第76課:音韻変化⑤「撥音化」
みなさんこんばんは。
今回は、秋田市内で見られる秋田弁の發音化現象について勉強します。
1.撥音化についての知識確認
撥音化については前回冒頭で述べた通りである。つまり、言い易いように「ん」という発音に変わる現象のことを撥音化という。
例えば、標準語の「あるの?」が「あんの?」になったり、「おれのものだ」が「おれんもんだ」になったりするようなのを言うのである。
以下、秋田市の秋田弁の撥音化について具体的に述べていく。
2.「~ものンだ」→「~もんだ」となるのが普通。
そーいうものンだ。→そーいうもんだ。
そんだごど言うものンでねぁ。→そんだごど言うもんでねぁ。
良ー物[もの]ンだば買う。→良ー物[もん]だば買う。
説明:「~ものンだ」の「ンだ」は指定の助動詞「だ」。従ってその活用形たる「で」「であった」「だら」が付く時にもこのルールに従うことになる。
練習問題1:次の()内の秋田弁を、2のルールに従って書き直そう。
(1)働ぐって、心ど体ど削る(ものンだ)。(2)人ってそんだ(ものンだ)。(3)昔ンだばよぐそごンで遊んだ(ものンであった)。(4)人前[ひとめ]ぁンで泣ぐ(ものンでねぁ)。(5)はー、どーせ死ぬ(ものンだら)、最初がら生まれで来ねぁば良がったあじな。(6)欲し(ものンだば)買うたって、欲しぐねぁ(ものンだば)買わねぁ。
3.終助詞「もの」+「な」の「~ものな」→「もんな」「おんな」とも。
あれンだばまンだ子供ンだものな。
→あれンだばまンだ子供ンだもんな/子供ンだおんな。
秋田ンだば寒びものな。→秋田ンだば寒びもんな/寒びおんな。
説明:しばしば聞かれる現象。「おんな」と発音する際は、「ん」は普通きわめて短く発音され、ほとんど「おな」のように聞こえるほどである。
練習問題2:次の()内の秋田弁を、3のルールに従って書き換えてみよう。
(1)あーそっか。ん前ぁまンだ一年生ンだ(ものな)。へば分がらねぁして当だり前ぁンだな。(2)田舎ンだば人いねぁして静がンだ(ものな)。のンどがンでいもんだごど。(3)こごンだば夏暑っち(ものな)。クーラーねぁば大変だべ。
4.「なのって」→「なんて」と言うのが普通。
行ぐなのってンだば俺ら言わねぁや?→行ぐなんてンだば俺ら言わねぁや?
「んだべなー。」なのって、笑ってあったもんだ。
→「んだべなー。」なんて、笑ってあったもんだ。
説明:「なの[=など]」+「って[と]」で、標準語の引用の「などと」に当たる言葉である。標準語の「などと」同様、「なのって」は直接引用にも間接引用にも使用可能である。
補足①:因みに「なんて言っ」→「なんちゅっ」「なんつっ」と言うことも多い。
例①:おえ知らねぁなんて言ったたって、だえも信じでけねぁがったもんだっけ。
=おえ知らねぁなんちゅったたって、だえも信じでけねぁがったもんだっけ。
=おえ知らねぁなんつったたって、だえも信じでけねぁがったもんだっけ。
例②:あれンだば、「おえンだば頭いがら大丈夫ンだー。」なんて言ってあったっけ。
=あれンだば、「おえンだば頭いがら大丈夫ンだー。」なんちゅってあったっけ。
=あれンだば、「おえンだば頭いがら大丈夫ンだー。」なんつってあったっけ。
補足②「なんて言ったって」→「なんてったって」と言うこともある。これは丸暗記推奨。
例①:おえ知らねぁなんて言ったって、だえも信じでけねぁがったもんだっけ。
=おえ知らねぁなんてったって、だえも信じでけねぁがったもんだっけ。
説明:標準語の「などと言ったって」に当たる言葉。普通、秋田弁では「言ったって」ではなく「言ったたって」と言うが、何故か「なんてったって」という例外的な言い回しが存在する。なお、この「なんてったって」は、先の例文で挙げた「なんて言ったたって」=「なんちゅったたって」「なんつったたって」=標準語の「などと言ったところで」「などと言ったとしても」と意味的にはほぼ同じなので同じように使える。
練習問題3:次の()内の秋田弁を、4のルールに従って書き直してみよう。
(1)あれンだば知ってるくせに「知らねぁ」(なのって)嘘つぐおんな。本当に困った人ンだ。(2)まさが年上の人さやれ(なのって)ンだば言われねぁべ?(3)「んた」(なのって)ばり言ってらえるづぎンでねぁべせぁ、あど。(4)あえんたこえんた(なんて言ったたって)仕方ねぁべ?わか゚ままゆーな。(5)あえんたこえんた(なんて言ったって)仕方ねぁべ?わか゚ままゆーな。(6)「俺もやる!」(なんて言って)手伝ったンども、なんもやぢゃねぁがった。(7)子供か゚「おれもやる!」(なんて言ったって)大人がだ邪魔ンだど思うばりンだべせぁ。
語釈:んた:[形容詞]嫌だ。 なんもやぢゃねぁ:[連語]全然駄目だ。「やぢゃねぁ」は駄目だ、の意の形容詞。
参考:「~のなが」→「~んなが」、「~のな」→「~んな」とも言う。参考に留めておく。
家[え]の中→家[え]ん中 川の中→川ん中 俺のな→俺んな 昨日のな→昨日んな
説明:「の」は「家の中」「俺のな[私の物、の意]」等の「の」。この「の」が「ん」で発音される例は少なく、私が聞いたことがあるのは「~ん中」「~んな[~の物・奴、の意]」のみ。
練習問題解答:
練習1:(1)もんだ(2)もんだ(3)もんであった(4)もんでねぁ(5)もんだら(6)もんだば・もんだば
練習2:(1)おんな(2)おんな(3)おんな 解説:「おんな」は、「もんな」でもよい。
練習3:(1)なんて(2)なんて(3)なんて(4)なんちゅったたって/なんつったたって(5)なんてったって(6)なんちゅって/なんつって(7)なんてったって
終わりに
以上で今回の勉強は終わり。
ではまたこんど。へばな。
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