新編秋田弁講座文法篇第14課：助動詞⑤：希望「たい」

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文法篇第14課：助動詞⑤：希望「たい」

　みなさんこんにちは。

　齶田浦蝦夷です。

　秋田弁講座文法篇、

　第14課の方を、

　今日はupしていきます。

　構成はいつもと変わりありませんので、

　秋田弁の会話例だけ見る場合は末尾へGOで

　よろしくお願いします。

　ではどうぞ。

文法

１．秋田弁の希望の助動詞「たい」

　標準語の希望の助動詞「たい」は、秋田弁では「てぁ」となる。標準語の「たい」が形容詞の活用をするように、秋田弁の「てぁ」は秋田弁の形容詞とまったく同じ活用をする。

２．「てぁ」の濁音化

①「てぁ」は、実際に使用する時は、原則として必ず「でぁ」に濁る。

秋田弁の例	標準語訳
書ぎでぁ	書きたい
見でぁ	見たい
死にでぁ	死にたい

②例外：「てぁ」の直前の音が「き」「し」「っ」の時は、決して濁らない。

	秋田弁	標準語
「き」の例	来[き]てぁ	来[き]たい
「し」の例	刺してぁ	刺したい
	してぁ	したい
	我慢してぁ	我慢したい
「っ」の例	食ってぁ	食いたい
	喋ってぁ	喋りたい
	滑ってぁ	滑りたい

説明

１．「っ」の例は要注意。標準語と秋田弁の数少ない違いで、以下のようになる。

①標準語「食いたい」→「食ってぁ」と秋田弁ではいう。

②標準語「-りたい」→「-ってぁ」と秋田弁ではいう。

２．但し、②はそこまで頻度が高いわけではなく、「-りでぁ」ということも多い。以下参照。

具体例

動詞例	秋田弁「-ってぁ」	秋田弁「-りでぁ」	標準語「-りたい」
上か゚る	上か゚ってぁ	上か゚りでぁ	上がりたい
喋[しゃべ]る	喋ってぁ	喋りでぁ	喋りたい
滑[すべ]る	滑ってぁ	滑りでぁ	滑りたい

３．「てぁ」の活用：以下の通り活用する。濁る・濁らないについては既に説明した通り。

	秋田弁(濁らない)	秋田弁(濁る)	標準語
連用形１	てぁ-ぐ	でぁ-ぐ	た-く
補足①	てぁ-して	でぁ-して	た-くて
補足②	てぁ-っても	でぁ-っても	た-くても
連用形２	てぁ-がっ	でぁ-がっ	た-かっ
終止形	てぁ	でぁ	た-い
連体形	てぁ	でぁ	た-い
仮定形	てぁ(ば)	でぁ(ば)	た-けれ(ば)

説明

１．助動詞「てぁ」は、動詞型活用用言の連用形に接続する。要は標準語の「たい」と同じ接続なので、単純に「たい」→「てぁ」「でぁ」と置き換えればいい。

２．なお、「てぁ」「でぁ」は音が濁るかどうかの違いだけで、上記の通り活用に差異はない。

例文

	秋田弁	標準語
連用形１	そんだ話信じでぁぐもねぁ。	そんな話は信じたくもない。
連用形１	まま食ってぁぐなってきたは。	ご飯を食いたくなってきた。
補足①	おれ見でぁしてつけだなﾝだ。	私が見たくてつけたのだ。。
補足①	殺してぁしてなもかもならねぁ。	殺したくて仕方がない。
補足②	氷ねぁば滑りでぁっても滑られねぁ。	氷がなければ滑りたくても滑れない。
補足②	氷ねぁば滑ってぁっても滑られねぁ。	氷がなければ滑りたくても滑れない。
連用形２	おれも行ぎでぁがった。	私も行きたかった。
連用形２	めぁも喋ってぁがったりするもんだ？	お前も喋りたかったりするものか？
終止形	んめぁの家さ上か゚りでぁ。	お前の家に上がりたい。
終止形	んめぁの家さ上か゚ってぁなー。	お前の家に上がりたいねぇ。
連体形	泣ぎでぁづぎもあるもんだべ？	泣きたいときもあるものだろう？
連体形	留学してぁ気持ぢもある。	留学したい気持ちもある。
仮定形	起ぎでぁば起ぎれ。	起きたければ起きろ。
	来てぁば来[こ]ればい。	来たければ来ればいい(＝来なさい)。
	来てぁば来[こ]えばい。	来たければ来ればいい(＝来なさい)。
	来てぁば来[こ]ばい。	来たければ来ればいい(＝来なさい)。

説明

・例文の最後の三つについて。いつか「補遺」で説明するが、秋田弁で「～すればい。」と言い切る形は、標準語の「～すればいい。」とは意味が違う。秋田弁のそれは、標準語でいう「～しなさい。」という意味である。つまり、提案ではなく命令である。

会話

(テレビさ映る料理見なか゚ら)

A：はー、おいしそーﾝだごど。見れ、あの料理。あえんたな一度ﾝでもいーがら食ってみでぁ

訳：はぁ、おいしそうだなぁ。見ろ、あの料理。あのようなのを一度でもいいから食ってみたい

ど思わねぁがー？えー、とーさん？

と思わないか？ねぇ、父さん？

B：うﾝー？なに、おれげぁ？…うﾝ―ん、おれﾝだば食う物ﾝだばあまり興味ねぁがら、別に

訳：うん？え、私かい？…うーん、私は食べ物はあまり興味がないから、別に

そんでぁにそんでぁに食ってぁども思わねぁは。

そんなにそんなに食いたいとも思わないや。

A：あいほんとにげぁ？あんでぁにうめぁそーﾝだあじ見でなんとも思わねぁってげぁ？

訳：あら本当にかい？あんなにうまそうなのを見てなんとも思わないというのかい？

せばなんたなﾝだば食べでぁぐなるあんだ？

じゃあどんなのならば食べたくなるんだ？

B：おや、めぁもまだ、食う物さﾝだば興味ねぁったばりﾝだべー？食ってぁものなの別に

訳：おや、お前って奴は、食べ物には興味ないと言ったばかりだろう？食いたいものなど別に

ねぁでぁ。

ないよ。

A：あい、ほんとにげぁ？せばめぁなにさ興味あるって？

訳：あら、本当にかい？じゃあお前はなにに興味があるというの？

B：んー、んだなー、食べでぁものﾝだばねぁったたって、行ってみでぁどごﾝだばいっぺぁ

訳：うーん、そうだねぇ、食べたいものはないけれども、行ってみたいところならばいっぱい

あるな。岩手の平泉ﾝだどが、青森の三内丸山遺跡ﾝだどが。

あるね。岩手の平泉だとか、青森の三内丸山遺跡だとか。

A：あい、めぁもまだ欲のねぁ人ﾝだねぁが。どっちも隣の県だもの。行ぎでぁばいづﾝでも

訳：あら、お前って奴は欲のない人じゃないか。どっちも隣の県だもの。行きたければいつでも

行ぐにいねぁは。そえんたどご。

行くことができるじゃないか、そのようなところは。

B：んー、んだあんだﾝどもせぁ、近[ち]けぁどにあるがらかえって行ぎでぁってもいづﾝでも

訳：うん、そうなんだけどさぁ、近いところにあるからかえって行きたくてもいつでも

行ぐにいがどもって後回しして結局いづんまﾝでも行がねぁなやな。東京ﾝだの京都ﾝだの

行くことができるかと思って後回しにして結局いつまでも行かないんだよね。東京だの京都だの

みでぁんた遠[と]ぎどごさある行ぎでぁがったどごﾝだば若げぁづぎ皆[んな]行って

のような遠いところにある行きたかったところならば若いみんな行って

しまったし、あどどさ行ぎでぁってば近けぁどさある場所なるあんだ。

しまったし、もうどこへ行きたいかとなれば近いところにある場所になるんだ。

A：あい、んだってげぁは？…んだﾝども行ってみでぁがったどごﾝだばあどほどんと行った

訳：まぁ、そうだというのかい？…けど行ってみたかったところはもうほとんど行った

ってげぁ？そえﾝだばうらやましごど。おれなのなぼーテレビﾝで食ってぁもの見だ

ってかい？それはうらやましいなぁ。私などいくらテレビで食いたいものを見た

たってなんも食ゎえねぁﾝでだでぁ。なしてﾝだべ。

としても全然食えないでいるよ。どうしてだろう。

B：なしてﾝだべって、めぁなのテレビさ料理映るたんびに食ってぁしてなもかもなねぁ

訳：どうしてだろうって、お前などテレビに料理が映る度に食いたくてしかたがない

しゃべしてだもの。そえﾝだばなぼ銭[じぇん]あったたって食ゎれねぁべー。食ってぁ

という話をしているからね。それはいくらお金があったとしても食えないだろう。食いたい

もの増えるばりﾝだあんだがら。

ものが増えるばかりなんだから。

A：あい、とーさん。そんたしゃべされればおれまるﾝで食うごどばり考えでだ卑しおなこ゚

訳：まぁ、父さん。そんな話をされると私がまるで食うことばかりを考えている卑しい女性

みでぁに聞こえるがらやめでけれでぁ。おれなもそんた食い意地はってねぁー。

であるかのように聞こえるからやめてくれよ。私は全然そんな食い意地はっていないよ。

B：…テレビさ食う物映るたんびに食ってぁどって騒んでよぐそんだしゃべするにいもんだごど。

訳：…テレビに食べ物が映る度に食いたいと騒いでよくそんな話をすることができるものだなぁ。

A：あい、なも、おれも別に食う物のごどばりしゃべってぁしてしゃべってるなﾝでねぁ

訳：あら、いや、私も別に食べ物のことばかりを喋りたくて喋っているのではない

あんだ。たﾝだうめぁもの見ればつい食ってぁどって言ってしまうﾝだげﾝで…。

んだ。ただうまいものを見るとつい食いたいと言ってしまうだけで…。

B：…かー、めぁまだそえﾝでよぐ食い意地はってねぁどってゆーにいもんだごど。人そーゆー

訳：…母さん、お前って奴はそれでよく食い意地はっていないと言うことができるものだなぁ。人はそういう

人どご「ほいど」って言うあんだ。なんーだってほんとに食う物さばり興味いぐおなこ゚ﾝだごど。

人を「食いしん坊」と言うんだ。まったくもう本当に食べ物にばかり興味がいく女性だなぁ。

しめぁに

　以上で今回の秋田弁講座は終了。

　ではまた来週。

　へばな。

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