秋田方言・秋田弁発音講座第7課:子音③「その他」
みなさん、こんにちは。齶田浦毛人です。
今回は、カ行・サ行・タ行以外のすべての子音について解説します。
1.ナ行音
「なにぬねの」の行音[n]のことですね。
これは秋田方言と標準語で違いはありません。
「ナ行音[n]+秋田弁のあいうええぁお」で秋田方言版のナ行が完成します。
2.ハ行音
『秋田方言』では、特にまとめて扱ってすらくれていませんので、私の方でまとめます。
秋田方言のハ行音は、以下4つに分類されます。
a.ハ行音…標準語の「はひへほ」の行音[h]。
b.ファ行音…標準語の「ふ」および「ふぁふぃふぇふぉ」の行音[f]
c.パ行音…標準語の「ぱぴぷぺぽ」の行音[p]
d.バ行音…標準語の「ばびぶべぼ」の行音[b]
以下、それぞれについて説明していきます。
a.ハ行音
秋田弁のハ行音は、標準語の「はひへほ」の行音[h]とまったく同じです。
なので秋田弁のハ行は「ハ行音+秋田弁の「あいええぁお」」の組み合わせで発音することで出来上がります。
なお、秋田弁の「ふ」の音は、「ふぁふぃふぅふぇふぉ」の「ふぅ」の音で発音されます。というか、標準語の「はひふへほ」の「ふ」も、実は「ふぁふぃふぅふぇふぉ」の「ふ」の発音です。
タ行、ダ行の「ちつ」「ぢづ」でも他の行からの割り込みというのがありましたが、ハ行も「ふ」だけはファ行「ふぁふぃふぅふぇふぉ」の発音。つまり仲間はずれだったのでしたー。
b.ファ行音
秋田弁のファ行音は、標準語の「ふぁふぃふふぇふぉ」の行音[f]と全く同じです。あの、外来語の「ファイト」「ファイアー」とかを標準語で発音しようとするときの、ワ行にハ行音[h]を付けたような、上下両唇を使って息を吐きながらだす「ふぁふぃふふぇふぉ」の行音[f]ですね。英語本来の[f]ではなく、日本語訛りのあのふぁふぃふふぇふぉの行音です。
そんなわけで秋田弁のファ行も、「ファ行音+秋田弁のあいうええぁお」でつくりだすことができます。
なお、実は「ファ行音+う」は、秋田弁標準語問わず、「はひふへほ」のウ段「ふ」を言う時の発音でもあります。
確かめたい人は、「ふとん」と言う時の、息だけの音「ふ」を「ふー」とそのまま持続して、その音に母音「あいうえお」を足してみましょう。自然「ふぁふぃふふぇふぉ」という音になるかと思います。これは「ふ」が、「はひへほ」とは違って、「ふぁふぃふふぇふぉ」の行音で発音されているからなのですよ。
補足:近代秋田方言のファ行音
ところで、現代標準語ですら「ファ」なんて音は一部の外来語にしか使いません。現代秋田弁でも今ではほぼ聞きません。
そんな音がなぜ、今より外来語も少なかった戦前の、近代秋田方言の中に残っているのでしょうか。そもそもどんな単語にその音を使ったというのでしょうか。
はい。実はと申しますと、現在標準語で言うところの、上下両唇を閉じてその中心に小さな穴を造り、そこから息を伴ったワ行音を言う要領で出す「ふぁいと」「ふぁいあー」などの「ふぁ」の行音、すなわちファ行「ふぁふぃふぅふぇふぉ」と申しますのは、日本語の「はひふへほ」の古音だったのです。
…まぁつまりですね。古代の日本では、そもそも「はひふへほ」という文字列は、「ふぁふぃふふぇふぉ」と発音していたのです。それが正しい発音だったのです。
それが時代が下っていくにつれて発音の仕方が変わり、「はひへほ」は現在のハ行音で読まれるようになり、唯一「ふ」だけが古代から続く両唇音=現代標準語のファ行音で読まれ続けている、というわけなのです。
さて、ここまで来れば話も少し見えて来るでしょう。何故昔の秋田方言にファ行音が存在するのか。これは単純。昔の秋田弁は、ある程度古代の発音を維持していた、というだけの話です。
地方は文化の中心地から遠く離れたところ。それゆえ何事も最新のものの影響というは都市部ほどには受けないのです。古語や古音みたいなのが残り続けるのも、そういった事情ですね。
以下、『秋田方言』p70に掲げられているファ行音で発音されていた単語の一部を例示いたします。
例:歯[は]→ふぁ 葉[は]→ふぁ お春[はる]→おふぁる 火[ひ]→ふぃ 日の丸→ふぃのまる 屁[へ]→ふぇ 等々
ご覧の通り、人名「お春」など、結構な量の単語がファ行音で読まれています。現代秋田弁ではすっかり廃れた発音ですが、まぁ近代ではこうだったのだと、参考までの覚えてみるのもありかもしれません。
c.パ行音
標準語の「ぱぴぷぺぽ」の行音[p]ですね。これは秋田弁でも同じ。
なので、「パ行音+秋田弁のあいうええぁお」で秋田弁のパ行「ぱぴぷぺぺぁぽ」が発音できますよ。
d.バ行音
標準語の「ばびぶべぼ」の行音[b]です。これも、秋田弁でも同じ音。
「バ行音+秋田弁のあいうええぁお」で秋田弁版バ行音の完成ですよ。
3.マ行音
「まみむめも」の行音[m]のことですね。
これも標準語と同じです。
「マ行音[m]+秋田弁のあいうええぁお」で秋田弁版のマ行となります。
4.ヤ行音
「やゆよ」の行音[y]のことですね。
こちらも標準語と変わりありません。
「ヤ行音[y]+秋田弁のあうお」で秋田弁版のヤ行「やゆよ」となります。
補足1:なお、秋田方言にも拗音「ゃ」はありますので、キャキュキョ、ニャニュニョ、ヒャヒュヒョ、ミャミュミョ、リャリュリョなどもあります。
例:客[きゃく]→客[きゃぐ] ニュース→ニュース 雹[ひょう]→ひょう 等等
補足2:なお、拗音「ゃ」は、近代秋田方言では「えぁ」と言うことがあったようです。それが規則と言うレベルに達していたかどうかまでは、いまいちわかりませんが、見たところこういう現象を起こす単語というのは、漢語由来の「ゃ」をもつ者のようですね。
例:客[きゃく]→けぁぐ 山脈[さんみゃく]→さんめぁぐ 老若[ろうにゃく]→ろーねぁぐ 等々
5.ラ行音
『秋田方言』は、「此の音の性質未だ判然しない」といっていますが、具体的な発音の説明はなし。
まぁ、現代秋田弁を聞く限りでは特に違いはありませんので、当サイトとしましても標準語と同じということにします。
つまり、「ラ行音[r]+あいうええぁお」で「らりるれれぁろ」がつくられるというわけですね。
6.ワ行音
標準語の「わ」の行音[w]ですね。
秋田弁でも同じ行音[w]です。
秋田弁では、「わ」「ゑ」「ゑぁ」の三音があります。「ワ行音[w]+あええぁ」で発音される音ですね。
例:悪い→わり 青い→あゑ 淡い→あゑぁ 等々
現代日本語では、英語などからの借用語で「ウィンウィンな関係」とか言いますので、そういう外来語を表したい場合は、秋田弁でも「ゐ[wi]」を使っていいかと思ってます。「ゐんゐん[winwin]だ関係」みたいにね。
終わりに
以上で今回の勉強もおしまいです。
これで秋田弁の母音・子音については一通り学び終えました。
あとは、撥音「ん」促音「っ」の話とこれまで取りこぼし、それからこれらすべてのまとめをやって秋田弁発音講座はおしまいです。
ともあれ、今回はこの辺で。へばな。
関連ページ
- 第1課:母音
- このページでは、秋田弁の母音について勉強していきます。
- 第2課:無声母音
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 第3課:鼻母音
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 第4課:子音①「カ行音」
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 第5課:子音②「サ行音」
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 第6課:子音③タ行音
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 追記1:鼻母音の発音方法
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 第8課:長音・促音・撥音
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- 第9課:その他取りこぼし。
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 第10課:文の発音
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- 追記2:接頭辞・接尾語と発音変化
- このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
- 最終課:秋田方言文字表記法
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