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第1課:伸縮自在の「っ」

第1課:伸縮自在の「っ」

 みなさん、こんばんは。

 

 今回は、講座の第1回目となりますね。

 

 お題は「伸縮自在の『っ』」。さっそく勉強していきましょう。

今日の秋田弁川柳:

 まずは今日の秋田弁川柳を詠んでみましょう(僭越ながら、川柳は私の方で自作させていただきました。解説のためのテキトー川柳ですが。)

 

 今日詠んでいただく川柳は、以下の3句でございます。

 

第一句

ゆぎふたけ

こだづいだわし

ではらえね

 

第二句

んたたたて

んだたてだめだ

やねばなね

 

第三句

むしこがだ

ゆぎふったっけ

めねぐなた

 

 

 

 いかがでしたか?多分、「意味わからん!」となった人も多いのではないでしょうか?

 

 ですがこれ、標準語の表記のまま、しかも秋田弁のリズムに合わせて書いてあるからそうなるのであって、理屈が分かればどうということもないのです。

 

 以下、解説に入っていきましょう。

 

第一句解説

まずは第一句の解説から。

 

句は以下のようなものでした。

 

ゆぎふたけ

こだづいだわし

ではらえね

 

 

ですが、これは当サイトの秋田弁表記に直すと、以下のような表記になります。

 

ゆぎふったっけ

こだづいだわし

ではらえねぁ

 

これをぱっと見たとき、まず最初に気づくのは「ふたけ」が「ふったっけ」になっているところかと思います。

 

そう、「っ」が標準語表記だと脱落していますね。これはどういうことなのでしょうか?

 

実はこれ、秋田弁の「っ」の発音に関する規則が原因で起こった現象です。

 

すなわち、秋田弁では、「っ」はしばしば非常に短く発音され、その場合は、音の長さとしてはカウントされなくなるというものです。

 

つまり、上の例ですと、

 

「ゆぎふたけ」

 

は、正しくは「ゆぎふったっけ」ですので、これをそのまま標準語の音の長さで考えれば、「っ」も他の音と同じだけの長さを取るので、

 

「ゆ・ぎ・ふ・っ・た・っ・け」

 

の7音の長さとなるはずなのですが、今回は秋田弁川柳。そして秋田弁の「っ」は短く発音する際は音の長さとしては数えないので、

 

「ゆ・ぎ・ふ・・た・・け」(7音)

「っ」を数えないから省く。

「ゆ・ぎ・ふ・た・け」(5音)

 

 

というふうに、5音の長さに短縮したわけです。

 

 秋田弁の「っ」は短く言う時は音の長さとして数えない。それくらい短く発音されるのです。覚えておきましょう。

 

(おまけ:意味の解説と語釈)

 あまり興味ないと思いますが、ついでに、第一句の意味の方の解説も一応しておきます。といっても、本題ではないので簡潔に、ですが。

 

ゆぎふったっけ(雪が降ったところ)

こだづいだわし(こたつが惜しいと感じる)

ではらえねぁ(出ることができない)

 

語釈:

①「~たっけ」…「~たところ」「~たら」の意味。

例1:山さ行ったっけ熊いであった。

(訳:山に行ったところ、熊がいた。)

例2:夜更かししたっけ風邪引だは。

(訳:夜更かししたら風邪を引いた。)

 

②「いだわし」…惜しい、勿体ない、大切だ、等と訳される。より詳しく説明するなら、「自分にとって価値のあるものであるがゆえに、なくしたり、手放したり、譲渡したり、駄目にしたりしたくない心情」を表す言葉。

例1:この指輪っこンだばいだわししてん前ぁさけらえねぁ。

訳:この指輪は惜しくてお前にはあげられない。

例2:そのスイカくゎねぁンでけれ、いだわしがら。

訳:そのスイカ食べないで頂戴、惜しいから。

 

③「ではる」…「出る」の意味。

例1:冬なったっけ外さ出はるな億劫なった。

訳:冬になったら外に出るのが億劫になった。

例2:夏なったっけ虫っこ出はって来たな。

訳:夏になったら虫が出てきたな。

 

 以上、第一句の説明でした。

 

第二句解説

 続きまして、第二句の解説に入りたいと思います。

 

 第二句は、以下のようなものでしたね。

 

んたたたて

んだたてだめだ

やねばなね

 

 

 …まぁこれは方言丸出しなので、純粋に言葉が分からなくて理解できない人も多いかもしれませんね。

 

 ともあれリズムの方の解説です。

 

この第二句を当サイトの表記に直すと、以下のようになります。

 

んたったたって

んだたってだめンだ

やねぁばなねぁ

 

 標準語表記と当サイト表記を比べると、秋田弁「んたったたって」が標準語で「んたたたて」になり、「んだたって」が「んだたて」という表記になったことが分かりますね。

 

 これもつまるところ、第一句と同じ現象です。

 

すなわち、この第二句の川柳でも、秋田弁の「っ」が、短縮して一音としてカウントされなくなっているのです。

 

 分かり易くまとめると、こんな感じですね。

 

1行目:

ん・た・・た・た・・て(7音)

「っ」を短縮するので数えず。故に便宜上「っ」省略。

ん・た・た・た・て(5音)

 

2行目:

ん・だ・た・・て・だ・め・だ(8音)

「っ」を短縮して数えず。

ん・だ・た・て・だ・め・だ(7音)

 

 

 秋田弁の「っ」は短縮するときは、音の長さとしてカウントされない。しつこいですが、これを覚えましょう。

 

(おまけ:言葉の解説。)

んたったたって(いやだと言ったけれども)

んだたってだめンだ(でも駄目だ)

やねぁばなねぁ(やらなければならない)

 

語釈

1行目:

①「んた」…[形容詞]「嫌だ」という意味。

例1:俺らあど人生んたぐなってきた。

訳:私はもう人生がいやになってきたよ。

例2:んたばんたって言え。

訳:いやならいやって言えよ。

 

②最初の「った」…これは「って言った」の省略表現。よく、秋田市内では、「って言っ」の部分を「っ」に省略してしまう。

例1:俺知らねぁたねぁは?=「俺知らねぁって言ったねぁは?

訳:どちらも「私は知らないと言ったじゃないか。」の意味。

例2:「俺も行ぐ」てあったべ?誰行がねぁたって?

=「俺も行ぐ」って言ってあったべ?誰行がねぁって言ったって?

訳:どちらも「『私も行く』と言っていただろう?誰が行かないと言ったというのだ?」の意。

 

③後の「たって」…逆接「けれども」、譲歩「としても」の意味。

例1:別にそれンでもいたってな。

訳:別にそれでもいいけどねぇ。

例2:なんぼ雨降るたって行がねぁばなねぁあんだって。

訳:いくら雨が降るとしても行かなきゃならないんだってば。

 

2行目:

④「んだたって」…「でも」「けれども」の意味。接続詞。

例:気持ぢンだば分がる。んだたって駄目ンだものは駄目ンだ。

訳:気持ちはわかる。でも駄目なものは駄目だ。

 

3行目:

⑤「やねぁばなねぁ」…「やらねぁばならねぁ」の省略形で、「やらなければならない」の意味。秋田弁では、打消の「ない」は「ねぁ」と言うが、「やらねぁ」「ならねぁ」「取らねぁ」「積もらねぁ」等、打消の「ねぁ」とくっついた時に「-らねぁ」となる言葉については、しばしば「ら」を省略して「やねぁ」「なねぁ」「取ねぁ」「積もねぁ」のように言う。

 

例1:こー雨降ねぁば水不足なるべな。

訳:こう雨が降らないと水不足になるだろうね。

例2:そろそろ行がねぁばなねぁえんだ。

訳:そろそろ行かなければならないようだ。

 

第三句解説

 最後に、第三句の解説に入ります。

 

 第三句は、以下のようなものでした。

 

 

むしこがだ

ゆぎふったっけ

めねぐなた

 

 

 これは、当サイト表記にすると、こうなります。

 

 

むしっこがだ

ゆぎふったっけ

めねぁぐなった

 

 

 さて、もう気づいた方もいるかもしれませんが、この第三句は応用問題です。

 

 秋田弁の「っ」が短縮して、音の長さとしてカウントされなくなることはもう皆さん、じゅうじゅう承知でしょうから、

 

 1行目の「むしっこがだ」→「むしこがだ」と、3行目の「めねぁぐなった」→「めねぐなた」の違いの理由はお分かりでしょう。

 

 この二つは、単に「っ」を短く読むから、標準語表記としてはそれを反映して「っ」を省くのですね。

 

 では今回、なにが問題なのかと言いますと、2行目の「ゆぎふったっけ」です。標準語表記でも当サイト表記でも同じく「ゆぎふったっけ」ですね。

 

 「1行目と3行目の『っ』が短縮されているのに、2行目の『っ』だけ短縮しないとか大丈夫なの?」と疑問に思った方、いなかったでしょうか?

 

 はい、実はですね、秋田弁の「っ」の短縮するしないというのは、話者が自由に決めていいことなのです。

 

なので、今回の川柳のように、一文の中に短縮する「っ」と短縮しない「っ」が混在するなど、日常の秋田弁会話ではザラなのですよ。

 

 秋田弁の「っ」は、短縮する場合は一音としてカウントされず、短縮しない場合は標準語と同じく一音として他の音と同じ長さで発音される。

 

 今回の例ですと、

 

むしこがだ(「むしっこ」の「っ」を短縮。)

ゆぎふったっけ(「ったっけ」の「っ」はそのまま。)

めねぐなた(「なった」の「っ」を短縮)

 

 のようにして、5・7・5のリズムになっているわけであります。

 

 どうです?秋田弁のこの伸縮自在ぶり。なかなかのものでしょう?

 

 秋田弁には、言語的に、こういう特徴があるわけですから、みなさん、もし秋田弁で短歌とか川柳とか作りたいという際には、こういった秋田弁の言語としての特徴というのも織り交ぜながらやるといいと思いますよ。

 

なにせ、表現の幅が一気に広がりますからね。字数制限に合わせて「っ」を長めたり短くしたりできるとか、標準語的にはありえない所業です。

 

 因みに、実際に例のNHKの秋田弁de川柳の投稿作品とか見ていますと、すでに「っ」が省略されていたりされていなかったりといった現象が見られます。

 

 「『っ』省くとか邪道じゃね?」とか思っていた頭の堅いそこのあなた、そこは考えを改めてはいかがでしょうか?

 

なにせ秋田弁で川柳ですしね、秋田弁ルール的にオールオーケーな現象は、むしろ積極的に取り入れて、方言文芸の幅を広げてみるのもアリかと思いますよ?

 

(第三句語義解説)

むしっこがだ(むしたちは)

ゆぎふったっけ(ゆきがふったら)

めねぁぐなった(みえなくなった)

 

語釈:

①むしっこ…虫。「っこ」は小さいものや愛着あるものにつける接尾語。

例1:お茶っこ飲まねぁ?

訳:お茶飲まない?

例2:ねずみっこいであったどや。

訳:ねずみがいたそうだよ。

 

②たっけ…第一句語釈参照

 

③めねぁ…見えない、の意。

例1:月あどなもめねぁぐなったは。

訳:月がもうすっかり見えなくなった。

例2:こごがらンだばなんもめねぁでぁ。

訳:ここからじゃあなにも見えないよ。

 

 

まとめ:第一句から第三句まで そして終わりの言葉

 ではまとめとして、今回習ったことをおさらいしましょう。

 

今回のポイント

①秋田弁の「っ」は、長く言う時と短く言う時がある。

②長い時は、他の音と同じ長さで発音。短い時は、音の長さとしてはカウントされないほど短く発音。それはさながら省略しているかのように。

③「っ」の長短は、話者が自由に決めてよい。

④ゆえに、秋田弁的には、短歌や川柳のリズムでは、「っ」は1音として数えても数えなくてもよい。状況に応じて短くしたり長くしたりしよう。

 

今回の秋田弁川柳一覧

第一句

ゆぎふたけ(=ゆぎふったっけ)

こだづいだわし

ではらえね(=ではらえねぁ)

 

第二句

んたたたて(=んたったたって)

んだたてだめだ(=んだたってだめンだ)

やねばなね(=やねぁばなねぁ)

 

第三句

むしこがだ(=むしっこがだ)

ゆぎふったっけ

めねぐなた(=めねぁぐなった)

 

終わりに

 以上にて、今回の勉強はおしまいです。

 

 普段の文法一辺倒な講座とは少し違いますが、それでもこの言葉の「リズム」を理解するというのは、実際の秋田弁を理解したり、自分で喋ってみたりする際には重要です。

 

 そういう意味では、書き方こそゆるい感じになってしまいましたが、秋田弁を理解するための重要度としては、この講座も変わらず重要な部分を扱っていると言えます。

 

 因みに、当サイトの秋田弁表記では、「っ」は短縮しようがするまいが「っ」と表記しています。

 

これは、「そもそも秋田弁の『っ』は伸びたり縮んだりするものだから」いちいち長短を表記で区別していないわけです。

 

 短く読みたければ短く読めばいい、長く読みたければ長く読めばいい。実際の秋田弁と同じですね。「っ」の長短はそれを声に出す人が自由に決めればよい。

 

 そんなスタンスを取っていますので、当サイトでは「っ」は常に「っ」と表記しております。

 

 長話になってしまいましたが、ともあれみなさんお疲れさまでした。

 

 それでは今回はこの辺で。へばなー!

 

(蛇足:「ね」が「ねぁ」になっていることについて)

 リズムに関係ないのでとことん無視し続けましたが、一応「ね」と「ねぁ」について軽く説明しておきます。

 

今回の講座、第一句では「ではらえ」が当サイトの表記ですと「ではらえねぁ」に、第二句では「やばな」が「やねぁばなねぁ」に、第三句では「めぐなた」が「めねぁぐなった」となっておりました。

 

 実はこの「ね」と「ねぁ」の違いというのも、やはり標準語と秋田弁の発音の違いから来るものです。

 

 当サイトの秋田方言・秋田弁発音講座をやった人であれば分かるかもしれませんが、実は秋田弁というのは、標準語の「あいうえお」に当たる音の他に、もう一つ「えぁ」という音があります。

 

 この音は「え」音の後に小さく「ぁ」を添えたような独特な発音で、秋田弁では「えぁ」「けぁ」「せぁ」「てぁ」「ねぁ」「へぁ」「めぁ」「れぁ」「ゑぁ」等の音が聞かれるのですが、やはり標準語表記にそんな音はありません。

 

なので標準語で書く場合には、音的に近い「え」「け」「せ」「て」「ね」「へ」「め」「れ」「うぇ」のように書かれたり、或いは「ぁ」の響きを優先して「や」「きゃ」「しゃ」「てゃ」「にゃ」「ひゃ」「みゃ」「りゃ」等等と書かれたりします(秋田のNHKの「秋田弁de川柳」の作品群を見てますと、「えぁ」系列の発音が残っている地域の人は「ゃ」付きの方で表記しているようですね)

 

 もっとも、この「えぁ」系統の音に関しては、今では秋田県内でも少なからぬ地域で「え」系統の音で言われるようになっているので、秋田に住む人でもどの音のことを言っているのか分からないこともあるかもしれません。

 

 実際、20173月現在、もう九十歳近い年齢になる我が家の祖母ですら、本来「えぁ」段で発音すべき言葉の多くを、「え」段で発音しています。

 

九十になるお年寄りですらそうなのですから、それより下の年代ともなれば、いわずもがな、「えぁ」段の発音はきれいに消失し、「え」段に取って代わられています(秋田市内)

 

この発音に関しては、そう遠くないうちに、消滅するかもしれませんね。

 

 ともあれこんどこそへばなー。

 

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