わねぁべな。

訳：うん、まぁね。たしかにいつも馬鹿な話をして笑っているからそうだと思わないだろうね。

…だﾝどもちゃんとしゃべってればせぁ、ほんとにたいした物知りﾝで、頭も回るし、

…だけどちゃんと喋っていればさぁ、本当にとても物知りで、頭も回るし、

たいした頭のいー人ﾝだどって付ぐ合ってればわがるもんだー。…めぁもそーおが人どご

とても頭のいい人だと付き合っていればわかるものだよ。…お前もそう酷く人を

思い込みﾝでこんだえんだ人ﾝだべどって決めつければだめﾝだやー？

思い込みでこのような人だろうと決めつけてはいけないよ？

A：んー、なも、別に決めつけでだなﾝでﾝだばねぁ(※1)ったたって…しかしあの人か゚げぁ…。

訳：うーん、いや、別に決めつけているのではないけれども…それにしてもあの人がかい…。

世の中知らねぁごどもまﾝだいっぺぁあるもんだあんだな。まさがあのとしの人ﾝで、

世の中知らないこともまだいっぱいあるものなんだね。まさかあの年齢の人で

おなこ゚ﾝで旧帝大さ入[は]ってあった人、こんた近けぁどﾝでいだど思わねぁがったは。

女性で旧帝大に入っていた人が、こんな近いところにいるとは思わなかった。

…あの人今年ﾝでなんぼなるったっけ？

…あの人は今年でいくつになると言ったっけ？

B：んー、たしか、八十五[はぢじゅーご]なるあんでねぁがったっけが？

訳：うーん、たしか、八十五歳になるんじゃなかったっけっか？

A：おや、そんだとしﾝでげぁ？…たいしたもんだごど。そんだ賢し人ﾝだごったば、おえも

訳：おや、そんな歳でかい？…たいしたものだなぁ。そんな賢い人であるならば、私も

こんどわがらねぁごどあればなにﾝでも聞ぐに行ぐがなー。ちょーﾝど新聞読んでで

今度わからないことがあればなんでも聞きに行こうかなぁ。ちょうど新聞を読んでいて

わがらねぁ外国の言葉いっぺぁあって困ってだどごﾝだもの。いづ聞ぐに行げばいがな。

わからない外国の言葉がいっぱいあって困っているところだからね。いつ聞きに行けばいいかな。

…かー、めぁもしょっちゅーあの人の家[え]さﾝだば行ってだあんだべー？こんどいづ

…母さん、お前もしょっちゅうあの人の家には行っているんだろう？今度はいつ

行ぐなﾝだ？行ぐごったらこんどおえどごもつでってけれせぁ。

行くのだ？行くなら今度は私(を)も連れて行ってくれ。

B：あい、…まず、おえﾝだば別に構わねぁたって、あの人さも都合でものあるべし…。

訳：あら、…まぁ、私は別に構わないけれども、あの人にも都合というものがあるだろうし…。

A：なに、めぁあの人の予定わがらねぁな？なして？めぁいっつもあすぶにあってだあじ。

訳：え、お前あの人の予定がわからないの？どうして？お前いつも遊びに歩いているのに。

B：あい、なしてって、…とー、おれも別にいっつもあの人の家[え]さあすぶにあってだ

訳：あら、どうしてって、…父さん、私も別にいつもあの人の家に遊びに歩いている

あんでねぁあんだや？あすぶにあぐってばちゃんとその前ぁになんぼ日の日空でだすかー(※2)

んじゃないんだよ？遊びに歩くとなればちゃんとその前に幾日[=何日。ここではどの日]が空いていますかぁ

だどって確認してがら行ってだなﾝだー。

と確認をしてから行っているのだよ。

A：おや、んだなが。そえﾝだば知らねぁがったごど。おえまだてっきりあすんで帰ってくる

訳：おや、そうなのか。それは知らなかったなぁ。私ったらてっきり遊んで帰ってくる

づぎ「こんどいづまだあすぶー？」だどって、次会う日決めでだもんであったどもって

時に「今度はいつまた遊ぶ？」と言って、次に会う日を決めているものだったと思って

あったっけ。

いたが。

B：あい、めぁもまだばがしゃべして。めぁおらどあの人どどーゆー関係ﾝだどもってだな？

訳：もう、お前ったら馬鹿なことを言って。お前は私とあの人とをどういう関係だと思っているの？

恋人ﾝでもあるめぁし、だれそんだあすぶにあぐたんびに次会う約束するって？

恋人でもあるまいし、誰がそんな遊びに歩く度に次に会う約束をするというの？

A：おや、友達ど会うってば次会う約束するもんでねぁな？おえﾝだばいっつも「次なんぼ日の日の

訳：おや、友達と会うとなれば次に会う約束をするものではないの？私はいつも「次は幾日の

何時ぐれぁに会うー？」だどって聞ぐごどしてだﾝどもな。

何時くらいに会う？」と言って聞くことにしているけどね。

B：…とー、めぁ重[おぼ]でぁ男ﾝだな。

訳：…父さん、お前は重たい男だね。

A：…なにﾝだど？

訳：…なんだって？

B：あい、なも、気にさねぁﾝでけれ。…しかしめぁど一緒にあの人のどごさ行ぐってげぁ？

訳：あら、いえ、気にしないでくれ。…それにしてもお前と一緒にあの人のところへ行くってかい？

A：なに、なにがうまぐねぁごどあるあんだが？

訳：なんだい、なにか都合の悪いことがあるのか？

B：んー？なも、おなこ゚がだど一緒なって話っこするなﾝだば慣れでだたって、自分の旦那どご

訳：うん？いや、女性たちと一緒になって話をするのは慣れているけれども、自分の旦那を

つであぐなﾝだばそーあるもんでもねぁがらせぁ…なんだえんだあんべぁﾝで会う約束

連れて歩くのはそうあるものでもないからさぁ…どのような塩梅[=感じ]で会う約束を

せばいがなーどもって。んー、なんとするがなー。なんだしゃべして自然に誘えばいべ？

すればいいかなぁと思って。うーん、どうしようかなぁ。どんな話をして自然に誘えばいいだろう？

A：おや、そんでぁに悩むごどﾝだってげぁ？まさが恋人どごデートさ誘うなﾝでも(※1)あるめぁし、

訳：おや、そんなに悩むことだというのかい？まさか恋人をデートに誘うのでもあるまいし、

そー悩むごどﾝだがや？たんだに「おらえのとー、わがねぁごどあって、あﾝだどさ

そう悩むことかねぇ？ただ単に「私の家の父さんが、わからないことがあって、あなたに

聞ぎでぁごどあるえんだﾝども、なんとﾝだすべ。あﾝだどさつでって聞ぐに行っても

聞きたいことがあるようだけど、どうでしょう。あなたのところへ連れて行って聞きに行っても

いものﾝだすべが？」なんていえば、すんま決まるものﾝだど思うたってな。あの人そー

いいものでしょうか？」などと言えば、すぐに決まるものだと思うけどね。あの人はそう

難し人ﾝでもねぁもの。そー難しぐ考えねぁってもいがべ。

難しい人でもないからね。そう難しく考えなくてもよかろう。

B：…あい、おどーさん、人せっかぐなんだえに誘えばいが思案してるに、そーはえぁぐ

訳：…もう、お父さん、人がせっかくどのように誘えばいいかを思案しているのに、そう早く

考えつがねぁってもいねぁすか。こえﾝだばおえばがっけみでぁﾝだねぁすか。…んだﾝども

考えつかなくてもいいじゃないですか。これだと私が馬鹿であるかのようじゃないですか。…だけど

なんと誘うがﾝだばそえﾝでもいべたって、こんどしてどのぐれぁの時間に行げばいなが、

どう誘うかはそれでもいいだろうけれど、今度はそしてどのくらいの時間に行けばいいのか、

聞ぎでぁごどっていぐづあるながどが考えねぁばなねぁや？

聞きたいこととはいくつあるのかとかを考えなければならないよ？

A：おや、そったごどまﾝで考えで誘わねぁばねぁってげぁ？少し考え過き゚ﾝでねぁが？

訳：おや、そんなことまで考えて誘わなければならないってかい？少し考え過ぎではないか？

B：なも、んでねぁー。人ねさ行ってやがなるあんだもの。行ぐってばしてこんど土産物どが、

訳：いえ。そうではないよ。人の家に行って厄介になる[=世話になる]んだからね。行くとなればそして今度は土産物とか、

なにがかにがきてけでいがったなーど思うものも持ってがねぁば。

なにか来てくれてよかったねぇと思うものも持って行かなければ。

A：…うﾝー？…かー、めぁ友達の家[え]さあすぶに行ぐたんびにそったごどしてだなげぁ？

訳：…うん？…母さん、お前友達の家に遊びに行く度にそんなことをしているのかい？

B：あい、そえﾝだば当だり前ぁﾝだべー？なんと人ねさ行ぐあじ、なしてなんもものも

訳：あら、それは当たり前だろう？おいおい人の家に行くのに、どうしてなにもものも

持だねぁﾝであぐでごどあるって？そんだごどﾝだばでぎねぁー。…して、とー、なんとす？

持たないで行くということがあるというのだ？そんなことはできない[=駄目だ]よ。…それで、父さん、どうする？

どれ買って持ってげばい？

どれを買って持って行けばいい？

A：おや、さきたがら急になに開げで見でだどもってあったっけ、…かー、なにﾝだ、それ？

訳：おや、さっきから急になにを開けて見ていると思っていたが、…母さん、なんだ、それ？

B：えー？

訳：え？

A：そえなにﾝだって聞ーだなﾝだー。

訳：それはなんだと聞いたのだよ。

B：なにって、贈り物すづぎ使うカタログに決まってるべー？うﾝーん、どれ買えばいべ。

訳：なにって、贈り物をする時に使うカタログに決まっているだろう？うーん、どれを買えばいいだろう。

あの人ﾝだば甘めぁもの好ぎﾝだもの。こえいべが。あいー、悩むごど。…とー、めぁも

あの人は甘いものが好きだからね。これがいいだろうか。あらもう、悩むなぁ。…父さん、お前も

ちゃんとこっちゃきて見で選ぶな手伝ってけれでぁ。ほら、なにﾝだらあの人喜んでける

ちゃんとこっちへ来て見て選ぶのを手伝ってくれよ。ほら、なにならあの人は喜んでくれる

ど思う？

と思う？

A：んー、んだなー、なにﾝでもいあんでねぁべがなー。

訳：うーん、そうだねぇ、なんでもいいんじゃないだろうかなぁ。

B：…とー、めぁなんだがいーがけ゚んなってねぁが？だめﾝだー、人さもの頼む人、だれそんた

訳：…父さん、お前なんだかいいかげんになっていないか？いけないよ、人にものを頼む人が、誰がそんな

いっかけ゚んだ気持ぢﾝで贈り物選ぶものﾝだっては？ほら、めぁもこっちゃきて選べー。

いいかげんな気持ちで贈り物を選ぶものだというの？ほら、お前もこっちへ来て選びなさい。

はえぁぐはえぁぐ。

早く早く。

A：…かー、…めぁ重でぁおなこ゚ﾝだな。

訳：…母さん、…お前重い女だね。

B：えー？

訳：え？

A：あー、なも、なんでもねぁ…。はー…。(…なんだが貢物[みづき゚もの]ﾝでもしてる気分

訳：ああ、いや、なんでもない…。はぁ…。(…なんだか貢物でもしている気分に

なってくるな。なして友達の家[え]さあすぶにあぐにこーあーﾝでもねぁ、こーﾝでも

なってくるね。どうして友達の家に遊びに行くのにこうああでもない、こうでも

ねぁどって思案さねぁばねぁって…。はー、あすぶにあぐたんびになんぼ銭[じぇん]

ないと思案しなければならないというのだ…。はぁ、遊びに行く度にいくらお金を

かげるなﾝだべ、このおなこ゚。)

かけるのだろう、この女。)

※1：「別に決めつけでだなﾝでﾝだばねぁ」「まさが恋人どごデートさ誘うなﾝでも(※1)あるめぁし」…断定の助動詞「なﾝだ」の連用形「なﾝで」は、「なﾝでねぁ」「なﾝであって」くらいの形しか使わず、後ろに「ﾝだば」「も」は挟まないと第○課で習ったが、今回のこの二つの表現は逆に「ﾝだば」や「も」がないとおかしい。今回のこの二つ表現は、断定・説明の「なﾝだ」というよりも、「別に～わけﾝでﾝだばねぁ」「まさが～わげﾝでもあるめぁし」の「わげ」と同義の、別の表現と考えた方がよいだろう。

※2：「なんぼ日の日空でだすかー？」…テキストの最後の方で補遺でも扱うつもりだが、疑問詞疑問文のうち、文型①「疑問詞を含む文を、用言の終止形で終わらせる。」は、敬語表現を使う場合、語尾は「～すか？」を使うことになるので要注意。

文型①の例：「誰こんだごどしたなﾝだ？」→「誰こんだごどしたなﾝだすか？」

文型①の補足(相手の意志確認)：「なんとする？」→「なんとするすか？」

　　なお、上記の文型①以外の疑問詞疑問文は、敬語表現では使えない。

しめぁに

　以上にて今週の秋田弁講座も終了。

　今回は文法のところ、かなり長かったですね。

　置換で学ぶ秋田弁なら２課に分けているものを１課にまとめているので、

　文章量もその分多くなりました。悪しからず。

　ともあれ、今週はこのへんで。…まず。

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