新編秋田弁講座文法篇第23課：助動詞⑭：推量「そうだ」

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文法篇第23課：助動詞⑭：推量「そうだ」

　みなさんこんにちは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回は秋田弁講座の文法篇第23回目。

　推量の「そうだ」に対応する表現を勉強していきます。

　秋田弁の会話例文を見たい場合は末尾の「会話」の

　とこだけ見ていただければよいかと思います。

　対訳になっているので、読むだけでも割と勉強になるかと思いますよ。

　ではどうぞ。

文法

１．秋田弁の推量の「そうだ」

　標準語の推量の「そうだ」は、秋田弁で「そーﾝだ」という。

なお、「彼はもう死んだそうだ。」「秋田は寒いそうだ。」の「そうだ」は伝聞。秋田弁の「そーﾝだ」にはこの伝聞の用法はないので注意しよう。

２．秋田弁の「そーﾝだ」の接続

原則：秋田弁の「そーﾝだ」は、以下のように接続する。

①動詞型用言：用言の連用形に接続。

②形容詞型用言：用言の終止形に接続。

③形容動詞：語幹に接続。

	秋田弁	標準語
動詞型の例	泣ぎそーﾝだ	泣きそうだ
	着そーﾝだ	着そうだ
	寝そーﾝだ	寝そうだ
	来そーﾝだ	来そうだ
	しそーﾝだ	しそうだ
	殺されそーﾝだ	殺されそうだ
形容詞型の例	赤げぁそーﾝだ	赤そうだ
	嬉しそーﾝだ	嬉しそうだ
	不味[ま]じそーﾝだ	不味[まず]そうだ
	白れそーﾝだ	白そうだ
	行ぎでぁそーﾝだ	行きたそうだ
形容動詞の例	静がそーﾝだ	静かそうだ
	綺麗そーﾝだ	綺麗そうだ
	真面目そーﾝだ	真面目そうだ
	清潔そーﾝだ	清潔そうだ

説明

・上記の秋田弁と標準語の対訳を見れば分かると思うが、「そーﾝだ」の接続では、形容詞型が秋田弁と標準語で大きく異なる。これは、秋田弁の「そーﾝだ」が形容詞型の終止形接続であるのに対し、標準語の「そうだ」が形容詞型の語幹に接続するという違いがあるためである。

例外：形容詞語尾「-ねぁ」/打消の助動詞「-ねぁ」＋「そーﾝだ」と形容詞語尾「-良[い]」＋「そーﾝだ」→それぞれ「-なさそーﾝだ」「よさそーﾝだ」。つまり標準語と同形となる。


形容詞語尾「-ねぁ」	こごさﾝだばなさそーﾝだ。	ここにはなさそうだ。
	なんだがつまらなさそーﾝだ。	なんだかつまらなさそうだ。
助動詞「-ねぁ」	こごさﾝだば来なさそーﾝだ。	ここにはなさそうだ。
	誰も知らなさそーﾝだな。	誰も知らなさそうだね。
形容詞「-い」	これﾝだらよさそーﾝだな。	これならよさそうだな。
	おや、恰好よさそーﾝだごど。	おや、恰好よさそうだなぁ。

３．秋田弁の「そーﾝだ」の活用：「そーﾝだ」は、秋田弁の形容動詞と同じように活用する。

	秋田弁	標準語
連用形１	そーに	そうに
連用形２	そーﾝで	そうで
連用形３	そーﾝであっ	そうだっ
終止形	そーﾝだ	そうだ
連体形	そーﾝだ	そうな
仮定形１	そーﾝだら	そうなら
仮定形２	そーﾝだ(ば)	そうなら(ば)

例文

	秋田弁	標準語
連用形１	楽しそーに笑う。	楽しそうに笑う。
	なにが言―でぁそーにしてる。	なにか言いたそうにしている。
連用形２	幸せそーﾝでなによりﾝだす。	幸せそうでなによりです。
	どさが行ぎそーﾝでおっかねぁ。	どこかへ行きそうで恐い。
連用形３	北海道ﾝだば寒びそーﾝであった。	北海道は寒そうだった。
	人っこよさそーﾝであったっけ。	人柄がよさそうだったよ。
終止形	明日雨降りそーﾝだ。	明日は雨が降りそうだ。
	あの人ﾝだば健康そーﾝだ。	あの人は健康そうだ。
連体形	笑われそーﾝだ格好してる。	笑われそうな格好をしている。
	参加してぁそーﾝだ顔してあった。	参加したそうな顔をしていた。
仮定形１	幸せそーﾝだらそれﾝで良ねぁが。	幸せそうならそれでいいじゃないか。
	難しそーﾝだら諦めれ。	難しそうなら諦めろ。
仮定形２	幸せそーﾝだばそれﾝで良ねぁが。	幸せそうならばそれでいいじゃないか。
	痛でぁそーﾝだばやめるは。	痛そうならばやめる(ことにする)よ。

説明

１．接続については本課で既に詳しく説明したので割愛する。

２．最初にも説明したが、秋田弁の「そーﾝだ」は推量の用法しかない。伝聞「～そうだ。」は、後で習う終助詞「～ど。」を用いて表現するので、「そーﾝだ」は使わないのである。

３．なお、秋田弁の「そーﾝだ」は、実は日常会話でも使用頻度が非常に少なく(特に90歳超えるようなお年寄り世代)、聞くことはあまりない。連用形１・２・３は比較的聞くかもしれないが、それ以外の形は、普通は「えんだ」など別の表現で代用するのである。

４．「-なさそーﾝだ」「-よさそーﾝだ」は不規則且つ単に標準語を訛らせただけの表現である。これも、上の説明３に関連する話になるが、結局は、伝統的な秋田方言としては「そーﾝだ」という表現は用いられていなかった、ということなのだろう。若い世代ほど「そーﾝだ」をよく使うようになることからも、標準語からの借用語であることが推察される。

会話

A：はー、めぁﾝだばほんとになにﾝでももの食うってばおいしそーに食っていーごど。めぁ

訳：はぁ、お前は本当になんでもものを食うとなればおいしそうに食っていいなぁ。お前が

食うどご見でればたいしたものﾝでねぁってもおいしそーﾝでこっちまﾝで食ってぁぐ

食うところを見ているとたいしたものでなくてもおいしそうでこっちまで食いたく

なってくるでぁは。

なってくるよ。

B：あいー、とー、やめでけれでぁ。おなこ゚どご褒めるにもの食うどごばり褒めでけなしゃ。

訳：あらもう、父さん、やめてくれよ。女性を褒めるのにものを食うところばかり褒めてくれるな。

もの食うづぎってばなにﾝでもおいしそーして食うって、そえﾝだばおえほいどみでぁﾝだねぁが。

ものを食う時になればなんでもおいしそうにして食うって、それだと私が食いしん坊であるかのようじゃないか。

おらなもほいどﾝでねぁでぁ。

私は全然食いしん坊ではないよ。

A：おや、なも、かー、おれ別にめぁどご悪りぐいってだあんでねぁや？めぁもの食ぅぇば

訳：おや、いや、母さん、私は別にお前を悪く言っているんじゃないよ？お前がものを食うと

なんでもおいしそーﾝだ気してくるがらめぁどまま食ぅぇば幸せﾝだ気分なるって

なんでもおいしそうな気がしてくるからお前とご飯を食えば幸せな気分になると

ゆってだなﾝだ。

言っているのだ。

B：…あい、ほんとにげぁ？…あいー、なんだがしょしごど、そー素直に褒めらえれば。

訳：…あら、本当にかい？…もう、なんだか恥ずかしいなぁ。そう素直に褒められると。

…おれそんたおいしそーしてもの食ってだが？

…私そんなおいしそうにしてものを食っているか？

A：食ってだー。めぁﾝだばもの食うづぎってばいっつも幸せそーﾝだや？

訳：食っているよ。お前はものを食う時となればいつも幸せそうだよ？

B：あい、そんでぁに幸せそーしてだってげぁ？

訳：あら、そんなに幸せそうにしているというのかい？

A：してだー。せんだっても、はだはだ焼で食ったづぎ、めぁﾝだばたいしたうめぁそーに

訳：しているよ。先日も、鰰[はたはた]を焼いて食った時、お前はとてもうまそうに

食って、げぁんげぁ幸せそーﾝであったや？

食って、非常に幸せそうだったよ？

B：…あい、そんてぁにげぁ？

訳：…あら、そんなにかい？

A：んだー。…こんだごどゆえばめぁかって「まだ人どごほいどﾝだどもってー。」だどって

訳：そうだよ。…こんなことを言うとお前に「また人を食いしん坊だと思ってー。」と

ごしゃがえそーﾝだﾝどもせぁ、最近だばめぁもの食うどご見るな楽しみなってきて、

怒られそうだけどさぁ、最近はお前がものを食うところを見るのが楽しみになってきて

まずめぁ幸せそーﾝだらそえﾝだげﾝでこっちまﾝで幸せﾝだ気持ぢなってくるあんだ。

とにかくお前が幸せそうならそれだけでこっちまで幸せな気持ちになってくるんだ。

B：…んだが。おれ幸せそーﾝだばめぁも幸せﾝだ気持ぢなるなが…。あいーしょしごど。

訳：…そうか。私が幸せそうならばお前も幸せな気持ちになるのか…。あらもう恥ずかしいなぁ。

めぁ今日なんとしたな？さきたがら話っこ聞でるﾝだげﾝでおれしょししてなもかも

お前今日どうしたの？さっきから話を聞いているだけで私は恥ずかしくてしょうが

ねぁでぁ。めぁよぐそんたしゃべしてしょしか゚らねぁﾝでだごど。

ないよ。お前よくそんな話をして恥ずかしがらないでいるなぁ。

A：そーいわえれば、なんだがだんだんにしょしぐなってきたでぁは。さっさっ、おれ今日

訳：そう言われると、なんだかだんだん恥ずかしくなってきたよ。失敗したなぁ、私今日は

熱ﾝでもあるあんだべが。素直に思ってだごどしゃべってだつもりﾝであったっけ、

熱でもあるんだろうか。素直に思っていることを喋っているつもりだったが、

さっさっ、なんだがおがしけﾝだしゃべしてしまったは。悪り。今の話ﾝだば忘えでけれは。

失敗したなぁ、なんだかおかしな話をしてしまったや。悪い。今の話は忘れてくれ。

今日のおれなんだがおがしっけ。

今日の私はなんだかおかしいよ。

B：あい、めぁもまだ、こんでぁにいっぺぁ褒めらえであどんな忘えれってゆわえだたって、

訳：もう、お前って人は、こんなにいっぱい褒められてもうみんな忘れろって言われたところで

こんだごど忘えらえねぁでぁ。あいー、…だﾝどもありか゚どさん。素直にうれし、そーいって

こんなこと忘れられないよ。もうー、…だけどありがとう。素直に嬉しい、そういって

もらえるごったば。

もらえるならば。

A：…なも、思ったごど口にしたばりﾝだ。…かー、悪りﾝどもおれあどおやすみやるは。

訳：…いや、思ったことを口にしただけだ。…母さん、悪いけど私はもう寝るよ。

B：なに、しょししてなもかもなねぁどってげぁ？

訳：え、恥ずかしくてしかたがないと思ってかい？

A：はー、まんず、かー、あどごめんしてけれは。…はー、ほんとに、今日のおえなにして

訳：はぁ、とにかく、母さん、もう勘弁してくれ。…はぁ、本当に、今日の私はどうして

こんたしゃべしてしまったあんだべが…。

こんな話をしてしまったんだろうか…。

⁠

しめぁに

　以上で今回の秋田弁の勉強はおしまい。

　ではまた来週。

　へばな。

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