新編秋田弁講座文法篇第39課：格助詞と副助詞

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文法篇第39課：格助詞と副助詞

　みなさんこんばんは。

　二週間ぶりです。

　齶田浦蝦夷です。

　件のウェブツールもまた使えるようになったようなので、

　今週からまたuｐしていきます。

　ということで久しぶりの秋田弁講座始めます。

　構成はいつも通り。

　ではどうぞ。

文法

１．格助詞と副助詞の併用

　標準語で「お前＋に＋も＋やる。」「お前＋に＋は＋やらない。」と表現できるように、秋田弁でも格助詞の後ろに副助詞を使うことが可能である。

	秋田弁	標準語
例文１	お前ぁどさもやる。	お前にもやろう。
例文２	お前ぁどさﾝだばやらねぁ。	お前にはやらない。

説明

・まぁ要は標準語と同じように使えるということ。以下の例外以外は気にしなくていい。

(Ａ)「～を」に相当する格助詞「どご」に関わる表現

①「～[動作の対象]も」→「～どごも」。但し、人か動物の時限定。

	秋田弁	標準語
例文１	子供どごもつでぐべ。	子供も連れて行こう。
例文２	犬どごも猫どごも飼うべせぁ。	犬も猫も飼おう。

②「～[動作の対象]は」→「～どごﾝだば」。但し、人か動物の時限定。

秋田弁

標準語

例文１

子供どごﾝだばつでがれねぁ。

子供は連れて行けない。

例文２

犬どごﾝだば飼いでぁたって、

猫どごﾝだば飼いでぁぐねぁ。

犬は飼いたいが、

猫は飼いたくない。

説明

１．(A)で挙げたのは「～を＋も」「～を＋は」に当たる表現である。標準語の古い形式であれば「をも」「をば」と表現したであろうが、現代標準語としては「を」を省いて単に「も」「は」と言うので、秋田弁との対応関係が分かりにくくなっている。

２．まぁ要するに、秋田弁で「～をも」「～をば」のように表現したければ「～どごも」「～どごﾝだば」のように言う必要があるということである。

３．但し、これは秋田弁の「どご」＋「も」「ﾝだば」なので、「どご」の性質は相変わらず残ることになる。すなわち、「人を」「動物を」という文脈でしか使えない点は不変である。

(Ｂ)「～が[対象]」に相当する格助詞「どご」に関わる表現(感情的な評価の対象)

①「～[感情的な評価の対象]も」→「～どごも」。但し人か動物限定。

	秋田弁	標準語
例文１	子供どごも好ぎﾝだ。	子供も好きだ。
例文２	犬どごも猫どごも俺ﾝだば好ぎﾝだ。	犬も猫も私は好きだ。

②「～[感情的な評価の対象]は」→「～どごﾝだば」。但し人か動物限定。

秋田弁

標準語

例文１

子供どごﾝだば俺ﾝだば好ぎﾝでねぁ。

子供は私は好きではない。

例文２

犬どごﾝだば好ぎﾝだたって、

猫どごﾝだば俺ﾝだば嫌いﾝだ。

犬は好きだが、

猫は私は嫌いだ。

説明

１．相変わらず分かり辛いが、これは標準語の「～が好きだ」という文型に、「も」「は」が用いられた文型である。冷静に考えれば「が＋も」「が＋は」で「～がも好きだ。」「～がは好きだ。」となるはずだが、標準語では「が」を省いて代わりに「も」「は」を用いる。

２．それに対して秋田弁は、「～どご好ぎﾝだ」という文型に、「も」「が」を添えたい場合、そのまま「～どごも好ぎﾝだ」「～どごﾝだば好ぎﾝだ」のように言うのである。つまり標準語と違い、「が」に相当する「どご」を省かない。この違いが対訳をややこしくしている。

３．なお、こちらもあくまで「どご」を用いた表現に「も」や「ﾝだば」を付け加えただけの表現なので、「どご」の指す対象は人か動物でなければならない。

４．なお、そもそも感情的な動作の対象「～どご好ぎﾝだ。」の文型を忘れたという方は、第33課を参照されたい。

補足：「格助詞＋しか…ない」→「格助詞＋しか…ねぁ」又は「格助詞＋より…ねぁ」。

	秋田弁	標準語
例文１	これﾝだば秋田ﾝでしか売ってねぁ。	これは秋田でしか売ってない。
例文２	これﾝだば秋田ﾝでより売ってねぁ。	これは秋田でしか売ってない。
例文３	こんだごど、前ぁどさしか頼まれねぁ。	こんなこと、お前にしか頼めない。
例文４	こんだごど、前ぁどさより頼まれねぁ。	こんなこと、お前にしか頼めない。

説明

１．標準語の「～しか…ない」は原則「～より…ねぁ」。だが「～」が格助詞の時は、「～しか…ねぁ」がよく聞かれる。原則通りの「～より…ねぁ」も聞くので、結局はどちらを使ってもよいということにある。

２．なお、本来なら「しか」は秋田弁では使わず、代わりに「より」を用いるので、「しか」の方は標準語からの借用かもしれない。そういう意味では本テキストから排除したかったが、古老の会話でも普通に使われるので、もう定着したものとして例外的に採用した。

２．秋田弁の、主題「～とは」「～というのは」

　「人生とは/というのは、そんなものだ。」のような、主題を提示する「～とは」「～というのは」「～って」→「～って」と秋田弁では言う。

	秋田弁	標準語
例文１	人生って、そんだものﾝだ。	人生って、そんなものだ。
例文２	生ぎるって、なにﾝだあんだべ？	生きるとは、なんなのだろう？
例文３	マダキ゚って、鉄砲撃ぢのごど。	マタギというのは、鉄砲撃ちのことである。
例文４	よぐたがるって、なんでもものおが欲しか゚るごど。	欲が高るというのは、何でもものを過度に欲しがることである。

説明

１．ご覧の通り、「～とは」「～というのは」は、秋田弁で「～って」という。説明必要なし。

２．例文３・４：語意説明「Aとは、～のことである。」「Aとは、～ということである。」は、それぞれ秋田弁で「Aって、～[名詞]のごど。」「Aって、～[用言連体形]ごど。」と表現する。語意説明の決まった形式については、後で補遺で扱うが、一応覚えておこう。

会話

A：あい、めんけごど。この子みでぁにめんけ生ぎ物他にいるもんだがや？はー、猫って

訳：まぁ、可愛いなぁ。この子ほど可愛い生き物が他にいるものかね？はぁ、猫って

なしてこーめんけべ？

どうしてこう可愛いのだろう？

B：…かー、おめぁさきたがらめんけってよりいわねぁﾝども、なにめんけどってそー騒んでだー？

訳：…母さん、お前はさっきから可愛いとしか言わないけど、なにが可愛いと思ってそう騒いでいる？

A：んー？なも、向げぁねの阿部さんのどごの猫おらえさきたがら一緒なってあすんでだ

訳：うん？いや、向かいの家の阿部さんのところの猫が私の家に来たから一緒になって遊んでいる

あんだﾝどもせぁ、まんずこえか゚めんけな！見れ、この子おれの膝のゆえさなか゚まってだべ？

んだけどさぁ、とにかくこれが可愛いの！見ろ、この子私の膝の上に寝そべっているだろう？

めんけぐねぁ？

可愛くない？

B：んー、…わがらねぁ。おれ別に猫どご好ぎﾝでねぁし、なんとも思わねぁな。

訳：うーん、…わからない。私は別に猫が好きではないし、なんとも思わないね。

A：あい、ほんとにげぁ？こえどご見でもめんけどもわねぁってげぁ？…信じらえねぁごど。

訳：まぁ、本当にかい？これを見ても可愛いと思わないというのかい？…信じられないなぁ。

せばめぁなんた動物ﾝだばめんけど思うなは？

じゃあお前はどんな動物ならば可愛いと思うの？

B：んー、なんた動物ﾝだばったって、おえﾝだば別に犬どごも猫どごも好ぎﾝでねぁがら

訳：うーん、どんな動物ならばと言ったって、私は別に犬も猫も好きではないから

なー、…あっ、美人だおなこ゚どごﾝだばたいした好ぎﾝだや？

ねぇ、…あっ、美人な女性はとても好きだよ？

A：…なっと？

訳：…なんだって？

B：めんけおなこ゚どごﾝだばたいした好ぎﾝだって。

訳：可愛い女性はとても好きだって言ったんだ。

A：あいー、はんかくせぁごど。人なんだ動物ﾝだばめんけどもうが聞でだあじ、だえ

訳：あらもう、馬鹿くさいなぁ。人がどんな動物ならば可愛いと思うかを聞いているのに、誰が

そんだ、「めんけおなこ゚どごﾝだばたいした好ぎﾝだー。」なんてゆーもんだっては？

そんな、「可愛い女性はとても好きだよ。」なんて言うものだというの？

あいーはんかくせぁ。七十[ななじゅー]もなってなしそんだはんかくせぁしゃべすにい

あらもう馬鹿くさい。七十歳にもなってどうしてそんな馬鹿くさい話をすることができる

もんだあんだ？…ほんとに信じらえねぁごど。

ものなんだ？…本当に信じられないなぁ。

B：おや…なも、別におえも本気ﾝでそーゆったあんでねぁあんだや？しなり思いつがねぁ

訳：おや…いや、別に私も本気でそう言ったんじゃないんだよ？すんなり思いつかな

がったがら冗談ゆったあんであって…。

かったから冗談を言ったんであって…。

A：冗談って、ほんとﾝだがや？

訳：冗談って、本当かねぇ？

B：ほんとﾝだー。どごﾝでいでそんたらごど本気ﾝでしゃべるあじいるもんだっては？

訳：本当だよ。どこにそんなことを本気で喋る奴がいるものだというのだ？

…しかしーんめぁもほんとに猫好ぎﾝだごど。そんでぁに好ぎﾝだごったらおええﾝでも

…それにしてもお前も本当に猫が好きだなぁ。そんなに好きであるなら私の家でも

あづがえばいあんでねぁが？犬ﾝだばあづがうによいﾝでねぁべたって、猫ﾝだばあづがう

飼えばいいんじゃないか？犬は飼うのが大変だろうけれども、猫は飼う

たってそー難儀さねぁべせぁ？

としてもそう苦労しないだろう？

A：…とー、急に早口なってなに話そらしてだ？そんでぁにさきたの話続げでれば

訳：…父さん、急に早口になって何を話をそらしている？そんなにさっきの話を続けていると

うまぐねぁがったが？

都合が悪かったか？

B：…かー、おえ悪りがったがらあどその話蒸し返さねぁﾝでけれ。…して結局なんとﾝだ

訳：…母さん、私が悪かったからもうその話を蒸し返さないでくれ。…それで結局どうな

あんだ？猫どごあづがう気さねぁ？

んだ？猫を飼う気にならない？

A：んー、んだなー。…たしかに猫どごﾝだば好ぎﾝだたって、…んでもあづがう気ﾝだば

訳：うーん、そうだねぇ。…たしかに猫は好きだけれども、…でも飼う気には

さねぁなは。

ならないね。

B：おや、なして？犬どごﾝだばあづがうたって散歩ﾝだのなんだのってよいﾝでねぁな

訳：おや、どうして？犬は飼うとしても散歩だのなんだのと大変なのが

わがるﾝども、猫どごもあづがう気さねぁってげぁ？

わかるけど、猫も飼う気にならないというのかい？

A：んー、さねぁな。犬どごも猫どごも、この歳なってあづがうってばな、なにがおらがだ

訳：うん、(飼う気に)ならないね。犬も猫も、この歳になって飼うとなればね、なにか私たちが

病気したりして入院なのせばすんまあづがわえねぁぐなるべ？そーなればあど捨てるが

病気をしたりして入院などすればすぐ飼えなくなるだろう？そうなればもう捨てるか

保健所さつでぐ他ねぁぐなるねぁは。そーゆーごどﾝだばでぎねぁもの。やっぱり

保健所に連れて行くしかなくなるじゃない。そういうことはできないからね。やっぱり

動物どごﾝだばあづがわえねぁ。

動物は飼えない。

B：…んだが？としょって動物あづがう人どごもよぐ見るたってな。まずめぁそえﾝで

訳：…そうか？年老いて動物を飼う人もよく見るけどね。まぁお前がそれで

いごったばおえもそえﾝでいったたって。…ほんとに真面目ﾝだやな、んめぁﾝだば。

いいならば私もそれでいいけれども。…本当に真面目だよね、お前は。

A：…おえそんでぁに真面目ﾝだがや？

訳：…私そんなに真面目かねぇ？

B：真面目ﾝだー。おえみでぁに冗談いうでごどまずねぁべー？

訳：真面目だよ。私のように冗談を言うということがまずないだろう？

A：んー、…よそﾝでいれば人がだかっておもしぇ人ﾝだどってよぐゆわえるﾝどもな。

訳：うーん、…よそにいると人々に面白い人だとよく言われるけどね。

B：おや、ほんとにげぁ？せばおめぁよそﾝでいだづぎにしか冗談ゆわねぁなげぁ？

訳：おや、本当にかい？じゃあお前はよそにいる時にしか冗談を言わないのかい？

…なして家[え]にいだづぎってばこー真面目なる？

…どうして家にいる時となるとこう真面目になる？

A：なしてってゆわえでも、んー、…んだなー。人がだどつぐあうってばなにがかにが

訳：どうしてって言われても、うーん、…そうだねぇ。人々と付き合うとなればなにかしら

おもしれしゃべさねぁばうまぐねぁごどもあるがらな…めぁの前ぁﾝでしかほんとの

面白い話をしないと都合が悪いこともあるからね…お前の前でしか本当の

自分でいらえねぁってごどﾝでねぁが？

自分でいられないということではないか？

B：…かー、急になした？そんたしょしごどしゃべって。

訳：…母さん、急にどうした？そんな恥ずかしいことを喋って。

A：あい、ばがっけ！…こんだづぎﾝでねぁばこったしょしごどゆわえねぁべー？なんーだって、

訳：もう、馬鹿！…こんな時でなければこんな恥ずかしいこと言われないだろう？まったくもう、

人せっかくいーごどゆってだに。

人がせっかくいいことを言っているのに。

B：ははは、悪り。なんだが聞でだこっちまﾝでしょしぐなって…、んだﾝどもかー、そえﾝだば

訳：ははは、悪い。なんだか聞いているこっちまで恥ずかしくなって…、だけど母さん、それは

おえも同じﾝだや？

私も同じだよ？

A：えー？

訳：んー？

B：なも、めぁ普段外ﾝでより冗談いわねぁえに、おえもめぁの前ぁﾝでよりはんかくせぁ

訳：いや、お前が普段外でしか冗談を言わないように、私もお前の前でしか馬鹿くさい

しゃべなのさねぁって。

話などしないって言ったんだ。

A：…とー、そえﾝだばちょっと、おえ喜んでいあんだがよぐわがらねぁでぁ。自分の前ぁﾝでしか

訳：…父さん、それはちょっと、私喜んでいいんだかよくわからないよ。自分の前でしか

はんかくせぁごどゆわねぁってゆわえだたって…。しかし、人って不思議ﾝだもんだごど。

馬鹿くさいことを言わないと言われたとしても(=言われても)…。それにしても、人とは不思議なものだなぁ。

おえみでぁによそﾝでいればうるせぁぐなって家[え]ﾝでいれば真面目なるあじもいれば、

私のようによそにいるとうるさくなって家にいると真面目になるやつもいれば、

めぁみでぁに家ﾝでばりうるせぁしてよそさ行げばんでもねぁあじもいるってげぁ。

お前のように家でだけうるさくてよそへ行けばそうでもないやつもいるというのかい。

B：うﾝー？かー、そえﾝだばなも不思議ﾝでもねぁや？人ってそんだえんだもんだ。よそﾝで

訳：うん？母さん、それは何も不思議でもないよ？人というのはそのようなものだ。よそに

いだづぎど家ﾝでいだづぎどﾝで人っこ変わる人の話ﾝだばよぐ聞ぐもの。

いる時と家にいる時とで人柄が変わる人の話はよく聞くからね。

A：…んだな。んでねぁば内弁慶なんて言葉もねぁべものな。人ってもどもどそんだえんだ

訳：…そうだね。そうでなければ内弁慶なんて言葉もないだろうからね。人というのはもともとそのような

もんだなやな。

ものなんだよね。

しめぁに

　以上にて今回の勉強はおしまい。

　ではまた来週。へばまず。

　へばまず。

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