秋田弁会話名詞篇11回
みなさん、こんばんは。
今回が秋田弁会話名詞篇の最後となります。またしばらく更新しなくなりますが、サイト自体は継続しておきますのでご安心ください。
10.「こンづげぁっこ」「ぼだっこ」「こまンづげぁ」「つとめ」「おがけ゚さんで」「せやみこぎ」「せやみ」「しょがらっこ」「せぎはん」「だいごンすれ」「じじ」
-会話-
A:はー、ぼだっこ食ってぁなー。
訳:はぁ、塩鮭食いたいなぁ。
B:…とー、急になにしたな?
訳:…お父さん、急にどうしたの?
A:えー?
訳:んー?
B:なして急にぼだっこ食ってぁなんてゆってだなンだって。
訳:どうして急に塩鮭を食いたいなんて言っているのって言ったの。
A:んー、なも、テレビ見でだっけたいしたんめぁそーンだぼだっこ映ってあったがらせぁ。
訳:んー、いや、テレビを見ていたらとても旨そうな塩鮭が映っていたからさぁ。
B:あいー前ぁもまだ、ほんとにテレビさすく゚影響さえるごど。この前ぁもテレビさしょがらっこ映ったえっとしょがらっこ食ってぁどって騒んだったねぁ。なんぼなんだたって影響さえすき゚ンでねぁ?
訳:もうーあなたったら、本当にテレビにすぐ影響されるわねぇ。この前もテレビに塩辛が映った途端塩辛を食いたいと騒いでいたじゃない。いくらなんでも影響されすぎじゃない?
A:んだたって、あンだえンだおいしそーンだな見へらえれば、だえンだって食ってぁど思うねぁが。…あっ、見れ、かー。こんどせぎはん映ってだやは?…このこ゚ろせぎはん食ってねぁやなー。あっ、こんど大根すれ映ったー。んめぁそーンだ大根すれンだごど。
訳:だけど、あいういうようなおいしそうなのを見せられると、誰だって食いたいと思うじゃないか。…あっ、見ろ、母さん。こんどは赤飯が映っているぞ?…このごろ赤飯を食っていないよなぁ。あっ、こんどは大根おろしが映ったよ。旨そうな大根おろしだなぁ。
B:あいーしかだねぁごど。テレビさ映るたんびにもの食ってぁぐなるってげぁ。困った人ンだごど。
訳:ああまったくもう。テレビに映るたびに食べたくなるっていうの。困った人ねぇ。
A:ははは、なもいねぁは。少しぐれぁわか゚ままなったたって。おらあど定年なって勤めさいがねぁたっていぐなったあんだもの。あどもの食う他おもしぇごどもねぁあんだ。
訳:ははは、別にいいじゃないか。少しくらいわがままになったって。おれはもう定年になって仕事にいかなくてもよくなったんだから。もう食べるしかおもしろいこともないんだ。
B:あいー、なさげねぁごど。あんてぁに仕事熱心ンでいであった人、退職したえっとこごまンでせやみこぎなるもんだがや?
訳:もうー、なさけないわねぇ。あんなに仕事熱心だった人が、退職した途端ここまで怠け者になるものかしら?
A:はー、んだたって、勤めさいがねぁってもいぐなればなー、…なんだがなんもする気さねぁぐなってしまって…おえンだば趣味どがもなんも見つけねぁまま退職してしまったもの。勤めさいがねぁぐなればせやみにもなるべせぁ。
訳:はぁ、そうはいっても、仕事にいかなくてもよくなるとなぁ、…なんだかなにもする気にならなくなってしまって…おれは趣味とかもなにも見つけられないまま退職してしまったからね。仕事にいかなくなれば怠け者にもなるだろうよ。
B:…自分でせやみこぎなったってンだば思ってだあんだな。…まず、おがけ゚さんで年金で暮らすにいンだげ稼でもらったがらおが文句もつがえねぁンどもよ、他にやるごどねぁごったばたまにおえどご手伝ってけれでぁ。おえンだばめぁ家ンでいればかえってやるごどよげぁなってなもかもなねぁ。
訳:…自分で怠け者になったとは思っているのねぇ。…まぁ、おかげさまで年金で暮らすことができるほど稼いでもらったからあまり文句もつけないけどね、他にやることがないならたまに私を手伝ってちょうだいよ。私はあなたが家にいるとかえってやることが多くなってしょうがないわ。
A:なに、おえいればそんてぁに仕事増えるが?
訳:なんだい、おれがいるとそんなに仕事が増えるかい?
B:えー。んだってめぁ、テレビ見るたんびにあえ食ってぁこえ食ってぁどって騒く゚ねぁ。そんてぁにそんてぁにすんまものこしぇぁらえねぁでぁ、なんぼなんだたって。
訳:ええ。だってあなた、テレビを見るたびにあれ食べたいこれ食べたいって騒ぐじゃない。そんなにそんなにすぐ作れないわよ、いくらなんでも。
A:ははは、おえも別にすく゚食ってぁってンだばいわねぁあじ、めぁンだばほんとに真面目ンだものな。…だンどもかー、めぁどご手伝うったたって、おえなにでぎるごどあるっては?
訳:ははは、おれも別にすぐ食いたいとは言っていないのに、お前は本当に真面目だからなぁ。…けど母さん、お前を手伝うと言っても、おれになにできることがあるっていうんだい?
B:んー、んだなー。…買い物ぐれぁンだばめぁンでもでぎるあんでねぁが?おえ買う物書ぁだ紙っこけるがらめぁそえ見でもの買ってきてけれ。
訳:うーん、そうねぇ。…買い物くらいならあなたでもできるんじゃないかしら?私が買う物を書いた紙をあげるからあなたはそれを見て買ってきてちょうだい。
A:ははは、買い物げぁ?…なんだが急にこまンづげぁなった気分だな。
訳:ははは、買い物かい?…なんだか急に小間使いになった気分だな。
B:なに、こえもんたってげぁ?
訳:え、これもいやなの?
A:なも、んでねぁして。…なんだが不思議ンだもんだなーど思って。おえも子供の時分だばな、よぐあえ買ってこい、こえ買ってけーだどって、こまンづげぁみでぁに親がだかってつかわえで、してこンづげぁっこもらって喜んであったもんであったっけな。…してまだ今年行って買い物さあぐってばなー、なんだがまだ子供さ戻った気分なって、…還暦過き゚ればまだ子供さ戻るってほんとンだあんだな。
訳:いや、そうじゃなくて。…なんだか不思議なものだなぁと思ってさ。おれも子供の時代はな、よくあれを買ってこい、これを買ってこいと、小間使いのように親たちにつかわれて、そして小遣いをもらって喜んでいたものだったっけなぁ。…そしてまた今年を取って買い物に出歩くというとなぁ、なんだかまた子供に戻った気分になって、…還暦を過ぎればまた子供に戻るって本当なんだなぁ。
B:あい、めぁもまだとんどりねぁごど言って。なに一人して感傷的なってだなやは?
訳:もう、あなたったらわけのわからないことを言って。なにを一人で感傷的になっているのよ?
A:ははは、なも。よし。せばひしゃしぶりに買い物さ行ぐがは。かー、買う物書ぁだ紙っここっちゃよごしてけれー。
訳:ははは、別に。よし。じゃあひさしぶりに買い物に行こうか。母さん、買う物を書いた紙をこちらへよこしてくれ。
B:あい、めぁンだばほんとに急ンだごど。まずわがったがら少しおぢづげでぁ。はー、ほんとに困ったじじなったもんだごど。
訳:もう、あなたは本当に急ねぇ。まぁわかったから少しおちつきなさいよ。はぁ、ほんとうに困ったお爺さんになったものねぇ。
-単語-
①ぼだっこ:塩鮭。例:このぼだっこちょっと味薄しぐねぁ?[この塩鮭は少し味が薄くない?]このぼだっこンだば味濃いしてんめぁンどもおが食ぅぇば体さ悪りがもしえねぁやー?[この塩鮭は味が濃くて旨いけれどあまりに食べると体に悪いかもしれないよ?]
②しょがらっこ:塩辛。例:とー、悪りンども店屋さ行ってしょがらっこ買ってきてけねぁ?[お父さん、悪いけど店に行って塩辛を買って来てくれない?]このしょがらっこ、酒さ合っていごど。[この塩辛は、酒に合っていいねぇ。]
③せぎはん:赤飯。例:せぎはんって、もちこめ使ってこしぇぁるなやな。[赤飯というのは、もち米を使って作るんだよな。]なに、あの娘子供持ったど?あいーそえンだばめンでてぁごど。今日ンだばせぎはんにすらな。[え、あのこ子供を産んだですって?まぁまぁそれはめでたいわねぇ。今日は赤飯にしましょう。]
④だいごンすれ:大根おろし。例:このだいごンすれ、なんだがどろどろでぁして食ってぁぐねぁー。[この大根おろし、なんだかどろどろで食べたくない。]んー、このだいごンすれ、少し辛れぁぐねぁが?だいごンすれってこンだえンだ味するもんであったっけが。[うーん、この大根おろし、少し辛くない?大根おろしってこういうような味がするものだったっけ。]
⑤つとめ:仕事。勤め。「つとめさいぐ」等の表現で使い、「仕事にいく」の意味となる。例:おらえの息子ンだばほんとに困った人ンだごど。さんじゅーなってまンだつとめさいぐもさねぁ。[うちの息子は本当に困った人だなぁ。三十路になってまだ仕事に行きもしない。]務めさ行げば人に使わえるがらこえぁなやな。[仕事に行くと人に使われるから疲れるんだよなぁ。]
⑥せやみこぎ:怠け者。怠惰な人。例:なに、めぁ買い物さ行ぐなも億劫ンだってげぁは?なんーだでめぁンだばほんとにせやみこぎンだごど。[え、お前買い物に行くのも億劫だってのかい?まったくお前は本当に怠け者だなぁ。]あっこねのあんさんだばたいしたせやみこぎンで、外さ出はるなもんたどってあど何年も家の中ンでいだあんだどや。[あそこのうちのお兄さんはとても怠け者で、外に出るのもいやだといってもう何年も家の中にいるんだってさ。]
⑦せやみ:怠け者。怠惰な人。「せやみこぎ」と同じ意味。例:なに、めぁ買い物さ行ぐなも億劫ンだってげぁは?なんーだでめぁンだばほんとにせやみンだごど。[え、お前買い物に行くのも億劫だってのかい?まったくお前は本当に怠け者だなぁ。]あっこねのあんさんだばたいしたせやみンで、外さ出はるなもんたどってあど何年も家の中ンでいだあんだどや。[あそこのうちのお兄さんはとても怠け者で、外に出るのもいやだといってもう何年も家の中にいるんだってさ。]
【参考】秋田弁では、「体の部位-やむ」で「体の部位が痛む」の意味になる。「せやみ」というのは、語源的には「背病み」であろう。例:あだまやむ。[頭が痛い。]最近肩病んでなもかもなねぁ。[最近肩が痛くてしょうがない。]「せやみ」というのも、語源的には「背病み」である。
⑧おがけ゚さんで:お陰さまで。例:あいー安藤さんしばーらぐー。元気ンでいであったが?―えー、おがけ゚さんで。[あらぁ安藤さん久しぶりねぇ。元気だったかしら?―ええ、おかげさまで。]いろいろあったンどもおがけ゚さんでなんとが定年まンで仕事続げにいがったー。めぁどさンだばほんとに感謝してもしきらえねぁー。[いろいろあったけどおかげさまでなんとか定年まで仕事を続けることができたよ。お前には本当に感謝してもしきれないよ。]
⑨こまンづげぁ:小間使い。例:まんずめぁンだば、あっちゃこっちゃありってあって、小間使ぁみでぁンだねぁが。[まったくお前は、あちらへこちらへ歩いて回って、小間使いみたいじゃないか。]おれも子供ンであったづぎンだば小間使ぁみでぁにあーせこーせってうるせぁぐ言わえであったもんであったっけな。[私も子供だった時は小間使いのようにああしろこうしろとうるさく言われていたものだったっけなぁ。]
⑩こンづげぁっこ:お小遣い。例:なに、あンだどンでンだば高校生なってもこンづげぁっこ一銭もけねぁなは?そえンだば少しおがンでねぁが?[え、あなたのところでは高校生になってもお小遣いは一銭もあげないの?それは少しあんまりじゃない?]おれ小学生の時分ってば、こンづげぁっこってば月500円よりもらわえねぁもんであったンども、今の子供がだなんぼもらってだあんだべな。[私が小学生の頃というと、小遣いとなると月500円しかもらえないものだったけれど、今の子供たちはいくらもらっているんだろうね。]
⑪じじ:爺さん。「ばば」同様、特に罵倒する意味はない。「じーさん」とも言う。但し、「じじ」も「ばば」も標準語が浸透した今では標準語の「ジジイ」「ババア」の意味で捉える人もいそうなので現実的には使わない方が無難。例:あっこねのじじ認知症なったどや。[あそこの家の爺さん認知症になったそうだよ。]あいーはんかくせぁごど。だれこンだはぢじゅーより先なるじじこえんた本読むもんだってげぁは。豪さらしンだー。[ああもう馬鹿くさいわねぇ。だれがこんな八十歳以上になるお爺さんがこういった本を読むものだっていうの。恥さらしよ。]
終わりに
以上にて秋田弁会話名詞篇最終回は終了です。
そのうち時間に余裕ができれば動詞篇や連語篇もupしていきたいと思います。
ではまたいつか。へばなー。
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