第39課：格助詞④：引用の格助詞
みなさんこんにちは。
今日は、秋田弁の格助詞のうち、特に引用表現に関わるものについて勉強しますよ。
１．秋田弁の引用の格助詞
標準語の「彼は、『私がやる』と言った」「私は、彼は来ると思う」などの、引用の格助詞「と」は、秋田弁では状況に応じて以下のいくつかの表現に分かれることになる。
①「思う」が動詞の時→「ど」。
私は、彼は来ないと思う。→おれ、あれﾝだば来ねぁど思う。
太郎は、彼は来ないだろうと思った。→太郎、あれﾝだば来ねぁべど思った。
太郎は、「彼は来ないだろうね。」と思った。→太郎、「あれﾝだば来ねぁべな。」ど思った。
②「思う」以外が動詞→「って」。
太郎は、彼は来ないと聞いた。→太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁって聞だ。
太郎は、彼は来ないだろうと言った。→太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁべって言った。
彼は、「私は知らなーい」と言った。→あれ、「おれ知らねぁー」って言った。
彼は、私[＝自分]は知らないと言う。→あれ、おれﾝだば知らねぁって言う。
③「思う」以外が動詞→「どって」とも言う。
太郎は、彼は来ないと聞いた。→太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁどって聞だ。
太郎は、彼は来ないだろうと言った。→太郎ﾝだば、あれﾝだば来ねぁべどって言った。
彼は、「私は知らなーい」と言った。→あれ、「おれ知らねぁー」どって言った。
彼は、私[＝自分]は知らないと言う。→あれ、おれﾝだば知らねぁどって言う。
④「思う」以外が動詞で、直接引用→「だどって」とも言う。
太郎は「彼は来ない。」と聞いた。→太郎ﾝだば「あれﾝだば来ねぁ。」だどって聞だ。
太郎は、「彼は来ないだろうー。」と言った。
→太郎、「あれﾝだば来ねぁべー。」だどって言った。
彼は、「私は知らなーい」と言った。→あれ、「おえ知らねぁー」だどって言った。
×【誤り】：彼は、私[＝自分]は知らないと言う。→あれ、おれﾝだば知らねぁだどって言う。
説明：直接引用は、引用する内容をそっくりそのまま引用する引用法で、「『いやー、私はちょっとわからないなぁ』と彼は言った。」の『』の部分のように、発言した人になりきって言う臨場感あふれる引用法。
それに対して間接引用は、ただ意味内容を引用するだけの引用法で、「彼は私/自分には分からないと言った」の「私/自分にはわからない」の部分のように、引用する文の意味を自分の言葉で端的に言い直す引用法。
引用の格助詞のうち、「ど」「って」「どって」は、直接間接の区別なく用いられるが、「だどって」は、直接引用でのみ用いられる。「思う」以外の動詞の直接引用では「だどって」がよく使われる。「思う」の場合はそもそも「ど」以外使えない。なお、上の例の【誤り】は、発言者になりきった引用ではないから「だどって」は使えないわけである。
注意：なお、「だどって」は、前の引用部分「～」との間に短くポーズ(＝何もしゃべらない時間)を入れるので、前の音を鼻母音化(「ﾝ」を入れること)させることはないようである。引用部分「～」と「だどって」で短く区切るように言うのである。
練習問題１：次の()内の標準語を、秋田弁にしてみよう。
(1)俺もそのづぎﾝだば、「じんじょ誰も見ねぁべ」(と)思ってあった。(2)今ﾝだば誰もいねぁ(と)思うや？(3)あれも来る(と)言ってあった。(4)「前ぁも来るが？」(と)聞だっけ、「俺ﾝだば用事あって行がれねぁ。」(と)言うもの。俺ﾝだばまず、「んだが。」(と)答えて、しばらぐ黙ってあった。
２．「どって」「だどって」の秋田弁の独自の用法
①標準語の「と」のうち、「と言って」「と思って」という言葉が隠されている文脈の「と」の意味では、「どって」が用いられ易い。
そんなものだと諦める。→そんだもんだどって諦める。
痛い、痛いと騒ぐ。→痛でぁ、痛でぁどって騒く゚。
説明：以上のような「と」は、単に言葉を引用しているに留まらず、「そんなものだと思って諦める」「痛い、痛いと言って騒ぐ」とも訳せるように、「言う」「思う」という動作が隠れている。こういう「と言って」「と思って」と訳しうるような引用の「と」は、秋田弁としては「どって」を使うのが一番しっくりくるのである。
② ①の文脈のうち、直接引用の場合は「だどって」を使うことが多い。
「ああ痛い、痛い！」と騒ぐ。→「あー痛でぁ、痛でぁ！」だどって騒く゚。
「もういやだよー」と泣く。→「あどんたはー。」だどって泣ぐ。
練習問題２：次の()内の標準語を、秋田弁にしてみよう。
(1)長け゚ぁ人生ﾝだ(と)片息つぐ。(2)世の中そんだものﾝだ(と)諦めでしまえは。(3)「やっとごさ願い事叶ったー！」(と)喜んであった。(4)「本当にこれﾝで良がったあんだべが？」(と)、内心複雑ﾝだ心境ﾝであった。(5)「なんとがして、俺どご置でがねぁﾝでけれ！」(と)泣ぎ始めだ。(6)子供方、「ん前ぁのせーﾝだ。」「なもんでねぁ。前ぁのせーﾝだ。」(と)、喧嘩始めでしまった。(7)苦し(と)泣だたってなんもならねぁべは。(8)寂し(と)俺さずっとつで来るもの。「なんとせば良べ？」(と)、大した困った。
練習問題解答：
練習問題１：(1)ど(2)ど(3)って/どって(4)って/だどって・って/だどって・って/だどって
練習問題２：(1)どって(2)どって(3)だどって(4)だどって(5)だどって(6)だどって(7)どって(8)どって・だどって
解説：解答で「だどって」となっているものは、いずれも「どって」も可。
終わりに
以上で、秋田方言の引用表現に関わる格助詞の学習は終いです。
同時に、秋田弁の格助詞の勉強自体もこれにて完了。
次回からは副助詞の勉強に入りますよ。
ではこのへんで。へばな。
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