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32.可能表現

可能表現

 みなさん、こんにちは。

 

 こちらのページでは、現代秋田弁の方の可能表現について勉強していきます。なお、今回のページでは打消の助動詞「ねぁ」を「ね」と表記しちゃってますが、そこは「ねぁ」で読みかえて読んで行ってください。ちょっと量が多すぎて今更表記を統一する気になれなかっただけです。悪しからず。

 

 なお、標準語の勉強をしたい方や、近代秋田方言の方を勉強したい方は、こちらのページへ飛んでください。

現代秋田弁の可能表現

 現代秋田弁の場合も、近代同様、可能表現には三つの形式があります。①可能動詞を用いる、②可能の助動詞を用いる、③「~に良[い]」を用いるの三種類です。

 

 うん。近代と全く同じですね。

 

 ただ、近代と現代とでは、その使い方に微妙に違いがあるようなので、注意が必要です。

 

 まずは①から見て行きましょう。

 

 現代秋田弁の可能動詞の作り方は、まぁ標準語と同じです。五段動詞は「仮定・命令形+る」、サ変「-する」系統は「でぎる」、その他=上一下一カ変サ変「-じる」系統は「未然形+れる」です。
 近代にはあったサ変「-する」系統の可能動詞「せる」は、現代では廃れていて、今や標準語の訛り「でぎる」が代用されるようになっています。ここは要注意ですね。

五段の例:書げ+る→書げる 読め+る→読める 歌え+る→歌える 等々

上一の例:見+れる→見れる 起ぎ+れる→起ぎれる 等々

下一の例:寝+れる→寝れる 開げ+れる→開げれる 等々

カ変の例:来[こ]+れる→来れる

サ変「-する」の例:でぎる 我慢でぎる メモでぎる 等々

サ変「-じる」の例:信じ+れる→信じれる 感じ+れる→感じれる 等々

 

 また、近代では現代・未来のことでも可能の意味では過去「-だ」を用いて表現していましたが、現代ではその傾向も薄れています。

 

現代秋田弁の場合は、標準語同様、現代も未来も終止形「-る」の形で問題ありません。まぁ現代秋田弁では、近代に比べるとかなり標準語よりの表現になっているというわけですね。

 

 更に、近代では、「可能動詞未然形+ねぁ」という表現形式は、五段動詞とカ変動詞の可能動詞で認められる程度でしたが、現代では五段上一下一カ変サ変すべてに渡って可能動詞の否定形が見られるようになっています。

 

五段の例:書げ+ね→書げね 読め+ね→読めね 歌え+ね→歌えね 等々

(上一の例:見れ+ね→見れね 起ぎれ+ね→起ぎれね 等々)

(下一の例:寝れ+ね→寝れね 開げれ+ね→開げれね 等々)

カ変の例:来[こ]れ+ね→来れね

(サ変「-する」の例:でぎ+ね→でぎね 我慢でぎ+ね→我慢でぎね 等々)

(サ変「-じる」の例:信じれ+ね→信じれね 感じれ+ね→感じれね 等々)

補足:なお、「これね」を「けね」とも言う点は、近代と同じです。

 

次に②。助動詞「れる」「られる」を用いた表現形式について見て行きましょう。

 

現代秋田弁の場合も、可能の助動詞を用いる場合というのは、可能否定「~することができない」の文脈の時に限られます。

 

従って、実質的には「動詞型用言未然形+れ-ね」「動詞型用言未然形+られ-ね」の形で用いられることになります。

五段の例:書が+れ-ね→書がれね 読ま+れ-ね→読まれね 等々

上一の例:見+られ-ね→見られね 起ぎ+られ-ね→起ぎられね 等々

下一の例:寝+られ-ね→寝られね 開げ+られ-ね→開げられね 等々

カ変の例:来[こ]+られ-ね→来られね

サ変「-する」の例:さ+れ-ね→されね 我慢さ+れ-ね→我慢されね 等々

サ変「-じる」の例:信じ+られ-ね→信じられね 感じ+られ-ね→感じられね 等々

 

 最後に③の可能表現。つまり、「~に良」を使う可能表現について見て行きましょう。この表現形式については、まぁやはり近代と同じですね。

 

 「動詞型用言連体形+に+良」で「~することができる」の意味を表します。そして肯定可能の意味にだけ用いることができ、決して「~に良ぐね」の如くは用いられないのでした。

五段の例:書ぐ+に良→書ぐに良 読む+に良→読むに良 歌う+に良→歌うに良 等々

上一の例:見る+に良→見るに良 起ぎる+に良→起ぎるに良 等々

下一の例:寝る+に良→寝るに良 開げる+に良→開げるに良 等々

カ変の例:来[く]る+に良→来るに良

サ変「-する」の例:する+に良→するに良 我慢する+に良→我慢するに良 等々

サ変「-じる」の例:信じる+に良→信じるに良 感じる+に良→感じるに良 等々

 

現代秋田弁の可能表現の使い分け

 以上、現代秋田弁の可能表現を①~③の順番で見てきました。②③は近代と変わらず、①のみちょっと違うという学習内容でしたね。

 

「-だ」を基本とした形から、標準語寄りの「-る」を基本とした形にとってかわられている、「せる」は「でぎる」にとってかわられている、という、標準語に近い方へと言葉が変化しているという違いでしたね。

 

まぁ近代と現代の違いはそんなところなのですが、ここで一つ補足しておきたいことがあります。

 

すなわち、①②③の表現形式の「使い分け」についてです。

 

 『秋田方言』の記述を見るに、①②③の使い分けは、②は否定の時だけ、③は肯定の時だけ使う、程度のものに過ぎませんでした。

 

 ですが、国立国語研究所の※「方言文法全国地図」(第4集の第173図~第185図。)を参考にするに、どうやら日本語の諸方言の可能表現は、「能力可能」「状況可能」「属性可能」という三種類に分かれるようなのです(この三つの用語については後で意味を説明いたします)。
※:「方言文法全国地図」は1980年前後の調査をもとに作成されたもの。2015年12月現在、インターネットでその研究成果をPDFファイル形式などで閲覧することが可能となっています。

 

 そして、秋田方言に関して述べるならば、先の国立国語研究所の「方言文法全国地図」を参考にするに、どうやら秋田方言においては①②③の形式を使い分けることによって「能力可能」「状況可能」「属性可能」を言い分けるようです。

 

 具体的にはすなわち、①の「可能動詞を用いた可能表現」は「能力可能」、②の「可能の助動詞を用いた表現形式」と③の「『~に良い』を用いた表現形式」は「状況可能」「属性可能」を用いた表現として使われる、ということのようです。

 

 実際、私が実家で祖母やその友人らの言葉を注意深く聞いてみると、概ねそのような結果になっていることから、少なくとも現代秋田弁においては①②③の形式は使い分けがなされていると言ってよさそうです。

 

 近代秋田方言については、『秋田方言』に可能表現の使い分けについて言及がない以上なんとも言えませんが、まぁ現代ですらこうなのですから、近代でもやはりそういう使い分けはあったのではないか、と私は勝手に考えています。言語は時代が下れば下るほど簡略化されていくのが常。ならばこういった使い分けについても、近代秋田方言に無くて現代秋田弁で突如現れる、とはなかなか考えにくいような気がします。

 

 但し、ここで一つ注意しておきたいのは、その使い分けはあくまでも「原則」「傾向が強い」という程度のものに過ぎないということ。

 

 国立国語研究所の「方言文法全国地図」で秋田市周辺の調査結果を調べてみても、能力可能を状況可能の言い回しで表現してたり、状況可能を能力可能の言い回しで表現してたりといったことはあります。日常生活で聞く秋田弁でも、やはり同じように能力可能なのに「~にい」「れねぁ/られねぁ」で表現したり、状況可能なのに可能動詞で表現したりすることはあります。

 

 要するに、「原則としてはそう言う傾向がある」のであって、きっかり分けて「必ずそう表現しなければならない」というほどのルールではないということです。おそらく『秋田方言』の編纂者も、可能動詞・可能の助動詞「れねぁ」「られねぁ」・連体形+に良の三つの表現が同じ文脈内で使われる例がある状況を見て、別に意味に相違はないのだと思って特にその「使用される文脈の傾向」にまで目を向けなかったのでしょう。

用語解説:「能力可能」「状況可能」「属性可能」

 国立国語研究所の「方言文法全国地図」では、可能表現について「能力可能」「状況可能」「属性可能」の三つの文脈に分けて調査していますが、具体的にその用語がなにを意味しているかまでは説明していません。

 

 ただ、能力可能や状況可能については、英語や中国語などの文法を勉強する際にも使われる表現なので私の方で説明できます。また、属性可能についても、「方言文法全国地図」の例文からどういう意味なのか概ね推測できるので、私の方でその意味を解説したいと思います。

 

 それではさっそく用語解説に入ります。

 

1.能力可能
 まずは能力可能。これは、その人間のステータス・パラメーター・能力値として「~することができる」ことを表す言葉です。

 

 「あの人は酒を飲むことができる」「あの人は車を運転することができる」「あの人は百メートルを十秒台で走ることができない」「私は上手に歌を歌うことができない」などは、みなその人の能力について「できる」「できない」を言ったものです。

 

 能力というのは、瞬間的な「できる」「できない」ではなく、その人が恒常的に持っているものですよね?そういうステータスとして持っている「できる」「できない」について言及するものを、文法上では「能力可能」なんて表現されているのですよ。英語的には「can」、中国語的には「能」がその意味を表すとされています。

 

2.状況可能
 次に状況可能についてご説明いたします。状況可能というのは、その状況、その条件、その瞬間において「~することができる」ことを表す言葉です。

 

 「明日が休みだったら、いくらでも酒を飲むことができる」「今は免許を持っているから、車を運転することができる」「いい靴を履いていなければ、百メートルを九秒台で走ることはできない」「のどの調子が悪いから、今日は歌を歌うことはできない」などは、どれもその時々の状況を鑑みて「できる」「できない」を述べたものです。

 

 こういうその時々の状況、その瞬間瞬間における「できる」「できない」について言及するものを、文法上では「状況可能」と表現するのです。英語的には「be able to」、中国語的には「可以」がその意味を担うと言われていますね。

 

3.属性可能
 そして最後の「属性可能」。これは、事物の属性、性質として「~することができる」と表現するものを言っているものかと思います。

 

 「軟水は飲むことができる」「マツタケは食べることができる」「トリカブトは食べることができない」「泥水は飲むことができない」などは、水や食べ物の属性・性質についての「できる」「できない」を言ったものです。

 

 こういう事物の性質について、「できる」「できない」を述べたものを「属性可能」、と呼んでいるのかと思います。これについては英語や現代中国語で在ったかどうか記憶が曖昧ですが、古典中国語(いわゆる「漢文」)なんかでは「可」を用いてそういう意味の可能を表すことがあります。

 

 因みにこの属性可能ですが、よくよく分析すれば「事物は~されることができる/できない」という意味を表しています。ほら、「軟水は飲むことができる」って、日本語で聞けば全然違和感のない文ですが、よくよく考えると「軟水」は「飲む」の動作対象ですよね?

 

 同じように、「マツタケは食べることができる」「トリカブトは食べることができない」なども、皆主語が動詞の対象となっているのですよ。英語脳で考えれば、「軟水は飲まれることができる」「マツタケは食べられることができる」「トリカブトは食べられることができない」ですね。

 

 まぁ要するに、属性可能文の主語と言うのは、常に動詞の動作対象であるという特徴も持っているわけであります。日本人はこういう表現はなにも考えずに日頃からやれているのでそんなに重要な問題ではないですが、まぁ一応、表現の特徴として、頭の片隅に置いておくのも悪くないのかな、とは思っています。

 

 以上にて用語解説はおしまいです。

 

 …まぁ実際に使う際は、能力可能→①の可能動詞を使う、それ以外→②③の形式を使う、と言う風に考えればいいだけなので、別に属性可能については特に意識して覚える必要はないかもしれません。難しかったら能力可能と状況可能の意味だけしっかり押さえてくれたらと思います。

 

 …まっ、なにはともあれ、能力可能、状況可能、属性可能についてのお話はこれでおしまいです。長々と失礼いたしました。

おわりに

 以上にて、現代秋田弁の可能表現の勉強もおしまい。ついでに助動詞も今回の「れる」「られる」の勉強にておしまいです。

 

 次回からは助詞の勉強に入りますが、助詞は標準語をそのまま秋田方言に置き換えればいいだけなのでたいしたことはありません。

 

 日本語族最大の難関(用言の活用)はすでに突破した。あとは肩の力を抜いて勉強していけばいいかと思いますよ。

 

 それでは今回はこの辺で。へばなー。

 

対応する近代秋田方言の記事:こちらです。

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