置換で学ぶ秋田弁第12課:助動詞①:指定「だ」
みなさんこんにちは。
今回は、秋田方言の指定の助動詞「だ」について勉強します。
1.秋田弁の指定の「だ」
標準語の指定の助動詞「だ」は、秋田弁でも「だ」。使い方もほぼ同じだけれども、活用の仕方だけは違うので、注意する必要がある。
2.秋田弁の「だ」の活用
秋田弁の「だ」は、形容動詞によく似た活用をする。
連用形1:「で」→「ンで」。直前の母音を鼻母音に変える点は注意。
私が兄で、こいつは弟だ。→俺か゚兄ンで、これか゚弟ンだ。
それは私ではない。彼だ。→それンだば俺ンでねぁ。あれンだ。
彼ではないと思うけど。→あれンでンだばねぁど思うたって。
私でも彼でもないよ?→俺ンでもあれンでもねぁや?
補足:秋田弁では、「である」という言葉を使うことはまずない。従って「だ」の連用形1は、上記のように、文を続ける用法[中止法]か、打消の「ねぁ」を付けた「ンでねぁ」「ンでンだばねぁ」「ンでもねぁ」などの表現の他は、普通、用いられない。
練習問題1:次の()内の標準語を、秋田弁にしてみよう。
(1)これは石(で)、それは岩(で)、あれは山ンだ。(2)あれンだば人(で)ねぁ。(3)あれおしん(で)ねぁが?(4)あれンだば太郎(で)ンだばねぁ。(5)あの大っきな、犬(で)ンだばねぁべ。
秋田弁の「だ」の活用②
連用形2:「だっ」→「ンであっ」。直前の音節の母音を鼻母音化させる。
それは間違いだった。→それンだば間違いンであった。
終止形:「だ」→「ンだ」。直前の音節の母音を鼻母音化。
日本は島国だ。→日本は島国ンだ。
連体形:「な」→「ンだ」。直前の音節の母音を鼻母音化させること。
間違いなのに丸を付けられた。→間違いンだのに丸付けられだ。
補足:標準語では、「財産家であるうちの子供」のように、「である」という言葉を使うことで連体修飾が可能だが、秋田弁では、指定の助動詞「だ」をそのまま使って連体修飾する。直前母音の鼻母音化は相変わらずである。
お婆ちゃんの親戚である人→お婆ちゃんの親戚ンだ人
財産家であるうちの子供→財産家ンだうぢの子供
説明:厄介なことに、この用法はほぼ「~ンだ人/家/うぢ」(「うぢ」は「家」の意味の標準語の借用)という表現に限定されていて、標準語の「である」ほど自由には使えない。これらは、具体的には、人の家について説明的に語る文脈で使われる。例えば、「あそこの家には兄弟が三人いて、その兄である人が…」とか「あの家には息子は、財産家である家/うちから嫁をもらった。」とか、「向かいの家は貧乏で、収入は多いのだが奥さんである人がお金を沢山使う人で…」とかといった感じである。他人の家の説明に使う性質のため、昔話などでもこの表現が割とよく使われる。なお、「~(ン)だ人」は、「~」に「兄」「姉」などその家族のどの続柄に当たるかを入れて説明する表現方法である。
練習問題2:次の()内の標準語を、秋田弁にしてみよう。
(1)あれ誰(だっ)た?(2)あれ太郎(だっ)たりするが?(3)昔先生(だっ)た人。(4)俺もし金持ぢ(だっ)たら土地いっぺぁ買うンどもな。(5)あれ誰(だ)?(6)あれンだば太郎(だ)。(7)あの家[え]の息子、財産家(である)家がら嫁っこもらってたいした金持ぢなった。(8)あっこ家[ね]さ兄弟三人いだンども、その兄(である)人急に死んだど。(9)大臣(な)のに頭悪り。(10)赤ん坊(な)のになんも泣がねぁ。(11)向げぁ家[ね]ンだば貧乏ンで、金取[かねとり]ンだばいたって奥さん(である)人銭おが使う人ンで大変だあんだどは。 注:~家[ね]=~の家[え]
秋田弁の「だ」の活用③
仮定形:「なら」→「ンだら」。直前の音節の母音を鼻母音化させること。
それが熊ならば一大事だ。→それか゚熊ンだら一大事ンだ。
説明:この形では後ろに仮定の「ば」を付けてはいけない。
補足:「なら」→「ンだ」とも言う。直前の音節を鼻母音化。但しこの場合、必ず直後に仮定の「ば」をつけること。
それが熊ならば一大事だ。→それか゚熊ンだば一大事ンだ。
説明:こちらの形では、直後に必ず仮定の「ば」をつける。結果的には、「ならば」→「ンだば」という対応関係が成り立つことになる。
練習問題3:次の()内の標準語を、秋田弁にしてみよう。
(1)学生(なら)もっと若げぁべ。(2)熊(なら)ばもっと大っきべ。(3)猫(なら)ば世話さねぁンで済むンども。(4)あれん前ぁの犬(なら)なしてお前ぁどさ吠える?(5)俺も動物(なら)いがったは。(6)おしん(なら)ば大丈夫ンだべ。
練習問題解答:
練習問題1:(1)ンで・ンで(2)ンで(3)で(4)ンで(5)ンで
練習問題2:(1)ンであっ(2)ンであっ(3)ンであっ(4)ンであっ(5)ンだ(6)ンだ(7)ンだ(8)ンだ(9)だ(10)ンだ(11)だ
練習問題3:(1)ンだら(2)ンだ(3)ンだ(4)ンだら(5)ンだら(6)だ
赤字部分の説明:「ん」は母音でないので、鼻母音化しえない。ゆえに、「ん+だ」の時には、鼻母音記号「ン」はつけないのである。
終わりに
以上にて、今回の勉強はおしまいです。
それでは、みなさん、またこんど。へばなー。
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