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アイヌ神話をアイヌ語で読みたい・知りたい人へ ~インターネットのサイト:国立国会図書館デジタルコレクションで無料で読めるオイナ・ユーカラの原典資料の紹介~

アイヌ神話をアイヌ語で読みたい・知りたい人へ ~インターネットのサイト:国立国会図書館デジタルコレクションで無料で読めるオイナ・ユーカラの原典資料の紹介~

みなさんこんばんは。齶田浦蝦夷です。

 

 最近になりまして、またアイヌ語をめぐる環境に大きな変化があったので、このページを書き上げることといたしました。

 

 変化とはズバリ、「国立国会図書館デジタルコレクション」(クリックするとそのサイトにジャンプしてしまいます。)のことです。

 

 国立国会図書館デジタルコレクションは、今までは著作権切れの物のみ無料公開されていましたが、何年か前から、「個人向けデジタル化資料送信サービス(個人送信)」というサービスが行われることになりました。

 

対称となっているのは、概ね「国立国会図書館のデジタル化資料のうち、絶版等の理由で入手が困難なもの」です。

 

 まぁ要するに著作権は切れてないけど絶版になってて入手できねぇ資料が、会員登録すれば自分のパソコンやらタブレット端末やらで閲覧できるようになったという画期的なサービスですね。

 

 これが結果的に、長らく図書館等でしか閲覧できなかった膨大な量のアイヌ神話に関連するアイヌ語資料が無料で閲覧できるようになった、という大変革が起きたわけです。

 

 というわけで最も代表的な資料を紹介していきましょう!括目せよ!

1.アイヌの聖典「オイナ」のアイヌ語原典資料を読みたい(日本語の対訳有り)

アイヌの聖典「オイナ」をアイヌ語原典資料で読みたい人に勧めるのは、以下のものです。
①世界聖典全集の『アイヌ聖典』(世界聖典全集、後輯14、1930年)
 国立国会図書館デジタルコレクションでは、「アイヌ聖典」と打って検索にかければ出ます。アイヌ語研究の先駆者として名高い、金田一京助氏が収集し、対訳を附したものです。「オイナ」のアイヌ語・日本語対訳資料であり、大体この一冊を読めばオイナがどんなものかわかってしまう。いわばオイナのバイブルと言えましょう。聖典だけに。

 

②『アイヌ叙事詩 ユーカラ集Ⅰ PON OINA 小伝』(金成まつ筆録・金田一京助訳注、三笑堂発行、1959年)

 

 デジタルコレクション内での検索の仕方は、「ユーカラ集」と打てば出ます。以下ユーカラ集Ⅰ~Ⅸまで皆同じやり方で探せます

 

筆録者の金成まつさんというのは、『アイヌ神謡集』で有名な「知里幸恵」氏の叔母に当たる人物です。その方が聞き伝えていたオイナが収録されています。胆振の幌別に伝わるオイナです。なお、このポン オイナは、オイナカムイの妹にあたる人物の自叙伝となっているようです。

 

 この第一巻は、「ユーカラ」集とは銘打ちながら、実質ポンオイナだけ収録されています。

 

③『アイヌ叙事詩 ユーカラ集Ⅰ PORO OINA 大伝』(金成まつ筆録・金田一京助訳注、三笑堂発行、1961年)

 

 金成まつさんの聞き覚えていたオイナのうち、ポロ オイナが収録されています。幌別の伝承です。
 その他、異伝として、日高の新冠のサンキロッテ所伝の「ポロ オイナ」並びに「カムイ オイナ」の二篇、日高の沙流のタウクノ所伝の「カムイ オイナ」二篇、そして日高の沙流のヤイプニレ所伝の「カムイ オイナ」一篇も収録されており、「ユーカラ」集とは銘打ちながら実質オイナ集となっております。

参考:そもそもオイナってなに?って人へ向けての説明

「オイナ」という名称は、アイヌ語を勉強している人達、或いはアイヌ文化をある程度知っている人達でも馴染みの薄いジャンルかもしれません。

 

 「ユーカラ」や「カムイユーカラ」なら知っている、という人の方が多いのが実態でしょう。

 

 ではオイナとはなにかと言うと、一言でいうと「オイナカムイ」=「アイヌラックル」=「アエオイナカムイ」≒「オキクルミ」の神話を謡ったアイヌの口伝のことです。

 

ではこのやたらと異名の多い「オイナカムイ」とはなんなのかというと、アイヌ神話における超重要な存在。人祖にして文化神。およそ今日伝わるアイヌの文化というものはすべてこのオイナにおいて謡われし御方、「オイナカムイ」によって人間に伝えられたのだ、とされているヤベェ御方です。

 

 謡われる内容も、神の系譜、アイヌ文化・シサム(和人)文化の黎明、魔女の討伐、太陽の救出、北風の討伐等、多岐にわたっており、まぁ要するに文化神でありながら英雄神であり、しかして人祖でもあり、人間を治めた原初の人間の長でもあるという、他の神話の神々の重要な要素をほぼ一人で担っているとんでもない神様です。

 

 まぁ赤い体をしていたとされる伝承や、天の神(雷?日?伝承者によって詳細は違う。)とチキサニ(我ら燃やす木)の間に生まれたというその出自の伝承、また、衣服の描写において「オウフイ~(端っこが燃えている~」が連呼されること、そしておよそアイヌの文化、和人の文化というものは、皆この神によって伝えられたのだという伝承を基に考えるなら、おそらくは、文明の黎明の「火」、すなわち「ヒト」が文化を手にして「人間」となった、そのきっかけとなった始まりの「火」そのものが神として語られたもの(西洋人風に言えば、「プロメテウスの火の擬人化」)なのだと私は思います

 

 なお、「オイナ」が聖典の意味になるのはもっぱら北海道南部のアイヌたちの間の話であり、地方によっては「オイナ」とは北海道南部のアイヌの言うところの「カムイユーカラ」のことだという地方もありますのでご注意ください。

 

 また、オキクルミとオイナカムイが混同されるのも地方によって差があるはずなので、その辺りも要注意です。

2.アイヌの英雄叙事詩「ユーカラ」のアイヌ語原典資料を読みたい(日本語の対訳有り)

①『虎杖丸の曲』(金田一京助著、青磁社発行、1944年)
 戦時中の書物だけあっていささか読みづらい感がありますが(当然ながら旧字体)、ユーカラの語法についての説明に230ページ程、そしてユーカラ「KUTUNESHIRKA(虎杖丸)」のアイヌ語原文と日本語対訳、ページ半分の下に註釈をつけたものが239~950ページという大著であり、まぁアイヌのユーカラの最も長大にして有名なものと言えるでしょう。

 

 検索方法は「虎杖丸の曲」で出ます。「虎杖」は「いたどり」です。

 

 所伝は金田一京助氏がアイヌのホメロスとたたえた伝承者ワカルパ翁です。

 

②『アイヌ叙事詩 ユーカラ集Ⅲ~Ⅶ』(金成まつ筆録・金田一京助訳注、三笑堂発行、1963年~1966年)
 いずれも金成まつさん所伝のユーカラで、それに金田一氏が日本語訳を附したものとなっています。

 

③『アイヌ叙事詩 ユーカラ集Ⅷ SHUPNE SHIRKA 蘆丸の曲』(金田一京助筆録・訳注、三笑堂発行、1968年)

 

こちらは金田一京助氏が、「アイヌのホメロス」と称賛した日高の平取の伝承者「ワカルパ」翁所伝のユーカラとなっています。

 

 別伝として、同じく日高の平取のコタンピラ所伝のものを、知里幸恵さんが聞いて書き出した同一タイトルのユーカラが収められています。

 

 なお、こちらのユーカラ集は、金田一京助氏が一人で訳出したものとしては恐らく最後のものであり、その「序」には、寿命の続く限り、なんとかユーカラ集をできるかぎり多く訳出したいという、高齢により近づいて来る死を意識しながらも必死に訳を続けていた姿勢が如実に表れていてなかなか胸にくるものがあります。

 

④『アイヌ叙事詩 ユーカラ集Ⅸ』(金田一京助筆録・訳注、三笑堂発行、1968年)
 日高の平取のワカルパ翁所伝のユーカラです。ユーカラ二篇が収められています。

 

 なお、このユーカラ集は、作られた経緯が非常に複雑です。その複雑さは「序」を見ればわかることなので簡単に言いますが、原稿までは今まで通り金田一京助氏が書き上げたのですが、その後校正作業の際には久保寺逸彦氏(この御仁もアイヌ語学者として有名な方です)等にも手伝ってもらったことがあげられるでしょう。

 

 その久保寺逸彦氏も校正作業が終わらぬうちに病気のために逝去され、同年、金田一京助氏も逝去された、といった具合です。紆余曲折具合が凄まじいですね。

 

 故にユーカラ集もこのⅨ巻を以て休止となっており、実質最終巻となっているのです。

おまけ:ユーカラ集の続きについて

実は金成まつ氏の筆録されたユーカラはまだまだあり、北海道教育委員会の方で「アイヌ民族文化財ユーカラシリーズ」として訳出されたものがまだ残っており、2023現在、その数は73まで行っているようですが、国立国会図書館デジタルコレクション所蔵のものは、そのうちの2と3のみとなっております。

 

 そして特に電子書籍として発行もされていなければ、一般書籍として売られてもいないので、実質入手不可です。

 

 多分一部の北海道の図書館にあるのみで、あとは古本屋に出回っているとか、そのレベルでしょう。文化財の無駄遣い過ぎやしませんかね…。なんのために訳出したのでしょう。知識というのは伝達させなければ埋もれていくだけなのですが…。やれやれです。

参考:「ユーカラ」ってなに?

オイナは知らずとも「ユーカラ」であれば名前くらいは知っている人も多いのではないでしょうか?

 

 簡単に言うと、アイヌ民族に伝わる英雄叙事詩です。オイナの主人公がほぼ「オイナカムイ」=「アイヌラックル」=「アエオイナカムイ」≒「オキクルミ」であるのに対し(pon oynaはその妹の自叙伝だが。)、「ユーカラ」の主人公はほぼ「ポイヤウンペ」という英雄で決まっています(伝承中の名称は色々のようですが)。

 

 ポイヤウンペはユーカラに謡われる英雄であるため、「ユカㇻカムイ」とも言われ、これまたとても重要な英雄です。「オイナカムイ」が人祖にして文化神、英雄にして原初の王であるという人間の要素が絡む神の統合体みたいな存在であるのに対し、ポイヤウンペはアイヌの歴史の擬人化みたいな人物で、とかく戦争の話が多いイメージです(個人的な偏見)。

終わりに

以上で、インターネット上で無料で読める、アイヌ神話に関連するアイヌ語原典附き資料について、現状私の知る限りにおいて容易にアクセスできる書籍を紹介しました。

 

 因みにこの他にも樺太アイヌにおける北海道アイヌの「ユーカラ」に当たる古謡、「ハウキ」と呼ばれるものを金田一京助氏が筆録した「北蝦夷古謡遺篇」なるものもデジタルコレクションで見ることができますが、今まで紹介したものとはまた別物なので紹介しませんでした。というか樺太アイヌ語は資料が豊富と言われる割に一般人が見れるものはほとんどありませんね。私も樺太アイヌの伝承についてはまるでわかりません。

 

 せいぜい、樺太アイヌの間では、ヤイレスポという半神半人の人祖が伝承されていて、それを主人公または登場人物にして謡われるものが樺太アイヌにおける「オイナ」である、という程度の知識しかないです。しかも原典資料にアクセスできないのでなおさらよくわからない。

 

 まぁそのうち時代が進み、資料整備等が進めばいつかは研究者たちの手によって日の目を見ることもあるのではないでしょうか。

 

 アイヌ語関係の資料というのは、公刊されているものの数から見て「どうせ資料ほとんど残っていないんだろうなぁ。」と思っている方もいるかもしれませんが、その実、明治時代以来、アイヌというものは、日本人からは原住民みたいな存在として見られていたし、欧米人からは「外見や言語の特徴から考えて昔のコーカソイドの生き残りでは?」などと考えられていた経緯もあり、日本人にも欧州人にも注目されていました。

 

 そのため先住民族の中では極めて言語資料に恵まれているとされていますが、いかんせん資料が多かろうと研究者は多くないし、割とマニアックな分野のため需要が多いわけでもない。

 

 結果、今日に至るまでなかなかその残存資料量に比して公開されている資料はさほど多くないという問題を抱えています。

 

 現状では、やはりなおも北海度南部のアイヌ語が最も公開・研究が進んでおり、情報のアクセスも容易ですので、アイヌ語の勉強をお勧めするとなれば、沙流川流域のアイヌ語の勉強を勧めてしまうのですよ。

 

 このページで紹介したアイヌ神話も、結局のところはすべて北海道南部に伝わる神話ですし、神話についてのお勧めも結局は南部のものばかり紹介してしまっていますが、是非もなし。

 

 まぁ、いつかは比較的多くの資料が残されているとされる樺太アイヌの言語資料にも、誰もがアクセスできる時代が来ればいいんですけどね。

 

 北海道東部・北部のアイヌ語については、資料がどれだけ残っているかよくわからないのでなんともいえませんが、こちらもいつか資料公開等なされていけばいいなと個人的には思います。

 

 まぁ私は今は秋田弁のことで手一杯ですけどね。

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