第2回:濁る音になる音
みなさん、お久しぶりです。
今回は、秋田弁の発音の大きな特徴である、「濁る音」になる条件について勉強します。
1.濁る音とは?
濁る音とは、「がぎぐげご」「ざじずぜぞ」「だぢづでど」「ばびぶべぼ」のように、「˝」で書き表される音のこと。堅い言葉で言うと「濁音」。
東北方言では一般に「書く」→「書ぐ」、「立つ」→「立づ」の「ぐ」「づ」のように、標準語では濁らなかった音が濁るようになることが多いが、これは秋田弁も同じである。
東北方言の濁る音を見ていると、ただやみくもに全部濁らせればいいのかと誤解する人もいるかもしれないが、実際には、濁る時と濁らない時にはある程度ルールがある。
今回はそのルールを学ぶ。
2.濁る音になる音
標準語では濁らないのに秋田弁では濁る音は、大きくわけると以下2種類しかない。
標準語では濁らないのに秋田弁で濁る音一覧
①カ行の音(きゃきゅきょ含む)
②タ行の音(ちゃちゅちょ含む)
「標準語では濁らないのに秋田弁では濁るものな~んだ?」と聞かれたら、「カ行とタ行の音」と即座に答えられるくらいには、ここはしっかり覚えておこう。
3.濁るルール
カ行とタ行が濁る条件というのは、以下のようなものである。
なお、以下、標準語→秋田弁という書き方で、標準語と秋田弁の対応関係を示す。
原則:カ行・タ行が単語の語頭以外にある時は、全部濁る。
①いか・いき[息]・いく[行く]・いけ[池]・いこー[意向]・しょーきゃく[焼却]→いが・いぎ・いぐ・いげ・いごー・しょーぎゃぐ
②いた・いち[市]・いつ[何時]・いてん[移転]・いと[糸]・しゃちょー[社長]→いだ・いぢ・いづ・いでん・いど・しゃぢょー
「しょーきゃく」→「しょーぎゃぐ」の例を見れば分かるように、語頭にないカ行・タ行の音というのは、秋田弁では全部ガ行・ダ行に濁っている。
注意:「語頭」というのは、言葉の頭。つまり、「いか」なら「い」が語頭。「かかし」なら初めの「か」が語頭ということ。
例外1:語頭になくても、カ行・タ行が「っ」「ん」の直後にある場合には濁らない。
①いんかん[印鑑]・かんき[換気]・きんく[禁句]・たんけん[探検]・けんこー[健康]・こんきょ[根拠]→いんかん・かんき・きんく・たんけん・けんこー・こんきょ
②かんたん[簡単]・たんち[探知]・めんつ[面子]・たんてー[探偵]・テント・はんちょー[班長]→かんたん・たんち・めんつ・たんてー・テント・はんちょー
③しっかく[失格]・ふっき[復帰]・はっけん[発見]・ふっこー[復興]・しっきゃく[失脚]→しっかぐ・ふっき・はっけん・ふっこー・しっきゃぐ
④はったつ[発達]・みっつー[密通]・はってん[発展]・ふっとー[沸騰]・ひっちゃく[必着]→はったづ・みっつー・はってん・ふっとー・ひっちゃぐ
上の①、②、③、④の太字部分を見れば分かる通り、語頭にないカ行・タ行なのに濁っていない。これは、「ん」「っ」の直後にあるからである。
逆に、③の「しっかく」「しっきゃく」や④の「はったつ」「ひっちゃく」の語末の「く」「つ」は、濁って「ぐ」「づ」になっている(赤字部分)。これは、この「く」「つ」が、a.語頭にない、且つb.「っ」「ん」の直後にあるわけでもない、という理由からである(つまり原則通り濁っただけ)。
例外2:語頭になくとも、カ行・タ行が秋田弁のささやく音の直後にある時は濁らない。
①しか[鹿]・しけん[試験]・しこー[思考]・しきょー[司教]
→しか・しけん・しこー・しきょー
②した[舌]・してん[視点]・しゅとく[取得]・しゅちょー[主張]
→した・してん・しゅとぐ・しゅちょー
上の①、②の太字を見れば分かるように、やはり語頭以外のカ行・タ行なのに濁らない。ささやく音になるケースについては、前回の「第一回:ささやく音」を参照されたし。
注意事項:一見例外2に当てはまりそうに見えるが、以下のような単語の場合は原則通り濁る。
①しき[式]・しく[敷く]・しゅき[手記]・ふき[蕗]・ふく[服]・くき[茎]・くく[九九]
→しぎ・しぐ・しゅぎ・ふぎ・ふぐ・くぎ・くぐ
②ふち[淵]・ふつー[普通]・つち[土]・つつ[筒]・くち[口]・くつ[靴]
→ふぢ・ふづー・つぢ・つづ・くぢ・くづ
なぜ濁ったか分かっただろうか?上の注意事項で挙げた単語の赤太字部分は、いずれも標準語ならばささやく音になるのに秋田弁ではそうならないケースである。
標準語でささやく音になる場合と秋田弁でささやく音になる場合では、条件が微妙にズレているので、標準語と秋田弁をごっちゃにしないよう気をつけて欲しい(秋田弁のささやく音については第一回参照)。
例外3:語頭になくとも、カ行・タ行がささやく音になっている場合は濁らない。
例:ふつか[二日]→ふつか はつか[二十日]→はつか
上の斜線部がささやく音になっている部分である。ご覧の通り、語頭にないのに「つ」が「づ」に濁っていない。ささやく音は濁らないのである。なお、太字部分は、ささやく音の直後なので、例外2の法則により、濁っていない。
秋田弁の濁る音のルールは、これだけである。あとは練習してルールを身につけよう。
練習問題:次の標準語を、秋田弁の発音に直してみよう。
①あか[垢]・あき[秋]・あく[開く]・あける・たこやき・こきょー[故郷]
②さたけ[佐竹]・はち[蜂]・たつ[立つ]・たてよこ[縦横]・はと[鳩]・しょーちゅー[焼酎]
③きく[聞く]・しく[敷く]・つき[月]・ふきん[布巾]・つち[土]・ちち[父]・きつね[狐]
④たんか[短歌]・きんき[近畿]・はんこ[判子]・かんたん[簡単]・どんつー[鈍痛]・きんちょー[緊張]・はんきょー[反響]
⑤はっか[発火]・とっけん[特権]・ふっこー[復興]・いったい[一体]・はっちゅー[発注]・ふってん[沸点]
⑥ふかく[不覚]・ふけつ[不潔]・やくそく[約束]・きとく[危篤]・したく[支度]
⑦ききいっぱつ[危機一髪]・しんきいってん[心機一転]・しちてんばっとー[七転八倒]・めんきょしゅとく[免許取得]
練習解答
①あが[垢]・あぎ[秋]・あぐ[開く]・あげる・たごやぎ・こぎょー[故郷]
②さだげ[佐竹]・はぢ[蜂]・たづ[立]・たでよご[縦横]・はど[鳩]・しょーぢゅー[焼酎]
③きぐ[聞ぐ]・しぐ[敷ぐ]・つぎ[月]・ふぎん[布巾]・つぢ[土]・ちぢ[父]・きづね[狐]
④たんか[短歌]・きんき[近畿]・はんこ[判子]・かんたん[簡単]・どんつー[鈍痛]・きんちょー[緊張]・はんきょー[反響]
⑤はっか[発火]・とっけん[特権]・ふっこー[復興]・いったい[一体]・はっちゅー[発注]・ふってん[沸点]
⑥ふかぐ[不覚]・ふけづ[不潔]・やくそぐ[約束]・きとぐ[危篤]・したぐ[支度]
⑦きぎいっぱづ[危機一髪]・しんきいってん[心機一転]・しちてんばっとー[七転八倒]・めんきょしゅとぐ[免許取得]
解説:習った通りだけれども、解説が欲しい人のためにごく簡単に解説。分からないところがあった場合は、本課を見直してからまた取り組もう。
①②③について:語頭以外にあるから濁る(原則通り)。
④~⑤について:「ん」「っ」の直後にある時は濁らない(例外1)。
⑥について:下線はささやく音になっている部分。ささやく音の直後は濁らない(例外2)から黒い太字部分は濁らない。赤字部分はささやく音や「ん」「っ」の直後じゃないから原則通り濁る。「やくそぐ」の赤太字の方は、ささやく音になっているから濁らない(例外3)。
⑦について:応用問題。①~⑥ができていれば問題なくできているはず。「しちてんばっとー」だけ難しいかもしれないから解説すると、「ち」はささやく音になっている(第一回参照)ので濁らない(例外3の規則)。直後の「て」(黒太字)はささやく音の直後だから濁らない(例外2の規則)。
解説は以上である。ややこしいが、濁る音は秋田弁の基本なので、しっかり身に着くまで何度も何度も練習して欲しいところである。
終ぁに
以上にて、今回の秋田弁の勉強はおしまい。
ではまた。へばなー。
関連ページ
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