秋田方言・秋田弁発音講座

第4課:子音①「カ行音」

秋田方言・秋田弁発音講座第4課:子音①「カ行音」

 みなさんこんにちは。齶田浦です。

 

 今回からは、秋田方言・秋田弁の子音についての解説を進めて参りたいと思います。特に今回は、カ行の子音について勉強します。

1.子音とは?

 子音とは、日本語的に説明すると。「行」の音のことです。

 

 行の音…色々ありますよね。カ行[k]・サ行[s/sh]・タ行[t/ch/ts]・ナ行[n]・ハ行[h/f]・マ行[m]・ヤ行[y]・ラ行[r]・ワ行[w]・ガ行[g]・バ行[b]・パ行[p]などなど。

 

 これらに母音「あいうえお」をつけることで、「かきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほ…」などと日本語のあらゆる音がつくられるわけですから、まぁ子音=行音は、母音と並ぶ言語形勢の超重要要素ということができますね。

 

 今回からは、まさにその重要音素たる「子音」=「行音」の、秋田弁バージョンを勉強していくわけでありますよ。

2.秋田方言・秋田弁のカ行音の種類

 秋田弁のカ行音は、大きく分けて三つあります。

①カ行音[k]…標準語の「かきくけこきゃきゅきょ」の行音と同じ。
②ガ行音[g]…標準語の「がぎぐげごぎゃぎゅぎょ」の行音と同じ。
③カ゚行音[ŋ]…標準語では表記されない音。『秋田方言』では、「か゚き゚く゚け゚こ゚き゚ゃき゚ゅき゚ょ」のように、カ行音+半濁点「゜」で以て表現されている。当サイトもこれに従う。

説明:①は清音、②は純濁音、③は鼻濁音と言います。

 

 このうち①②については、見ての通り標準語のカ行音・ガ行音と同じなので説明いたしません。

 

 問題は③ですね。この音は、通称「鼻濁音」と言われる音で、秋田弁のみならず、東北方言に広く見られる音です。

 

 とはいえ、実はこの音は、ひそかに標準語でも、表記されていないだけで無意識に使っている音だったりするので、発音の習得自体はそう難しくないかと思います。

 

 以下、その発音方法について書きたいと思います。

3.鼻濁音「カ゚」行音の発音方法

 それでは早速、以下の手順に従って発音してみましょう。

 

発音方法:

①標準語で「案外[あんがい]」の「あんが」まで言ってみてください。そのうちの「ん」と「が」が、鼻から抜ける音になっているはずです。この時の「が」の音が、秋田弁における「か゚」の音となります。
②「あんがい」で、「か゚」の音が出せました。後はその鼻から抜ける「が」の感覚を覚えて、「んが」「んぎ」「んぐ」「んげ」「んご」「んぎゃ」「んぎゅ」「んぎょ」などと練習しましょう。

 

 いかがでしたか?感覚は分かりましたか?「か゚き゚く゚け゚こ゚き゚ゃき゚ゅき゚ょ」は、感覚的には「んか゚んき゚んく゚んけ゚んこ゚んき゚ゃんき゚ゅんき゚ょ」というふうに、直前に小さく短く「ん」を言ってしまう感じなると思いますが、それで正解ですよ。

4.標準語語彙と秋田方言語彙のカ行音の対応関係

 さて、お次は標準語と秋田弁の語彙の対応関係に関わる問題です。

 

 これが分かると相当量の秋田弁語彙が、標準語から簡単に導き出せるので、しっかり覚えることをお勧めしますよ。

 

①標準語語彙のカ行と秋田弁語彙のガ行との対応関係。
 まずは標準語のカ行と秋田弁のガ行の対応関係から。

 

標準語の「行く」が秋田弁で「行ぐ」、標準語の「資格[しかく]」が秋田弁で「資格[しかぐ]」となるように、標準語語彙のカ行音-秋田弁語彙のガ行音間には、なんらかの対応関係があります。

 

今、その対応関係を以下に明示したいと思います。

 

(1)原則:標準語語彙で、二音節目以降のカ行音は、対応する秋田弁語彙では、みなガ行音となります。

例:書く→書ぐ 咲く→咲ぐ 赤[あか]→あが 静かだ→静がンだ 等々

説明:音節とは、「くるしむ」なら、「く」が第一音節、「る」が第二音節、「し」が第三音節、「む」が第四音節。日本語的には平仮名一音につき一音節と数えることができますね。今回のルールは第二音節以降なので、要するに単語の一番最初の音より後ろのカ行音すべてということになります。

 

(2)例外1:但し、標準語で「っ+カ行音」の音は、対応する秋田弁でも「っ+カ行音」です。

例:びっくりする→びっくりする はっきり→はっきり 等々

説明:『秋田方言』には書いていない規則です。これもいつものように、現代秋田弁の使用状況から補足いたしました。…ええ、誰も「ぴっぐり」だの「はっぎり」だのとは言いませんとも。

 

(3)例外2:但し、標準語で「ん+カ行音」の音は、対応する秋田弁でも「ん+カ行音」です。

例:判子[はんこ]→はんこ 演歌[えんか]→えんか 等々

説明:これも『秋田方言』には書かれていませんでした。同じく現代秋田弁の使用状況から補足した次第であります。

 

(4)例外3:但し、標準語で「『きくしすちつひふぴぷきゅしゅ』+カ行音」なら、秋田弁でも「『きくしすちつひふぴぷきゅしゅ』+カ行音」です。つまり「無声母音音節+カ行音」。

例:機械[きかい]→きかい 区間[くかん]→くかん 資格[しかく]→しかぐ 不快[ふかい]→ふかい ピカソ→ピカソ 手記[しゅき]→しゅき 等々

説明:「きがい」「くがん」「しがぐ」「ふがい」「ピガソ」「しゅぎ」などとなっていませんね。このルールは、『秋田方言』には書かれていないルールです。現代秋田弁の使用状況から補足致しました。『秋田方言』筆者も、p91の記述を見る限り、濁音化が無声母音の後ろでは起こらないことに気づいてはいたようですが。

 

②標準語語彙のガ行と秋田弁語彙のカ゚行との対応関係。

原則:標準語で、二音節目以降のカ行音は、対応する秋田弁では、みなカ゚行音となります。

例:剥[は]ぐ→はンく゚ 研[と]ぐ→とンく゚ 記号[きごー]→きンこ゚ー 称号[しょーごー]→しょーンこ゚ー 暗号[あんごー]→あんこ゚ー 等々

説明:こちらは例外がないので楽ですね。しいて注意を言うなら、カ゚行の前の音の母音は必ず鼻母音となるというルールを忘れないようにしましょう。

5.標準語の複合語と秋田弁の複合語の対応関係

 さて、今までは単語の音の対応関係について話してきましたが、単語の中には複合語というやや厄介なものがあります。

 

 例えば「塵取り」。これは一つの単語ではありますが、話者的には「塵を取るから塵取り」と理解していることが多いですよね。こういう時、話し手は無意識のうちに、一単語にすぎない「ちりとり」を、「ちり-とり」と、意味毎に分けているものです。

 

 このように、話者が自身の理解で、1つの単語を2つ以上の単語に分けてしまっている場合は、4で習った標準語-秋田弁間の対応関係もちょっぴり複雑になります。

 

 以下の例をご覧ください。

 

例1:知恵比べ[ちえくらべ]→△:ちえぐらンべ ○:ちえ-くらンべ
例2:大腸癌[だいちょーがん]→△:だいぢょーンか゚ん ○:だいぢょー-がん

 

 標準語の「ちえくらべ」は、一つの単語として見れば、秋田弁では「ちえぐらンべ」となるはずです。ですが話者の理解で「ちえ-くらべ」というふうに、二つの単語からなる複合語として認識していた場合、秋田弁では「ちえ」と「くらべ」とを、個別に4で習ったルールに適合させて、「ちえ」「くらンべ」とし、それをくっつけて「ちえ-くらンべ」とします。

 

 同様に、標準語の「だいちょーがん」も、一つの語彙として見て秋田弁に直せば「だいぢょンーか゚ん」です。ですが、話者が「大腸」の「癌」というように、これを複数の単語から成った複合語として認識できていた場合には、「だいちょー」と「がん」を個別に4のルールで訛らせて、「だいぢょー」+「がん」=「だいぢょー-がん」とするのです。

 

 もっとも、これはあくまでも話者が複合語と認識しているかどうかに依存している現象なので、話者が「ちえくらべ」の意味内容を考えずに一つの単語とみなしている場合には「ちえぐらンべ」となりますし、「だいちょーがん」も「だいぢょンーか゚ん」が正解になります。上の例で△印をつけたのもそのためですね。

 

 一概にどちらが正解とも言えない曖昧な話ではありますが、まぁそういうルールですので、一応覚えておいてください。

6.「き」「ぎ」の発音

 面倒な対応関係のルールについての説明が終わったところで、秋田方言のカ行・ガ行・カ゚行音の発音上の注意をば一つ。

 

 実は秋田弁の「き」「ぎ」というのは、標準語とはかなり違った感じの音に聞こえます。たとえば「き」の音。秋田弁の「き」の音は、『秋田方言』の言葉を借りるなら、「kiよりは、ksiの如く摩擦的性質を帯びてるやうに思はれる。」(p23)。

 

 要はカ行音でありながら、サ行音のような音が混じっていると言いたいようです。

 

 また同様に、「き」「ぎ」の説明として、『秋田方言』には「き・ぎは舌本少しく低く舌頭稍昴つてksi gsiの如く発せられる。」(p24)というのもあります。

 

 ただ、これについてはちょっと補足。こう特筆されているからと言って「き」「ぎ」のみ他の「い」段音と別な言い方をしろというわけではありません。カ行音・ガ行音+秋田弁の母音「い」で言えば、いやでもそういう音になります。

 

 これは単に、そういうふうに「聞こえる」というだけの、標準語話者視点でのお話しなのです。

 

参考:なお『秋田方言』によりますと、「き」は母音「い」の影響で「ち」に近い音に発せられることもあるそうです。これは現代秋田弁では聞かない現象です。

7.拗音「くゎ」「ぐゎ」等の存在

 『秋田方言』によると、当時の秋田方言では、「くゎ」「ぐゎ」「くぅぇ」などの音が存在していたらしいです。

例:くぅぇんくゎ[喧嘩]

 

 この音に関しては、実は今の秋田県でも、お年寄りが「くゎんづめ(缶詰め)」「くゎへる[食わせる]」「くぅぇ[食え]」などの語彙で使っていますね。

 

 あとよくよく聞いていると、「かんがえる」とか「かんたんだ」とかの「か」も、「くゎんがえる」「くゎんたんだ」と言ったりすることがあります。

 

 これらの発音に関しては個人差がありそうです。うちの祖母辺りだと「か」よりも「くゎ」の方が発音しやすいのか、しばしば「か」は「くゎ」みたく「う」を含んだような「か」の発音をします。まぁただの訛りとしてあんまり気にしない方がいい気がしています、私的には。

 

 とりあえずよく使われる「食わない」の「食わ」や「食え」あたりは「くゎ」「くぅぇ」で発音して、それ以外は普通に「か」でいいかと思っています、当サイト的には。

 

参考:「くぅぇ」の表記

 どうでもいいことですが、「くぅぇ」は『秋田方言』では「く」+小さい「ゑ」で書き表しています。当サイトとしてもそれに従いたいのですが…パソコンにそんな字ないんすよね。

 

 仕方ないので「ぅぇ」で代用させてもらってます。これは、「ぁぃぅぇぉ」の小さい文字の「ゑ」だと思ってください。

終わりに

 以上にて、秋田弁のカ行音の勉強は終わりです。

 

 いやぁ、ツカレタ…いや、今回の項、『秋田方言』の記述に粗[あら]が目立つと言いますかなんといいますか。

 

 …具体的に言いますと、①清音と濁音の説明してるのに、何故か濁音と鼻濁音のところにその解説を載せる(標準語の清音と秋田方言の濁音の対応関係)、②ルールは説明してるのに、具体例を一切出さない(複合語)、③理解はしているはずなのに、ちゃんと書いていない(無声母音とカ行の濁音化)等等ね。

 

 なんか、整理するのに凄い手間取ったといいますかなんといいますか。…愚痴っても仕方ないっすね。

 

 ともあれみなさん、おつかれさまでした。

 

 それでは今回はこの辺で。へばなー。

 

 

 

 

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