新編秋田弁講座文法篇第27課：可能表現①：能力可能

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文法篇第27課：可能表現①：能力可能

　みなさんこんばんは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回は秋田弁講座の文法篇の第27回目。

　能力可能表現について勉強していきます。

　標準語では可能表現に能力があってできる・条件的にできる、という差異は

　いちいち区別しませんが、方言においてはそこまで厳密でこそありませんが、

　一応の区別はあるのです。

　それは秋田弁においても同じ。よって今回はそこを勉強しましょう。

　ではどうぞ。

文法

１．能力可能とは？

　能力可能とは、「能力があって～することができる」という意味を表す可能表現である。日本語諸方言の中には、同じ可能でも「能力可能」「状況可能」「属性可能」のように、使われる文脈によって表現方法が異なる場合があるので方言の勉強の際には注意が必要である。

２．秋田弁の能力可能表現とその作り方

　秋田弁で「能力があって～することができる」の意味を表したい場合は、標準語でいう「可能動詞」と「ら抜き言葉」を使うことになる。

可能動詞の作り方

①五段活用：標準語の可能動詞と同様に、終止形の語尾母音「-う」を「-える」に変える。

元となる動詞の例	秋田弁	標準語
か行の例：書-ぐ	書-げる	書-ける
さ行の例：刺-す	刺-せる	刺-せる
た行の例：立-づ	立-でる	立-てる
な行の例：死-ぬ	死-ねる	死-ねる
ま行の例：飲-む	飲-める	飲-める
ら行の例：取-る	取-れる	取-れる
わ行の例：食-う	食-える	食-える

説明

・ご覧の通り、五段活用動詞の可能動詞の作り方は、終止形の末尾が「-う」段で終わっていたものを「-える」に変えるだけでよい。要は標準語と同じ作り方である。

②上一段活用：標準語のら抜き言葉の作り方同様、「未然形＋れる」でできる。

元となる動詞の例	その未然形	秋田弁	標準語
例①：見る	見-	見-れる	見-(ら)れる
例②：起ぎる	起ぎ-	起ぎ-れる	起き-(ら)れる

説明

・標準語では「ら」を抜いた形は「ら抜き言葉」と言って正式な国語とされていないが、秋田弁では逆に「ら」がない形が正しい可能動詞としての形である。

③下一段活用：標準語のら抜き言葉の作り方同様、「未然形＋れる」でできる。

元となる動詞の例	その未然形	秋田弁	標準語
例①：寝る	寝-	寝-れる	寝-(ら)れる
例②：逃け゚る	逃け゚-	逃け゚-れる	逃け゚-(ら)れる

説明

・ご覧の通り、上一段活用のときと同じで「未然形＋れる」で作ることができる。

④カ変活用：標準語のら抜き言葉同様、「来[こ]れる」と言う。

元となる動詞	その未然形	秋田弁	標準語
来る	来[こ]-	来[こ]-れる	来[こ]-(ら)れる

説明

・これも上一段・下一段同様に「未然形＋れる」でできたものと言えるが、普通に「これる」という単語として覚えた方が早いかもしれない。

補足：なお、「来れない」は、秋田弁では「来[こ]れねぁ」の他、「けねぁ」とも言う。

	秋田弁	標準語
例①「これねぁ」	足痛でぁしてこれねぁぐなったど。	足が痛くて来られなくなったそうだ。
例②「けねぁ」	足痛でぁしてけねぁぐなったど。	足が痛くて来られなくなったそうだ。

説明

・「これねぁ」と「けねぁ」に意味上の違いはない。あとこの二つは割と次回習う「状況可能」の意味でも使われるので、正直あまり使い分けに気を取られなくていい。

⑤サ変活用：標準語同様、「できる」を使うが、濁って「でぎる」となる。

	秋田弁	標準語
例①	でぎる	できる
例②	我慢でぎる	我慢できる
例③	メモでぎる	メモできる

説明

・現代でこそ若者から古老まで「でぎる」を用いるが、昔の秋田方言では、実は「へる」を用いていたらしい。私の祖母も、一度だけ「めぁもし車運転へだば」と喋った事がある。

	秋田弁(伝統的な言葉。今はほぼ死語)	標準語
例①	へる	できる
例②	我慢へる	我慢できる
例③	メモへる	メモできる

３．能力可能表現の活用

　秋田弁の能力可能表現の活用は、標準語の可能動詞やら抜き言葉と同じ「一段活用」(「でぎる」は上一段。その他は下一段。)なので命令形が「-れ」になる以外は標準語と同じ活用。

①五段・上一段・下一段・カ変活用動詞(つまりサ変以外)の能力可能表現の活用一覧

	秋田弁	標準語
未然形	書げ-/見れ-/寝れ-/来れ-ねぁ	書け-/見れ-/寝れ-/来れ-ない
連用形	書げ-/見れ-/寝れ-/来れ-だ	書け-/見れ-/寝れ-/来れ-た
終止形	書げる/見れる/寝れる/来れる	書ける/見れる/寝れる/来れる
連体形	書げる-/見れる-/寝れる-/来れる-づぎ	書ける-/見れる-/寝れる-/来れる-時
仮定形	書げれ-/見れれ-/寝れれ-/来れれ-ば	書けれ-/見れれ-/寝れれ-/来れれ-ば
命令形	書げれ/見れれ/寝れれ/来れれ	書けろ/見れろ/寝れろ/来れろ

説明

１．標準語の方はら抜き言葉での活用を示してある。ご覧の通り、秋田弁と標準語の活用の違いは命令形に限られる。

２．上の表には出してないが、カ変の「来れねぁ」は「けねぁ」とも言う。

例文

	秋田弁	標準語
未然形	足怪我して来れねぁぐ/けねぁぐなった。	怪我をして来れなくなった。
連用形	昔ﾝだば一人してこれ持でであったﾝども。	昔は一人でこれを持てていたけど。
終止形	俺ﾝだば朝間はえぁぐ起ぎれる。	私は朝早く起きれる。
連体形	細めぁ字見れる歳ﾝでねぁぐなったは。	細かい字を見れる歳じゃなくなったよ。
仮定形	どごﾝでいでもすんま寝れればいごど。	どこにいてもすぐに寝れればいいなぁ。
命令形	英語ぐれぁ話せれでぁ。	英語くらい話せろよ。

説明

・何度も言うが、「来れない」は「けねぁ」とも言えるのである。

②サ変「でぎる」の活用：以下の通り上一段活用である。

	秋田弁	標準語
未然形	でぎ-ねぁ	でき-ない
連用形	でぎ-だ	でき-た
終止形	でぎる	できる
連体形	でぎる-づぎ	できる-時
仮定形	でぎれ-ば	できれ-ば
命令形	でぎれ	できろ

説明

１．特に説明することもないだろう。上一段なので、命令形が標準語と違うだけである。

２．なお、今はほぼ死語化しているサ変の伝統的な能力可能「へる」の活用は以下の通り。

	秋田弁(今はほぼ死語)	標準語
未然形	へ-ねぁ	でき-ない
連用形	へ-だ	でき-た
終止形	へる	できる
連体形	へる-づぎ	できる-時
仮定形	へれ-ば	できれ-ば
命令形	へれ	できろ

説明

１．「へる」の場合は活用は下一段となる。つまり昔の秋田方言であれば、五段・上下一段・カ変・サ変の可能動詞がすべて下一段で統一されていたことになる。現在秋田弁として使われている「でぎる」は、もともとは標準語の可能表現「できる」からの借用語だったのだろう。昔話集とかを見るとこの「へる」は割とよく目にするので一応覚えておこう。

２．因みに我が家の祖母は、普段は「でぎる」を用いていたが、一度だけ「へる」を用いたことがあった。それが「めぁもし車運転へだば…」という表現だが、この表現、現代秋田弁なら普通「運転でぎれば…」というべきところである。「でぎだば…」とはまず聞かないのだが、古語の「へる」に引っ張られて表現も古風なものが出てきたのかもしれない。

３．なお、本テキストでは「する」の能力可能は「でぎる」を採用している。「へる」の方はあくまで参考程度に書いてあるだけなので、悪しからず。例文にも「へる」は載せない。

例文

	秋田弁	標準語
未然形	おら車運転でぎねぁ。	私は車をできない。
連用形	昔ﾝだば誰ﾝでも着物の着付けでぎだ。	昔は誰でも着物の着付けができた。
終止形	これぐれぁ我慢でぎる。	これくらい我慢できる。
連体形	恋でぎるづぎって若げぁうぢばりﾝだ。	恋できる時というのは若いうちだけだ。
仮定形	あー、俺も車運転でぎればいあじ。	ああ、私も車を運転できればいいのに。
命令形	なんーだって。それぐれぁでぎれでぁ。	まったくもう。それくらいできろよ。

会話

A：にー、めぁ車運転でぎだが？

訳：兄さん[=息子のこと]、お前は車を運転できるか？

B：えー？

訳：ん？

A：めぁ車運転でぎるがって。

訳：お前は車を運転できるかと言ったんだ。

B：あー、車げぁ？なも、おれﾝだばでぎねぁな。

訳：ああ、車かい？いや、私はできないね。

A：あいーしかだねぁ。車ぐれぁ運転でぎれでぁ。なんーだって…だﾝどもなしてﾝだ？めぁ

訳：まったくもう。車くらい運転できろよ。まったくもう…けどどうしてだ？お前

若げぁづぎ免許取ってねぁがったっけが？

若い時免許を取っていなかったっけっか？

B：なも、免許ﾝだばたしかに持ってだたって、取ってがらなんも運転さねぁもの。あど運転

訳：いや、免許はたしかに持っているけれど、取ってからぜんぜん運転しないからね。もう運転

する術[すべ]忘ってしまったでぁは。

する方法を忘れてしまったよ。

A：あいしか。せばおれ自分の足ﾝで病院まﾝであがねぁばなねぁってげぁ？…歩げるべが、

訳：まったくもう。じゃあ私自分の足で病院まで歩かなければならないというのかい？…歩けるだろうか、

あんた遠ぎどごまﾝで。

あんな遠いところまで。

B：なに、かー、病院さ行ぐなげぁ？なにした？どっか体あんべぁ悪りあんだが？

訳：なんだい、母さん、病院に行くのかい？どうした？どこか体の具合が悪いのか？

A：んー？なも、せんだっていっつもの医者のどごさ行ってきていっつもの検査して

訳：うん？いや、先日いつもの医者のところへ行って来ていつもの検査をして

もらったっけ、なんだがひっかがったえんで、大[お]っき病院さ行ってちゃんと調べで

もらったところ、なんだかひっかかったようで、大きい病院へ行ってちゃんと調べて

もらった方いーで話なって。

もらった方がいいという話になって。

B：おや、ほんとにげぁ？そえﾝだば心配ﾝだごど。

訳：おや、本当にかい？それは心配だなぁ。

A：なも、別にそー心配ぁするごどﾝでもねぁー。医者も念のためﾝだがらそー心配ぁすな

訳：いや、別にそう心配することでもないよ。医者も念のためだからそう心配するな

どってあったもの。

と言っていたからね。

B：んだが。んだばいったたって。

訳：そうか。そうならばいいけれど。

A：…だﾝども困ったごど。大っき病院かって「明日これれば明日にﾝでもくるごどするすか？

訳：…だけど困ったなぁ。大きい病院に「明日来られれば明日にでも来ることにしますか？

もしけねぁごったば予約埋まってで二週間ぐれぁ待づごどなるﾝども。」だどってゆわえだがら、

もし来られないならば予約が埋まっていて二週間くらい待つことになるけど。」と言われたから

おれまだめぁ運転へだもんだどもって「なもなも、いすいす。おれなのとしょりﾝだもの。

私ったらお前が運転できるものだと思って「いやいや、いいですいいです。私など年寄りだからね。

時間だばいづﾝでもいー。空でだ時間で予約してけれー。」だどって予約してしまったでぁは。

時間ならばいつでもいいよ。空いている時間で予約してくれ。」と言って予約してしまったよ。

なんとしたもんだべ？

どうしたものだろう？

B：なんとしたもんだべって、そーゆわえでもはー、何年も車運転さねぁに急に運転した

訳：そうしたものだろうって、そう言われても、何年も車を運転していないのに急に運転した

たって危ねぁべし、おえﾝだば送ってがえねぁー。

としても危ないだろうし、私は送って行けないよ。

A：あい、困ったごど。せばなんとして行げばい？

訳：あら、困ったなぁ。じゃあどうやって行けばいい？

B：んー、んだなー。おらえﾝでいで運転でぎる人ってばとーよりいねぁもの。そえﾝだば

訳：うーん、そうだねぇ。私の家で運転できる人と言えば父さんしかいないからね。それは

とーさ頼む他ねぁべ。…めぁして結局予約明日の何時にしたな？

父さんに頼むしかないだろう。…お前はそして結局予約は明日の何時にしたの？

A：朝間の八時半がらにしてもらったー。

訳：朝の八時半からにしてもらったよ。

B：おや、八時半がらって、めぁもまだ、随分はえぁ時間にしてけだもんだごど。そーはえぁぐ

訳：おや、八時半からって、お前って奴は、随分早い時間にしてくれたものだなぁ。そう早く

とーさん起ぎれるがや？とーなの休みの日ってば八時にやっとごさ起ぎで顔洗ったり

父さんが起きられるかね？父さんなど休みの日になれば八時にようやく起きて顏洗ったり

なんだりするあんだや？

なんだりするんだよ？

A：あい、そーゆわえだたって、しかだねぁべー。おえﾝだばもどもどめぁどごあでしてあった

訳：もう、そう言われたとしても(=言われても)、仕方がないだろう。私は元々お前を当てにしていた

なﾝであって、とーかって送ってもらうつもりﾝでねぁがったもの。

のであって、父さんに送ってもらうつもりではなかったからね。

B：はー、おれもし送ってげるごったばおれつでってあったたって、流石に危ねぁしなー。

訳：はぁ、私がもし送って行けるならば私が連れて行っていたけど、流石に危ないしねぇ。

…しかだねぁ。せば今日はとーどごはえぁぐ寝へで明日はえぁぐ起ぎれるえにする他ねぁな。

…しかたない。じゃあ今日は父さんを早く寝せて明日早く起きられるようにするしかないね。

仕事の日みでぁにはえぁぐ寝ればはえぁぐ起ぎれるべ、じんじょ。

仕事の日のように早く寝れば早く起きられるだろう、きっと。

A：…あの金曜日なれば夜中まﾝで酒飲む人、はえぁぐ寝れちゅって素直に寝でけるもんだがや？

訳：…あの金曜日になると夜中まで酒を飲む人が、早く寝ろと言って素直に寝てくれるものかねぇ？

B：かー体あんべぁ悪りして大っき病院さ行って検査さねぁばねぁぐなったってば、流石に

訳：母さんが体の調子が悪くて大きい病院へ行って検査しなければならなくなったと言えば、流石に

さっさど寝で明日に備えでけるべせぁ。

さっさと寝て明日に備えてくれるだろうさ。

A：んー、あの飲兵衛[のんべ]おれのためにそんだごどしてけるがや？想像つがねぁごど。

訳：うーん、あの飲んだくれが私のためにそんなことをしてくれるかね？想像つかないなぁ。

B：なも、大丈夫ﾝだー。なぼーとーさん酒好ぎﾝだたって、かーどごﾝだば大事に思ってだもの。

訳：いや、大丈夫だよ。いくら父さんが酒好きだとしても、母さんは大事に思っているからね。

じんじょはえぁぐ寝でけるー。

きっと早く寝てくれるよ。

A：あい、めぁも変だどごﾝであえどご信用してるごど。…おれﾝだば「なに、明日朝間はえぁぐ

訳：あら、お前も変なところで彼を信用しているなぁ。…私は「え、明日朝早く

起ぎれど？しかだねぁごど。へばはえぁぐ寝れるえに酒っこいっぺぁ飲まねぁばなねぁ

起きろだって？しかたないなぁ。じゃあ早く寝られるように酒をいっぱい飲まなければならない

なー。」だどって、人さかﾝづげでもっと酒飲むえんた気ーするﾝども。

ねぇ。」と言って、人にかこつけてもっと酒を飲むような気がするけど。

B：ははは、めぁもまだ、まさがそんだばがしゃべするわげねぁべー？なぼーとー飲兵衛[のんべ]

訳：ははは、お前って人は、まさかそんな馬鹿なことを言うわけないだろう？いくら父さんが飲んだくれ

ﾝだたって…さねぁやな？

だとしても…しないよね？

A：知らねぁー。めぁもまだなに急に不安なってだな？

訳：知らないよ。お前って奴は何を急に不安になっているの？

B：うﾝー、なも、とーﾝだばたしかにそんだごどいーそーﾝだ気してきて…かー、もしとー

訳：うーん、いや、父さんならば確かにそんなことを言いそうな気がしてきて…母さん、もし父さんが

ゆーごど聞がねぁして朝間起ぎれねぁがったらタクシー呼ばって病院さ行がへるがら。

言うことを聞かなくて朝起きられなかったらタクシーを呼んで病院に行かせるから。

A：…にー、めぁも結局とーどご信用してねぁねぁが…。

訳：…兄さん、お前も結局父さんを信用していないじゃないか…。

しめぁに

　以上にて今回の秋田弁講座はおしまい。

　へばまず。

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