新編秋田弁講座文法篇第33課：格助詞①

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文法篇第33課：格助詞①

　みなさんこんにちは。

　齶田浦蝦夷です。

　五月とは思えぬくそ暑い今日このごろですが、

　相変わらず週一でupしていきます。

　というわけで今回も秋田方言講座やっていきます。

　今回は格助詞についての第一回目です。

　ではどうぞ。

文法

１．秋田弁の格助詞

　秋田弁の格助詞と標準語の格助詞との対応関係は、以下の通り。使い方もみな対応する標準語に一致するので、そのまま置き換えればそれでいい。

	秋田弁	標準語	秋田弁の例文	標準語の例文
①	か゚	が	俺か゚やった。	私がやった。
②	の	の	俺の兄さん。	私の兄。
③	どご	を	人どご殴る。	人を殴る。
④	に	に	日本に住む。	日本に住む。
⑤	さ	へ	秋田さ行ぐ	秋田へ行く。
⑥	ﾝで	で	学校ﾝで勉強する。	学校で勉強する。
⑥	ﾝで	で	図書館で勉強する。	図書館で勉強する。
⑦	ど	と	あれど一緒に行ぐ。	彼と一緒に行く。
⑧	がら	から	これがらなんとする？	これからどうする？
⑨	より	より	俺より大っき。	私より大きい。

説明

１．助詞は接続を一々覚えるのは甚だ非効率的且つ面倒なので、普通に対応する標準語を秋田弁に置き換えるという手法で覚えよう。

２．赤字は言葉が標準語と異なる箇所。①は分かり辛いかもしれないが、鼻濁音の「か゚」になっている。この「か゚」は「ん」の前であっても変わらず鼻濁音「か゚」のままである。

３．⑥の「ﾝで」は、前の言葉が「ん」なら「ﾝ」が消えて標準語と同じ「で」になる。

２．秋田弁の格助詞の独自用法

①「か゚」：実は普通省略される。主語が分かり難い時だけ「か゚」を使おう。

	秋田弁	標準語
例①：普通	俺やったなﾝだ。	私がやったのだ。
例②：主語の明示・強調	勉強するなか゚学生の本分だ。	勉強するのが学生の本分だ。

②「の」…名詞[体言]として使う用法は、以下のように表現する。

１：「行くのは大変だ」「寒いのには慣れていない」など、用言を名詞化する用法は、秋田弁では、「の」ではなく「な」を使う。

	秋田弁	標準語
例文①	行ぐな大変だべ。	行くのは大変だろう。
例文②	寒びなにﾝだば慣れでねぁ。	寒いのには慣れていない。

２：「こういうのはよくない」「こんなの間違っている」のような、指示形容詞の後ろにつく「の」も、秋田弁では「な」と表現する。

	秋田弁	標準語
例文①	こーいうないぐねぁ。	こういうのはよくない。
例文②	こんだな間違ってる。	こんなの間違っている。

３：「これは私のだ」「あれは誰のだ？」など、「の物」という意味を表す「の」は、秋田弁では「の」ではなく「のな」。「な」＝「物」という意味。

	秋田弁	標準語
例文①	これ俺のなﾝだ。	これは私のだ。
例文②	あれ誰のなﾝだ？	あれは誰のだ？

４：「どご」

Ⅰ：人や動物が対象の時以外は、実は普通省略する。

	秋田弁	標準語
例文①：人や動物	犬どご飼う。	犬を飼う。
例文②：それ以外	石削る。	石を削る。
例文③：対象明示	この小っちぇぁ玉っこどごあっこの遠ぎどさある籠っこの中さへる。	この小さい玉をあそこの遠いところにある籠の中に入れる。

説明

１．①について：犬は動物なので、「どご」を使う。

２．②について：石は動物でも人間でもない。だから使わない。

３．③について：実際の秋田弁では、「を」の意味で使う「どご」の場合、人や動物以外であっても対象を明示したいときは「どご」を使う。まぁ会話文でそんなに「を」を入れないと意味が分かり辛いなんてことはあまりないので普通は使われないのだが。

４．なお、③の「へる」とは、秋田弁の動詞で、「入れる」という意味である。

Ⅱ：「Aが～[感情的な評価を表す形容詞/形容動詞]」→「Aどご～」と言うのが普通。但し、Aは人か動物。それ以外の場合は「どご」を省略する。

	秋田弁	標準語
例文①：人や動物	俺お前ぁどご好ぎﾝだ。	私は君が好きだ。
例文②：それ以外	俺山好ぎﾝだ。	私は山が好きだ。

注意：感情的な評価を表すものとは、たとえば以下のようなものがある。

	秋田弁	標準語
例①	好ぎﾝだ	好きだ
例②	嫌いﾝだ	嫌いだ
例③	大事ﾝだ	大事だ
例④	いだわし	可愛い/大切だ
例⑤	憎[に]ぎ	憎い

	秋田弁	標準語
①の例	俺冬好ぎﾝだ。	私は冬が好きだ。
②の例	俺らん前ぁどご嫌いﾝだ。	私はお前が嫌いだ。
③の例	子供どご大事ﾝでねぁ人なのいねぁ。	子供が大事でない人なんていない。
④の例	ん前ぁどごいだわしして言うなﾝだ。	お前が大切で言うのだ。
⑤の例	前ぁどご憎ぎして言うあんでねぁ。	お前が憎くて言うのではない。

説明

・①の例は、人や動物でないから「どご」が使えないわけである。

会話

A：とー、めぁまだ酒っここんでぁに飲んで…そーおが飲むなっていってるに、なしてこーﾝだ？

訳：父さん、お前はまたお酒をこんなに飲んで…そうあまり飲むなと言っているのに、どうしてこうだ？

B：ははは、なも、いねぁが。おれもあどなんぼも生ぎねぁ歳[とし]なったあんだもの。残りの

訳：ははは、いや、いいじゃないか。私ももういくらも生きない歳になったんだからね。残りの

人生好ぎ勝手して生ぎだたって罰当だらねぁべ。

人生は好き勝手して生きたとしても罰は当たらないだろう。

A：あい、めぁもまだばがしゃべして…なんぼも生ぎねぁったたって、まﾝだおらがだ

訳：もう、お前って奴は馬鹿なことを言って…いくらも生きないと言ったとしても(=言っても)まだ私たちは

七十[ななじゅー]より先なねぁあんだや？死ぬったたってあど十年も二十年も先なる

七十歳より先(=以上)になっていないんだよ？死ぬと言ったところでもう十年も二十年も先になる

べぉん。

だろうに。

B：おや、そんでぁに長生ぎするもんだってげぁ？

訳：おや、そんなに長生きするものだっていうのかい？

A：んだやー？今なの、人生百年だどってゆわえる時代ﾝだもの。昔ど同じ気持ぢﾝでいれば

訳：そうだよ？今など、人生百年だと言われる時代だからね。昔と同じ気持ちでいては

だめよ。

いけないよ。

B：んー、んだﾝどもせぁ、定年なって仕事やめでがら昔よりよっぽﾝどおもしぇぐねぁ

訳：うーん、だけどさぁ、定年になって仕事をやめてから昔よりずっと面白くない

人生なった気してせぁ、…なんも楽しごどねぁがらつい酒どが飲んで時間つぶして

人生になった気がしてさぁ、…なにも楽しいことがないからつい酒とかを飲んで時間をつぶして

しまうなやな。

しまうんだよねぇ。

A：あい、んだなが。おれまだ仕事やめでがらの方楽しぐ過こ゚すにいもんだど思って

訳：あら、そうなのか。私ったら仕事をやめてからの方が楽しく過ごすことができるものだと思って

あったっけ、…おめぁなにが楽しど思うごどねぁな？趣味どがあればいったたって。

いたが、…お前はなにか楽しいと思うことはないの？趣味とかがあればいいけれど。

B：んー、なもねぁなー。おれなの毎ん日仕事ばりﾝでなんもそんだえんだな探す時間も

訳：うーん、なにもないねぇ。私など毎日毎日仕事ばかりで何もそのようなのを探す時間も

ねぁがったもの。…やっぱりおれﾝだばこーして酒っこ飲んでぼーっとしてるな一番いは。

なかったからね。…やっぱり私はこうして酒を飲んでぼうっとしているのが一番いいや。

A：あい、そえﾝだばだめﾝだって。

訳：もう、それだと駄目だってば。

B：あー、うるせぁごど。別にいねぁは。定年まﾝで仕事してきたあんだもの。老後ぐれぁ

訳：ああ、うるさいなぁ。別にいいじゃないか。定年まで仕事してきたんだからね。老後くらい

好ぎ勝手して生ぎだたって。

好き勝手して生きたとしても。

A：あい、とー、…あのせぁ、おれも別にめぁどご憎ぎしてこんだごどゆってだあんでねぁや？

訳：もう、父さん、…あのさぁ、私も別にお前が憎くてこんなことを言っているんじゃないよ？

めぁどごいだわしがら心配ぁしてしゃべってだなんだ。…そーやって毎ん日昼間っから

お前が大切だから心配して喋っているのだ。…そうやって毎日毎日真昼間から

酒なの飲んでれば、あだってかだわなって死ぬまﾝでおが苦しんで生ぎでがねぁば

酒など飲んでいると、あたって[=脳卒中になって]体が不自由になって死ぬまで酷く苦しんで生きて行かなければ

なねぁぐなるがらこーゆーなﾝだ。

ならなくなるからこう言うのだ。

B：あだるって、めぁもまだ大け゚さﾝだごど。

訳：脳卒中になるって、お前って奴は大げさだなぁ。

A：なも、大け゚さﾝでねぁー。隣ねのとーさんだってめぁみでぁに深酒してそのまま風呂さ

訳：いや、大げさではないよ。隣の家の父さんだってお前のように深酒をしてそのまま風呂に

入[は]ったっけ、あだってしまってそのまま死ぬまﾝで病院さへらえであったあんだや？

入ったところ、脳卒中になってしまってそのまま死ぬまで病院に入れられていたんだよ？

だめﾝだー、そんだらごどせば。

いけないよ、そんなことをしたら。

B：んー、人そーなったがらっておれまﾝでそーなるわげﾝでねぁどもうたってな。…まずいは。

訳：うーん、人がそうなったからって私までそうなるわけではないと思うけどね。…まぁいいや。

んめぁか゚そごまﾝでゆーごったば酒っこもおが飲まねぁえにすらな。…だﾝども酒っこ

お前がそこまで言うならば酒もあまり飲まないようにしよう。…だけども酒を

飲まねぁば飲まねぁﾝでこんどおれ楽しみねぁぐなるなやな。なんとがしたもんだやら。

飲まなければ飲まないで今度は私は楽しみがなくなるんだよね。どうしたものやら。

A：んー、んだな…。んだらどごさが旅行にﾝでも行ってみるが。

訳：うーん、そうだね…。それならどこかへ旅行にでも行ってみようか。

B：うﾝーん、旅行げぁ？…たしかに銭[じぇん]っこﾝだば退職金もあるがらなんとﾝでも

訳：うーん、旅行かい？…確かにお金は退職金もあるからどうにでも

なるべたって、…旅行するたってどごさ行げばいって？

なるだろうけれど、…旅行するとしてもどこへ行けばいいと言うのだ？

A：…めぁどっかあすぶに行ぎでぁどごどがねぁ？

訳：…お前どこか遊びに行きたいところとかない？

B：んー、なもねぁな。おらもどもどそんでぁに外さ出はってあすぶにあぐ人ﾝでねぁがったもの。

訳：うーん、何もないね。私は元々そんなに外に出て遊びに歩く人ではなかったからね。

A：んー、…んだやな。めぁﾝだば働であったづぎがらんであったな。大型連休あったたって

訳：うーん、…そうだよね。お前は働いていた時からそうだったね。大型連休があったとしても

どごさも行がねぁﾝで家[え]ﾝでいるばーりﾝであったっけ。うﾝーん、せばなんとすがな。

どこへも行かないで家にいるばっかりだったっけ。うーん、じゃあどうしようかな。

よそのとしょりがだなのままんで退職せば旅行さ行ったりなんだりしてるもんだﾝども

よそのお年寄りたちなどは皆一様に退職すると旅行に行ったりなんだりしているものだけど

…他になんだごどしてだあんだべ？

…他にどんなことをしているんだろう？

B：んー、よそのとしょりがだげぁ？…ゲートボールどが趣味見つけではじめる人もいれば、

訳：うーん、よそのお年寄りたちかい？…ゲートボールとか趣味を見つけて始める人もいれば、

犬どがどごあづがって子供みでぁにめんけか゚ってだ人もいだやな。

犬とかを飼って子供であるかのように可愛がっている人もいるよね。

A：あい、犬げぁ？んー…いあんでねぁが？

訳：あら、犬かい？うーん…いいんじゃない？

B：えー？

訳：んー？

A：犬あづがうなﾝだばいあんでねぁがって。

訳：犬を飼うのはいいんじゃないかって言ったんだ。

B：…なに、おれさ犬あづがえってげぁ？なして？

訳：…え、私に犬を飼えというのかい？どうして？

A：なしてって、めぁ昔がら犬どごﾝだば好ぎﾝであったねぁ。子供の時分もあづがってあった

訳：どうしてって、お前は昔から犬は(=をば)好きだったじゃない。子供の頃も飼っていた

あんだべ？犬どごﾝだば。

んだろう？犬は(=をば)。

B：んー？えー。そえﾝだば、まずな。…だﾝどもなー。

訳：うん？ええ。それは、まぁね。…だけどねぇ。

A：…なに、としょって犬どご嫌いなった？

訳：…なんだい、年老いて犬が嫌いになった？

B：なも、んでねぁー。犬どごﾝだば今ﾝでも好ぎﾝだー。

訳：いや、そうではないよ。犬は(=をば)今でも好きだよ。

A：あい、せばなに迷ってだ？としょって犬の世話するなこえぁしてんたどってが？

訳：あら、じゃあなにを迷っている？年老いて犬の世話をするのが疲れるから嫌だと思ってか？

B：んー、…そえもあるﾝどもよー、んだﾝどもそえより、犬どごあづがったたってどーせ

訳：うーん、…それもあるけどよぉ、だけどそれより、犬を飼ったところでどうせ

まだおれより先にあっちのゆさ行ぐあんだべ？そえﾝだばんたなーどもって。…なぼー

また私より先にあっちの世(=あの世)に行くんだろう？それは嫌だねぇと思って。…いくら

犬どご大事ﾝだどもっていだわしか゚ったたって犬の寿命なの十年より先なればすんま

犬を大事だと思って大切にしたとしても犬の寿命など十年より先(=以上)になるとあっという間に

死ぬねぁは。そんだあじあどんたあんだ。

死ぬじゃないか。そんなのはもう嫌なんだ。

A：あい、めぁもまだ難し人ﾝだごど。うﾝ―、犬どごあづがうなもんたってば、せば盆栽ﾝでも

訳：もう、お前って人は難しい人だなぁ。うーん、犬を飼うのも嫌だとなると、じゃあ盆栽でも

やってみるが？めぁたしか盆栽好ぎﾝであったべ？

やってみようか？お前はたしか盆栽が好きだっただろう？

B：んー、盆栽げぁ？…たしかに盆栽見るなﾝだば好ぎﾝだなー。…だﾝども見るな好ぎﾝだ

訳：うーん、盆栽かい？…確かに盆栽を見るのは好きだねぇ。…だけども見るのが好きな

なﾝであって、別に自分でやってみでぁどﾝだば思わねぁな。

のであって、別に自分でやってみたいとは思わないね。

A：あいー、なんーだでめぁもまだ難しごどばりゆーねぁが。せばめぁ結局なにやりでぁな？

訳：あらもう、まったくもうお前って人は難しいことばかり言うじゃないか。じゃあお前は結局何がやりたいの？

せっかぐこー退職金もいっぺぁあるあじ、酒飲むに使うばりﾝで勿体ぁねぁねぁが。

せっかくこう退職金もいっぱいあるのに、酒を飲むのに使うばかりで勿体ないじゃないか。

B：勿体ぁねぁって、別にいねぁが。使わねぁば使わねぁたって。これがら病気したり

訳：勿体ないって、別にいいじゃないか。使わなければ使わないとしても[=使わなくても]。これから病気をしたり

なんだりせばそんだ銭[じぇん]すんまねぁぐなるべせぁ。…それさめぁさきたがら

なんだりするとそんなお金はあっという間になくなるだろうに。…それにお前はさっきから

その銭っこ自分のなみでぁにゆーﾝども、そえﾝだばめぁのなﾝでねぁあんだや？

そのお金が自分の物であるかのように言うけれど、それはお前の物ではないんだよ？

A：あい、なにそのしゃべがだ。せばなに、「こえﾝだばおれのなﾝだがらめぁさﾝだば

訳：まぁ、なにその話し方。じゃあなに、「これは私の物だからお前には

一銭[いっせん]もやねぁ」どっていーでぁなげぁ？

びた一文もやらない」と言いたいのかい？

B：おや、なも、んでねぁって。さきたがら退職金なんとして使うがばり気にしてだがら

訳：おや、いや、そうではないってば。さっきから退職金をどうやって使うかばかり気にしているから

注意したあんだ。はー、…めぁもほんとに銭持だせればだめﾝだな。めぁさ銭持だせれば、

注意したんだ。はぁ、…お前も本当にお金を持たせるといけないね。お前にお金を持たせると

あればあるﾝだげんな使うどするおな。先長け゚ぁどもうごったら無理に使うどさねぁﾝで

あればある分だけ全部使おうとするものね。先が長いと思うなら無理に使おうとしないで

とっておげばいあじ。はー…(ほんとにおれどこれどﾝだば昔がら性格なんも似ねぁやな。

とっておけばいいのに。はぁ…(本当に私とこいつとは昔から性格がぜんぜん似ていないよね。

よぐ今まﾝでやってぐにいがったもんだごど。)

よく今までやっていくことができたものだなぁ。)

しめぁに

　以上で今回の秋田弁講座はおしまい。

　ではまた来週。へばまず。

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