秋田弁会話名詞篇第9回
みなさんこんばんは。
秋田弁会話の名詞篇も今回で9回目。名詞篇は次で最後となりますので、第10回以降はまたしばらく更新がとまるかと思います。
ご了承ください。
9.「かげ」「てめぁ」「ばば」「はんぴ」「ばしゅ」
-会話-
A:かー、かー。
訳:母さん、母さん。
B:あい、なしたとーさん。
訳:あら、どうしたのお父さん。
A:なも、この前ぁ来たはか゚ぎなぼー探しても見つけねぁがらせぁ、どさよへだがなーど思って。
訳:いや、この前来たはがきがいくら探しても見つけられないからさ、どこへよせたかなぁと思って。
B:…とー、前ぁそえほんとに見つけねぁなが?
訳:…お父さん、あなたそれ本当に見つけられないの?
A:えー、朝間っからなんぼ探したたってみつけねぁして、探してがらあどはんぴなってしまったは。
訳:ああ、朝からいくら探しても見つけれなくて、探してからもう半日になってしまったよ。
B:はんぴって、ん前ぁもまだ、そんてぁに時間かがるごったらはえぁぐおえさ聞けばいあじ。
訳:半日って、あなたったら、そんなに時間がかかるなら早く私に聞けばいいのに。
A:なに、やっぱりめぁどっかさよへだな?
訳:え、やっぱりお前がどこかへよせたの?
B:なも、んでねぁンども、前ぁかって聞がえだえっとすんま見つけだやは?
訳:いえ、そうじゃないけど、あなたに聞かれた途端すぐに見つけたわよ?
A:おや、ほんとにげぁ?どさあった?
訳:おや、本当かい?どこにあった?
B:どさあったって、…前ぁ今立ってだどごの手前ぁの机のゆえさあか゚ってだー。
訳:どこにあったって、…あなたが今立っているところの手前の机の上にあがっているわよ。
A:なっと?
訳:なんだって?
B:前ぁの手前ぁの机のゆえさあか゚ってだって。なんーだって前ぁもまだほんとにもの探すに下手ンだごど。そんた近けぁどンであるあじみつけるになしはんぴかがるって。…だンどもなしてそんたな必死なって探してだあんだ?
訳:あなたの手前の机の上にあがっているっていったの。まったくあなたったら本当に探すのが下手ねぇ。そんな近いところにあるのを見つけるのにどうして半日かかるっていうの。…でもどうしてそんなのを必死になって探しているの?
A:あー、なも、このはか゚ぎのかげさこの前ぁなんだが忘れねぁえに大事ンだごど書ぁだ気したがらせぁ、なに書ぁだっけなーど思って。
訳:ああ、いや、このはがきの裏にこの前なんだか忘れないように大事なことを書いた気がしたからさ、なにを書いたっけなぁと思って。
B:あい、はか゚ぎのかげさげぁ?前ぁもまだおがしけンだごどするねぁは。なにが書ぎでぁごどあるごったばこンだえンだちらしっこのかげさ書ぁだほよっぽど見易しべー?なしはか゚ぎなののかげさわんざにもの書ぐでごどあるって。
訳:あら、はがきの裏に?あなたったらおかしなことをするじゃない。なにか書きたいことがあるならこういうようなちらしの裏に書いた方がずっと見やすいでしょう?どうしてはがきなんかの裏にわざわざ書くということがあるっていうのよ。
A:なも、そのづぎ急んでだがら書ぐにいばなんでもいンどもって、近けぁどさあったこのはか゚きっこさ書ぁだなンだ。…前ぁもそーこづがねぁってもいーねぁは。
訳:いや、そのとき急いでいたから書けるならなんでもいいと思って、近いところにあったこのはがきに書いたんだよ。…お前もそういじめなくてもいいじゃないか。
B:あい、別にこづだつもりンだばねぁたって…おえも婆なって根性悪りぐなったべが?
訳:まぁ、別にいじめたつもりはないけれど…私もお婆さんになって意地悪くなったかしら?
A:なも、別に根性悪りってほンどンでンだばねぁったたって、なんだが若げぁ時分より小言つぐごどいげぁなった気するはな。
訳:いや、別に意地悪いというほどではないけれど、なんだか若い時よりも小言をつくことが多くなった気はするな。
B:あい、んだが?…んだがらこの前ぁ、あの子かってあったごどゆわえだあんだべが。
訳:あら、そう?…だからこの前、あの子にあんなことを言われたのかしら。
A:なに、太郎かってなにがゆわえだなが?
訳:え、太郎になにか言われたのか?
B:えー、この前ぁあの子おが遅せ時間まンで起ぎであったがら早えぁぐにしぎさ行げどったっけ、「あーほんとにうるせぁばしゅンだごど!」だどっておがごしゃがえだがらせぁ…。
訳:ええ、この前あの子があまりに遅い時間まで起きていたから早く寝なさいって言ったら、「ああ本当にうるせぇババアだなぁ!」って酷く怒られたからねぇ…。
A:おや、「ばしゅ」だどってゆわえだってげぁ?…そえンだば少しおがンだごど。
訳:おや、「ババア」と言われたってのかい?…それは少しやりすぎだなぁ。
B:はー、だンども滅多にごしゃがねぁあえかってそンだえンだごどゆわえるってばなー、おえも婆なって知らねぁこまに根性悪りぐなったあんだなーど思って。
訳:はぁ、けど滅多に怒らないあの子にそういうようなことをいわれるとなるとねぇ、私もお婆さんになって知らない間に意地悪くなったんだなぁと思って。
A:…まず、そー思うえんだらこえがら気つけれは。なんぼなんだたってばしゅでごどねぁど思うたってな。
訳:…まぁ、そう思うようならこれから気をつけなさい。いくらなんでもババアということはないと思うけどな。
-単語-
①はんぴ:半日。例:あの人ンだば毎ん日はんぴあすぶにあってだンども、なんとしてじぇん稼んでだあんだべが。[あの人は毎日毎日半日遊びに歩いているけど、どうやってお金を稼いでいるんだろうか。]考えでみれば、人ってはんぴ仕事してはんぴねってだあんだやな。仕事する時間ど同じンだげねってるど思えば、なんだが不思議ンだもんだ。[考えてみると、人というのは半日仕事をして半日眠っているのだよな。仕事をする時間と同じ分だけ眠っていると思うと、なんだか不思議なものだ。]
②てめぁ:手前。場所を表す言葉「手前」の訛り。例:そごの棚のてめぁさ置でねぁが?[そこの棚の手前に置いていないか?]車のてめぁンで猫眠ってで車よこ゚がさえねぁー。困ったもんだごど。[車の手前で猫が眠っていて車が動かせない。困ったものだなぁ。]
【補足】:なお、相手を威圧する「てめぇ」は、秋田弁では「んか゚」と言う。但し、「んか゚」も最近では聞かない。また、「んか゚」も昔は今でいう「んめぁ」「お前ぁ」「めぁ」程度の意味だった。この手の言葉は時代や地方によってニュアンスが変わるから使わないのが無難。
③かけ゚:裏。例:書く紙っこねぁごったばこのちらしのかけ゚さンでも書げばいねぁは。[書く紙がないならこのちらしの裏にでも書けばいいじゃないか。]なに、はか゚ぎさ差出人誰ンだが書ぁでねぁど?そのかけ゚さ書ぁでねぁ?[え、はがきに差出人が誰か書いていないだって?その裏に書いてない?]
④ばば:漢字だと「婆[ばば]」。意味は婆さん。特に侮辱の意味はないが、実際に使う時は標準語通り「お婆さん」と言うのが無難。例:あいー腰いでぁ。おらもあどばばなってだんだんに体きがねぁぐなってきたえんだ。[ああもう腰が痛いわ。私ももうお婆さんになってだんだん体が動かなくなってきたようね。]おらえのばばンだばあどきゅーじゅーより先なるもの。足利がねぁぐなるなも当だり前ぁンだやな。[うちの婆さんはもう九十歳以上になるからね。足が動かなくなるのも当たり前だよね。]
⑤ばしゅ:ババア。罵る言葉。普通に「婆さん」の意味では「ばば」「ばーさん」と言う。といっても、この手の言葉は人や地方によってニュアンスが逆になったりするから、現実的には標準語通り「お婆さん」とか言った方が無難。例:このばしゅ、あどなんぼおえさ同じごど言わへれば気ー済むな?いっかげんにせでぁ。[このババア、あといくらおれに同じことを言わせれば気が済むんだ?いいかげんにしろよ。]まんずうるせぁばしゅンだごど。年行ったもの。もー少し静がに生ぎでがえねぁもんだべがなーほんとに。[とにかくうるさいババアだなぁ。年を取ったんだ。もう少し静かに生きていけないもんかねぇ、ほんとうに。]
おわりに
以上で第9回は終了です。
へばな。
関連ページ
- 1.「あんさん」「おなこ゚」「ひとりもの」「ひとりおんな」「かが」「じぇん」「ばがっけ」「ごさらしンだ」「にー」「はがしょ」「おーさん」「ひとりめぁなる」「いあんべぁンだ」「あっちのゆ」「かねとり」「ものもらい」「おどごひと」
- 秋田方言の会話文を通して秋田方言の名詞を覚えます。
- 2.「んな」「ぼーふ」「しどけ」「ばっけ」「づぎ」「みせや」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 3.「まま」「あさま」「としょり」「ひしゃしぶりンだ」「かだっぱりンだ」「ほぢょ」「したごしぇぁ」「としとり」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 4.「つぎはき゚」「ひはき゚」「はなか゚み」「まほーびん」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 5.「ちゃか゚ま」「めくら」「しょーゆづぎ」「きかず」「ねだす」「まなぐ」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 6.「べぁっこ」「くゎしばご」「ゆえ」「あだり」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 7.「にめぁ」「かみ」「しも」「しぎっこ」「もちこめ」「あじあだりめぁンだ」「へどっこ」「おづげっこ」「がっこ」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 8.「すなじ」「なにがかにが」「せぎ」「つづみ」「まだき゚」「てっぽーうぢ」「もど」「けぁんど」「むがしっこ」「ぶらぐ」「しめぁに」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。
- 10.「こンづげぁっこ」「ぼだっこ」「こまンづげぁ」「つとめ」「おがけ゚さんで」「せやみこぎ」「せやみ」「しょがらっこ」「せぎはん」「だいごンすれ」「じじ」
- 秋田弁の名詞を会話文を通して覚えます。