新編秋田弁講座文法篇第13課：助動詞④：打消「ない」

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文法篇第13課：助動詞④：打消「ない」

　みなさん明けましておめでとうございます。

　今日から2023年ですね。

　正月は世間は完全にお休みモードに入っていますが、

　私はそんな季節感も無視して淡々と週一の秋田弁講座を

　upしているところであります。

　では今週分です。構成もいつも通りなので、秋田弁文例のみ
読む方はすっとばして最後の方だけ読んじゃいましょう。

　ではどうぞ。

文法

１．秋田弁の打消の助動詞「ない」

　標準語の打消の助動詞「ない」は、秋田弁では「ねぁ」となる。標準語の「ない」が標準語の形容詞と同じ活用をするように、秋田弁の「ねぁ」は秋田弁の形容詞とまったく同じ活用をする。

２．「ねぁ」の活用：以下の通り活用する。

	秋田弁	標準語
連用形１	ねぁ-ぐ	な-く
補足①	ねぁ-して	な-くて
補足②	ねぁ-っても	な-くても
連用形２	ねぁ-がっ	な-かっ
終止形	ねぁ	な-い
連体形	ねぁ	な-い
仮定形	ねぁ(ば)	な-けれ(ば)

例文

	秋田弁	標準語
連用形１	分がらねぁぐもねぁ。	分からなくもない。
	慣れで辛れぁぐねぁぐなった。	慣れて辛くなくなった。
	あど賑やがﾝでねぁぐなった。	もう賑やかではなくなった。
	「や」でねぁぐ、「んた」ってゆえ。	「や」ではなく、「いやだ」と言え。
補足①	見ねぁして大丈夫ﾝだが？	見なくて大丈夫か？
	服黒れぐねぁしていあんだが？	服は黒くなくていいのか？
	こごﾝだば静がﾝでねぁして安心だ。	ここは静かではなくて安心だ。
	悪りがったごど。美人でねぁして。	悪かったね。美人でなくて。
補足②	我慢さねぁってもい。	我慢なくてもいい。
	なも、安しぐねぁっても大丈夫ﾝだ。	いや、安くなくても大丈夫だ。
	安全でねぁってもいばこご通れ。	安全でなくてもよければここを通れ。
	おれﾝでねぁってもめぁ行げばいべ。	私でなくても君が行けばいいだろう。
連用形２	なんももの食ゎねぁがった。	なにも食わなかった。
	なんもうめぁぐもねぁがったっけ。	全然うまくもなかったよ。
	静がﾝでねぁがったら本読まれねぁ。	静がでなかったら本を読めない。
	人ﾝでねぁがったらいがったあじな。	人でなかったらよかったのにね。
終止形	最近なんも寝ねぁ。	最近全然寝ない。
	はー、最近一っつもおもしぇぐねぁ。	はぁ、最近少しもおもしろくない。
	こえﾝだば楽ﾝでねぁな。	これは楽じゃないね。
	こえﾝだば大変でねぁ？	これは大変じゃない？
連体形	客誰も来ねぁ日もある。	客が誰も来ない日もある。
	黒れぐねぁ服着てったどや。	黒くない服を着ていったそうだよ。
	おもしぇぐねぁ話ばりする。	おもしろくない話ばかりする。
	客ﾝでもねぁ人さなしそー媚びる？	客でもない人に何故そうも媚びる？
仮定形	勉強さねぁばごしゃがえるや？	勉強しなければ怒られるよ？
	楽しぐねぁばやってぁぐねぁ。	楽しくなければやりたくない。
	静がﾝでねぁば本読まれねぁ。	静香でなければ本を読めない。
	美人でねぁば付ぐ合わねぁ。	美人でなければ付き合わない。

説明

・「ねぁ」は、以下の用言に接続する。例文でも見慣れた言葉だろう。

①動詞型用言の未然形：会わ-ねぁ行が-ねぁ刺さ-ねぁ立だ-ねぁ死な-ねぁ等等

②形容詞型用言の連用形１：赤げぁぐ-ねぁ嬉しぐ-ねぁ明りぐ-ねぁ黒れぐ-ねぁ等等

③形容動詞型用言の連用形２：静がﾝで-ねぁ綺麗ﾝで-ねぁ安全で-ねぁ完全で-ねぁ等々

④指定の助動詞の連用形１：おれﾝで-ねぁ馬鹿ﾝで-ねぁ秋田県で-ねぁ本で-ねぁ等々

　難しそうだが、要は対応する標準語「ない」→「ねぁ」に置き換えればいいだけである。

補足

①「-なければならない」→「-ねぁばならねぁ」と秋田弁ではいう。

	秋田弁	標準語
例文①	分がらねぁばならねぁごどﾝだ。	分からなければならないことだ。
例文②	これﾝだば見ねぁばならねぁ。	これは見なければならない。

説明

１．赤字の「ねぁ」のところが今回習った助動詞「ねぁ」である。

２．末尾の「ならねぁ」の「ねぁ」も今回習ったものと同じなので、活用も以下の例の通り。

例文

活用形	秋田弁	標準語
連用形１	見ねぁばならねぁぐねぁが？	見なければならなくないか？
補足①	見ねぁばならねぁして見だ。	見なければならなくて見た。
補足②	見ねぁばならねぁっても見ねぁ。	見なければならなくても見ない。
連用形２	見ねぁばならねぁがった。	見なければならなかった。
終止形	見ねぁばならねぁ。	見なければならない。
連体形	見ねぁばならねぁづぎもある。	見なければならない時もある。
仮定形	見ねぁばならねぁば見れ。	見なければならなければ見ろ。

②「-なければいけない」→「-ねぁば駄目ﾝだ」と秋田弁ではいう。


例文①	分がらねぁば駄目ﾝだごどﾝだ。	分からなければいけないことだ。
例文②	これﾝだば見ねぁば駄目ﾝだ。	これは見なければいけない。

説明

１．赤字の「ねぁ」が今回習った「ねぁ」である。

２．「-ければいけない」に当たる表現が「-ば駄目ﾝだ」になる。語尾が「駄目ﾝだ」となっているが、これは指定の助動詞「だ」である。故にその活用も、指定の助動詞と全く同じ。

　（以下の例文参照。この表現の場合、標準語の「いけない」と秋田弁の「駄目ﾝだ」では活用が違うので、今までのように対応関係だけで覚えるのは無理がある。

例文

活用形	秋田弁	標準語
連用形１	見ねぁば駄目ﾝでねぁが？	見なければいけなくないか？
連用形２	見ねぁば駄目ﾝであった。	見なければいけなかった。
終止形	見ねぁば駄目ﾝだ。	見なければいけない。
連体形	見ねぁば駄目ﾝだづぎもある。	見なければいけない時もある。
仮定形１	見ねぁば駄目ﾝだら見れ。	見なければいけないなら見ろ。
仮定形２	見ねぁば駄目ﾝだば見れ	見なければいけないならば見ろ。

会話

A：あい、とー、なにしたな、そーもよって。どごさがいぐあんだが？

訳：あら、父さん、どうしたの、そう着飾って。どこかへ行くのか？

B：ん？えー、んだ。ほんとﾝだば今日ﾝだば一[いぢ]ん日[にぢ]ずっと家[え]の中ﾝでいる

訳：うん？ええ、そうだ。本来ならば今日は一日ずっと家の中にいる

つもりﾝであったﾝども急に友達のどごさ行がねぁばならねぁぐなって。

つもりだったけれども急に友達のところへ行かなければならなくなって。

A：あい、んだー。んだﾝどもなしてまだその友達のどごさ行がねぁばねぁぐなったあんだ？

訳：あら、そう。けれどどうしてまたその友達のところへ行かなければならなくなったんだ？

B：んー、なも、別ﾝだごどもねぁ。その友達って、ずっと遠[と]ぎどごがら来る人ﾝでせぁ、

訳：うーん、いや、特別なこともない。その友達というのは、ずっと遠いところから来る人でさぁ、

滅多に会われねぁして、んだがら会うにいづぎ会わねぁばこんどいづ会うにいが

滅多に会えなくて、だから会うことができる時に会わなければ今度いつ会うことができるか

わがらねぁがら会うにいづぎなるべぐ会うごどしてだあんだ。

わからないから会うことができる時になるべく会うことにしているんだ。

A：あい、んだなげぁ？そんでぁに遠ぎどっからあすぶにくるなげぁは？そえﾝだばたしかに

訳：あら、そうなのかい？そんなに遠いところから遊びに来るのかい？それはたしかに

会うにいがねぁばだめﾝだな。人せっかぐ遠ぎどっからきてけでだあじ会わねぁってば

会いに行かなければいけないね。人がせっかく遠いところから来てくれたのに会わないとなると

な、人目悪りべし…、

ねぇ、世間体が悪いだろうし…、

B：ははは、人目悪りって、めぁもまだ古[ふる]し言葉っこ使うねぁは。なも、その人ﾝだば

訳：ははは、世間体が悪いって、お前って奴は古い言葉を使うじゃないか。いや、その人は

たいした人っこいーもの。会わねぁば会わねぁﾝでいってばいあんだ。たﾝだおれ会うに

とても人柄がいいからね。会わなければ会わないでいいと言えばいいんだ。ただ私が会いに

いぎでぁﾝだげﾝで…んだﾝどもせぁ、おれがだぐれぁの歳[とし]なれば、ほんとにあど何回会う

行きたいだけで…けれどもさぁ、私たちくらいの年齢になると、本当にあと何回会う

にいがわがらねぁねぁは！

ことができるかわからないじゃないか！

A：なに、いづ病気して死ぬがわがらねぁがらげぁ？

訳：なんだい、いつ病気をして死ぬかわからないからかい？

B：んだ。せんだってもよー、毎[まい]ー月[つぎ]東京の方がらきてけであった人、なしてﾝだが

訳：そうだ。先日もよぉ、毎月毎月東京の方から来てくれていた人が、どうしてだか

こねぁがったがらせぁ、なにしたあんだべなーどもってあったっけ、しらねぁこまに

来なかったからさぁ、どうしたんだろうねぇと思っていたところ、知らない間に

あどあっちのゆさいってあったでごどあってせぁ。

もうあの世に行っていたということがあってさぁ。

A：あいーしかだねぁ。そんだごどあったってげぁ？

訳：まったくもう。そんなことがあったというのかい？

B：えー、まずな。んだがらおれも、「『おれがだもあどなんぼも生ぎねぁ歳[とし]なったあんだ

訳：ええ、まぁね。だから私も、「『私たちももういくらも生きない年齢になったんだ

なー。今会わねぁってもこんどまだ会えばいべー。』なんて思ってらえる歳ﾝでねぁぐ

ねぇ。今会わなくても今度また会えばいいだろう。』なんて思っていられる歳ではなく

なったあんだなー。」だどって、考えるえなってせぁ、ほんとに、死ぬでごども他人事[ひとごど]ﾝで

なったんだねぇ。」と、考えるようになってさぁ、本当に、死ぬということも他人事では

ねぁぐなってしまったっけ。

なくなってしまったよ。

A：んだなやな。そえﾝだばおらもわがるでぁ。若げぁ時分だばな、だれﾝだがが病気してる

訳：そうなんだよね。それは私もわかるよ。若い頃ならばね、誰だかが病気をしている

えんた話っこ聞だたってほんとに他人事どしか考えねぁがったもんであったっけ、

ような話を聞いたとしても本当に他人事としか考えなかったものだったが、

流石に七十[ななじゅー]より先なればな、毎月みでぁに訃報くるがらな。

流石に七十歳以上になるとね、毎月のように訃報が来るからね。

B：んだがらして。ほんとに他人事ﾝでねぁー、死ぬごどﾝだば。

訳：まったくだよ。本当に他人事ではないよ、死ぬことは。

しめぁに

　以上で今週の秋田弁講座も終了

　ではまた来週。

　へばな。

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