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コラム3:秋田方言とアイヌ語の関係

コラム3:秋田方言とアイヌ語の関係

 みなさん、こんにちは。

 

 今回は、秋田弁とアイヌ語の関係についてのお話しをします。

秋田方言とアイヌ語の関係

 まず結論から書きましょう。

 

 秋田方言とアイヌ語の関係は、語彙面でのみ認められます。つまり、秋田方言(もしくはそれに類似する東北方言)の語彙がアイヌ語として取り入れられたと思しき例がいくつかあるということです。

 

 以下、それについて説明しましょう。

東北方言から取り入れられたと思しきアイヌ語一覧

左が元となった東北方言、右が実際に存在するアイヌ語となります。

 

①コソンデ→コソンテ
 「コソンデ」。これは秋田方言でも分かりますね。そう、「小袖」のことです。

 

 秋田方言では、ダ行音の前の音が鼻母音となることはよくあることですが、恐らくアイヌ語に影響を与えたどこかの方言も秋田弁と同じで鼻母音化の顕著な言語だったのでしょう。

 

 東北方言で「ソン」となっているものが、アイヌ語では「ソン」となっている。つまり、鼻母音の響き「ン」が、アイヌ語に取り入れられると「ン」をはっきりと発音するようになることが分かるかと思います。

 

 ついで。「デ」がアイヌ語では「テ」と清音になってますね。これはですね、アイヌ語はそもそも濁音と清音を区別しないことが原因にあるかと思われます。

 

 つまり、アイヌ語ではガギグゲゴとカキクケコは同じ発音とみなすのです。なのでアイヌゴでは、表記上も、いちいちカ行とガ行、タ行とダ行、パ行とバ行などを区別したりはしませんよ?

 

②マタンキ゚→マタンキ
 鼻母音+タ行「タン」が「タン」になっただけですね。ご存知「マタギ」のことです。アイヌの口承の中で時々出て来るんですよね、マタギ。

 

 あっ、知らない人のために解説致しますと、マタギというのは、秋田の阿仁地方とかにいる鉄砲撃ちのことですよ?昔から山に行って熊を狩ってたりしていたやや特殊な職業集団ですね。

 

 アイヌ民族も昔は熊などを狩りながら生活していたようですし、同じ狩人同士、交流があったんでしょうか?

 

③カンビ→カンピ
 「カン」が「カン」になっただけですね。「ビ」と「ピ」は、そもそもアイヌ語では同じ音という扱いですし。

 

 でも、「カンビ」ってなに?あの臭い方の「かび」のこと?ノンノン。これは「紙[かみ]」のことですよ。

 

 秋田方言では、基本的に紙は「かみ」のままですが、ほら、考えてみてください。「さい」を「さンい」と言ったり、「集[あつ]まる」を「あづンばる」と言ったりするでしょ?いや、っていうか言うんですよ秋田方言では。

 

 つまり、マ行がバ行に置き換わってる単語がいくつかあるのです。多分アイヌ語の「カンピ」も、どこかの東北方言で「かンび」と言っていたのを、そのままアイヌ語風に訛らせて取り入れたのでしょう。

 

④ウンマ→ウンマ
 これは説明要らんでしょう。「馬」のことですね。

 

 秋田方言では、マ行やナ行の前の音も鼻母音化するというルールがありましたよね?だから秋田弁的には、「うま」→「うンま」なわけです。

 

 で、アイヌ語では鼻母音は「母音+ン」で取り入れられますので、標準語「うま」→秋田弁「うンま」→アイヌ語「うんま」となるわけです。

 

⑤タンバグ→タンパク
 「タン」が「タン」になっただけですね。

 

 でも「たンばぐ」ってなんだ?これはちょっと解説必要そうですね。

 

 実はですね、秋田方言でも、「眼[まなこ]」という単語を「まな」と言ったり、「まな」と言ったりすることがあるんです。つまり、「お」段が「う」段に置き換えられる。

 

 多分これと同じ原理ですよこれ。アイヌ語の「タンパク」は「タバコ」のこと。つまり、中央語「タバコ」→方言「タンバゴ」→方言「タンバグ」→アイヌ語「タンパク」という変遷を経たのでしょう。

 

⑥ショーンカ゚ヅ→ソンカチ
 これはアイヌ語で広く使われているかは不明です。たまたま私が読んでいたアイヌ語テキストに出てきたのでピックアップしてみました。

 

 ずばり「ショーガツ」=「正月」のことです。「ショーガツ」→「ショーンカ゚ヅ」→「ソンカチ」という変遷を経たのでしょう。

 

 …ってちょっと待った。流石に飛躍しすぎだろう!まぁ、そうなりますよね。えーっと、あれですよあれ。アイヌ語では、「シャシュシェショ」と「サスセソ」は同音扱いで、区別しないんです。ついでに「ツァツィツゥツェツォ」の発音はそもそもありません

 

 なので、「シャシュシェショ」=「サスセソ」となり、「ツァツィツゥツェツォ」は、音的に近い「たてぃとぅてと」に読み換えるのでしょう。

 

 そして「ヅ」が「チ」に置き換えられているのは、多分もとになった東北方言では、「ヅ」が「ヂ」とほぼ同じ発音だったのが原因かと。

 

 東北地方の方言では、地方によっては「ち」「つ」と「ぢ」「づ」の区別がほぼないところもあります。

 

 というか、秋田方言でも結構曖昧なときがあります。我が家においても、「くつ[靴]」なんかは「くづ」と言わずに「くぢ」と言いがちですしね。まぁこれは人により単語により地方によりけりであまり規則として落とし込めるものではないんですけどね。

 

 ともあれ、中央語「ショーガツ」→方言「ショーンカ゚ヅ」→方言「ショーンカ゚ヂ」→アイヌ語「ソンカチ」という変遷を経て、アイヌ語に取り入れられた、ということなのでしょう。

 

⑦ベゴ→ペコ
 さて、最後ですね。アイヌ語「ペコ」。なんだこりゃ?

 

 と言いたいところですが、秋田に住む人なら、或いはすぐ分かるかもしれません。これ、秋田方言の「ベゴ」のことですよ。「牛坂[ベゴサガ]」とかいう地名とか、聞いたことありませんか?

 

 そう、もーもー鳴くあの「牛」さんのことですよ、「ベゴ」って。

 

 アイヌ語では牛のことを「ペコ」と言いますが、これなどはもろ東北方言の「ベゴ」から取り入れた言葉でしょうね。東北弁「べご」→アイヌ語に清濁区別無し→アイヌ語で「ペコ」という変遷かと。

おわりに

 以上にて、秋田方言とアイヌ語との関係に関する解説はおしまいです。

 

 まぁ本当は他にも、「草鞋[わらじ]」を「ワランチ」と言ったり、「足袋[たび]」を「タンピ」と言ったりするのですが、まぁ大体アイヌ語にないものを表したい時に、東北弁をアイヌ語風に訛らせてから取り入れた感じですね。

 

 他にも、「宿を借りる」を「ヤントエトゥン」と言ったりもするようです。「エトゥン」はアイヌ語で、借りるという意味の他動詞。その前の「ヤント」は、やはり東北弁版の「宿」=「やンど」をアイヌ語風に訛らせた結果、鼻母音の響き「ン」が「ン」になって「ヤント」になったものでしょう。コラム2で紹介した、アイヌ語と日本語のブレンド語彙「カワリネ」みたいなもんですね、ヤントエトゥンは。

 

 

 なお、北東北の地名や、マタギたちの使う山言葉、また古代において蝦夷[えみし]と呼ばれた人々の人名の中には、アイヌ語由来と思しきものも在ると聞きますが、その辺は完全に専門外なので当サイトでは触れません。

 

 まぁ興味が湧いたら、各自でそれぞれの研究書を読んで調べたりしたらよいのではないかと思います。

 

 ともあれ、今回はこの辺で。へばな。

 

 

 

 

 

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