新編秋田弁講座文法篇第36課：格助詞④：引用の格助詞

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文法篇第36課：格助詞④：引用の格助詞

　みなさんこんばんは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回は格助詞の第4回。

　つまり今回で格助詞の最終回ですね。

　お題目は、秋田弁の「引用の格助詞」

　まぁ要するに「～という」とか「～と思う」とか「～と考える」の「と」に相当する秋田方言を勉強しましょうってことです。

　まぁ構成もいつも通りな感じなので説明は不要でしょう。秋田弁講座、開始します。

　ではどうぞ。

文法

１．秋田弁の引用の格助詞

　標準語の「彼は、『私がやる』と言った」「私は、彼は来ると思う」などの、引用の格助詞「と」は、秋田弁では状況に応じて以下のいくつかの表現に分かれることになる。

①「思う」が動詞の時→「ど」。

	秋田弁	標準語
例①	おれ、あれﾝだば来ねぁど思う。	私は、彼は来ないと思う。
例②	太郎、あれﾝだば来ねぁべど思った。	太郎は、彼は来ないだろうと思った。
例③	太郎、「あれﾝだば来ねぁべな。」ど思った。	太郎は、「彼は来ないだろうね。」と思った。

②「思う」以外が動詞→「って」。

	秋田弁	標準語
例①	太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁって聞だ。	太郎は、彼は来ないと聞いた。
例②	太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁべって言った。	太郎は、彼は来ないだろうと言った。
例③	あれ、「おれ知らねぁー」って言った。	彼は、「私は知らなーい」と言った。
例④	あれ、おれﾝだば知らねぁって言う。	彼は、私[＝自分]は知らないと言う。

③「思う」以外が動詞→「どって」とも言う。

	秋田弁	標準語
例①	太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁどって聞だ。	太郎は、彼は来ないと聞いた。
例②	太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁべどって言った。	太郎は、彼は来ないだろうと言った。
例③	あれ、「おれ知らねぁー」どって言った。	彼は、「私は知らなーい」と言った。
例④	あれ、おれﾝだば知らねぁどって言う。	彼は、私[＝自分]は知らないと言う。

④「思う」以外が動詞で、直接引用→「だどって」とも言う。

	秋田弁	標準語
例①	太郎ﾝだば「あれﾝだば来ねぁ。」だどって聞だ。	太郎は「彼は来ない。」と聞いた。
例②	太郎、「あれﾝだば来ねぁべー。」だどって言った。	太郎は、「彼は来ないだろうー。」と言った。
例③	あれ、「おえ知らねぁー」だどって言った。	彼は、「私は知らなーい」と言った。
誤例	あれ、おれﾝだば知らねぁだどって言う。	彼は、私[＝自分]は知らないと言う。

説明

１．直接引用は、引用する内容をそっくりそのまま引用する引用法で、「『いやー、私はちょっとわからないなぁ』と彼は言った。」の『』の部分のように、発言した人になりきって言う臨場感あふれる引用法。

２．それに対して間接引用は、ただ意味内容を引用するだけの引用法で、「彼は私/自分には分からないと言った」の「私/自分にはわからない」の部分のように、引用する文の意味を自分の言葉で端的に言い直す引用法。

３．引用の格助詞のうち、「ど」「って」「どって」は、直接間接の区別なく用いられるが、「だどって」は、直接引用でのみ用いられる。「思う」以外の動詞の直接引用では「だどって」がよく使われる。「思う」の場合はそもそも「ど」以外使えない。

４．なお、上の例のうち【誤例】は、発言者になりきった引用[＝直接引用]ではないのに「だどって」を使っているので秋田弁として間違い。絶対に真似してはいけない。

注意

・なお、「だどって」は、前の引用部分「～」との間に短くポーズ(＝何もしゃべらない時間)を入れるので、前の音を鼻母音化(「前の語に「ﾝ」を付けさせること)させることはないようである。引用部分「～」と「だどって」で短く区切るように言うのである。

２．「どって」「だどって」の秋田弁の独自の用法

①標準語の「と」のうち、「と言って」「と思って」という言葉が隠されている文脈の「と」の意味では、「どって」が用いられ易い。

	秋田弁	標準語
例①	そんだもんだどって諦める。	そんなものだと諦める。
例②	痛でぁ、痛でぁどって騒く゚。	痛い、痛いと騒ぐ。
例③	「あー痛でぁ、痛でぁ！」どって騒く゚。	「ああ痛い、痛い！」と騒ぐ。
例④	「あどんたはー。」どって泣ぐ。	「もういやだよー」と泣く。

説明

・以上のような「と」は、単に言葉を引用しているに留まらず、「そんなものだと思って諦める」「痛い、痛いと言って騒ぐ」とも訳せるように、「言う」「思う」という動作が隠れている。こういう「と言って」「と思って」と訳しうるような引用の「と」は、秋田弁としては「どって」を使うのが一番しっくりくるのである。

②　①の文脈のうち、直接引用の場合は「だどって」を使うことが多い。

	秋田弁	標準語
例①	「あー痛でぁ、痛でぁ！」だどって騒く゚。	「ああ痛い、痛い！」と騒ぐ。
例②	「あどんたはー。」だどって泣ぐ。	「もういやだよー」と泣く。

説明

・「どって」は直接・間接引用どっちでも使えて、「だどって」は直接引用にしか使えない。さきほど習った使い分けと同様というわけである。

会話

A：はー、とじぇねぁなー。

訳：はぁ、寂しいねぇ。

B：…とー、なにしたな？急にとじぇねぁどってかだいぎなのづで。

訳：…父さん、どうしたの？急に寂しいと言って溜息などついて。

A：んー？なも、「今年ﾝだばじんじょ孫がだあすぶにきてけるべー。」だどって歯噛みして

訳：うん？いや、「今年はきっと孫たちが遊びに来てくれるだろう。」と思って歯を食いしばって

盆休み待ってあったあじに、今年もこねぁって聞だがらせぁ、なんーだで、おれ

盆休みを待っていたのに、今年も来ないと聞いたからさぁ、まったくもう、私

みでぁんた仕事もやめで趣味もねぁとしょりﾝだば孫がだのつらっこ見るなか゚一番の

のような仕事もやめて趣味もないお年寄りは孫たちの顔を見るのが一番の

楽しみﾝだなに、なしてﾝだべなーどもって。おえ孫かって嫌わえでしまったあんだべが。

楽しみなのに、どうしてだろうねぇと思って。私は孫に嫌われてしまったんだろうか。

B：あい、めぁもまだ大袈裟ﾝだごどいって、…なも、別に嫌わえだわげﾝでﾝだばねぁ

訳：もう、お前って奴は大げさなことを言って、…いや、別に嫌われたわけではない

ど思うや？たんだに子供がだも年行って爺婆[じじばば]のどごさ行ってあすぶにあぐ

と思うよ？ただ単に子供たちも年を取って爺さん婆さんのところへ行って遊びに歩く

より友達がだどあすんだ方おもしぇがらこねぁぐなったﾝだげﾝだべー、じんじょ。

より友達たちと遊んだ方が面白いから来なくなっただけだろう、きっと。

A：…かー、そえﾝだばいずれ孫がだかって相手[あで]されねぁぐなったっていってだ

訳：…母さん、それはいずれにしろ孫たちに相手にされなくなったと言っている

えんだもんだねぁが。

ようなものじゃないか。

B：んー、そえﾝだば…、まずな。

訳：うん、それは…、まぁね。

A：まずなって、おめぁもまだ、自分でしゃべっておでよぐ悲しぐなねぁごど。昔ﾝだば

訳：まぁねって、お前って奴は、自分で喋っておいてよく悲しくならないなぁ。昔は

「爺[じじ]の家[え]さあすぶに行ぐな楽しみﾝで楽しみﾝで歯噛みして待ってだー。」

「爺さんの家に遊びに行くのが楽しみで楽しみで歯を食いしばって待っていたよ。」

だどって孫がだの方がらおらがださつであってあったもんであったに。

と言って孫たちの方から私たちについて歩き回っていたものだったのに。

B：…とー、子供ってそんだもんだ。ほんとにちっちぇぁ子供ﾝだば人見知りもさねぁﾝで

訳：…父さん、子供というのはそんなものだ。本当に小さい子供は人見知りもしないで

おれがだみでぁんだとしょりどごも大好ぎﾝだどってつであってけるべたって、年

私たちのようなお年寄りをも大好きだと言ってついて歩き回ってくれるだろうけど、年を

行ってだんだんに大人なればせぁ、普段なんも話すごどもねぁ爺婆なの、なぼー血ー

取ってだんだん大人になるとさぁ、普段何も話すこともない爺さん婆さんなど、いくら血が

つなか゚った家族ﾝだたって、やっぱり遠慮するえなるもんだあんだ。

つながった家族だとしても、やっぱり遠慮するようになるものなんだ。

A：はー、そんだもんだってげぁ？

訳：はぁ、そんなものだってかい？

B：んだど思うや、おえﾝだば。

訳：そうだと思うよ、私は。

A：はー、…なんだがかだいぎばりつでなもかもなねぁでぁは。…こえがらなに楽しみして

訳：はぁ、…なんだか溜息ばかりついてしかたがないよ。…これから何を楽しみにして

生ぎでげばいもんだべ？孫がだかって捨てらえればあどおら生ぎでだたってなんも

生きて行けばいいものだろう？孫たちに捨てられるともう私は生きていたとしても何も

楽しぐねぁ。

楽しくない。

B：あい、捨てらえるって、…んめぁもほんとに大袈裟ﾝだな。…素直に喜べって。

訳：もう、捨てられるって、…お前も本当に大袈裟だね。…素直に喜びなさいってば。

「あのちっちぇぁ子か゚よその子がだど仲いぐなって、こっちゃくるよりよっぽﾝど

「あの小さな子がよその子たちと仲良くなって、こっちへ来るよりずっと

楽しど思うﾝだげ楽しぐ過こ゚してだあんだなー。」って考えれば、そー悲し気分にも

楽しいと思うほど楽しく過ごしているんだねぇ。」と考えると、そう悲しい気分にも

なねぁべ？

ならないだろう？

A：…かー、めぁﾝだばほんとにいーおなこ゚ﾝだごど。

訳：…母さん、お前は本当にいい女だなぁ。

B：あい、おどーさん、急になにゆーな？やめでけれでぁ、そんだ歳なって。しょしねぁが。

訳：まぁ、お父さん、急に何を言うの？やめてくれよ、そんな歳になって。恥ずかしいじゃないか。

A：なにしょしでごどあるって？はー、…めぁﾝだばほんとにいーおなこ゚ﾝだ。おれなの

訳：何を恥ずかしいと言うことがあるというのだ？はぁ、…お前は本当にいい女だ。私など

自分のごどばり考えで「捨てらえだー、相手[あで]さえねぁぐなったー。」だどって、

自分のことばかり考えて「捨てられた、相手にされなくなった。」と言って、

わんわんど泣でだあじ、めぁﾝだば子供がだ成長したどって素直に喜べだあんだもの。

わんわん泣いているのに、お前は子供たちが成長したと思って素直に喜べるんだからね。

たいしたおなこ゚ﾝだ。んめぁみでぁに立派ﾝだおなこ゚もそーいねぁ。

たいした女だ。お前ほど立派な女もそういない。

B：…とー、あどやめでけれ、ほんとに。普段なんも褒めでけねぁめぁかってそー褒めらえれば

訳：…父さん、もうやめてくれ、本当に。普段全然褒めてくれないお前にそう褒められると

なんだがおぢづがねぁしてやぢゃねぁは…。

なんだか落ち着かなくて駄目だ…。

しめぁに

　以上で今回の秋田方言の勉強はおしまい。

　ではまた来週。

　へばな。

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