新編秋田弁講座文法篇第55課：感動詞②：「呼びかけ」「掛け声」

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文法篇第55課：感動詞②：「呼びかけ」「掛け声」

　みなさんこんばんは。

　齶田浦蝦夷です。

　今回は、秋田弁の感動詞の2回目。

　秋田弁の掛け声や呼びかけの言葉を

　勉強していきます。

　末尾にはいつものように

　秋田弁の長文の会話例文を附してありますので、

　実際の会話でどんな感じで使われるのか、

　感覚をつかんでいってもらえたらと思います。

　では秋田弁講座、開始です。どうぞ。

文法

１．秋田弁の呼びかけを表す感動詞

	秋田弁	標準語	秋田弁の例文	標準語の例文
①	おい	おい	おい、話ちゃんと聞げ。	おい、話ちゃんと聞け。
②	こら	こら	こら、話聞でるが？	こら、話聞いているか？
③	さっ	さあ	さっ、そろそろ行ぐが。	さあ、そろそろ行こうか。
④	そら	そら	そら、そっちさ行ったど！	そら、そっちに行ったぞ！
⑤	どれ	どれ	どれ、俺さ貸してみれ。	どれ、私に貸してご覧。
⑥	もしもし	もしもし	もしもし、阿部ﾝです。	もしもし、阿部です。

説明

１．上記六つについては、意味・用法は標準語と同じである。

２．但し、秋田弁の場合、②「こら」はアクセントが「ら」にあり、④の「そら」もアクセントが「ら」にある。標準語なら「こら」なら「こ」を、「そら」なら「そ」にアクセントがあるが、秋田弁になるとアクセントが変わるので注意しよう。

３．⑥「もしもし」の電話の言葉は少し特殊なので注意。秋田弁の文法に照らせば、普通「阿部です」→「阿部ﾝだす」になるべきなのだが、電話の言葉では習慣的に標準語を真似して「もしもし、○○～(ﾝ)です。」から始まる。後で勉強するが、挨拶の決まり文句は秋田弁文法からずれてるものが結構ある。標準語からそのまま借用しているためであろう。

２．秋田弁独自の、呼びかけを表す感動詞

①「ねぇってば！」→「えー？」。相手が自分の発言を聞いてない時に、反応を促す言葉。

話者	秋田弁	標準語
A	お前ぁどさが行ぐな？	お前どこかに行くの？
B	…[無視]。	…[無視]。
A	えー？あんちゃん！	ねぇってば！お兄さん！

②「ねぇ？」→「えー？」。相手に質問したあとにすぐに相手に反応を促す言葉。

話者

秋田弁

標準語

例①

俺がだも若げぁうぢﾝだばいろんだどごさ遊[あす]ぶにありったもんであったやな？えー？お父さん。

私たちも若いうちはいろんな所へ遊びに歩いたものだったよね？

ねぇ？お父さん。

例②

誰こんだごどしたあんだべなー。

えー？兄さん。

誰がこんな事をしたんだろうね。

ねぇ？兄さん。

説明

１．この二つは呼びかけの「えー？」である。以前習った、聞き漏らした言葉を聞き返す時の「えー？」とは別物。拍数も表記通りの二拍程度である。

２．因みに、今回の「えー？」の発音の仕方は、標準語の不良が凄んで言う尻上がりの「あぁ⁉」の「あ」段の音をそのまま秋田弁の「え」段の音に変えれば再現できる。

３．なお、この「えー？」は別に凄んでいるわけでも不良が使う言葉でもない普通の言葉。

３．掛け声を表す感動詞

秋田弁の掛け声を表す感動詞は、以下の五つのみ。

	秋田弁	標準語
①	おいしょごしょ	よいしょこしょ
②	あいしょごしょ	よいしょこしょ
③	おっこいしょ	よっこいしょ
④	おいしょ	よいしょ
⑤	あいしょ	よいしょ

例文

秋田弁

標準語

例

①

【椅子に座る時】

おっこいしょ。あいこえぁ。なしてこーこえぁ？

【椅子に座る時】

よっこいしょ。ああ疲れる。どうしてこうも疲れる？

例

②

【荷物を持ち運んでいる時】

あいしょ、あいしょ。あー重でぁごど。

【荷物を持ち運んでいる時】

よいしょ、よいしょ。ああ重いなぁ。

例

③

【荷物を持ち運んでいる時】

おいしょ、おいしょ。あー重でぁごど。

【荷物を持ち運んでいる時】

よいしょ、よいしょ。ああ重いなぁ。

例

④

【歩いている場面】

あいしょこしょ、おっこいしょ、あいしょ、

おいしょ。はー、年行げば駄目ﾝだなー、

婆[ばば]あげねぁぐなったは。

【歩いている場面】

よいしょこしょ、よっこいしょ、よいしょ、

よいしょ。はぁ、年をとると駄目だねぇ、

お婆ちゃん歩けなくなったよ。

例

⑤

【歩いている場面】

おいしょこしょ、おっこいしょ、おいしょ、

あいしょ。はー、年行げば駄目ﾝだなー、

婆[ばば]あげねぁぐなったは。

【歩いている場面】

よいしょこしょ、よっこいしょ、よいしょ、

よいしょ。はぁ、年をとると駄目だねぇ、

お婆ちゃん歩けなくなったよ。

説明

１．使用法について：お年寄りの使用例を聞く限り、立ち上がる時、歩く時、物を動かす時などの力を入れる動作全般の他、坐って腰を下ろす時にも使う。

２．標準語の対訳を見れば分かると思うが、①②は同義で相互に置き換え可能、④⑤も同義で相互に置き換え可能である。語頭が「お」になるか「あ」になるかの違いしかない。同じ話者でも気分次第で片方だけを使ったり、両者織り交ぜて使ったりと自由である。

３．なお、③の「おっこいしょ」は、何故か「あっこいしょ」とは言わないので注意。

会話

A：もしもしー、…あっ、高橋さんだすか？お世話さまﾝですどーも。阿部ﾝですー。

訳：もしもしー、…あっ、高橋さんですか？お世話さまですどうも。阿部です。

B：あい、阿部さんだすか？あいー、しばらぐﾝであったごど。元気してだすか？

訳：あら、阿部さんですか？まぁ、ひさしぶりだなぁ。元気にしていましたか？

A：えー、まず、おがけ゚さまﾝで。あﾝだがだもまめでだすか？

訳：ええ、まぁ、おかげさまで。あなたたちも健康でいましたか？

B：えー、まずな。…んだﾝどもなにした？急に電話なのかげで。なにがあったあんだすか？

訳：ええ、まぁね。…けれどもどうした？急に電話などかけて。なにかあったんですか？

A：あい、なも、新聞のお悔やみ欄さあﾝだほの旦那さんの名前書ぁでだえんだがらよー、

訳：あら、いえ、新聞のお悔やみ欄にあなたのところの旦那さんの名前が書いていたようだからよぉ、

ほんとﾝだべがなーどもって。

本当だろうかねぇと思って。

B：…なに、おらえのとーさん死んだど？ははは、なもなも、んでねぁー、かーさん。名前

訳：…え、私の家の父さんが死んだだって？ははは、いやいや、そうではないよ、母さん。名前を

ちゃんと見れー。字ー違うべー？

ちゃんと見ろ。字が違うだろう？

A：あい、あﾝだえのとーさんでねぁがった？あい悪り。しばーらぐ見ねぁがら名前の漢字

訳：まぁ、あなたの家の父さんではなかった？あらごめんなさい。しばらく見ないから名前の漢字を

忘えでしまって。さっさっ、勘違いしてしまった。あいーしょし。悪りがった、勝手に

忘れてしまって。失敗したなぁ。勘違いしてしまった。もうー恥ずかしい。ごめんなさい。勝手に

死んだごどして。

死んだことにして。

B：ははは、あい、なも、気にさねぁﾝでけれ。おらえさﾝだば今日なってがら何回も同じ

訳：ははは、あら、いえ、気にしないでくれ。私の家には今日になってから何回も同じ

えんだ電話きてだもの。

ような電話が来ているからね。

A：あい、んだあんだすか？

訳：あら、そうなんですか？

B：んだー。こごら辺ﾝでいでこんだえんだ名前の人ってそーいねぁもの。勘違いする人

訳：そうだよ。ここら辺でこのような名前の人というのはそういないからね。勘違いする人が

いげぁいるなもしかだねぁあんだ。まずそー気にさねぁﾝで。

多くいるのもしかたがないんだ。まぁそう気にしないで。

A：あい、んだすか？そーいってければ助かるﾝども。…まず悪りがったー、ほんとに。

訳：あら、そうですか？そう言ってくれれば助かるけど。…まぁ悪かったよ、本当に。

申し訳ねぁ。

申し訳ない。

B：なもなも、いすいす。気にさねぁﾝでたんえ。

訳：いえいえ、いいですいいです。気にしないでください。

A：はー、んだﾝどもいがったー、あﾝだえのとーさんでねぁして。あﾝだえのおどーさんさﾝだば

訳：はぁ、けれどもよかったよ、あなたの家の父さんでなくて。あなたの家のお父さんには

今まﾝでずっとやがなってきたもの。死なえれば困るがら長生ぎしてけれって

今までずっと厄介になって[=世話になって]きたからね。死なれれば困るから長生きしてくれと

旦那さんさまずよろしぐいってけれ。

旦那さんにとにかくよろしく言ってくれ。

B：ははは、わがった。長生ぎすれどって伝えでおがな。

訳：ははは、わかった。長生きしろと伝えておこう。

A：えー、へばまず、悪りがったなー、ほんとに。申し訳ねぁー。すみません失礼します

訳：ええ、じゃあまぁ、悪かったねぇ、本当に。申し訳ない。すみません失礼します

どーも。

どうも。

(電話終わって)

B：ははは、とー、めぁまだ人かって死んだごどさえでだやは？今日こえﾝで何回目ﾝだー？

訳：ははは、父さん、お前はまた人に死んだことにされていたよ？今日これで何回目だ？

C：…こら、なに他人事ﾝだどもって笑ってだな。人違いﾝだたってほんとに人死んでだ

訳：…こら、なにを他人事だと思って笑っているの。人違いだとしても本当に人が死んでいる

あんだもの。そーおもしえか゚るもんでねぁー。

んだからね。そうおもしろがるものではないよ。

B：あい、なも、そえﾝだばわがってるたって…しかしままﾝでよぐ勘違いするもんだごど。

訳：あら、いえ、それはわかっているけれど…それにしても皆一様によく勘違いをするものだなぁ。

そんでぁに似だ字使ってだあんだが？

そんなに似た字を使っているのか？

C：んー、たしかに似でるなー、こえﾝだば。

訳：うーん、たしかに似ているねぇ、これは。

B：あい、ほんとにげぁ？どれ、おれさも新聞貸してけれ。

訳：まぁ、本当にかい？どれ、私にも新聞を貸してくれ。

C：めぁそんでぁに気になるなが…。まずいﾝどもよ。そら、こごのページﾝだ。

訳：お前そんなに気になるのか…。まぁいいけどよ。そら、ここのページだ。

B：えー、ありか゚どさん。どえ[=どれ]…あい、ほんとに似でだねぁが。「高橋」の「高」の字はしこ゚

訳：ええ、ありがとう。どれ…あら、本当に似ているじゃないか。「高橋」の「高」の字がはしごに

なってだがなってねぁがより違いねぁねぁ。ははは、なんとこえﾝだば、人がだままんで

なっているかどうかしか違いがないじゃない。ははは、おやおやこれは、人々が皆一様に

勘違いするなも当だり前ぁﾝだなー。えー？とーさん。

勘違いするのも当たり前だねぇ。ねぇ？父さん。

C：…。

訳：…。

B：えー？とーさん。…おい、人の話ちゃんと聞でだがー？

訳：ねぇってば！父さん。…おい、人の話をちゃんと聞いているか？

C：ん？おや、おれげぁ？

訳：うん？おや、私かい？

B：あい、おれげぁって、めぁもまだぼやーっとして…こごの部屋さﾝだばおれどんめぁより

訳：まぁ、私かいって、お前って人はぼやぁっとして…ここの部屋には私とお前しか

人いねぁねぁが。んめぁﾝでねぁばだえさ話しかげるっておえ。

人がいないじゃないか。お前でなければ誰に話しかけるというのだ、私は。

C：あー、なも、悪りがった。新聞取らえでやるごどねぁぐなったがらぼーっとしてしまって。

訳：ああ、いや、悪かった。新聞を取られてやることがなくなったからぼうっとしてしまって。

B：あい、めぁ新聞読む他になもすごどねぁなげぁ？…しかだねぁ人ﾝだごど。そら、新聞

訳：まぁ、お前新聞を読む他に[=以外に]なにもすることがないのかい？…しかたがない人だなぁ。そら、新聞を

めぁさ返してけるがら手っこ伸べれ。

お前に返してくれる[=あげる]から手を伸ばせ。

C：あー、ありか゚どさん。

訳：ああ、ありがとう。

B：さっ、せばおえﾝだばそろそろ外さ出はってくるがな。昼まま買うに行がねぁば。とー、

訳：さあ、じゃあ私はそろそろ外に出てこようかな。昼ご飯を買いに行かないと。父さん、

今日昼ままなに食ってぁ？

今日は昼ご飯何を食いたい？

C：…。

訳：…。

B：えー？とーさん。こら、まだ知らんねぁふりして…人の話っこちゃんと聞でだがー？

訳：ねぇってば！父さん。こら、また知らないふりをして…人の話をちゃんと聞いているか？

C：…、

訳：…。

B：おい！

訳：おい！

C：…ん？なに、まだおえげぁ？

訳：…うん？え、また私かい？

B：あいしか。めぁもまだ、二人ばりよりいねぁどごﾝで話っこしてるにだれめぁの他に話

訳：まったくもう。お前って人は、二人だけしかいないところで話をしているのに誰がお前の他に[=以外に]話を

するって？なんーだって人の話聞がねぁ人ﾝだごど。

するというのだ？まったくもう人の話を聞かない人だなぁ。

C：…なも、人さ話しかげでだあんでねぁぐ、独り言しゃべってだあんだどもって。

訳：…いや、人に話しかけているんではなく、独り言を喋っているんだと思って。

B：あいー、さきたがらおら話すづぎちゃんと「とーさん」ちゅってるねぁー。はー、まず

訳：もうー、さっきから私話す時にちゃんと「父さん」と言っているじゃない。はぁ、まぁ

いﾝども、昼まませばあどおれ勝手に決めるや？そえﾝでいあんだが？

いいけど。昼ご飯はじゃあもう私が勝手に決めるよ？それでいいのか？

C：ん？えー、そえﾝだばめぁどさ任せる。めぁ食ってぁななにﾝでも買ってきてけれ。

訳：うん？ええ、それはお前に任せる。お前が食いたいのを何でも買って来てくれ。

B：はー、めぁﾝだば新聞読めば読んだﾝで新聞ばり読んでなんも人の話っこ聞がねぁぐなるし、

訳：はぁ、お前は新聞を読めば読んだで新聞ばかり読んで全然人の話を聞かなくなるし、

読まねぁば読まねぁﾝでこんどぼーっとして話聞がねぁし、ほんとにしかだねぁ人ﾝだ

読まなければ読まないで今度はぼうっとして話を聞かないし、本当にしかたのない人だ

ごど。…さっ、まずせば行ってくらな。おいしょ。

なぁ。…さあ、とにかくじゃあ行ってこよう。よいしょ。

C：…かー、立づづぎおいしょなのあいしょなのゆえばとしょりくせぁしてやぢゃねぁや？

訳：…母さん、立つ時に「おいしょ」だの「あいしょ」だの言うと年寄り臭くて駄目だよ？

B：あいー好ぎﾝでねぁごど。なしてそーなんとﾝでもいーごどばーりちゃんと聞でだな？

訳：もうー気に入らないなぁ。どうしてそうどうでもいいことばっかりちゃんと聞いているの？

…なも、こえﾝだば気にさねぁﾝでけれー。力込めづぎおいしょってゆわねぁば立だえねぁ

…いえ、これは気にしないでくれ。力を込める時によいしょと言わないと立たれない

あんだ。さっ、外さいぐどー。おいしょごしょ、おっこいしょ、おいしょ、おいしょ。

んだ。さあ、外へ行くぞぉ。よいしょこしょ、よっこいしょ、よいしょ、よいしょ。

C：ふっ…(吹ぎ出した後、笑いこらえでだどご)。

訳：ふっ…(吹き出した後、笑いをこらえているところ)。

B：…なに、とー、さきたがらぶるぶるど震えで…なにおがしけﾝだごどあってそー笑うなー？

訳：…なんだい、父さん。さっきからぶるぶる震えて…何をおかしなことがあってそう笑うの？

C：…なも、一歩あるぐたんびにあいしょごしょなのおっこいしょなのゆーがら…おがしして…。

訳：…いや、一歩歩く度によいしょこしょだのよっこいしょだの言うから…おかしくて…。

B：あいー、めぁﾝだばほんとにあらしぎねぁごど。…しかだねぁべー？年いげば足きかねぁぐ

訳：もう、お前は本当に愛らしくないなぁ。…しかたがないだろう？年を取れば足が利かなく

なるもの。こーゆー言葉ねぁばよこ゚がえねぁあんだ。あいしょ、あいしょ…。

なるからね。こういう言葉がないと動かれないんだ。よいしょ、よいしょ…。

C：…(笑い必死なってこらえで)

訳：…(笑いを必死になってこらえて)

B：…とー、そんでぁに笑うごったらあどめぁどさまま買ってこねぁや？

訳：…父さん、そんなに笑うならもうお前にご飯を買ってこないよ？

C：ははは、なも…悪りがったって。…まず、おれどごﾝだば気にさねぁﾝでけれ。

訳：ははは、いや…悪かったってば。…まぁ、私は(=をば)気にしないでくれ。

B：あいー、人の気も知らねぁﾝで…まずいは。せばまず行ってくるがら。

訳：もう、人の気も知らないで…まぁいいや。じゃあまぁ行ってくるから。

C：えー、気ーつけであげよー。

訳：ええ、気をつけていけよ。

(かーさんいねぁぐなって)

C：…はー、腹いでぁ。なぼー力入[は]ねぁったたって一歩足進めるたびにあいしょあいしょ

訳:…はぁ、腹が痛い。いくら力が入らないと言ったとしても一歩足を進めるたびによいしょよいしょ

でごどあるもんだがや？まさが外さ出はってあぐづぎ同じごどさねぁべな。はー、

ということがあるものかねぇ？まさか外へ出て歩き回る時に同じことをしないだろうね。はぁ、

だめﾝだ、おがししてなもかもねぁは…。

駄目だ、おかしくてしかたがないや…。

しめぁに

　以上にて、今週の秋田弁の勉強はおしまい。

　ではまた来週。へばな。

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