コラム1:アイヌ語は日本の方言じゃない⁉
みなさん、こんにちは。
今回は、アイヌ語は実は日本語の方言じゃないんだぜーということを学びます。
アイヌ語は方言じゃない?
秋田方言とアイヌ語の関係に入る前に、まずしばしば誤解されていそうなところから一つ説明を致しましょう。
アイヌ語とは、北海道に古来住んでいた民族「アイヌ」の話す言葉ですが、アイヌ語は日本語とは全く異なる言語です。
時々アイヌ語を日本語の方言の一部と考えている方がいますが、アイヌ語と日本語は文法・音韻・単語という言語の重大三要素のすべての面においてまったく異なっています。
その辺のところは、以下の例文を読んでみてくださればすぐに納得できるかと思います。
例文1:「子供の頃、私はいつも泣いてばかりいた。」
アイヌ語:「ク-ポン ヒ タ ネイパㇰノ ク-チㇱ パテㇰ クキ。」
アイヌ語直訳:「私-小さい 時 に いつも 私-泣く ばかり 私-する。」
例文2:「春になると、気温が少しずつ暖かくなっていくものだ。」
アイヌ語:「パイカㇻ アン コㇿ ポンノポンノ シㇼポㇷ゚ケ ㇷ゚ ネ。」
アイヌ語直訳:「春 ある と 少しずつ 辺りが暖かい もの だ。」
例文1のアイヌ語直訳をご覧ください。アイヌ語直訳は、アイヌ語を言葉通りにそのまま日本語に直訳したものです。
そこでまず目に留まるかと思われるのは、アイヌ語で「私」という言葉が多用されている点ですね。これはアイヌ語の特徴の一つ、動詞の前には「ク」「エ」など動作主を明示する接頭辞を常につけなければならないという文法上のルールによるものです。
また、日本語では「泣いてばかりいた」と過去時制なのに、アイヌ語直訳は「私-泣く ばかり 私-する」と現在時制になってますね。ええ、実は、アイヌ語にはそもそも過去・現在など時制を表す語形がないのです。
過去だの未来だの現在だのは、文脈で分かるからイチイチ特別な形を取る必要はない、ということなのですよ。
次に、例文2に注目しましょうか。「春になると」がアイヌ語では「春-ある-と」になってますね。アイヌ語では「春になる」は「春がある」と表現する。言葉の表現方法も日本語と違うことが分かるかと思います。
そして最後は「気温が暖かくなる」が「辺りが暖かい」になっている点。アイヌ語では、時間や気温、辺りの様子などはみな一様に「シㇼ」と言い表すのが普通です。
また、「暖かくなる」が「暖かい」になっているのは、そもそもアイヌ語においては形容詞と動詞との区別がないことに起因しています。
「シㇼポㇷ゚ケ」は、今ある状態を表す文脈で使えば「辺りが暖かい」という形容詞的な意味になりますが、暖かくない状態から暖かい状態へ移行する文脈で使えば「辺りが暖かくなる」という動詞的な意味に様変わりするのです。…いや、アイヌ語的にはなんにも様変わりなんてしてませんけどね。
よし。次。最後は発音面を見て行きましょう。
まずは例文1「ネイパㇰノ ク-チㇱ パテㇰ」にちゅーもーく。「ㇰ」「ㇱ」「ㇰ」とちっちゃな「ク」「シ」がありますね。
これ、発音は、「ㇰ」は「ハッカー」の「ッ」の部分、「ㇱ」は、「しっかりしろ」の「し」、つまり無声母音化した「シ」です。
あっ、「ㇰ」は、英語のkのように、クゥ、と音を出してはいけません。あくまで「ッ」の部分で止めるのですよ?…もう、わけわからんかもしれませんねこれ。でもね、アイヌ語では、この、音すら出てない音が発音として成立しているのですよ。つまり、アイヌ語は日本語と発音体系すら違うのです。
以上、長々と書いてまいりましたが、…まぁつまりですね、なにが言いたいかと申しますと、アイヌ語と日本語とは、そもそもの問題として、言語としてあまりに違いすぎるってことです。それぞれ全く別な言語として見て行ってください。
終わりに
以上で今回の雑学は終了です。
まぁつまり、アイヌ語と日本語は言語としちゃ別物さってことですね。
とはいえ、アイヌ民族と我ら大和民族とは、長らく地理的に住処が接していた「隣人」です。
故に、実は語彙面ではわずかにアイヌ語と日本語にも関係が見られたりします。
コラム2では、アイヌ語語彙に取り入れられた日本語についてお話ししますよ。
それでは今回はこの辺で。へばなー。
関連ページ
- コラム2:アイヌ語と日本語
- ちょっとした脱線。秋田弁とアイヌ語の関係についてのお話しです。
- コラム3:秋田方言とアイヌ語の関係
- ちょっとした脱線。秋田弁とアイヌ語の関係についてのお話しです。
- コラム4:アイヌ語語源と言われがちな秋田弁~アイヌ語と東北方言の共通の言葉~
- ちょっとした脱線。秋田弁とアイヌ語の関係についてのお話しです。
- コラム5:古い言葉を残す樺太アイヌ語~なぜ和人は古く「アイヌ」を「えぞ」と呼んだか~
- ちょっとした脱線。秋田弁とアイヌ語の関係についてのお話しです。