第4回:「お-」がつく時の発音と複合語の発音
みなさん、こんばんは。
今回は、タイトルにある通りのことについて勉強します。
1.秋田弁の「お-○○」
秋田弁でも、「お客」「お天気」などのような、接頭辞「お-〇〇」という丁寧な言い方は健在である。
ただ、厄介なことに、秋田弁では、「お-」を付けると、「お-」の直後の音(例:「お-きゃく」なら「きゃ」、「お-てんき」なら「て」が直後の音に当たる。)が変化することがある。
今回は、その変化する直前の音とはどういうものなのかを学ぶ。
2.接頭辞「お-」によって音が変化するもの
「お-」を付けることで変化する音は以下の4種類のものに限られる。以下、例として、「お+秋田弁語彙」→「『お』がついた時の秋田弁語彙」で発音の変化を示そう。
①カ行音→ガ行音へ
例:お+きゃぐ[客]→おぎゃぐ お+かー[母]さん→おがーさん
②タ行音→ダ行音へ
例:お+てんき[天気]→おでんき お+とー[父]さん→おどーさん
③ガ行音→カ゚行音へ&接頭辞「お」が「おン」へ。
例:お+げんき[元気]→おンけ゚んき
④濁音全般→接頭辞「お」が「おン」へ。
例:お+じー[爺]さん→おンじーさん お+べんとー[弁当]→おンべんとー
参考:「お-」がつくと音が変化するものがある原理
原理なんて分からなくても、2で習ったことを覚えてしまえば問題ない。
それでも理由が知りたいという人のために一応は解説しようと思う。
今回の現象は、原理的には、以下のようなものである。
1.接頭辞「お-」と「○○」をくっつけると、「お○○」で一語と見なされる。
2.故に、語頭にあった「○」が第二音節以降の音という扱いになる。
3.すると、第2課や第3課で習った「濁る音になる音」や「鼻にかかる音になる音」に当たる音だった場合、「語頭以外の音」になるので、濁る音や鼻にかかる音へと変化する。
まぁこれだけのことなのだけれども、口で説明すると果てしなくややこしいので原理までは知らなくていいと個人的には思う。言語なんて正しく運用できれば理屈なんて知らんでも…というのが私のスタンスなのである(開き直り)。
3.複合語について
複合語というのは、いくつかの単語がくっついて新しい言葉になった語彙のこと。文字通り、単語が「複」数「合」わさってできた「語」のことである。
例えば「県立体育館」なら、「県立」という単語と「体育館」という単語が合わさってできた複合語だし、「大学図書館」なら、「大学」という単語と「体育館」という単語が合わさってできた複合語である。
こうした複合語を、秋田弁語彙に直す際にはどうすればいいのかを、これから解説する。
4.秋田弁における複合語の発音
標準語の複合語を秋田弁語彙に変換したい場合は、以下の手順を踏めばよい。
①複合語を、一つ一つの単語に切り分ける。
例1:県立体育館前→「県立/体育館」の二語に分解。
例2:大学図書館→「大学/図書館」の二語に分解。
②切り分けた単語を、一つ一つ秋田弁版に直す。
例1:「けんりつ」→「けんりづ」、「たいいくかん」→「たいーくかん」。
例2:「だいがく」→「だいンか゚ぐ」、「としょかん」→「としょがん」
③それら[=切り分けて秋田弁に直した一つ一つの単語]をそのままくっつける。
例1:「けんりづ」+「たいーくかん」=「けんりづたいーくかん」
例2:「だいンか゚ぐ」+「としょがん」=「だいンか゚ぐとしょがん」
注意:なお、「複合語であるかどうか」や「単語の切り分け方」は、話者が単語をどう理解しているかによって変わってくるので、実は秋田弁の単語の発音は人によって微妙に違う。
例1:「体育館」
→話者が「体育」「館」の複合語と見なしていれば、「たいーぐ」+「かん」=「たいーぐかん」という発音になる。「体育館」で一語と見なせば、「たいーくかん」となる。
例2:「県立図書館」
→話者が、「県立図書館」を一語と見なしていれば、「けんりつとしょがん」となるし、「県立」「図書館」の複合語と見なしていれば、先にやった通り「けんりづ」+「としょがん」=「けんりづとしょがん」となる。
練習問題
練習問題:次の標準語を、秋田弁語彙に変換してみよう。なお、「〇-〇」とあった場合、「-」の部分で単語が切り分けられているものと解釈すること。
①おきゃく[お客]・おかーさん[お母さん]・おてんき[お天気]・おとーさん[お父さん]・おちゃ[お茶]・おげんき[お元気]・おじーさん[お爺さん]・おばーさん[お婆さん]・おべんとー[お弁当]
②こくりつ-こっかい-としょかん[国立国会図書館]・とーほく-アイヌご-ちめー-けんきゅー-かい[東北アイヌ語地名研究会]・けんりつ-たいーくかん[県立体育館]・こーこ-がく[考古学]
③ちり-とり[塵取り]・きり-とる[切り取る]・おもい-こむ[思い込む]・かんがえ-こむ[考え込む]・しんじ-きる[信じ切る]・なき-さけぶ[泣き叫ぶ]・きき-とる[聞き取る]
解答:分かり易さを考慮して、単語の切れ目の「-」は残しておいた。
①おぎゃぐ[お客]・おがーさん[お母さん]・おでんき[お天気]・おどーさん[お父さん]・おぢゃ[お茶]・おンけ゚んき[お元気]・おンじーさん[お爺さん]・おンばーさん[お婆さん]・おンべんとー[お弁当]
②こぐりづ-こっかい-としょがん[国立国会図書館]・とーほぐ-アイヌンこ゚-ちめー-けんきゅー-かい[東北アイヌ語地名研究会]・けんりづ-たいーくかん[県立体育館]・こーご-がぐ[考古学]
③ちり-とり[塵取り]・きり-とる[切り取る]・おもい-こむ[思い込む]・かんか゚え-こむ[考え込む]・しんじ-きる[信じ切る]・なぎ-さげンぶ[泣き叫ぶ]・きぎ-とる[聞き取る]
簡単解説:本課で習った通りである。一応簡易な解説はするが、分からない場合は本課を見直されたし。
①:標準語の「お○〇」を秋田弁に直したければ、以下の手順に従おう。
1.最初に「○〇」の部分だけ秋田弁語彙に直す。
2.次に語頭に「お」をつける。
3.最後に「お○〇」の「○」の部分を、必要に応じて濁る音にしたり鼻にかかる音にしたりする(本課の2のところ参照)。まぁ具体的には、「○」=「カ行」→「ガ行」、「○」=「タ行」→「ダ行」、「○」=「ガ行」→「ン+カ゚行」+、「○」=「濁音(ガ行以外)」→「ン+濁音」とすればよい。
②③:「-」で区切られた単語ごとに秋田弁語彙に直し、それをそのまま繋ぎ合わせればいい。秋田弁語彙への変換方法は、第一回、第二回、第三回を理解していればできる。
終いに
以上で今日の勉強も終了。
ではまたこんど。へばなー。
関連ページ
- 第1回:ささやく音になる音
- 今回は、ささやく音になる法則について学びます。
- 第2回:濁る音になる音
- 今回は、標準語から秋田弁に変換する際の「濁る音になる音」について勉強します。
- 第3回:鼻にかかる音になる音
- ここでは、標準語単語を秋田弁語彙へと変換する法則について学びます。
- 第5回:「~さん」「~っこ」がついたときの発音と人名の発音
- ここでは、標準語単語を秋田弁語彙へと変換する法則について学びます。