秋田方言・秋田弁発音講座

第1課:母音

秋田方言・秋田弁発音講座第1課:母音

 みなさん、こんにちは。齶田浦です。

 

 今回は秋田方言・秋田弁発音講座第1課、ということで、まずはオーソドックスに、母音の勉強から始めたいと思います。

1.母音とは

 まずは言葉の説明から。母音とはなにか?

 

 日本語の五十音図における「段」、すなわち「あ」「い」「う」「え」「お」のことです。これらに子音、すなわち五十音図における「行」がつくことにより、日本語の音節が形成されます。

 

 五十音図に於ける行とは、たとえば、カ行音[k]、サ行音[s]、タ行音[t][ts]、ナ行音[n]などですね。「カ行音+母音あ」=「か」、「カ行音+母音い」=「き」、「サ行音+母音う」=「す」、「タ行音+母音え」=「て」、「ナ行音+母音お」=「の」、というように、子音と母音[=行の音と段の音]が組み合わさることで、日本語のあらゆる発音が完成するわけでした。

 

 で、今回学ぶのは、その「母音」=「段」に当たる言葉です。まぁ要は秋田弁の「あいうえお」を学びましょうってことなわけですよ、はい。…一番最初の説明に戻ってきてしまいましたね。まぁいいや。とにかくそういうことです。

2.秋田弁の母音

 それでは早速解説に入っていきます。

 

 秋田弁では、母音は6つあります。…あれ?6つ?5つじゃなくて?はい。6つです。秋田の方言では、「え」段が閉音「え」と開音「えぁ」の2つに分かれますから。

 

 以下、母音一覧を下に示しましょう。

 

秋田方言・秋田弁母音一覧

…標準語と同じ発音。

 

…標準語と違う音。『秋田方言』によれば「舌尖下り舌面隆起して、歯槽突起の辺、並にその後に向つて狭窄を造るやうである。」多く「え」に転じる。

 

…概ね標準語と同じ。但し口の形は標準語よりやや丸みを帯びる。

 

…『秋田方言』に具体的な音の説明はない。

 

えぁ…『秋田方言』に具体的な音の説明はない。

 

…概ね標準語と同じ。但し口の形は標準語よりやや丸みが少ない。

 

 まぁ見ての通り、あ・う・おに関してはほぼ標準語通りなので気にしなくていいです。

 

 問題となるのは「い」「え」「えぁ」の三音です。この三つについては、現代の秋田弁の発音を知る身として、我流でもうちょい詳しい解説をさせていただきたいと思います。

(1)母音「い」

 秋田弁の母音「い」は、発音がかなり独特です。私も昔、秋田弁を勉強している時に、どうやったらこの音がでるのかあれこれ試したことがありましたが、なんとかうまくこの音を出せるやり方を見つけました。

 

 それを以下に示しましょう。

 

発音方法:

標準語で「じーー」と言います(口の形は、小学校で習う「いーー」のような極端なものである必要はありません。普段喋っている時の自然な「じ」でいいです)。

 

口の形、および上顎と舌の位置を、「じーー」と言っている時の位置に保ちます(この時、上顎と舌との間に、わずかに隙間ができているはずです。)。

 

その状態に保ちながら、標準語の母音「い」を言い放ちます。

 

秋田方言の「い」音が出ます。蜂の羽音かというくらいきつい「い˝ー」という音になりますが、それが秋田方言における「い」段の音です。

 

確認のため、「かきくけこ」の行音[k]+秋田弁の「い」で「き」を言ってみましょう。この時、「くしぃ」「ksi」みたいな音が出るのが目安です。

 

確認のため、「はひふへほ」の行[h]+秋田弁の「い」で「ひ」を言って見ましょう。この時、「ひ」とも「し」とも聞こえる音が出るのが目安です。

 

注意:「え」音への転訛
 さて、ここまで言ったはよいのですが、実はこの「い」音、「え」音に訛ることが多いです。まず、子音を伴わないア行イ段の「い」は、ほぼすべて「え」で発音します。

 

 『秋田方言』の語彙篇を見ても、「い」で始まる単語を集めたところにほとんど語彙が載ってなくて、本来「い」に載っていなければならないはずの単語の多くが「え」のところに載っているのもそんな事情を反映してのことでしょう。

 

 でも「い」と「え」じゃ全然違うじゃん。「え」に変えたら違和感凄くない?って感じたあなた。違和感感じないのは理由があります。詳しくは「え」の発音のところをご参照ください。

 

 なお、『秋田方言』によると、近代秋田方言においては、ア行の「い」のみならず、カ行「き」・ナ行「に」・マ行「み」などもエ段「け「ね」「め」に転訛することが多かったらしいですよ。現代秋田弁にはない傾向ですね、これは。といっても必ずというレベルでないことから、語彙レベルの問題に過ぎなかったと思いますが。

(2)母音「え」

 秋田弁の母音「え」は、これまた標準語と少し違います。秋田弁の「え」は、標準語の耳で聞くと、「い」とも「え」ともとれる中間音なのです。

 

 なので秋田弁的には「いー[良い]」も「えー[ええ]」も同じ音です。秋田県民動詞の会話でも、ある程度お年を召した方々の会話ともなれば、以下のような会話もあります。

 

(以下の会話文は、実際の発音通りの表記にしています)

甲:こえンでえー? [これで良い?]

 

乙:えー? [?]

 

甲:こえンでえーがって? [これでいいかってば?]

 

乙:えーえー。 [ええいいよ。]

 

甲:こえも要[え]るが?

 

乙:えー?んー、そえだばえー。[?うーん、それはいいや。=要らないや]

 

 「えー」。便利な言葉なんですよね。「ええ」(あいずち)も「ええ?」(驚き)も「え?」(聞き直し)も「いい」(要らない)も「いい」(良い)もすべて「えー」の一言で済みます。

 

その万能性故、普段秋田方言を話さない私なんかも、家族と会話するときには、返事の言葉として時々なんでも「えー」と言ったりしています。

 

発音方法:
 秋田弁の「え」の発音方法は、「い」に比べればかなり簡単です。手順は以下の通り。

標準語の「え」を言おうとする(まだ言っていない。口の形・舌の位置を「え」の状態にするということ)

 

口の形をそのままに保ちながら、舌のみを、標準語の「い」を言う舌の位置に持っていく。

 

その状態で「え」と言い放ちます。すると秋田方言の「え」音が出ます。標準語の「い」と「え」のちょうど中間くらいのあいまいな音となります。

 

 まぁ要は「『え』を言う口の形と標準語の「い」を言う舌の位置で、標準語の「え」を言い放つ。」というだけの話ですね。①から②への移動は舌のみです。舌の位置が「え」→「い」へと移動するということは、舌が前のめりな感じから口のなかほどのところへと引っ込んでいくということなのですが、それでいいのです。

(3)母音「えぁ」

 さて、最後は秋田弁の第六の母音、開音の「え」、すなわち「えぁ」ですね。これは標準語話者にとって一番興味深い発音かと思いますが、まぁそんな目新しい音でもありません。

 

 すなわち開音「えぁ」は、秋田弁の「え」の後ろに小さく「あ」を添えたような音となるのです。…まぁつまり文字通りの発音なんですよ。標準語の耳で聞けば「や」に近い音になりますね。

 

発音方法:

秋田方言の「え」を言います。

 

その後間を空けずに、秋田方言の「あ」を小さく短く添えます。

 

文字通り「えぁ」という音になります。その音は標準語の「や」の音に近い音ですね。標準語の「や」が「い」+「あ」なら、秋田弁の「えぁ」は「え」+「あ」です。

 

 因みにこの開音の「えぁ」は、標準語で「あい」「あえ」となっている語彙の秋田弁版で「えぁ」となる傾向があります。例えば、「あまい」なら「あめぁ」、「おまえ」なら「おめぁ」となる、といった感じです。

終わりに

 以上にて、秋田弁・秋田方言の母音の勉強はおしまいです。いかがでしたか?分かりましたでしょうか…ってわかりませんよね。

 

 本来発音の勉強というのは、CDやらネイティブの先生やらがいて、その実際の発音と解説された発音とを組み合わせながら真に迫っていくべきもの。言葉だけではどうしても限界があります。なにせ「確認」ができないですから。

 

 なのでですね、秋田弁の発音を真に極めたいという方はですね、そのうち秋田に観光に来て、近所のおじいさんおばあさんの会話に耳を傾けるか、秋田の知り合いのおじいさんおばあさんを紹介してもらうか、或いは秋田方言が収録されたCDなんかを聞くしかないですね…。

 

 あっ、でも秋田弁に関しては、秋田県にある「無明者出版」というところで、現代秋田弁の辞書『秋田のことば』のCDROMが売られていたりするので、それを使えば発音の確認はそこそこできたりします。秋田弁の五十音図とかもわざわざCDのデータに入れているようですし、秋田弁を音声込みで勉強するにはいいものだと思いますよ。たしか無明者出版のインターネット経由で購入できたかと思います。

 

 興味のある方はそちらの購入などを考えてみてもよいかもしれません。

 

 当サイトでは音声データの公開などはしておりませんので、実際の発音の確認などをしたい方は各自で頑張っていただけたらな、と思う次第であります。はい、なんか申し訳ありません…。

 

 ともあれ今回はこの辺で失礼致します。それではみなさん、ごきげんよう。へばなー。

2016年2月22日追記:えぁの発音方法

 追記です。「えぁ」の発音方法について。

 

 秋田弁の「えぁ」は、英語の発音記号でいうところの[æ]によく似ています。organicの「ga」の部分なんかは、まさに秋田弁の「げぁ」の発音ですね。

 

 なので、「えぁ」は、「え」を小さく言ったあとに「あ」を言う音、と言うこともできます。

 

 追記は以上です。

 

 

 

 

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