初級篇2:形容詞
みなさん、こんにちは。
今回は、秋田方言を読んで覚えようという講座の2回目です。
今回は、形容詞について勉強します。
1.本文
秋田雨降りの日余計[よげ]ぁンだ1)。雨の日余計[よげ]ぁンだばなんとンだ?雨降りの日余計ぁンだば空暗れぁ日余計ぁンだ。雨の日は空暗れぁ。
秋田の人色白れ人余計ぁンだ。なして2)秋田、肌の色白れ人余計ぁンだ?それンだばじんじょ3)、お天気の日少ねぁがらンだべ。なしてお天気の日少ねぁば色白れぐなる?お天気の日少ねぁして曇りの日・雨降りの日余計ぁンだば、日に当だるごど少ねぁぐなる。もし日に当だるごど少ねぁがら、日焼げするごどねぁべ?じんじょそれンで肌の色白れあんだ4)。
昨日秋田雨ンであった。雨降りンであったがら、空ンだば暗れぁがった。昨日ンだば風も強れがった5)。風強れがったがら外歩ぐ人も少ねぁがった。昨日もし空暗れぁぐねぁして、風も強れぐねぁがったらなんとンであったべ?もし空明りくて風も弱ゑがったら、外歩ぐ人余計ぁンであったべな。
語釈:1)余計ぁンだ:「余計だ」「多い」。 2)なして:「どうして」「何故」。 3)じんじょ:「きっと」。 4)あんだ:断定・説明「のだ」「のである」。 5)強れ:「強い」。 6)んだら:「それなら」。
2.文法学習
①:形容詞の終止形作る術[すべ]
標準語の「赤い」は、秋田弁で「赤[あ]げぁ」ンだ。「浅い」ンだば「浅[あ]せぁ」ンだし、「甘い」ンだば「甘[あ]めぁ」ンだ。標準語の形容詞の、最後の「あい」は、秋田弁でンだば「えぁ」ンだあんだ。
せば「暗い」って秋田弁でなんとなる?「暗[く]れぁ」ってなる。せば「うるさい」ンだばなんとなる?「うるせぁ」ってなる。「辛い」ンだばなんとンだ?「辛い」ンだば「辛[つ]れぁ」ンだ。んだら6)「深い」「臭い」「痛い」ンだば「深[ふ]けぁ」「臭[く]せぁ」「痛[い]でぁ」ンだべ。
標準語の「嬉しい」は、秋田弁で「嬉し」ンだ。「悲しい」ンだば「悲し」ンだし、「楽しい」ンだば「楽し」ンだ。標準語の形容詞の、最後の「いい」は、秋田弁でンだば「い」ンだあんだ。
せば「寂しい」って秋田弁でなんとなる?「寂し」ってなる。せば「虚しい」ンだばなんとなる?「虚し」ってなる。「苦しい」ンだばなんとンだ?「苦しい」ンだば「苦し」ンだ。んだら「白々しい」「よそよそしい」「ばかばかしい」ンだば「白々し」「よそよそし」「ばがばがし」ンだべ。
標準語の「薄い」は、秋田弁で「薄[う]し」ンだ。「温[ぬる]い」ンだば「温[ぬ]り」ンだし、「厚い」ンだば「厚[あ]ぢ」ンだ。標準語の形容詞の、言葉の終わりの「うい」は、秋田弁でンだば「い」ンだあんだ。
せば「きつい」って秋田弁でなんとなる?「きぢ」ってなる。せば「安い」ンだばなんとなる?「安[や]し」ってなる。「悪い」ンだばなんとンだ?「悪い」ンだば「悪[わ]り」ンだ。んだら「低い」「憎い」「けだるい」ンだば「低[ひ]ぎ」「憎[に]ぎ」「けンだり」ンだべ。
標準語の「酷い」は、秋田弁で「酷[ひ]ンで」ンだ。「凄い」ンだば「凄け゚」ンだし、「白い」ンだば「白れ」ンだ。標準語の形容詞の、語末の「おい」は、秋田弁でンだば「え」ンだあんだ。
せば「黄色い」って秋田弁でなんとなる?「黄色[きー]れ」ってなる。せば「黒い」ンだばなんとなる?「黒[く]れ」ってなる。「広い」ンだば「広[ひ]れ」ンだ。んだら「くどい」「鋭い」「むごい」ンだば「くンで」「鋭ンで」「むけ゚」ンだべ。
標準語の「さらさらだ」は、秋田弁で「さらさらでぁ」ンだ。「ねばねばだ」ンだば「ねばねばでぁ」ンだし、「ぱりぱりだ」ンだば「ぱりぱりでぁ」ンだ。
秋田弁の「さらさらでぁ」「ねばねばでぁ」「ぱりぱりでぁ」は形容詞ンだ。秋田弁でンだば、「擬態語+でぁ」ンで擬態語の形容詞なるあんだ。
納豆はねばねばでぁ。ねばねばでぁぐねぁ納豆ンだば納豆ンでねぁ。昨日の納豆もねばねばでぁがった。昨日の納豆、ねばねばでぁして美味[ん]めぁがった。納豆ねばねばでぁば、納豆らしして俺[お]ら好ぎンだ。
せんべーはぱりぱりでぁ。ぱりぱりでぁぐねぁせんべーンだばせんべーンでねぁ。昨日のせんべーもぱりぱりでぁがった。昨日のせんべー、ぱりぱりでぁして美味[ん]めぁがった。せんべーぱりぱりでぁば、せんべーらしして俺[おれ]好ぎンだ。
温[あった]けぁ布団はふかふかでぁ。綺麗ンだ髪はさらさらでぁ。砂地[すなじ]はざらざらでぁ。空家[からえ]1)はがらがらでぁ。大っき服ンだばがほがほでぁ2)し、若げぁ人方[ひとがだ]ンだばしゃんしゃんでぁ3)。
語釈:1)空家…「空き家」。2)がほがほでぁ…がほがほ。服どが靴どが大っきしてサイズ合わねぁ様子どご言う。3)しゃんしゃんでぁ…健康ンで元気ンだ様子どご言う。
②:形容詞の活用
標準語の形容詞、語幹知らねぁば活用させられねぁ。秋田弁の形容詞ンだばなんとンだ?秋田弁でも同じンだ。秋田弁でも、語幹知らねぁば形容詞活用させられねぁ。
秋田弁の形容詞の語幹、なんとして求めるにい1)?秋田弁の形容詞語幹ンだば、秋田弁の形容詞の終止形ど同じンだ。んだがら終止形分がれば、語幹分がったど同じンだあんだ。
せば秋田弁の形容詞の終止形、なんとして求めるにい?秋田弁の形容詞の終止形ンだば、さきた2)の「①:形容詞の終止形作る術[すべ]」ンで習った通りンだ。んだがら、標準語の終止形分がれば、秋田弁の終止形求めるにいし、終止形=語幹ンだがら秋田弁の語幹も求めるにいあんだ。
標準語の形容詞、終止形ど連体形ど同じンだ。秋田弁だばなんとンだ?秋田弁の形容詞ンでも、終止形ど連体形ど同じ形っこンだ。秋田弁の形容詞、なんとして終止形求めるにい?秋田弁の形容詞の終止形ンだば、秋田弁の形容詞の語幹どまったぐ同じ形ンだ。んだがら秋田弁の形容詞ンだば、語幹=終止形=連体形ンだあんだ。
んだがらもし形容詞語幹「赤げぁ」ンだら、「空赤げぁ。」みでぁにも使うにいし、「赤げぁ空」みでぁにも使うにい。まだもし形容詞語幹「嬉し」ンだば、「俺嬉し。」みでぁにも使うにいし、「嬉し知らせ」みでぁにも使うにい。同じえに、語幹「薄し」ンだら、「味薄し。」みでぁにも「薄し味」みでぁにも使うにいし、語幹「酷ンで」ンだば、「あの人酷ンで。」みでぁにも「酷ンでひと」みでぁにも使うにい。秋田弁の形容詞ンだば、語幹ど終止形ど連体形ど、皆[んな]同じ形っこ取るあんだ。
標準語の「形容詞語幹-く」って、秋田弁でなんと言う?標準語の「形容詞語幹-く」ンだば、秋田弁でンだば「形容詞語幹-ぐ」って言う。んだがら「赤-くなる」ンだば「赤げぁ-ぐなる」ンだし、「嬉し-くない」ンだば「嬉し-ぐねぁ」ンだし、「薄-くする」ンだば「薄し-ぐする」ンだし、「酷-くはない」ンだば「酷ンで-ぐンだばねぁ」ンだ。標準語の「形容詞語幹-く」ンだば、秋田弁でンだば「形容詞語幹-ぐ」ンだあんだ。
せば標準語の「形容詞語幹-くて」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-ぐで」ンだが?んでねぁ3)。標準語の「形容詞語幹-くて」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-して」ンだ。んだがら「赤-くて」ンだば、秋田弁で「赤げぁ-して」ンだし、「嬉し-くて」ンだば「嬉し-して」ンだし、「薄-くて」ンだば「薄し-して」ンだし、「酷-くて」ンだば「酷ンで-して」ンだ。
んだンども4)時々、秋田弁の「形容詞語幹-して」ンだば、「形容詞語幹-くて」っても言う。んだがら「赤げぁ-して」ンだば「赤げぁ-くて」っても言うし、「嬉し-して」ンだば「嬉し-くて」っても言うし、「薄し-して」ンだば「薄し-くて」っても言うし、「酷ンで-して」ンだば「酷ンで-くて」っても言う。標準語の「形容詞語幹-くて」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-して」って言ったり「形容詞語幹-くて」って言ったりするあんだ。
んだら、標準語の「形容詞語幹-くても」って、秋田弁で「形容詞語幹-しても」なの「形容詞語幹-くても」なの5)って言うあんだが?んでねぁ。標準語の「形容詞語幹-くても」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-っても」ンだ。んだがら「赤-くても」ンだば「赤げぁ-っても」ンだし、「嬉し-くても」ンだば「嬉し-っても」ンだし、「薄-くても」ンだば「薄し-っても」ンだし、「酷-くても」ンだば「酷ンで-っても」ンだ。標準語の「形容詞語幹-くても」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-っても」ンだあんだ。
標準語の「形容詞語幹-かっ」って、秋田弁でなんと言う?標準語の「形容詞語幹-かっ」だば、秋田弁でンだば「形容詞語幹-がっ」って言う。んだがら標準語の「赤-かった」ンだば、秋田弁で「赤げぁ-がった」ンだし、「嬉し-かったら」ンだば「嬉し-がったら」ンだし、「薄-かったり」ンだば「薄し-がったり」ンだし、「酷-かった時期」ンだば「酷ンで-がった時期」ンだ。標準語の「形容詞語幹-かっ」だば、秋田弁で「形容詞語幹-がっ」だあんだ。
標準語の「形容詞語幹-ければ」って、秋田弁でなんと言う?「形容詞語幹-ければ」ンだば、秋田弁でンだば「形容詞語幹-ば」って言う。んだがら「赤-ければ」ンだば「赤げぁ-ば」ンだし、「嬉し-ければ」ンだば「嬉し-ば」ンだし、「薄-ければ」ンだば「薄し-ば」ンだし、「酷-ければ」ンだば「酷ンで-ば」ンだ。標準語の「形容詞語幹-ければ」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-ば」ンだあんだ。
とごろンで、標準語の古[ふる]し6)形容詞の仮定形さ、「形容詞語幹-からば」ってある。これ、秋田弁でンだばなんとなるあんだべ?標準語の「形容詞語幹-からば」ンだば、秋田弁でンだば「形容詞語幹-がら」って言う。んだがら「赤-からば」ンだば「赤げぁ-がら」ンだし、「嬉し-からば」ンだば「嬉し-がら」ンだし、「薄-からば」ンだば「薄し-がら」ンだし、「酷-からば」ンだば「酷ンで-がら」ンだ。昔ンだば「形容詞語幹-がらば」っても言ってあったえんだンども7)、今ンだば「形容詞語幹-がら」って言う。標準語の「形容詞語幹-からば」ンだば、秋田弁で「形容詞語幹-がら」ンだあんだ。
語釈:1)求めるにい:「求めることができる」。秋田弁でンだば、「動詞連体形+に+良[い]」ンで、可能の意味表すにいあんだ。 2)さきた:「さっき」。 3)んでねぁ:「そうではない」。「違う」。人言ったごどか゚、事実ど違う時期に言う応答の言葉。 4)んだンども:「だけども」。んだたって。だンども。 5)…なの~なの:「…だの~だの」。 6)古し:古[ふ]り。地域にもよるべンども、俺ら家ンでンだば、「古い」ンだば「古[ふ]り」ンでねぁして、「古[ふる]し」って言う。んだがら活用ンだば、「古しぐねぁ」「古しして」「古しっても」「古しがった」「古し」「古し家」「古しば」「古しがら」みでぁになる。 7)言ってあったえんだンども:「言っていたようだけれども」。「てあった」は、「ていた」って意味ンだ。「えんだ」は、「ようだ」って意味ンだ。「ンども」は「けれども」って意味ンだ。「形容詞語幹-がらば」につでンだば、『秋田方言』で本さ少しばり言及ある。んだンども「-がらば」の方ンだば、今ンだばまず聞がねぁ。死語ンだあんだべ。
3.活用
活用語尾 |
例:「寒ンび」 |
参考:標準語の場合 |
例:「寒い」 |
|
語幹 |
? |
寒び- |
? |
寒- |
連用形1 |
-ぐ |
-ぐ |
-く |
-く |
連用形2 |
-がっ |
-がっ |
-かっ |
-かっ |
終止形 |
- |
- |
-い |
-い |
連体形 |
- |
- |
-い |
-い |
仮定形1 |
- |
- |
-けれ |
-けれ |
仮定形2 |
-がら |
-がら |
-から |
-から |
注意1:秋田弁の形容詞語幹作る術[すべ]は、以下の通りンだ。
(A)語末の母音か゚「-あい」ンだ形容詞→「-えぁ」。
例:赤[あか]い→赤[あ]げぁ 深[ふか]い→深[ふ]けぁ
(B)語末の母音か゚「-いい」ンだ形容詞→「-い」。
例:嬉しい→嬉し 懐かしい→懐かし
(C)語末の母音か゚「-うい」ンだ形容詞→「-い」。
例:ぬるい→ぬり 厚[あつ]い→厚[あ]ぢ
(D)語末の母音か゚「-おい」ンだ形容詞→「-え」。
例:黒[くろ]い→黒[く]れ 白[しろ]い→白[し]れ
注意2:標準語の「語幹-くて」は、秋田弁でンだば「秋田弁語幹-して」ってなるごど余計ぁンだ。或いは、「秋田弁語幹-くて」ってもなる。
例:赤くて→赤げぁして/赤げぁくて 嬉しくて→嬉しして/嬉しくて
注意3:標準語の「語幹-くても」は、秋田弁でンだば「秋田弁語幹-っても」ってなる。
例:赤くても→赤げぁっても 嬉しくても→嬉しっても
注意4:仮定形1使う時期は、必ず仮定の「ば」どご直後さ付けねぁばならねぁ。
例:暗れぁば電気つけれ。 遅せば電話寄越せ。
注意5:仮定形2使う時期は、仮定の「ば」ンだば使わねぁ。
例:暗れぁがら電気つけれ。 遅せがら電話寄越せ。
注意6:仮定形2ンだば、90近けぁ年寄りンだば使うごどあるたって、50、60過き゚だぐれぁの人方ンだばまず使わねぁ。じんじょ古し言葉ンだあんだべ。
終わりに
以上にて、今回の秋田弁講座はおしまいです。
それではまた次回。へばなー。
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