第3課:伸縮自在の「ー」
みなさんこんばんは。齶田浦です。
今回は、「っ」「ん」に引き続き、伸縮自在の「ー」について勉強したいと思います。
今日の川柳
では今日の川柳から。
今日の川柳は、こちらとなります。
第一句
ここせがだ
みればなつかし
あのじぶん
第二句
すぽづだば
せせどどどやれ
そゆもんだ
第三句
こーこーせー
なしてこまぶし
みでらえね
いかがでしたでしょうか?今回は、秋田弁独特の単語というのがほとんどないので、理屈さえわかれば意味も見当がつけられるのではないでしょうか?
ともあれ、解説に入っていきますね。
第一句解説
それでは第一句の解説を始めます。
第一句は以下のようなものでした。
ここせがだ
みればなつかし
あのじぶん
今、これを当サイト表記に直すと、以下のようになります。
こーこーせーがだ
みればなつかし
あのじぶん
はい、ここまでいけばもう分かりましょう。「高校生がだ 見れば懐かし あの時分」ですね。
つまり、「ここせ」とは「こーこーせー」の短縮形です。
秋田弁の伸ばす音「ー」は、これまで習った「っ」「ん」と同じで、非常に短く発音されることがあります。
そして短く発音された際には、やはり音の長さとしてカウントされなくなるのです。
今回の第一句について言うなら、以下のようになりますね。
「ー」をゆっくり言う場合
こ・ー・こ・ー・せ・ー・が・だ(8音)
み・れ・ば・な・つ・か・し(7音)
あ・の・じ・ぶ・ん(5音)
↓
「ー」を素早く言う場合と?
こー・こー・せー・が・だ(5音)
み・れ・ば・な・つ・か・し(7音)
あ・の・じ・ぶ・ん(5音)
↓
標準語表記に短い長音「ー」なんて音はないから以下のようになる。
こ・こ・せ・が・だ(5音)
み・れ・ば・な・つ・か・し(7音)
あ・の・じ・ぶ・ん(5音)
まぁ「っ」「ん」の前例があるので、理解はしやすいのではないかと思います。
第一句語釈
こーこーせーがだ(高校生たちを)
みればなつかし(見ると懐かしい)
あのじぶん(あの頃のことが)
語釈:
①~がだ:複数「~たち」の意味。秋田弁の「~がだ」は、動物どころか無機物にすら使える。
例1:あの人がだなにしてるあんだべ?
訳:あの人たちはなにをしているのだろう?
例2:白鳥がだまだ北さ戻ってぐえんだ。
訳:白鳥たちはまた北へ戻っていくようだ。
例3:そごのティッシュがだ、ちゃんとごみ箱さ投け゚れは。
訳:そこのティッシュたちを、ちゃんとごみ箱に捨てなさい。
②じぶん[時分]:「頃」。これは秋田弁ではなく、単なる少し古い日本語。
例1:あの時分だばまンだ電話もねぁ時代ンであったもんな。
訳:あの頃はまだ電話もない時代だったものね。
例2:おら若げぁ時分だば景気もいがったもんであった。
訳:私が若い頃は景気もよかったもんだったさ。
第二句解説
ではつぎ。第二句の解説に入ります。
第二句は以下の通りでした。
すぽづだば
せせどどどやれ
そゆもんだ
今、これを当サイト表記に直せばこうなります。
すぽーづンだば
せーせーどーどーどやれ
そーゆーもんだ
はい、これも分かりますね。「す・ぽ・ー・づ」(4音)が「す・ぽー・づ」(3音)に、「せ・ー・せ・ー・ど・ー・ど・ー」(8音)が「せー・せー・どー・どー」(4音)に、「そ・ー・ゆ・ー」(4音)が「そー・ゆー」(2音)に縮んだのです。
第一句と同じで、長い音「ー」が短くなったという現象ですね。
下にまとめますと、こんな感じです。
ゆっくり言う場合
す・ぽ・ー・づ・だ・ば(6音)
せ・ー・せ・ー・ど・ー・ど・ー・ど・や・れ(11音)
そ・ー・ゆ・ー・も・ん・だ(7音)
↓
素早く言うと?
す・ぽー・づ・だ・ば(5音)
せー・せー・どー・どー・ど・や・れ(7音)
そー・ゆー・も・ん・だ(5音)
↓
標準語表記に直して「ー」を消去。
す・ぽ・づ・だ・ば(5音)
せ・せ・ど・ど・ど・や・れ(7音)
そ・ゆ・も・ん・だ(5音)
第二句の説明も以上で終わりです。
第二句語釈
すぽーづンだば(スポーツは)
せーせーどーどーどやれ(正々堂々とやりなさい)
そーゆーもんだ(そういうものだ)
語釈:
①~ンだば:主題・強調「~は」「~なら」の意味を表す秋田弁。
例1:おれンだば大丈夫ンだ。
訳;私なら大丈夫だよ。
例2:それンだば俺も分がらねぁ。
訳:それは私も分からないよ。
②そーゆー:「そういう」。秋田弁では、よく「言う」を「ゆう」と発音する。
例1:ん前ぁ昨日そーゆったねぁが。
訳:お前昨日そう言ったじゃないか。
例2:そんたごどゆわねぁンでけれでぁ。
訳:そんなこと言わないでおくれよ。
第三句解説
では最後に第三句の解説に入ります。
第三句は以下の通りでした。
こーこーせー
なしてこまぶし
みでらえね
これを当サイト表記に直すとこうなります。
こーこーせー
なしてこーまぶし
みでらえねぁ
はい。違いに気づけましたか?2行目の「なしてこまぶし」が「なしてこーまぶし」になってますね。
要は「こー」が「こ」に縮んだのです。
それにもかかわらず1行目の「こーこーせー」はそのまんまの長さですね。これは一体どういうことなのでしょうか?
…はい。これももう、第1回「っ」、第2回「ん」を学んで来た皆さんなら説明すら不要でしょう。
そう、秋田弁の「ー」も、「っ」や「ん」と同じで、長く言うのも短く言うのも話者次第。「ー」の音の長短は話者が好き勝手に決めればよろしいのです。
「っ」「ん」に続いて「ー」まで、秋田弁では伸縮自在というわけですね。
なお、第三句の変化をまとめると以下のようになります。一応参考までに書いておきます。
ゆっくり言う場合
こ・ー・こ・ー・せ・ー(6音)
な・し・て・こ・ー・ま・ぶ・し(8音)
み・で・ら・え・ね(5音)
↓
2行目だけ速めて言うと?
こ・ー・こ・ー・せ・ー(6音)
な・し・て・こー・ま・ぶ・し(7音)
み・で・ら・え・ね(5音)
↓
標準語表記に直すとこうなる。
こ・ー・こ・ー・せ・ー(6音)
な・し・て・こ・ま・ぶ・し(7音)
み・で・ら・え・ね(5音)
第三句の解説も以上で終わりです。
第三句語釈:
こーこーせー(高校生は)
なしてこーまぶし(どうしてこうまぶしいのか)
みでらえねぁ(見ていられない)
語釈:
①なして:「どうして」の意。
例1:最近なしてこー暑っち日余計ぁンだ?
訳:最近どうしてこう暑い日が多いのだ?
例2:あえなしていっつも笑ってるあんだべ?
訳:彼はどうしていつも笑っているのだろう?
②~でらえねぁ…「~ていられない」の意。「き」「し」「っ」の直後なら濁らず「てらえねぁ」となる。
例1:そんたごど言わえれば誰ンでも黙ってらえねぁべせぁ?
訳:そんなことを言われたら誰だって黙っていられないでしょ?
例2:この忙しに遊んでらえねぁ。
訳:この忙しい時に遊んでいられない。
今日のまとめ&おしまいに
では最後に今日勉強したことをおさらいして、お開きにしましょう。
今日のポイント
①秋田弁の「ー」は、長くなったり短くなったりする。
②長く言う時は1音分の長さを取り、短く言う時は0音分の長さを取る。
③長く言うか短く言うかは、話者が自由に決めてよい。
④だから、短歌や俳句、川柳などの韻文でも、秋田弁としては、「ー」は音の数に数えても数えなくてもいい。
今日の川柳一覧
第一句
ここせがだ(=こーこーせーがだ)
みればなつかし
あのじぶん
第二句
すぽづだば(=すぽーづンだば)
せせどどどやれ(=せーせーどーどーどやれ)
そゆもんだ(=そーゆーもんだ)
第三句
こーこーせー
なしてこまぶし(=なしてこーまぶし)
みでらえね(=みでらえねぁ)
因みに、例の「秋田弁de川柳」の過去の投稿作品などを見ますと、少数ながら、やはり今回の「ー」の短縮が見受けられますね。
具体的には、「しょーがづ[正月]」を「しょがづ」としたり(2016年12月28日 (水)の作品)、「たんぱらしょー[短腹性]」を「たんぱらしょ」としたりする例が見受けられます(2017年2月15日(水)の作品。「たんぱら」は「短気」の意)。
長音「ー」の短縮は、うまく使えば「正々堂々」のような長い言葉も字余り無しで短歌や川柳に組み込める便利な仕組みではあるのですが、どこかに投稿する場合には、どの程度なら秋田弁の特徴として認められるかがいまいち分かりませんからね。
投稿者の方も試行錯誤しているのかもしれません。
ともあれ、今回はこのへんで。
へばなー。
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