秋田方言・秋田弁発音講座

最終課:秋田方言文字表記法

秋田方言・秋田弁発音講座最終課:秋田方言文字表記法

 みなさん、こんにちは。

 

 今回は、発音講座のシメとして、秋田弁の仮名表記、ローマ字表記、韻文作成法等、秋田方言の文字表記について、まとめてみたいと思います。

 

 なお、仮名表記、ローマ字表記は、本課で掲げる各表の表記に準じるものとします。

 

 また、これらはあくまで当サイトで書く秋田方言表記の定めです。実際の秋田弁自体には、決まった書き方があるわけではありません。

1.秋田弁の母音

 秋田弁のあらゆる音節は、「母音+子音」によって構成されています。

 

 秋田弁の母音は、以下の通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋田弁母音一覧表

純母音

[a]

[i]

[u]

[e]

えぁ[æ]

[o]

鼻母音

あン[ã]

いン[ĩ]

うン[ũ]

えン[]

えぁン[æ̃]

おン[õ]

無声母音

 

     

長純母音

あー[aa]

いー[ii]

うー[uu]

えー[ee]

えぁー[ææ]

おー[oo]

長鼻母音

あーン[ãã]

いーン[ĩĩ]

うーン[ũũ]

えーン[ẽẽ]

えぁーン[æ̃æ̃]

おーン[õõ]

備考:鼻母音「えぁン」のローマ字表記が「æ̃」と、他の鼻母音とやや趣の異なる書き方になっていますが、これは単にパソコンで「æ」と「̃」をひとますに入れられないことから生じた表記差です。実際には「æ」の上に「̃」が乗っかっているものと思ってください。

 

 秋田弁の子音に関しては、次の項の「カ行[k]」「ガ行[g]」「カ゚行[ŋ]」の[]で囲まれたところをご覧ください。それが秋田弁の各行音=子音となります。

2.秋田弁の五十音図

 秋田弁の文字表記とその発音についてまとめたものを以下に掲げます。知識の整理にお役立てください。太字は、標準語のヘボン式ローマ字表記と違う箇所を指しています。

 

①秋田弁五十音図

 

 

ア段

イ段

ウ段

エ段

エァ段

オ段

ア行

[a]

[i]

[u]

[e]

えぁ[æ]

[o]

カ行[k]

[ka]

[ki]

[ku]

[ke]

けぁ[kæ]

[ko]

ガ行[g]

[ga]

[gi]

[gu]

[ge]

げぁ[gæ]

[go]

カ゚行[ŋ]

[ŋa]

き゚[ŋi]

く゚[ŋu]

け゚[ŋe]

け゚ぁ[ŋæ]

こ゚[ŋo]

サ行[s]

[sa]

[si]

[su]

[se]

せぁ[sæ]

[so]

ザ行[dz]

[dza]

[dzi]

[dzu]

[dze]

ぜぁ[dzæ]

[dzo]

シャ行[sh]

しゃ[sha]

 

しゅ[shu]

しぇ[she]

しぇぁ[shæ]

しょ[sho]

ジャ行[zh]

じゃ[zha]

 

じゅ[zhu]

じぇ[zhe]

じぇぁ[zhæ]

じょ[zho]

タ行[t]

[ta]

[tsi]

[tsu]

[te]

てぁ[tæ]

[to]

ダ行[d]

[da]

[dzi]

[dzu]

[de]

でぁ[dæ]

[do]

チャ行[ch]

ちゃ[cha]

 

ちゅ[chu]

ちぇ[che]

ちぇぁ[chæ]

ちょ[cho]

ヂャ行[zh]

ぢゃ[zha]

 

ぢゅ[zhu]

ぢぇ[zhe]

ぢぇぁ[zhæ]

ぢょ[zho]

ツァ行[ts]

つぁ[tsa]

 

 

つぇ[tse]

つぇぁ[tsæ]

つぉ[tso]

ヅァ行[dz]

づぁ[dza]

 

 

づぇ[dze]

づぇぁ[dzæ]

づぉ[dzo]

ナ行[n]

[na]

[ni]

[nu]

[ne]

ねぁ[næ]

[no]

ハ行[h]

[ha]

[hi]

[fu]

[he]

へぁ[hæ]

[ho]

ファ行[f]

ふぁ[fa]

ふぃ[fi]

 

ふぇ[fe]

ふぇぁ[fæ]

ふぉ[fo]

パ行[p]

[pa]

[pi]

[pu]

[pe]

ぺぁ[pæ]

[po]

バ行[b]

[ba]

[bi]

[bu]

[be]

べぁ[bæ]

[bo]

マ行[m]

[ma]

[mi]

[mu]

[me]

めぁ[mæ]

[mo]

ヤ行[y]

[ya]

 

[yu]

   

[yo]

ラ行[r]

[ra]

[ri]

[ru]

[re]

れぁ[ræ]

[ro]

ワ行[w]

[wa]

[wi]

 

[we]

ゑぁ[wæ]

[wo]

 

②秋田弁五十音図拗音表

 

カ行[ky]

きゃ[kya]

 

きゅ[kyu]

   

きょ[kyo]

ガ行[g]

ぎゃ[gya]

 

ぎゅ[gyu]

 

 

ぎょ[gyo]

カ゚行[ŋ]

き゚ゃ[ŋya]

 

き゚ゅ[ŋyu]

 

 

き゚ょ[ŋyo]

ナ行[n]

にゃ[nya]

 

にゅ[nyu]

 

 

にょ[nyo]

ハ行[h]

ひゃ[hya]

 

ひゅ[hyu]

 

 

ひょ[hyo]

ファ行[f]

ふゃ[fya]

 

ふゅ[fyu]

 

 

ふょ[fyo]

パ行[p]

ぴゃ[pya]

 

ぴゅ[pyu]

 

 

ぴょ[pyo]

バ行[b]

びゃ[bya]

 

びゅ[byu]

 

 

びょ[byo]

マ行[m]

みゃ[mya]

 

みゅ[myu]

 

 

みょ[myo]

ラ行[r]

りゃ[rya]

 

りゅ[ryu]

 

 

りょ[ryo]

 

 一覧は、子音+純母音の組み合わせをまとめたものです。

 

 鼻母音と組み合わせた場合には、「かンきンくンけンけぁンこ」「がンぎンぐンげンげぁンごン」等と、長純母音と組み合わせた場合には、「かーきーくーけーけぁーこー」「がーぎーぐーげーげぁーごー」等と、長鼻母音と組み合わせた場合には「かーンきーンくーンけーンけぁーンこーン」「がーンぎーンぐーンげーンげぁーンごーン」等となります。

 

 無声母音に関しては、当サイトではいちいち表記はいたしません。なので「た」は「きた」、「か」は「しか」、「かり」は「ひかり」というふうに、無声母音用の表記はしないことになりますのでご留意願います。

3.促音「っ」の字表記

 促音は、標準語同様、「っ」で以て表すこととします。

 

 また、促音のローマ字表記は、促音の直後の子音と同じローマ字で以て表すこととします。

 

 但し、ザ行ヅァ行[dz]、シャ行[sh]、ジャ行ヂャ行[zh]、チャ行[ch]、ツァ行[ts]など、二つのローマ字で表されている子音については、二つあるうちの最初のローマ字でもって促音「っ」の音を表すものとします。

 

促音表記例一覧表:太字はローマ字二文字で表す子音の行

 

ア段

イ段

ウ段

エ段

エァ段

オ段

+カ行[kk]

っか[kka]

っき[kki]

っく[kku]

っけ[kke]

っけぁ[kkæ]

っこ[kko]

+ガ行[gg]

っが[gga]

っぎ[ggi]

っぐ[ggu]

っげ[gge]

っげぁ[ggæ]

っご[ggo]

+サ行[ss]

っさ[ssa]

っし[ssi]

っす[ssu]

っせ[sse]

っせぁ[ssæ]

っそ[sso]

+ザ行[ddz]

っざ[ddza]

っじ[ddzi]

っず[ddzu]

っぜ[ddze]

っぜぁ[ddzæ]

っぞ[ddzo]

+シャ行[ssh]

っしゃ[ssha]

 

っしゅ[sshu]

っしぇ[sshe]

っしぇぁ[sshæ]

っしょ[ssho]

+ジャ行[zzh]

っじゃ[zzha]

 

っじゅ[zzhu]

っじぇ[zzhe]

っじぇぁ[zzhæ]

っじょ[zzho]

+タ行[tt]

った[tta]

っち[ttsi]

っつ[ttsu]

って[tte]

ってぁ[ttæ]

っと[tto]

+ダ行[dd]

っだ[dda]

っぢ[ddzi]

っづ[ddzu]

っで[dde]

っでぁ[ddæ]

っど[ddo]

+チャ行[cch]

っちゃ[ccha]

 

っちゅ[cchu]

っちぇ[cche]

っちぇぁ[cchæ]

っちょ[ccho]

+ヂャ行[zzh]

っぢゃ[zzha]

 

っぢゅ[zzhu]

っぢぇ[zzhe]

っぢぇぁ[zzhæ]

っぢょ[zzho]

+ツァ行[tts]

っつぁ[ttsa]

 

 

っつぇ[ttse]

っつぇぁ[ttsæ]

っつぉ[ttso]

+ヅァ行[ddz]

っづぁ[ddza]

 

 

っづぇ[ddze]

っづぇぁ[ddzæ]

っづぉ[ddzo]

+パ行[pp]

っぱ[ppa]

っぴ[ppi]

っぷ[ppu]

っぺ[ppe]

っぺぁ[ppæ]

っぽ[ppo]

+バ行[bb]

っば[bba]

[bbi]

っぶ[bbu]

っべ[bbe]

っべぁ[bbæ]

っぼ[bbo]

+ラ行[rr]

っら[rra]

[rri]

っる[rru]

っれ[rre]

っれぁ[rræ]

っろ[rro]

備考:促音は、直後の子音の入声音(発声する直前の音。実際には音は出ていない)なので、本来なら「っざ」「っしゃ」「っじゃ」等も「dzdza」「shsha」「zhzha」等と書くべきでしょうが、表記の便を図るため、簡略化致しました。

4.撥音「ん」の表記

 秋田弁の撥音は、標準語同様、「ん」で以て表すことにします。

 

 撥音のローマ字表記は、カ行・ガ行・カ゚行音前では[ŋ]を、パ行・バ行・マ行音前では[m]を、それ以外では[n]を使用することとします。

 

撥音表記例一覧表:太字は標準語のヘボン式ローマ字の撥音表記と異なる部分を指す。

 

ア段

イ段

ウ段

エ段

エァ段

オ段

+ア行[n’]

んあ[n’a]

んい[n’i]

んう[n’u]

んえ[n’e]

んえぁ[n‘æ]

んお[n’o]

+カ行[ŋk]

んか[ŋka]

んき[ŋki]

んく[ŋku]

んけ[ŋke]

んけぁ[ŋkæ]

んこ[ŋko]

+ガ行[ŋg]

んが[ŋga]

んぎ[ŋgi]

んぐ[ŋgu]

んげ[ŋge]

んげぁ[ŋgæ]

んご[ŋgo]

+カ゚行[ŋŋ]

んか[ŋŋa]

んき゚[ŋŋi]

んく゚[ŋŋu]

んけ゚[ŋŋe]

んけ゚ぁ[ŋŋæ]

んこ゚[ŋŋo]

+サ行[ns]

んさ[nsa]

んし[nsi]

んす[nsu]

んせ[nse]

んせぁ[nsæ]

んそ[nso]

+ザ行[ndz]

んざ[ndza]

んじ[ndzi]

んず[ndzu]

んぜ[ndze]

んぜぁ[ndzæ]

んぞ[ndzo]

+シャ行[nsh]

んしゃ[nsha]

 

んしゅ[nshu]

んしぇ[nshe]

んしぇぁ[nshæ]

んしょ[nsho]

+ジャ行[nzh]

んじゃ[nzha]

 

んじゅ[nzhu]

んじぇ[nzhe]

んじぇぁ[nzhæ]

んじょ[nzho]

+タ行[nt]

んた[nta]

んち[ntsi]

んつ[ntsu]

んて[nte]

んてぁ[ntæ]

んと[nto]

+ダ行[nd]

んだ[nda]

んぢ[ndzi]

んづ[ndzu]

んで[nde]

んでぁ[ndæ]

んど[ndo]

+チャ行[nch]

んちゃ[ncha]

 

んちゅ[nchu]

んちぇ[nche]

んちぇぁ[nchæ]

んちょ[ncho]

+ヂャ行[nzh]

んぢゃ[nzha]

 

んぢゅ[nzhu]

んぢぇ[nzhe]

んぢぇぁ[nzhæ]

んぢょ[nzho]

+ツァ行[nts]

んつぁ[ntsa]

 

 

んつぇ[ntse]

んつぇぁ[ntsæ]

んつぉ[ntso]

+ヅァ行[ndz]

んづぁ[ndza]

 

 

んづぇ[ndze]

んづぇぁ[ndzæ]

んづぉ[ndzo]

+ナ行[nn]

んな[nna]

んに[nni]

んぬ[nnu]

んね[nne]

んねぁ[nnæ]

んの[nno]

+ハ行[nh]

んは[nha]

んひ[nhi]

んふ[fu]

んへ[nhe]

んへぁ[nhæ]

んほ[nho]

+ファ行[nf]

んふぁ[nfa]

んふぃ[nfi]

 

んふぇ[nfe]

んふぇぁ[nfæ]

んふぉ[nfo]

+パ行[mp]

んぱ[mpa]

んぴ[mpi]

んぷ[mpu]

んぺ[mpe]

んぺぁ[mpæ]

んぽ[mpo]

+バ行[mb]

んば[mba]

んび[mbi]

んぶ[mbu]

んべ[mbe]

んべぁ[mbæ]

んぼ[mbo]

+マ行[mm]

んま[mma]

んみ[mmi]

んむ[mmu]

んめ[mme]

んめぁ[mmæ]

んも[mmo]

+ヤ行[ny]

んや[nya]

 

んゆ[nyu]

   

んよ[nyo]

+ラ行[nr]

んら[nra]

んり[nri]

んる[nru]

んれ[nre]

んれぁ[nræ]

んろ[nro]

+ワ行[nw]

んわ[nwa]

んゐ[nwi]

 

んゑ[nwe]

んゑぁ[nwæ]

んを[nwo]

備考:撥音のローマ字表記は、本来の発音通りに書けば、もっと複雑になるのですが、表記の便を図るため、上記のような大雑把な表記をすることに決めた次第です。上の撥音の表記は、概ね標準語のヘボン式ローマ字表記に従っています。

5.秋田方言文章表記規則

 秋田方言の文の発音に関しては、第10課で述べた通りです。

 

 ただ、実際に秋田方言の文章を綴る際には、以下のような規則に従って書くことにしたいと思います。

 

秋田方言文章表記規則

①原則として、本課1~4で掲げた各表に従い、これを表記する。
②ただし、無声母音は、表記しない。
②ただし、鼻母音は、表記しない。
③ただし、「鼻母音+ダ行・ヂャ行・ヅァ行」となる場合には、必ずこれを表記する。

説明:無声母音と鼻母音を表記しないのは、規則を知っていれば表記がなくとも容易に発音を再現できるからです。ただ、「鼻母音+ダ行音」「鼻母音+ヂャ行」「鼻母音+ヅァ行」に関しては、規則だけでは発音を再現できません。故にこの時だけは鼻母音の表記を許すことにしたのです。

 

例1:単語「北」「嗅く゚」「肌[はンだ]」

実際の発音(仮名):きた かンく゚ はンだ
秋田方言表記:きた かく゚ はンだ
ローマ字表記:kita kaŋu hãda

 

例2:文の例①

実際の発音:俺[おれ]ンにンも会[あ]うンに来[き]てけだ。

 

秋田方言表記:俺[おれ]にも会うに来てけだ。

 

ローマ字表記:Ore-ni-mo au-ni ki-te ke-da.

 

例3:文の例②

実際の発音:昨日[きンのー]ンだンばん前[め]ぁンも忙[いそが]しがったンべンどンもせぁ、毎日[まいンにぢ]そー働[はだらい]でンばりいるわげンでンだンばンねぁンなンだンべ?

 

秋田方言表記:昨日ンだばん前も忙しがったべンどもせぁ、毎日そー働いでばりいるわげンでンだばねぁなンだべ?

 

ローマ字表記:Kinõõ-daba mmæ-mo isogasigat-ta-bẽ-domo-sæ,mainidzi soo hadarai-de-bari iru wagẽ-dẽ-daba(-)næ-nãda-be?

 

例4:文の例③

実際の発音:おれンだンば昔[むがし]がらこんたごどンばりしてあったンどンもせぁ、一回ンも人どさ迷惑かげだごどンだンばンねぁンなンだやは。

 

秋田方言表記:おれンだば昔がらこんたごどばりしてあったンどもせぁ、一回も人どさ迷惑かげだごどンだばねぁなンだやは。

 

ローマ字表記:Orẽ-daba mugasi-gara konta godo-bari si-te at-tã-domo-sæ,ikkai-mo hito -dosa meewagu kage-da godõ-daba(-)næ-nãda-ya-ha.

参考1:ローマ字文の書き方について

 秋田方言のローマ字文について、しっかりとした説明はまだだったので、ここで改めてやっておこうかと思います。

 

原則:一単語で一区切りとします。そして単語毎に半角スペース「 」を入れ、単語間を分かつこととします。

例:こんだ本→konda hon あんだ人→anda hito

 

例外1:但し、接頭辞・接尾語は、半角イコール記号「=」で繋げることとします。

例:お客→o=gyagu ご近所→go=ginzho 神さん→kami=san お月さん→o=dzuki=san

 

例外2:但し、秋田方言の文における助詞・助動詞の濁音化・鼻母音化・無声母音化の規則を考慮し、助詞・助動詞は、前の語に半角ハイフン「-」でもって繋げることとします。

例:俺の本→ore-no hon お客さんも来ねぁ→o=gyaku=san-mo ko-næ

 

 本課5で出した例文のローマ字表記も、すべてこの表記法に従っております。

 

 まぁ秋田方言をわざわざローマ字で書く機会はまずないかと思いますが、参考にしてください。

 

 なお、標準語では、ローマ字文の分かち書きについては、特に定めはありません。基本的に日本語のローマ字文は、訓令式ローマ字表記やヘボン式ローマ字表記を参考にしながら、各自の判断で書かれている模様です。

6.韻文文章作成時の長音・促音・撥音の音の分量表記規則

 標準語では、俳句・川柳・短歌などの韻文がありますが、五・七・五や五・七・五・七・七のリズムは、日本語の一種である秋田弁にとっても相性がいいものです。

 

 しかしながら、秋田弁には秋田弁の音韻体系がありますので、秋田弁を以て韻文を作成する際には、その音韻上の特徴を存分に生かすことが望ましいと考えます。

 

 以下、秋田弁で韻文の文章を作る際の指針を、私の秋田弁の言語感覚に基づいて提案致しましょう。

 

原則:標準語と同じで、一文字一音節と数える。

例1:し・ん・ぶ・ん・(4音節)
例2:き・っ・て(3音節)
例3:コ・-・ヒ・-(4音節)

 

例外:長音「ー」、促音「っ」、撥音「ん」は、第9課の音の分量規則に従い、書き手の任意でゼロ音節としてもよい。その場合には、半角カナ文字「ー」「ッ」「ン」を以て長音・促音・撥音の短形を表すものとする。

例1:しン・ぶン(2音節)
例2:きッ・て(2音節)
例3:コ-・ヒ-(2音節)
例4:し・ん・ぶン(3音節)
例5:コ・-・ヒ-(3音節)

 

備考1:撥音の短形「ン」は、当サイトの解釈では、正確には前の音節の母音を鼻母音にしたものです。音の分量規則については、詳しくは第9課をご参照ください。
備考2:長音短形「-」、促音短形「ッ」、撥音短形「ン」の表記に関しては、韻文文章専用の表記法ということに致します。通常の文章では、第9課で述べました通り、「ー」「っ」「ん」という通常の表記に統一する所存です。

韻文実例集

 以下の韻文は、いずれも私が適当に作ったものです。実際の韻文を見れば、秋田弁のリズムの自由さを感じられるかと思います。

 

1.五七五の韻文の例

凡例:/は区切り、()内の数字は、その区切り内の音節数を表します。

 

例①:新聞紙 広け゚で見れば 広告紙

解説:「し・ん・ぶ・ん・し(5)/ひ・ろ・け゚・で・み・れ・ば(7)/こ・ー・ご・ぐ・し(5)」。
意味:「新聞紙/広げてみると/広告紙」。

 

例②:新聞紙どご 広け゚で見れば 広告紙だ

解説:「しン・ぶン・し・ど・ご(5)/ひ・ろ・け゚・で・み・れ・ば(7)/こ・ご・ぐ・しン・だ(5)」。
意味:「新聞紙を/広げてみると/広告紙である」。

 

例③:経営戦略 方言で言えば けーせりゃぐ

解説:「けー・えー・せン・りゃ・ぐ(5)/ほ・ー・け゚ン・で・い・え・ば(7)/け・ー・せ・りゃ・ぐ(5)」。
意味:「経営戦略/方言で言うと/けーせりゃぐ」。

 

2.五七五七七の韻文の例:
例①:親心 心配ぁしてだあじ 関係ねぁどッて 子かッて言わえで やッとがわがった

解説:「お・や・こ゚・ご・ろ(5)/しン・・ぺぁ・し・て・だ・あ・じ(7)/かン・けー・ねぁ・どッ・て(5)/こ・かッ・て・い・わ・え・で(7)/やッ・と・が・わ・が・っ・た(7)」。
意味:「親心/心配しているのに/(お前に)関係ないと/子供に言われて/やっとわかった」。

 

例②:手に職も 夢も健康も 銭ッこもねぁ そンだえンだ人生だじ なしてこー長け゚ぁべ

解説:「て・に・しょ・ぐ・も(5)/ゆ・め・も・け・ん・こー・も(7)/じぇ・んッ・こ・も・ねぁ(5)/そン・だ・えン・だ・じン・せーン・だ・じ(8)/な・し・て・こー・な・け゚ぁ・べ(7)」。
「人生だじ」は、「人生だあじ」が約まったもの。「あじ」は前の音節がア段の音である時、短縮して「あ」を脱落させることがあります。
意味:「手に職も/夢も健康も/お金もない/そのような人生なのに/どうしてこうも長いだろう」。

 

例③:人生の 初め苦しば その傷の 一生残るッて 誰想像したべ

解説:「じ・ん・せ・ー・の(5)/は・じ・め・く・る・し・ば(7)/そ・の・き・ず・の(5)/い・っ・しょー・の・ご・るッ・て(7)/だ・え・そー・ぞー・し・た・べ(7)」。
意味:「人生の/初めが苦しいと/その傷が/一生残ると/誰が想像しただろう」。

 

例④:暗れぁ夜の 空で輝ぐ 月さんの 光手に取ッて 明日さ旅立づ

解説:「く・れぁ・よ・る・の(5)/そ・ら・で・か・か゚・や・ぐ(7)/つ・ぎ・さ・ん・の(5)/ひ・か・り・て・に・とッ・て(7)/あ・し・た・さ・た・びン・だ・づ(8)」。
意味:「暗い夜の/空に輝く/月様の/光を手に取り/明日に旅立つ」。

 

例⑤:先見えねぁ 人生どごなンとすッて 考ぁだたッて 心配ぁなるばりンで ゆぎゆぎでぁごど

解説:「さ・ぎ・み・え・ねぁ(5)/じン・せー・ど・ご・なン・と・すッ・て(8)/か・け゚ぁ・だ・たッ・て(5)/しン・ぺぁ・な・る・ば・りン・で(7)/ゆ・ぎ・ゆ・ぎ・でぁ・ご・ど(7)」。
意味:「先が見えない/人生をどうしようってんだい/考えたとしても/心配になるばかりで/(ああ、)ふらふらだなぁ」

 

 例示は以上で終了です。いかがでしたでしょうか?

 

 近頃秋田県では、テレビなどで「秋田弁川柳」なるものが募集されたりしています。そのうち方言の韻文と言うのも、盛んに作られる時代が来るかもしれませんね。

 

 ともあれ、この記事が、秋田方言で韻文を書く際の一助となれば幸いです。

 

参考2:韻文の主格の「の」
 先に例に挙げた秋田弁韻文は、みな秋田弁の文法に従って書かれたものですが、一つだけ例外があるので、それについてお話しておきます。

 

 その例外とは、例③の「その傷一生残る」の「傷」の「の」の部分です。

 

 「傷一生残る」とは、「傷一生残る」の意味ですが、本来、秋田弁では、「~が…する。」の「が」の意味では、「の」は使われません

 

 なので、本来の秋田弁の文法に従えば、「その傷の」は「その傷か゚」でなければならないのです。

 

例③の韻文:「人生の 初め苦しば その傷の 一生残るッて 誰想像したべ」
本来の秋田弁文:「人生の 初め苦しば その傷か゚ 一生残るッて 誰想像したべ」

 

 それなのになぜわざわざ「の」という文語的な表現を入れたのかというと、…まぁあれです。「か゚」と書くと流石に韻文という感じが薄れてしまうという私の個人的な感覚のせいです。

 

 短歌なので、多少は文語的な雰囲気を醸し出したい。じゃなきゃなんか味が出ない。そんな私の独断で、主格の「~が」の意味で「の」を採用した次第でございます。

終わりに

 以上にて、今回の勉強もおしまいです。

 

 そして、今回の勉強でもって、この発音講座の勉強も終わりとなります。

 

 秋田方言の発音に関しては、私の知る限りのことは、この発音講座にて、すべてお話ししたつもりです。

 

 第1課から第10課までは実際の発音についてのお話を、この最終課では、秋田方言の五十音図と、これから秋田方言で文章を書いていく際の表記法についてお話いたしました。

 

 今後、当サイトで書かれる秋田方言の単語および文章は、発音は第1課から第10課の記述の通りに、表記は、この最終課の表記法に、すべて従うものとお考えください。

 

 ともあれ、みなさま、お疲れさまでした。

 

 それではまた会う日まで、へばな。

 

 

関連ページ

第1課:母音
このページでは、秋田弁の母音について勉強していきます。
第2課:無声母音
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
第3課:鼻母音
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
第4課:子音①「カ行音」
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
第5課:子音②「サ行音」
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
第6課:子音③タ行音
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
第7課:子音③「その他」
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
追記1:鼻母音の発音方法
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第8課:長音・促音・撥音
このページでは、『秋田方言』の音韻篇を参考に、秋田弁の発音について勉強していきます。
第9課:その他取りこぼし。
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第10課:文の発音
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追記2:接頭辞・接尾語と発音変化
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