新編秋田弁講座文法篇第35課：格助詞③

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文法篇第35課：格助詞③

　みなさんこんばんは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回はひさしぶりにアイヌ語と秋田弁に絡むコラム書いてなんか疲れました。

　ということでさっさと本題に入ります。

　今回は秋田方言の格助詞の第3回目です。

　格助詞については次で最後の予定ですので、

　頑張ってください。

　秋田弁会話例文はいつもの通り最後の方に標準語対訳を附して

　載せてありますので、参考にどうぞ。

　では、講座開始です。

文法

１．秋田弁の格助詞一覧

　何度もしつこいが、学習の便宜を図るため、秋田弁と標準語の格助詞の対応表を以下に示す。今回はこのうち⑥～⑨について補足する。

	秋田弁	標準語	秋田弁の例文	標準語の例文
①	か゚	が	俺か゚やった。	私がやった。
②	の	の	俺の兄さん。	私の兄。
③	どご	を	人どご殴る。	人を殴る。
④	に	に	日本に住む。	日本に住む。
⑤	さ	へ	秋田さ行ぐ	秋田へ行く。
⑥	ﾝで	で	学校ﾝで勉強する。	学校で勉強する。
⑥	ﾝで	で	図書館で勉強する。	図書館で勉強する。
⑦	ど	と	あれど一緒に行ぐ。	彼と一緒に行く。
⑧	がら	から	これがらなんとする？	これからどうする？
⑨	より	より	俺より大っき。	私より大きい。

２．秋田弁の格助詞の独自用法③

⑥「(ﾝ)で」…「～にいる」「～にある」「～に住む」という表現の「に」には、「(ﾝ)で」を使うこともよくある。

	秋田弁	標準語
例文①	秋田ﾝで住む。	秋田に住む。
例文②	机の上ﾝである。	机の上にある。
例文③	どごﾝでいる？	どこにいる？

⑦「ど」

(A)「～となる」のうち、「～になる」と同じ意味で使えるものについては、前に習った「～になる」の項を参照されたい。

(B)「～となる」のうち、「『引用語』となる」という文脈のものについては、

「～[引用語]となる」→「～ってなる」となる。

秋田弁

標準語

例文①

「～となる」ﾝだば、秋田弁でﾝだば

「～ってなる」ってなる。

「～となる」は、秋田弁では

「～ってなる」となる。

例文②

そーなればんな「おらあど知らねぁ！」

ってなるべ？

そうなるとみんな「私もう知らない！」

となるだろう？

⑧「がら」

「がら」は、「(人)がら」と言う時は、稀に「(人)どっから」と言うことがある(稀なので無理に使わなくてもよい)。

	秋田弁	標準語
例文①	あれどっから本借りだ。	彼から本を借りた。
例文②	父さんどっから銭っこもらった。	父さんからお金もらった。

説明

・なお、動物の例は聞いたことがないので例示しないが、「どご」や「どさ」が人や動物の時に使うのと対応しているので、「どっから」も「動物から」の場合にも使えると思われる。

３．秋田弁独自の格助詞「にかって」

　秋田弁には、標準語にはない助詞「にかって」がある。

①受動「Aに～される」の「に」として使われる。

	秋田弁	標準語
例文①	犬にかって噛まれる。	犬に噛まれる。
例文②	子供にかって笑われる。	子供に笑われる。

②原因「Aのために」「Aのせいで」の意味を表す秋田弁独自の表現。

	秋田弁	標準語
例文①	お前ぁの父さんにかって涙出るな。	お前の父さんのせいで涙が出るね。
例文②	車の音にかって寝られねぁ。	車の音のために寝られない。
例文③	道雪にかって埋まってる。	道が雪のせいで埋まっている。

補足：「にかって」は、「に」を省いて「かって」とも言う。むしろ省くことの方が多い。

	秋田弁	標準語
例文①	お前ぁの父さんかって涙出るな。	お前の父さんのせいで涙が出るね。
例文②	車の音かって寝られねぁ。	車の音のために寝られない。
例文③	道雪かって埋まってる。	道が雪のせいで埋まっている。

注意

１．どういうわけか、「～かってﾝだば」「～かっても」のように、後ろに「だば」や「も」といった助詞を付ける例は聞かない。恐らく単独でしか使えないのだろう。

２．後ろに「ﾝだば」や「も」を付けたい時は別の表現を使うしかない。たとえば受身の「(に)かって」なら代わりに「に」を使って「にﾝだば」「にも」を使えばいい。

例①：「にも」：子供にも助けられた。→子供にも助けられだ。

例②：「には」：犬には吠えられたくない。→犬にﾝだば吠えられだ。

例③：「になら」：あなたになら見られてもいい。→あﾝだにﾝだば見られでもい。

会話

A：あいーおっかねぁ。

訳：あらぁ怖い。

B：…かー、なにしたな急に。なにおっかねぁどって騒んでだは？

訳：…母さん、どうしたの急に。何が怖いと騒いでいる？

A：あい、なも、今テレビﾝで風にかって家[え]飛ばされだな見だがらせぁ、それ見で

訳：あら、いや、今テレビで風に家が飛ばされているのを見たからさぁ、それを見て

おっかねぁどもったあんだ。

怖いと思ったんだ。

B：風かって家[え]飛ばさえるって…あー、九州の方さ来た台風げぁ？

訳：風に家が飛ばされるって…ああ、九州の方に来た台風かい？

A：んだー。…しかしよぐ風にかって家たががえるもんだごど。こえﾝだばあど台風って

訳：そうだよ。…それにしてもよく風に家が持ち上げられるものだなぁ。これはもう台風と

ゆーより竜巻みでぁんだもんだべ。

言うより竜巻のようなものだろう。

B：んー、んだなー。竜巻にﾝだば家たががえるごどもあるべものな。…ちゅってもこえﾝだば

訳：うん、そうだねぇ。竜巻には家が持ち上げられることもあるだろうからね。…とはいえこれは

台風ﾝだあんだﾝどもな。

台風なんだけどね。

A：んだーがらしてー。竜巻かって家たががえるなﾝだばわがるたって、…家って台風の風にも

訳：まったくだよ。竜巻に家が持ち上げられるのならばわかるけれど、…家というのは台風の風にも

たががえるごどあるあんだな。はじめで見だは。台風の風かって家たががえるどご。

持ち上げられることがあるんだね。はじめて見たや。台風の風に家が持ち上げられるところ。

…めぁ見だごどある？

お前は見たことある？

B：なも、ねぁー、そんだおがしけﾝだどご。…こえも温暖化のせーﾝだあんだがも

訳：いや、(見たことが)ないよ、そんなおかしなところは。…これも温暖化のせいなのかも

しえねぁな。最近だば温暖化かって台風もおが強[つ]れぐなってきたでものはー、

しれないね。最近は温暖化のせいで台風も酷く強くなってきたというからね、

こえがらこんだえんだおが強え台風もいげぁ出はってくるなﾝだがもしえねぁな。

これからこのような酷く強い台風も多く出て来るのかもしれないね。

A：あい、ほんとにげぁ？…秋田ﾝでいれば台風なのそー来るもんでねぁえんた気ー

訳：あら、本当にかい？…秋田にいると台風などそう来るものではないような気が

するﾝどもな。

するけどね。

B：えー、そえﾝだばまずな。こﾝで住んでればなー、台風きたたってほどんと山脈かって

訳：ええ、それはまぁね。ここに住んでいるとねぇ、台風が来たとしてもほとんど山脈のせいで

横さそえでけるもの。台風くるったたってじんじょまだ他所[よそ]さそえるべどっておが

横にそれてくれるからね。台風が来ると言ったとしても(=言っても)きっとまた他所にそれるだろうとあまり

心配なねぁなやな。…んだﾝども日本海がらそのままこっちゃくる台風ﾝだばたいした

心配にならないんだよね。…けれど日本海からそのままこっちへ来る台風はとても

おっかねぁや？山脈かってそれるでごどもねぁし、弱[よ]ゑぁぐなるでごどもねぁもの。

怖いよ？山脈のためにそれるということもないし、弱くなるということもないからね。

A：あー、台風って、上陸せば弱ゑぁぐなって、海のゆえさ出はれば強れぐなるおな。

訳：ああ、台風というのは、上陸すれば弱くなって、海の上に出れば強くなるものね。

B：んだ。んだがら南の方がら上陸してこっちゃくる台風かって大っき被害出るでごどﾝだば

訳：そうだ。だから南の方から上陸してこっちへ来る台風のために大きい被害が出るということは

そーねぁったたって、海がらきた台風こっちゃそのままこえば、たいした被害なる

そうないけれども、海から来た台風がこっちへそのまま来れば、たいした被害となる

なやな。ほんとに、海がらくる台風ﾝだばおっかねぁしてやぢゃねぁー。

んだよね。本当に、海から来る台風は怖くて駄目だよ。

A：んー、んだな。…しかし、この台風、こえがら東の方さ行って日本どご横断する

訳：うん、そうだね。…それにしても、この台風、これから東の方へ行って日本を横断する

みでぁんた動作するえんだな。太郎大丈夫ﾝだべが？

かのような動きをするようだね。太郎は大丈夫だろうか？

B：んー、なんとﾝだべなー。おえも心配ぁなってあれどさ電話かげでみだﾝども、あれ

訳：うーん、どうだろうねぇ。私も心配になって彼に電話をかけてみたけれども、彼

どっからﾝだばなんも連絡こねぁでぁは。

からはなにも連絡が来ないよ。

A：んー、んだべな。普段がらしてあれどっから連絡くるでごどまずねぁもの。台風近づだ

訳：うん、そうだろうね。普段からして彼から連絡が来るということはまずないからね。台風が近づいた

たってあえﾝだばわんざに電話してけだりさねぁべな、そえﾝだば。

としても彼はわざわざ電話してくれたりしないだろうね、それは。

B：うﾝーん、まずな。…んだﾝどもせぁ、せめで無事ﾝでいだがいねぁがぐれぁ連絡して

訳：うーん、まぁね。…けれどもさぁ、せめて無事でいるかどうかくらい連絡して

ければいどもわねぁが？あえﾝだば気にさねぁべたって、おらがだ心配ぁなるねぁが。

くれればいいと思わないか？彼は気にしないだろうけど、私たちが心配になるじゃないか。

こーなんも音沙汰ねぁば。

こう何も音沙汰がなければ。

A：んー、んだなー。…まず、「たよりのないのはよいしらせ」だどって昔がらゆーもの。

訳：うん、そうだねぇ。…まぁ、「便りのないのはよい報せ」と昔から言うからね。

連絡ねぁってば(=ってなれば)無事ﾝだあんだべ。

連絡がないとなれば無事なんだろう。

B：おや、めぁもまだそんだ適当ﾝだごどゆって…。普通連絡つがねぁってば(=ってなれば)なにがあった

訳：おや、お前って奴はそんな適当なことを言って…。普通連絡がつかないとなればなにかあった

どもって心配ぁするもんだべー？

と思って心配するものだろう？

A：普段がらあれどっから連絡きてればんだべな。…んだﾝども普段なんも連絡よごさねぁ

訳：普段から彼から連絡が来ていればそうだろうね。…だけど普段何も連絡を寄こさない

人どっから連絡こば、かえってなにがあったあんでねぁがどって心配ぁなるべせぁ。

人から連絡が来れば、かえって何かあったんじゃないかと心配になるだろうに。

B：んー、そーゆわえればたしかに、んだえんだ気するな。

訳：うーん、そう言われると確かに、そうであるような気がするね。

A：んだべー？まずあれがらなんも連絡こねぁごったら大丈夫ﾝだどもっていーど思えは。

訳：そうだろう？とにかく彼から何も連絡が来ないなら大丈夫だと思っていいと思いなさいな。

んでねぁがらこっち気ーつかってばりﾝでやめぁなるべぉん。

そうでなければこっちが気をつかってばかりで気が滅入るだろうさ。

B：んー、まず、んだがもしえねぁな。よし、わがった。せばまずあれどごﾝだばおが

訳：うん、まぁ、そうかもしれないね。よし、わかった。じゃあまぁ彼はあまり

心配さねぁえにすらな。

心配しないようにしよう。

A：んだ。そのごどするべ。こー遠[と]ぎどﾝでいで心配ぁばりしたたってなもなねぁもの。

訳：そうだ。そのようにしよう。こう遠いところにいて心配ばかりしたところで何にもならないからね。

いずれおれがだでぎるごどってば、たんだに無事祈るごどぐれぁﾝだあんだ。そーする

いずれにせよ私たちができることと言えば、ただ無事を祈ることくらいなんだ。そうする

他ねぁあんだ、遠ぎどﾝでいる人のごどﾝだば。

しかないんだ、遠いところにいる人のことは。

しめぁに

　以上で今回の秋田方言講座はおしまい。

　ではまた来週！へばな！あー…こえぁでぁは[疲れたよ]。

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