第12課:過去の「たっけ」、完了の「たえっと」、助動詞「そーンだ」「なンだ」
みなさん、お久しぶりです。齶田浦毛人です。
今回は、タイトルにある通りの秋田弁を、会話を通して学びます。
本文:
秋子:はー、人も世の中も変わってぐもんだあんだなー。
秋子:はー、人も世の中も変わっていくものなんだなぁ。
大輔:…秋子。帰って来たえっと言う言葉か゚それげぁ…。一体なにしたな?
大輔:…秋子。帰って来てすぐに言う言葉がそれかい…。一体どうしたの?
秋子:んー?なもよ、昨日、久しぶりに実家さ帰ったっけ、昔の同級生がだど行ぎ逢ったのよ。髪ふさふさでぁがった人はけ゚なってだり、そんでに美人でもねぁがった人たいしたべっぴんさんなってだり、人もなんだえなるが分がらねぁもんだなーど思って。
秋子:うん?いやね、昨日、久しぶりに実家に帰ったら、昔の同級生たちと行き逢ったのよ。髪がふさふさだった人がはげになっていたり、そんなに美人でもなかった人がすごいべっぴんさんになっていたり、人もどんなふうになるか分からないものだなぁと思ってね。
大輔:あー、そーいうごどげぁ…確かに同窓会なのさ行って久しぶりに友達がだど会えば、たいした変わった人もいるな。して、皆なんだ様子ンであった?元気そーンであったが?
大輔:あー、そういうことかい…確かに同窓会なんかに行って久しぶりに友達たちと会うと、だいぶ変わった人もいるね。それで、みんなどんな様子だったの?元気そうだったの?
秋子:昨日会った人がだンだばたいした楽しそーンであったもの。じんじょ元気ンでやってるなンだべ。んだンどもいぐねぁ噂話も聞だな。だれそれさんか゚、去年だが自分の会社倒産したえっと自殺してしまったどが、だれそれさん、会社勤めンで精神病んで今病院で生活してるどが。
秋子:昨日会った人たちならずいぶん楽しそうだったもの。きっと元気でやっているのでしょうね。けどよくない噂話も聞いたわ。だれそれさんが、去年だか自分の会社が倒産してすぐに自殺してしまったとか、だれそれさんが会社勤めで精神を病んで今は病院で生活しているとか。
大輔:うーん…、みんな色んだ人生生ぎでるもんな。みんなか゚みんな順風満帆だ人生に恵まれるわげンでもねぁなンだべな。
大輔:うーん…、みんな色んな人生を生きているからねぇ。みんながみんな順風満帆な人生に恵まれるわけでもないんだろうね。
秋子:本当にんだな。俺らがだなの、昨日行ぎ逢ったあれがだなのンだば、じんじょ幸せンだ人の部類さ入[は]るなンだべな。
秋子:本当にそうね。私たちや、昨日行き逢ったあの人たちなんかは、きっと幸せな人の部類に入るのでしょうね。
語釈:
①もんだ:ものだ。「もの」+指定「だ」は、訛って「もん」+「だ」となる。例文:そんだごどするもんでねぁ。 よぐ一緒に遊んだもんであった。
②げぁ:かい。例文:なに、まだ雪降りげぁ。 本当にげぁ?それンだば大変だごど。
③なにしたな?:どうしたんだよ?また、「なした」「なにした」で「どうした?」の意味になる。例文:なした?めぁ顔色悪りや? なにした?なにが用事ンでもあるあんだが? ん前ぁ、なにしたな?さきたがら怒ってばりいで。
④なもよ:いやさ。例文:なした?さきたがら黙り込んで。―んー?なもよ、これがら俺らがだの生活なんとなるなンだべがなーど思って。
⑤ど:と。例文:人ど喧嘩してばりいる。 ん前ぁど一緒に行ぐは。 あれどこれど、どっちい? それどこれどンだら、これの方いなは。
⑥ふさふさでぁ:ふさふさである。秋田弁では、「擬態語+でぁ」で形容詞を作ることが可能。例文:このせんべーぱりぱりでぁして美味めぁごど。 わい、雨[あめ]漏[む]って床びしょびしょでぁぐなってだは。 この布団も昔ンだばふかふかでぁがったものンだンどもな。 靴っこがほがほでぁば歩ぎにぎべせぁ。 つるつるでぁ雪道歩ぐってば、冬用の靴ンでねぁば駄目ンだ。 納豆ンだばなんぼねばねばでぁっても気にならねぁ。
⑦たいした:とても。例文:あの人たいした頭い人ンだ。 たいした寒び天気ンだごど。
⑧が:[疑問・選択]か。例文:来るが来ねぁがも分がらねぁ人待づってげぁ? これがあれが、どっちが選べ。 ん前ぁも来るが? これ食うが? 寒びが? そんでに綺麗ンだが?
⑨か゚:[主格]が。秋田弁では普通省略されるが、主語を明確にしたいという話し手の意志が絡んだ場合や、「か゚」がないと意味が通じにくい場合等に、このように「が」が使われることもある。例文:ん前ぁか゚やったあんだべ?なに言ってだな? 誰か゚誰さ何したど?―太郎か゚、二郎どご殴って怪我させでしまったど。 省略の例:ん前ぁやったあんだべ? 誰やったな? 太郎次郎どご殴って怪我させでしまったどは。
⑩なの:など。なんか。例文:あれなの、今日がらあど仕事ンだどや。
⑪して:それで。例文:して、ん前ぁこれがらなんとするな?
⑫(ン)だば:は。例文:犬ンだば好ぎンだンども、猫ンだばあまり好ぎンでねぁな。
⑬じんじょ:きっと。例文:大丈夫ンだ。あの子ンだば将来じんじょ立派ンだ大人なる。
⑭色んだ:色んな。例文:世の中色んだ人いるものンだ。 こごさンだば色んだ本ある。
⑮もんな:ものね。「もの」+「な」が訛るとこうなる。例文:あれンだば本当に気ー短げぁもんな。 ん前ぁこれ初めでンだもんな。
⑯AなのBなの:AやBなど。AやらBやら。AだのBだの。例文:農業やるってば、虫なの鼠なのど付ぐ合ってがねぁばならねぁあんだべ? あれンだば本当に口悪り。ちょっと言えば「うるせぁ」なの「黙れ」なのちゅって[=って言って]怒るもの。
―今日の学習―
①過去「~たっけ」
標準語の過去「~たところ」は、秋田弁で「たっけ」と言う。
例文:山さ行ったっけ山菜生[お]いであった。山に行ったところ、山菜が生[は]えていた。川さ釣りに行ったっけ熊いであった。川に釣りに行ったところ、熊がいた。少し休むど思って寝だっけ、あど朝間まンで起ぎられねぁがった。少し休もうと思って寝たところ、もう朝まで起きられなかった。
②完了「~たえっと」
標準語の過去「~たらすぐ(に)」は、秋田弁で「たえっと」と言う。
例文:あれンだば帰って来たえっと二階[にげ]ぁさ上か゚ってゲーム始めるもの。あいつは帰って来たらすぐ二階に上がってゲームを始めるからねぇ。外さ出だえっと事故に遭った。外に出たらすぐ事故に遭った。結婚したえっと人変わってしまったどは。結婚したらすぐに人が変わってしまったそうだよ。用事済ませだえっと帰るどって言ったっきり帰って来ねぁ。用事を済ませたらすぐに帰ると言ったきり、帰って来ない。
③推量の助動詞「そーンだ」
標準語の助動詞「そうだ」は、動詞の連用形・形容詞の語幹・形容動詞の語幹につく。秋田弁の「そーンだ」もそれと同じ。
標準語 |
秋田弁 |
例文 |
|
連用形1 |
そうに |
そーに |
寒びそーにしてだ。寒そうにしている。 |
連用形2 |
そうで |
そーンで |
死にそーンで心配[しんぺ]ぁンだ。死にそうで心配だ。 |
連用形3 |
そうだっ |
そーンであっ |
元気そーンであった。元気そうだった。 |
終止形 |
そうだ |
そーンだ |
人かって見られそーンだ。人に見られそうだ。 |
連体形 |
そうな |
そーンだ |
冷でぁそーンだ人ンだな。冷たそうな人だね。 |
仮定形 |
そうなら |
そーンだら |
美味めぁそーンだら食ってみれ。美味そうなら食ってみろ。 |
注意:仮定形は、直後に仮定の「ば」を付ける場合、「そーンだらば」とはならず、必ず「そーンだば」という形を取る。つまり「ら」が抜け落ちる。
例:美味めぁそーンだば食ってみれ。美味そうならば食ってみろ。
④断定の助動詞「なンだ」
標準語 |
秋田弁 |
例文 |
|
連用形1 |
ので |
なンで |
その恰好ンだば寒びなンでねぁが?その恰好では寒いのではないか? |
連用形2 |
のだっ |
なンであっ |
あっ、今日来るなンであった?あっ、今日来るのだったか? |
終止形 |
のだ |
なンだ |
ん前ぁやったなンだ。お前がやったのだ。 |
仮定形 |
のなら |
なだら |
ん前ぁも行ぐなンだら俺も行ぐ。君も行くのなら、私も行くよ。 |
注意:仮定形は、直後に仮定助詞「ば」を付けるときは、必ず「なンだば」となる。「なンだらば」とはならない点に注意しよう。
例:ん前ぁも行ぐなンだば俺も行ぐ。君も行くのならば、私も行くよ。
終わりに
以上にて、今日の勉強はおしまいです。
ではまた。へばなー。
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