新編秋田弁講座文法篇第34課：格助詞②

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文法篇第34課：格助詞②

　こんばんは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回は秋田弁講座の第34回目。

　格助詞の2回目とも言えます。

　格助詞は数が多いので

　合計4回にわたってやっていきます。

　ともあれ、今回の秋田方言講座を進めていきましょう。

　なお、秋田弁の会話例文はいつも通り末尾の方にあります。

　力試しにご活用ください。

　では、今回の秋田弁講座をどうぞ。

文法

１．秋田弁の格助詞一覧

　前回も示したが、今回再度格助詞対応表を示すおく。今回はこのうち、④～⑨について補足する。

	秋田弁	標準語	秋田弁の例文	標準語の例文
①	か゚	が	俺か゚やった。	私がやった。
②	の	の	俺の兄さん。	私の兄。
③	どご	を	人どご殴る。	人を殴る。
④	に	に	日本に住む。	日本に住む。
⑤	さ	へ	秋田さ行ぐ	秋田へ行く。
⑥	ﾝで	で	学校ﾝで勉強する。	学校で勉強する。
⑥	ﾝで	で	図書館で勉強する。	図書館で勉強する。
⑦	ど	と	あれど一緒に行ぐ。	彼と一緒に行く。
⑧	がら	から	これがらなんとする？	これからどうする？
⑨	より	より	俺より大っき。	私より大きい。

２．秋田弁の格助詞の独自用法②

④「に」

Ⅰ：例外的に、「～になる」という表現では、普通「に」を省く。

	秋田弁	標準語
例文①	父親なる。	父親になる。
例文②	神さんなりでぁ。	神様になりたい。
例文③	めぁまﾝだ三十[さんじゅー]ならねぁ？	君まだ三十歳にならないの？

補足：形容動詞や形容動詞型の活用をする助動詞の連用形「-に＋なる」でも、「に」は普通省略される。

	秋田弁	標準語
例文①	勉強するえなった。	勉強するようになった。
例文②	大分静がなったな。	大分静かになったね。
例文③	顔鬼みでぁなった。	顔が鬼のようになった。

注意

・但し、「～にはならない」「～にもなる」のように、「に」と「なる」の間にほかの言葉が入る場合は、「に」を省けない。

	秋田弁	標準語
例文①	俺ﾝだばん前ぁみでぁにﾝだばならねぁ。	私はお前のようにはならない。
例文②	毒にも薬にもなる。	毒にも薬にもなる。

注意：(年齢に)なる

　補遺で詳しく習うが、秋田弁では１～１０歳は単に数え言葉で「ひとっつ[一歳]」「ふたっつ[二歳]」…「とー[十歳]」のように言い、それ以降の年齢は漢数字で「じゅーいぢ[十一歳]」「にじゅー[ニ十歳]…「きゅーじゅーきゅー[九十九歳]、「百[百歳]のように言う。

　そして「年齢になる」は「年齢表現＋なる」で表現し、「に」を用いないのが普通である。

	秋田弁	標準語
例文①	おれ今年ﾝで百なる。	私は今年で百歳になる。
例文②	あれなんぼなった？やっつなった？	彼はいくつになった？八歳になった？
例文③	めぁまﾝだ三十ならねぁ？	君まだ三十歳にならないの？

　そしてこの「年齢表現＋なる」の場合は、そもそも「に」を省略しているというより最初から「に」を使わない表現であるようで、上記の「にも」「には」に当たる文脈でも「に」を使わない方が秋田弁的である。

秋田弁

標準語

例文

あれあど四十なったっけが？

四十ﾝだばまﾝだならねぁー。

三十もならねぁべ、あれﾝだば。

彼はもう四十歳になったっけっか？

四十歳にはまだならないよ。

三十歳にもならないだろう、彼は。

Ⅱ：「勉強しに行く」「お前を誘いに来た」のような、動作の目的を表す「動詞型用言の連用形＋に」の構文は、秋田弁では「動詞型用言の連体形＋に」となる。

	秋田弁	標準語
例①：五段	お前ぁどご誘うに来た。	お前を誘いに来た。
例②：上一段	映画見るに行った。	映画を見に行った。
例③：下一段	家の窓開げるに二階[にげ]ぁさ行った。	家の窓を開けに二階に行った。
例④：サ変	勉強するに行ぐ。	勉強しに行く。
例④：助動詞	殺されるに来たえんだもんだ。	殺されにきたようなものだ。

説明

１．ご覧の通り、連用形ではなく、動詞型用言の連体形に接続している。

２．なお、カ変「来る」は意味上ありえないので例示しない。

⑤「さ」…「さ」は、実は以下の文脈でも多用される。

Ⅰ：動詞の対象を表す「～に」。→普通「さ」を使う。

	秋田弁	標準語
例文①	服さ虫付ぐ。	服に虫が付く。
例文②	子供さ英語教[おへ]る。	子供に英語を教える。

Ⅱ：場所を表す「～に」。→普通「さ」を使う。

	秋田弁	標準語
例文①	秋田さ住む。	秋田に住む。
例文②	机の上さある。	机の上にある。
例文③	どごさいる？	どこにいる？

補足：「さ」は、「(人や動物)さ」という時、「どさ」を用いることもよくある。人や動物限定なのは、「を」を意味する「どご」関係の説明でもう慣れただろう。

	秋田弁	標準語
例文①	子供どさ英語教る。	子供に英語を教える。
例文②	犬どさ餌やった。	犬に餌をやった。

会話

A：かー、おらがだの孫今年ﾝでなんぼなるっけが？

訳：母さん、私たちの孫は今年でいくつになるっけっか？

B：あい、なにした、とーさん。急にそんだ話して。

訳：あら、どうした、父さん。急にそんな話をして。

A：んー？なもよー、あの子そろそろ誕生日ﾝだべー？毎年あの子どさ贈り物けでやって

訳：うん？いやよぉ、あの子そろそろ誕生日だろう？毎年あの子に贈り物をくれてやって

あったﾝども、なんだがずっとちっちぇぁ子供どさけるえんだなばり送ってよごして

いたけれども、なんだかずっと小さい子供にくれるようなのばかり送って寄こして

あった気ーしてせぁ…孫もえっちに大っきぐなってだあんでねぁべがなーどもって。

いた気がしてさぁ…孫もとっくに大きくなっているんじゃないだろうかなぁと思って。

…今年ﾝでなんぼなるあんだ？

…今年でいくつになるんだ？

B：んー、…今年ﾝで十二[じゅーに]なるあんでねぁがったっけが？

訳：うーん、…今年で十二歳になるんじゃなかったっけっか？

A：おや、なんと、あどそんだ歳[とし]なってだってげぁ？…さっさっ、せば今まﾝでの贈り物ﾝだば

訳：おや、おやおや、もうそんな歳になっていたというのかい？…失敗したなぁ、じゃあ今までの贈り物は

いぐねぁがったがもしえねぁな。

よくなかったかもしれないね。

B：あい、なして？あの子さなに送ってよごしてけであったあんだ？

訳：あら、どうして？あの子になにを送って寄こしてくれていたんだ？

A：んー、…ぬいく゚るみどがおもぢゃどが、そえんたなばーり送ってあった。さっさっ。

訳：うーん、…ぬいぐるみとかおもちゃとか、そのようなのばっかり送っていた。失敗したなぁ。

B：あいーしかだねぁごど。めぁ今まﾝでずっとそえんたなばり送ってよごしてあった

訳：まったくもう。お前は今までずっとそのようなのばかりを送って寄こしていた

ってげぁ？…そえﾝだば少しおがﾝでねぁが？なんぼなんだたって、十[とー]より先なる

というのかい？…それは少し酷過ぎではないか？いくらなんでも、十歳以上になる

子さけるもんでねぁべ、そえﾝだば。

子にくれるものではないだろう、それは。

A：うﾝーん、んだやなー。さっさっ、こえﾝだば毎年呆えらえであったがもしえねぁ。

訳：うーん、そうだよねぇ。失敗したなぁ、これだと毎年呆れられていたかもしれない。

B：んー、んだがもしえねぁな。

訳：うん、そうかもしれないね。

A：んだﾝどもせぁ、かーさん、同じ家[え]ﾝで住んでねぁば歳どがってわがらねぁぐなる

訳：だけどもさぁ、母さん、同じ家に住んでいなければ歳とかというのはわからなくなる

もんだべ？ずっと遠[と]ぎどﾝでいでめったにこっちゃこねぁ子ﾝだもの。こえﾝだば

ものだろう？ずっと遠いところにいて滅多にこっちへ来ない子だからね。これは

しかだねぁごどﾝだあんだ。

仕方がないことなんだ。

B：ん？えー、んだすか？まず、めぁそー思うごったらそえﾝでいったたって。

訳：うん？ええ、そうですか？まぁ、お前がそう思うならそれでいいけれども。

A：…なに、かー、せばんめぁちゃんとあの子欲しか゚るえんだあじ送ってよごしてけで

訳：…なんだい、母さん、じゃあお前はちゃんとあの子が欲しがるようなのを送って寄こしてくれて

あったってげぁ？

いたというのかい？

B：なに、おれげぁ？…んだなー。七っつぐれぁのづぎﾝだばおめぁみでぁに人形どがおもぢゃどが

訳：え、私かい？…そうだねぇ。七歳くらいの時ならばお前のように人形とかおもちゃとかを

けでやってあったﾝども、小学校さ上か゚って友達がだど外さ出はってあすぶにあぐ

くれてやっていたけど、小学校に上がって友達たちと外に出て遊びに歩く

ごどもいげぁなったでもの。八っつ、九っつぐれぁなったづぎってば、あど人形どがﾝ

ことも多くなったというからね。八歳、九歳くらいになった時には、もう人形とか

でねぁぐ、スポーツする道具どが、そえんたな買って送ってよごしてあったな。

ではなく、スポーツをする道具とか、そのようなのを買って送って寄こしていたね。

A：…なっと？

訳：…なんだって？

B：スポーツ用具どが送ってあったって。

訳：スポーツ用具とかを送っていたと言ったんだ。

A：おや…ほんとにげぁ？…はー、せばおればりおがしけﾝだもの送ってよごして、めぁは

訳：おや…本当にかい？…はぁ、じゃあ私だけおかしなものを送って寄こして、お前は

ちゃんとしたもの送ってあったってげぁ？なんーだって、…はー、情げねぁごど。おれ

ちゃんとしたものを送っていたというのかい？まったくもう、…はぁ、情けないなぁ。私は

あの子かってなんだ爺[じじ]ﾝだど思わえでだべが。

あの子にどんな爺さんだと思われているだろうか。

B：んー、んだなー。いづんまﾝでも自分どごちっちぇぁ子供ﾝだど勘違いしてだ爺[じじ]ﾝだ

訳：うーん、そうだねぇ。いつまでも自分を小さい子供だと勘違いしている爺さんだ

どもってだあんでねぁが？

と思っているんじゃないか？

A：…んだやな。毎年十より先なる子さおもぢゃなの送る爺[じじ]なの、たんだに要らねぁ

訳：…そうだよね。毎年十歳以上になる子におもちゃだの送る爺さんなど、ただただ要らない

もの送ってよごすおがしけﾝだとしょりﾝだやな。…はー、情けねぁ。こんど謝るに

ものを送って寄こすおかしなお年寄りだよね。…はぁ、情けない。今度謝りに

行ぐがは。

行こうか。

B：あい、ばがっけ。だれわんざに遠ぎどごまﾝで行ってそんだごどするに行ぐもんだって？

訳：もう、馬鹿。誰がわざわざ遠いところまで行ってそんなことをしに行くものだというの？

あまりはんかくせぁごどさねぁﾝでけれでぁ。

あまり馬鹿臭いことをしないでくれよ。

A：はー、んだたってせぁ、考えでみれ？あど十[とー]もなる子供どさおもぢゃなの

訳：はぁ、だけどさぁ、考えてみろ？もう十歳にもなる子供におもちゃだの

ぬいく゚るみなの送ってよごしたたって要らねぁべしゃ？毎年そんだなばりよごす人

ぬいぐりみだのを送って寄こしたとしても要らないだろう？毎年そんなのばかり寄こす人

なの、迷惑ﾝだばりﾝでなんもありか゚でぁぐねぁべー？

など、迷惑なだけでなにもありがたくないだろう？

B：ん？えー、そえﾝだばー、…まずな。

訳：うん？ええ、それはー、…まぁね。

A：んだべー？毎年ゴミ送ってよごすじーさんだどもわえでればおれもんたでぁは。たまに

訳：そうだろう？毎年ゴミを送って寄こす爺さんだと思われていれば私も嫌だよ。たまに

こっちがら会うに行って、なんだな欲しか゚ってるが見るに行がねぁば。…もしかしぇば

こっちから会いに行って、どんなのを欲しがっているかを見に行かないと。…もしかすると

おめぁ送ったあじもほんとﾝだばなんも使わえでねぁがもしえねぁや？んでもい

お前が送ったやつも本当はぜんぜん使われていないかもしれないよ？そうでもいい

あんだが？

のか？

B：あい、そえﾝだばたしかにんたたって。

訳：あら、それは確かに嫌だけれども。

A：んだべー？おめぁもおれみでぁなるなんたごったらおらど一緒にあべ。二人して

訳：そうだろう？お前も私のようになるのが嫌であるなら私と一緒に行こう。二人で

あれがだの家さ行って、孫なんだごどするえなったが、なんだな欲しか゚るえなったが

あいつらの家に行って、孫がどんなことをするようになったか、どんなのを欲しがるようになったかを

聞ぐに行ぐべ。

聞きに行こう。

B：んー、おれがだみでぁんたとしょり二人して行っても邪魔なるばりﾝでねぁが？

訳：うーん、私たちのようなお年寄りが二人で行っても邪魔になるだけではないか？

A：なも、邪魔になのならねぁー。なして邪魔なるでごどあるって？賑やがにﾝだばなるべ

訳：いや、邪魔になどならないよ。どうして邪魔になるということがあるというのだ？賑やかにはなるだろう

たって。おらがだ人さ手数かげるﾝだげよぼよぼでぁぐねぁべー？

けれど、私たちは人に手数をかけるほどよぼよぼではないだろう？

B：あい、なも、そーゆーごどゆってだあんでねぁして…としょり二人して行ったたって

訳：あら、いや、そういうことを言っているんじゃなくて…年寄りが二人で行ったとしても

あの子がだ気ーつかうばりﾝでおもしぇぐねぁあんでねぁがなーどもって。…ほら、

あの子たちは気をつかうだけで面白くないんじゃないかなぁと思って。…ほら、

おらがだどあの子がだどﾝだば生ぎできた時代違うべ？会うに行ったたってなんも

私たちとあの子たちとでは生きて来た時代が違うだろう？会いに行ったとしてもぜんぜん

話っこ合わねぁして迷惑なるばりﾝだあんでねぁがなーどもってゆってるなﾝだ。

話が合わなくて迷惑になるだけなんじゃないかなぁと思って言っているのだ。

A：おや、んめぁもまだ心配性ﾝだごど。そんだごどいってればとしょりはとしょりどより、

訳：おや、お前って奴は心配性だなぁ。そんなことを言っていればお年寄りはお年寄りとしか、

子供は子供どよりなんもものしゃべらえねぁぐなるべしゃ。…まずそんだごどゆって

子供は子供としかなにもものを喋られなくなるだろうに。…とにかくそんなことを言って

ねぁﾝではえぁぐ電話してあすぶに行ぐしゃべさねぁば。もちゃもちゃってれば誕生日に

いないで早く電話して遊びに行くという話をしないと。もたもたしていると誕生日に

間に合わねぁべぉん。

間に合わないだろうが。

B：あい、めぁﾝだばほんとに強引だ人ﾝだごど。…まずわがった。おらがだ行げば賑やが

訳：もう、お前は本当に強引な人だなぁ。…まぁわかった。私たちが行けば賑やかに

なるどもって行ってみるな？

なると思って行ってみるね？

A：んだ。そー考えでやってがねぁばだめよ。家族ﾝだもの。おが気ーつかってなんももの

訳：そうだ。そう考えてやっていかなければ駄目だよ。家族だからね。酷く気をつかってなにもものを

しゃべねぁﾝでれば、ほんとによその人みでぁなって、会うに来るたんびに他人行儀なる

喋らないでいると、本当によその人のようになって、会いに来る度に他人行儀になる

ばりﾝだー。そんだえんだ家族なりでぁぐねぁべ？

だけだよ。そのような家族になりたくないだろう？

B：…んだやな。たまに強引にﾝでもつらっこ見るに行がねぁばだめﾝだやな。孫がだなの、

訳：…そうだよね。たまに強引にでも顔を見に行かなければいけないよね。孫たちなどは

こえがら中学校、高校って上か゚ってげばだんだんに気ーつかうえなるおんな。ちゃんと

これから中学校、高校と上がっていけばだんだん気をつかうようになるものね。ちゃんと

普段がら会うえにさねぁば。…家族ﾝだつったたって、結局つらっこ見ねぁぐなれば

普段から会うようにしないと。…家族だと言ったところで(=言っても)、結局顔を見なくなれば

他人みでぁなるもんだなやな、悲したって。

他人のようになるものなんだよね、悲しいけれど。

しめぁに

　以上にて今回の勉強も終了。

　ではまた来週。へばまず。

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