数え言葉、及び音韻変化「れ」→「え」、「らねぁ」→「ねぁ」
みなさん、こんばんは。
今回は、「ひとつ、ふたつ」等の数え言葉と、「分からない」→「分かんない」のような、発音の変化について学びます。
いつも通りの形式です。ではどうぞ。
本文:
花子:一郎、朝間なったどー。早えぁぐ起ぎれー。
花子:一郎、朝になったわよ。早く起きなさい。
一郎:んー、…母、今日ンだば日曜日ンだもの。別にまンだ寝ででもいべせぁ。
一郎:うーん、…母さん、今日は日曜日だもの。別にまだ寝ててもいいでしょうに。
花子:…一郎、めぁ、なにとんどりねぁごど言ってだ?今日月曜日ンだど?
花子:…一郎、あんた、なにをわけのわからないことを言っているの?今日月曜日よ?
一郎:…なっと?
一郎:…なんだって?
花子:んだがら、今日月曜日ンだって。ん前ぁ曜日も分がねぁぐなったなげぁ?まずいーがら早えぁぐ起ぎれ。遅刻するや?
花子:だから、今日は月曜日だってば。あんた曜日も分からなくなったのかい?まぁいいから早く起きなさい。遅刻するわよ?
一郎:遅刻って…ん前ぁまだ心配症ンだごど。自転車ンで行げば学校まンで十分もかがねぁあんだや?遅れねぁ遅れねぁ。
一郎:遅刻って…母さんも心配性だなぁ。自転車で行けば学校まで十分もかからないんだよ?遅れない遅れない。
花子:んだな。もしいっつもみでぁに晴れでで雪積もってねぁばんだべな。んだンども外見れ、今日ンだば雪おがつもってで自転車ンでンだばあがえねぁど?
花子:そうね。もしいつものように晴れていて雪が積もってなければそうでしょうね。けど外を見なさい、今日は雪が凄い積もっていて自転車では行けないわよ?
一郎:…なに、雪積もってだど?なして?昨日まンで雪なの一っつも降ってねぁがったねぁが。そんだごどあるもんだってげぁ?
一郎:…なに、雪が積もっているだって?どうして?昨日まで雪なんて少しも降っていなかったじゃないか。そんなことがあるものだってかい?(ありえないよ)。
花子:一郎、めぁ、天気予報見でねぁなが?先週がらずっと「今週がら大雪」だどって言わえであったねぁが。…ほら、テレビンでも見れ。今日ばりンでねぁぐ、明日も明後日も雪降るどや。
花子:一郎、あんた、天気予報見てないのかい?先週からずっと「今週から大雪」って言われていたじゃないの。…ほら、テレビでも見なさい。今日ばかりではなく、明日も明後日も雪が降るそうよ。
一郎:あー、なんとこれンだば…せば俺ら今日がらずっと早起ぎするえさねぁばなねぁなが。はー、んだがら冬ってんたなやな。なしてこー雪降るべ…。
一郎:あぁ、なんとこれじゃあ…じゃあ俺、今日からずっと早起きするようにしなければならないのか。はぁ、だから冬って嫌なんだよなぁ。どうしてこう雪が降るんだろう。
語釈:
①ど:ぞ。例文:よし、行ぐど! せば俺ら帰るど?いが? 北海道ンだば寒びどー。
②んー:うーん。例文:んー、なんとしたもんだべ。 んー、困ったごど。
③(ン)だば:は。例文:今ンだばそれンでいたって、昔ンだば駄目ンであったあんだ。
④い:よい。例文:これンでいが? いーがらまずそンで座ってれ。 はー、いーごどねぁな。
⑤せぁ:強意。命令形や助動詞「べ」、禁止の「な」に付けることが可能。例文:あど喋るなせぁ。 そー怒るなせぁ。 じんじょ大丈夫ンだべせぁ。 せばそろそろ行ぐべせぁ。 なにが喋れせぁ。 早えぁぐまま食ぅぇせぁ。又、「しゃ」と発音することもある。あど喋るなしゃ。 そー怒るなしゃ。 じんじょ大丈夫ンだべしゃ。 せばそろそろ行ぐべしゃ。 なにが喋れしゃ。 早えぁぐまま食ぅぇしゃ。
⑥とんどりねぁ:わけがわからない。人に対して「とんどりねぁぐなる」と言えば、人の頭がパーになることを言う。ご老人の認知能力や記憶力の衰えに対して使われることも多い。例文:あの人ンだばいっつもとんどりねぁごどばり言う。 あの人年行ったっけとんどりねぁぐなったものな。
⑦なっと:なんだって?例文:明日台風ンで学校休みンだどや。―なっと?―台風ンで明日学校休みなったど。
⑧んだがら:だから。例文:んだがらん前ぁさ教[おしぇ]でぁぐねぁがったあんだ。
⑨って:って言ったんだ。例文:めぁも行ぐな?―なっと?―めぁも行ぐながって。
⑩んだ:そうだ。例文:これンでいあんだが?―んだ。それンでい。
⑪おが:[副詞]凄く。かなり。要は、程度の甚だしいことを言う。例文:あの人おが口悪りして好ぎンでねぁ。 今日ンだばおが寒びごど。
⑫あぐ:行く。出歩く。例文:めぁ、どごさあぐどってそんだ格好してるな? 年行ったっけ外さあがねぁぐなってしまった。 学校まンで自転車さ乗ってあぐ。又、「持ってあんでけれ」の形で「持っていってくれ」の意味も表す。例文:めぁ、これあっちさ持ってあんでけれ。 又、勧誘の「あぐべ[=行こう]」は、習慣的に「あべ」と言う例文:せば一緒にあべ。 あべあべ。更に、「~てあってだ」の形で、「~[動きを伴う動作]している)」「(あちらこちらへ出向いて)~して回っている」の意味を表す。例文:踊りっこ踊ってあってだ。 水流れであってだ。 虫っこ木ー登ってあってだ。 銭っこ借りであってだ。 仕事終わった後、酒っこ飲んであってだえんだ。
⑬ど:って。そうだ。例文:あれ今日ご飯要らねぁど。 明日雨降るど。命令形に付き、「~だってさ」という意味にも使う。例文:早えぁぐ来いど。 手伝ってけれど。
⑭なの:など。なんて。例文:人のごどなの知らねぁ。俺ら自分だげいばいあんだ。
⑮ばり:ばかり。例文:あれンだば自分ばり得して、人どご助けねぁがら好ぎンでねぁ。
⑯えさねぁば:えにさねぁば。「ごどにする」「えにする」も、よく「に」が省略される。例文:俺も大学さ通うごどした。 もーちょっと人の話聞ぐえさねぁば駄目ンだ。 せばそーするえするが。 んだらそーするごどするべしゃ。
⑰ねぁばなねぁ:なければならない。よく使う表現。例文:やねぁばなねぁ時期やねぁがら後々困るあんだ。 俺ら明日仕事さ行がねぁばなねぁぐなった。なお、人によっては「ねぁばねぁ」とも言う。例文:やねぁばねぁ時期やねぁがら後々困るあんだ。 俺ら明日仕事さ行がねぁばねぁぐなった。
⑱んた:嫌ンだ。例文:俺らあの人ど会うなんた。 学校ンだばあどんた。行ぎでぁぐねぁ。
⑲なやな:(実情として)んだよなぁ。のよねぇ。例文:ながなが難し年頃ンだなやな、中学生って。 世の中、結構汚ねぁどごあるなやな。 実は京都辺りも、冬ンだば結構寒びなやな。
―今日の学習―
1.音韻変化「れ」→「え」
秋田弁では、しばしば、代名詞や疑問詞、動詞、助動詞の「れ」音が「え」と発音される。
例1:代名詞・疑問詞の例(実質、以下の代名詞のみに見られる現象。)
おれ→おえ これ→こえ それ→そえ
あれ→あえ どれ→どえ だれ→だえ
例2:動詞の例(実質、終止形が「-れる」の動詞にのみに見られる現象。)
晴れる→晴える 呆れる→呆える 借れる→借える(注意参照)等々
注意:「借りる」は秋田弁では「借れる」という。詳しくは例3下の参考1を参照。
例3:助動詞の例(実質、助動詞「れる」「られる」のみに見られる現象。)
笑われる→笑わえる 見られる→見らえる 来られる→来らえる される→さえる 等々
例文:おえンだって人かっておが笑わえだり馬鹿にさえだりせば腹悪りでぁ。私だって人にあまり笑われたり馬鹿にされたりしたら気分が悪いよ。あえ、一体だえがらこんでにいっぺぁ銭っこ借えだあんだべ。まったぐ呆えだもんだな、こえンだば何年経ったたって借金返さえねぁでぁ。彼は、一体誰からこんなにいっぱいお金を借りたのだろう。まったく呆れたものだな、これじゃあ何年経ったって借金を返せないよ。
参考1:「-りる」が「-える」に?
秋田弁では、「おりる」「かりる」「たりる」等、標準語で「-りる」が終止形になる動詞は、しばしば「おれる」「かれる」「たれる」と発音する。
そして秋田弁では、しばしば「-れる」→「える」と発音するため、実際の秋田弁会話では、「おえる」「かえる」「たえる」のように言うことが多い。
例1:借りる→借れる→借える 例文:銭っこ借える。
例2:降りる→降れる→降える 例文:車がら降えれ。
例3:足りる→足れる→足える 例文:銭っこ足えねぁ。
2.音韻変化「らねぁ」→「ねぁ」
秋田弁では、「~らねぁ」はしばしば「~ねぁ」と発音される。つまり、「ら」が抜け落ちる。
例:分がらねぁ→分がねぁ 切らねぁ→切ねぁ 売らねぁ→売ねぁ 乗らねぁ→乗ねぁ 取らねぁ→取ねぁ ならねぁ→なねぁ
なお、例外的に、以下の表現にはこの現象は起こらない模様。
①要らねぁ→○要らねぁ ×要ねぁ
②知らねぁ→○知らねぁ ×知ねぁ
参考:「らない」が「んない」になる標準語
因みに、標準語でも本課の2と似たような現象はある。標準語でくだけた言い方をすると「分からない」→「分かんない」、「切らない」→「切んない」、「売らない」→「売んない」と言うだろう。
秋田弁の「分がらねぁ」→「分がねぁ」などもそれと大体同じである。違うのは、①「ら」→「ん」を通り越してもはや省略してるようにしか聞こえなくなっている点と、②日常語の秋田弁にくだけた言い方もくだけてない言い方も(基本的に)ないので、それを使ったからと言って悪いイメージなどは特につかないという点である。
というかむしろ、日常語たる秋田弁ではより言い易い言い方の方が好まれるのか、今回学んだ1や2のような言い方の方が優勢でさえある。
3.数え言葉
①秋田弁では、「ひとつ」「ふたつ」などの数え言葉は、以下のように言う。
①一つ→一[ひと]っつ ⑥六つ→六[む]っつ
②二つ→二[ふた]っつ ⑦七つ→七[なな]っつ
③三つ→三[み]っつ ⑧八つ→八[や]っつ
④四つ→四[よ]っつ ⑨九つ→九[こごの]っつ
⑤五つ→五[いづ]っつ ⑩十→十[とー]
例文:これひとっつけれ。これを一つくれ。とー数えでがら風呂上か゚れ。―ひとーっつ、ふたーっつ、みーっつ、よーっつ、いづーっつ、むーっつ、ななーっつ、やーっつ、こごのっつ、とー。―よし、せばあど上か゚っていやは。十数えてから風呂を上がりなさい。―ひとーつ、ふたーつ、みーっつ、よーっつ、いつーつ、むーっつ、ななーつ、やーっつ、ここのつ、とお。―よし、じゃあもう上がっていいよ。
②「ひとっつも~ねぁ」は、秋田弁では「少しも~ない」の意味でよく使われる。
例文:今年雪一っつも降ねぁごど。今年は少しも降らないなぁ。そんだごど俺一っつも聞でねぁや?そんなこと私少しも聞いてないよ?あの子ンだば一っつも喋ねぁしてんたは。あの子は少しも喋らなくていやだわ。
終ぁに
以上にて、今日の秋田弁会話の勉強は終わりです。
ではまた。へばな。
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