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第3回:鼻にかかる音になる音

第3回:鼻にかかる音になる音

 みなさん、こんばんは。

 

 今回は、秋田弁の発音の醍醐味「鼻にかかる音」について勉強します。

1.鼻にかかる音とは?

 標準語で「あん[案外]」「かんあん[勘案]」「ぜんいん[全員]」「えんえん[延々]」と言ってみよう。

 

 このとき、上の太字部分を言う際に、鼻から声が抜けていっていることに気づいただろうか?

 

 本課で習う「鼻にかかる音」とは、そのような、鼻から声が抜ける音のことである。難しい言葉でいうと「鼻音」と呼ばれる。

 

 この鼻にかかる音というのは、秋田方言では非常に頻繁に見られ、濁る音と並んで秋田方言の大きな特徴の一つとなっている。

 

2.鼻音の種類

 標準語と共通する部分は意識しなくてもできるので割愛する

 

 標準語になくて秋田弁にはある鼻にかかる音には、以下のようなものがある

 

①カ゚行音…「か゚」「き゚」「く゚」「け゚」「こ゚」や「き゚ゃ」「き゚ゅ」「き゚ゅ」等の音がある。

発音のヒント:標準語で「あ[案外]」「い[慇懃]」等「んが」「んぎ」「んぐ」「んげ」「んご」等と発音しようとする際の「がぎぐげご」の音が、実はちょうどこの音に当たる。

 

②「ン」…鼻にかかる音。「あンかンさンたンなン」「ひンみンいンりンいン」のように、「っ」「ん」以外のあらゆる音は、秋田弁では鼻にかかる音になることができる。

発音のヒント:標準語で「かん[勘案]」「ぜん[全員]」等「あん+母音」「いん+母音」「うん+母音」「えん+母音」「おん+母音」と言おうとする際の「あん」「いん」「うん」「えん」「おん」が、実は秋田弁の「あーン」「いーン」「うーン」「えーン」「おーン」という鼻にかかる音の長い音バージョンとなっている。従って「かんあん」は「かーンあん」、「ぜんいん」は「ぜーンいん」というのが実際の音になってる。

注意:母音とはア行の「あいうえお」の音のこと。

 

 とりあえず、秋田弁表記において「ン」というのが鼻にかかる音になっているという記号、「か゚き゚く゚け゚こ゚」のような表記になっているのが鼻にかかるガ行みたいな音と覚えておいて欲しい。

 

 なお、この表記は、当サイトオリジナルというほどのものではなく、東北の諸方言の(鼻音の存在に気づいている)解説書やら辞書やらは、大体みんなこんな感じの、似たような表記法がなされている(つまり「ん」やら「ン」やらを小さく添える感じの表記)

 

3.鼻にかかる音が出る条件

 濁る音同様、鼻にかかる音も出て来る際には条件というものがある。

 

「カ゚行」と「ン」の音が出る条件を覚えよう。

 

A:「カ゚行」の音が出る条件

→標準語で語頭以外にあるガ行の音は、秋田弁ではすべてカ゚行で読む。

例:かぐ[嗅ぐ]→かく゚ いがぐり→いか゚く゚り ひょーげん[表現]→ひょーけ゚ん はんにゃしんぎょー[般若心経]→はんにゃしんき゚ょ

 

 なお、上の例、実際の発音は「かンく゚」「いンか゚ンく゚り」「ひょーンけ゚ん」だが、これは下のBで習うのでそっちを見て欲しい。

 

B:「ン」の音が出る条件

①標準語で語頭以外に濁る音がある言葉→秋田弁になると、その濁る音の直前にある音が「ン」という鼻にかかる音になる。

例:は→は ひ[秘蔵]→ひー カン→カン いがぐり→いか゚く゚り 等々

 

 ご覧の通り、「はだ」なら濁る音「だ」の直前の音「は」が「はン」に、「ひぞー」なら濁る音「ぞー」の直前の「ひ」が「ひン」に、といった具合に、秋田弁では濁る音の直前にある音が「ン」という鼻音に変化している。

 

 「いがぐり」→「いか゚く゚り」はやや注意。「いがぐり」のように、標準語で語頭以外にガ行の音がある単語は、さきほどAで習ったように、「ガ行」→「カ゚行」という変化も起こる。それに加えて今習った、「ン」を直前の音につける、という変化が起こるので、「いか゚く゚り」となるわけである。

 

②標準語で語頭以外にナ行・マ行の音がある言葉→秋田弁になると、そのナ行・マ行の音の直前にある音が「ン」という鼻にかかる音になる。

例:は→は ふね→ふ ちゃが[茶釜]→ちゃンか゚ ま→ま 等々

 

 ご覧の通り、「はな」「ふね」ならナ行の前の「は」「ふ」が「はン」「ふン」に、「まめ」なら「め」の前の「ま」が「まン」になっている。

 

「ちゃがま」については、Aの「ガ行」→「カ゚行」の法則と、B①の「濁る音の直前の音は『ン』に」の法則、それに今回の「ナ行マ行の音の直前の音は『ン』に」の法則が合わさって「ちゃンか゚ンま」となるわけである。

 

例外:①②の場合であっても、「ん」「っ」は「ン」の音にはなれない。

①いんぶれー[慇懃無礼]→いき゚んぶれー ベ→ベ

②こ[困難]→こん か[緩慢]→か

 

 上の例を見れば分かるように、「いんンき゚んンぶれー」や「ベッンド」のようにはならないし、「こんンなん」「かんンまん」のようにもならない。

 

そもそも「んン」「っン」なんて音は発音不可能なので当たり前といえば当たり前である。

 

 ともあれ、「っ」「ん」は「ン」にはなりえないと覚えよう。

 

 鼻にかかる音のルールは、以上でおわり。例外も少ないので、ささやく音や濁る音に比べれば、はるかに覚えやすかったのではないだろうか?

 

練習問題:次の標準語を、秋田弁の発音に直してみよう。

①いが[伊賀]・くぎ[]・くぐる・はげ[禿]・いご[囲碁]・しょーぎ[将棋]・しゅぎょー[修行]・とーぎゅー[闘牛]

②はだ[]・ふで[]・ブドー・あざ[]・あじ[]・かず[]・かぜ[]・ひぞー[秘蔵]・くじょー[苦情]・きょーだい[兄弟]・しょーじょー[賞状]

③かばん[]・ひび・ふぶき[吹雪]・あべ[安部]・いぼ[]・がびょー[画鋲]・しょーばい[商売]・れーびょー[霊廟]

④はな[]・なに[]・いぬ[]・ほね[]・かのー[可能]・ひにょー[泌尿]・とーにょー[糖尿]

⑤はま[]・うみ[]・すむ[住む]・はめる・すもー[相撲]・けつみゃく[血脈]・こーみょー[功名]

⑥かんぐん[官軍]・はんざい[犯罪]・かんだい[寛大]・ぎんなん[銀杏]・はんばい[販売]・あんみん[安眠]・はんにゃしんぎょー[般若心経]・バッドエンド

 

練習解答

①いか゚[伊賀]・くき゚[]・くく゚る・はけ゚[禿]・いこ゚[囲碁]・しょーき゚[将棋]・しゅき゚ょ[修行]・とーき゚ゅ[闘牛]

②は[]・ふ[]・ブー・あ[]・あ[]・か[]・か[]・ひ[秘蔵]・くじょ[苦情]・きょー[兄弟]・しょーじょ[賞状]

③か[]・ひ・ふ[吹雪]・あ[安部]・い[]・がびょ[画鋲]・しょー[商売]・れーびょ[霊廟]

④は[]・な[]・い[]・ほ[]・か[可能]・ひにょ[泌尿]・とーにょ[糖尿]

⑤は[]・う[]・す[住む]・はる・す[相撲]・けづみゃ[血脈]・こーみょ[功名]

⑥かく゚[官軍]・は[犯罪]・か[寛大]・ぎ[銀杏]・は[販売]・あ[安眠]・はにゃき゚[般若心経]・バ

 

簡易解説:習った通りだが、一応簡単に解説しておこう。

①:ガ行→カ゚行より、黒太字になる。また標準語で語頭以外に濁音がある場合、秋田弁ではその直前の音に「ン」を添えるから赤太字になる。

②:標準語で語頭以外に濁音がある場合、秋田弁ではその直前の音に「ン」を添えるから赤太字になる。

③:②と同じ理由で赤太字になる。「ふぎ」の「ぎ」については、第二回の濁る音になる音を思い出されたし。

④⑤:標準語で語頭以外にナ行マ行がある時、秋田弁ではその直前の音に「ン」を添えるから赤太字になる。なお、「けづみゃぐ」の「づ」「ぐ」は第2回の濁る音になる音を思い出されたし。

⑥:標準語で語頭以外に濁音・ナ行・マ行があっても、直前の音が「ん」「っ」の場合「ン」は添えられないから黒太字になる。なお、「ガ行」→「カ゚行」の法則より、赤字になる。

 

解説は、以上である。

 

参考:鼻にかかる音の、当サイトの表記方法について

 ところで、本課で習った鼻にかかる音だが、その表記方法については、当サイトでは、以下のように表記のルールを定めている。

 

①カ゚行音は「か゚」「き゚」「く゚」「け゚」「こ゚」「き゚ゃ」「き゚ゅ」「き゚ょ」等と表記。

②「ン」は、カ゚行、ザ行、バ行、ナ行、マ行の直前の音にはいちいち付けない。

③でも標準語でダ行だった音の直前の音には「ン」を明記する。

 

 つまり、標準語でダ行→秋田弁でその直前に「ン」を添えるという場合を除いて「ン」を表記することはしていない。本課の説明や練習・解答の時とは表記方針が少し違うのである。

 

なぜそんなルールにしているかというと、

 

a.一々書かなくても規則が分かれば再現できるから表記しなくていい、

b.「ン」をすべて表記すると書くのがすごく手間になる、

 

と考えてのことである。

 

以下、理由を知りたい人のために弁明しよう。弁明なので勉強とはかなりズレるし、そのくせかなり煩雑になるから、興味ない人はここから先は読まない方がいいと思う

 

 まず、aの理由について説明しよう。

 

当サイトの普段の表記方針では、「『ン』は、カ゚行、ザ行、バ行、ナ行、マ行の直前の音にはいちいち付けない」と定めているが、秋田弁で「カ゚行、ザ行、バ行、ナ行、マ行」になる音とは、標準語では「ガ行、ザ行、バ行、ナ行、マ行」=「濁る音とナ行・マ行」である。

 

よって、本課の3のBで習った法則[=標準語で、語頭以外に濁る音やナ行マ行音がある時、秋田弁ではその直前の音に「ン」を添える]より、直前の音に「ン」を添えて発音することは規則が分かれば表記しなくても分かる。

 

 ところがダ行だけは事情が違う。

 

秋田弁でダ行のものは、標準語では「ダ行」であった可能性の他、「タ行」であった可能性も出て来るからである(第2回の濁る音になる音参照)

 

 具体例を挙げよう。例えば、秋田弁で「はだ」と書くとしよう。これに対応する標準語を考えてみると、「はだ[]」と「はた[]」の二つの可能性が出て来る。つまり、この表記だと「肌」なのか「旗」なのか分からなくなる。「はンだ」と書いて初めて「はだ[]」であることが明確になる。

 

 同様に、「ふだ」という単語も、「ふンだ」という表記を認めなければ、「蓋」なのか「札」なのかが分からなくなる。この他にも区別できなくなる単語は色々出て来る。

 

 つまり、秋田弁では、ダ行の直前の「ン」を外すと「肌」と「旗」、「札」と「蓋」の区別ができなくなるので、これは流石に外されないと思い、付けることにしたのである。

 

 次に、ついでにbの理由についても説明しよう。どうせだったら分かり易く全部に「ン」という表記を添えればいいのでは?と思う人もあるかもしれない。

 

 だが、そうなると以下のようなことになる(以下の文、まだ習ってない規則もある。故に煩雑さだけ理解してくれればよい。)

 

例:おれもむがしンだばいまよりずっとまめンであったたってな。やっぱりとしいげばだめンだなは。からンだきがねぁしてよいンでねぁもの。

→おれンもむがしンだンばいンまよりずっとまンめンであったたってンな。やっぱりとしいげンばだンめンだンなは。からンだきがンねぁしてよいンでンねぁンもンの。

 

 このように頻繁に「ン」をつける作業、やってみたいと思う人はあるだろうか?いやいまい。

 

読むだけならともかく、パソコン上に秋田弁の文章を打ち込み続けなければならない身としては、少しでも楽な表記法というものを考えてしまうわけなのである。

 

終わりに

 以上で今回の勉強はおしまいです。

 

 ではまた。へばな。

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