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第13課:秋田弁の「できる」「できない」

第13課:秋田弁の「できる」「できない」

 みなさん、こんばんは。

 

 今回は、秋田弁の可能表現、すなわち「できる」「できない」の表現方法について学びます。

 

 いつもどおり会話から入ります。ではどうぞ。

本文:

一郎:母さん車運転でぎっけが

一郎:母さん車を運転できたっけっか?

二郎:母さんげぁ?免許ンだば持ってだえんだものでぎねぁわげンでンだばねぁべ。一回も運転するどご見だごどねぁたってな

二郎:母さんかい?免許は持っているようだからね。できないわけではないだろう。一回も運転するところを見たことがないけどね。

一郎:んだやなー。多分母[かー]ンだばペーパードライバーンだやなせば運転もいぎなりンだば頼まれねぁ

一郎:そうだよねぇ。多分母さんはペーパードライバーだよね。じゃあ運転もいきなりは頼めないね。

二郎:なに、兄[にー]ん前ぁンでどさが行ぎでぁなが

二郎:なんだい、兄さん、君、車でどこか行きたいのか?

一郎:んー、ちょっと買いでぁものあって、駅前まンで行がれねぁものンだべがど思って。

一郎:うん、ちょっと買いたいものがあって、駅前まで行けないものだろうかと思って。

二郎:んだら母さんでねぁして、父さん頼めばいべせぁ。父さんだば車運転でぎるもの

二郎:それなら母さんじゃなくて、父さんに頼めばいいでしょ。父さんは車運転できるんだから。

一郎:んだたって父さん、休みの日ンだば出る気ねぁべ?頼んだたって、「駅前ンだばバスンで行ぐにい?自分の力ンで行げ。」どが言うに決まってるねぁが

一郎:だけど父さん、休みの日は外に出る気ないだろ?頼んだところで、「駅前ならバスで行けるだろ?自分の力で行け。」とか言うに決まっているじゃないか。

二郎:んー、まずな。父さんだばじんじょそー言うべな。父さんだば自分簡単にやれるごどンでも、めんどくせぁどってやらねぁンだもんな。ながなが動がねぁンだー、父さんだば

二郎:うーん、まぁね。父さんはきっとそう言うだろうね。父さんは自分が簡単にやれることでも、めんどくさいと言ってやらない人だもんね。なかなか動かない人だよ、父さんは。

語釈:

①母[かー]:母さん。例文:母、めぁどさが行ぐな? 俺の母ど同じ名前ンだねぁが。

②兄[にー]:兄さん。例文:兄、なした、顔色悪りや? んだら兄さ連れでってもらえー。

んだら:それなら。例文:んだらなしてそー言わねぁがった? んだら大変だべな。

④べせぁ:だろうに。「べ」の強調。例文:大丈夫ンだべせぁ。 別にいべせぁ。

んだたって:だけど。例文:んだたって言ってもわがらねぁべしゃ、あれンだば。 それンだばんだンども、んだたってそのままにンだばしておがれねぁは。

―今日の学習―

①能力可能を表す表現

 秋田弁では、「(能力的に)~ことができる」は、標準語で言うところの、「ら抜き言葉」を用いる。ら抜き言葉なので、活用は下一段活用となるので、命令形は「-れ」。

五段動詞:書ける→書げる 読める→読める 歩ける→歩げる

上下一段動詞:起きられる→起ぎれる 寝られる→寝れる

カ変動詞:来られる→来れる

例文:俺らロシア文字書げねぁ。私はロシア文字を書けない。若げぁ時分だば朝間早えぁぐ起ぎれねぁがった。若い頃は朝早く起きられなかった。昔ンだばもっと泳け゚であったあじな。昔はもっと泳げていたのにな。そんだ遠ぐ見れでもなんもならねぁべせぁ。そんな遠くを見られてもなんにもならないでしょうに。めぁ百メードル何秒ンで走れる君、百メートルを何秒で走れる俺らンだば布団さ入ればすく゚にンでも寝れる私は布団に入ればすぐにでも寝られる歩げる時期歩りった方良やは?歩ける時に歩いた方がいいよ?そんでに早えぁぐ文章読めれば、本いっぺぁ読めで楽しべ?そんなに早く文章を読めれば、本をいっぱい読めて楽しいだろ?俺もん前ぁみでぁに早えぁぐ起ぎれればなー。私も君みたいに早く起きられればねぇ。自転車ぐれぁ乗れれでぁ。自転車くらい乗れろよ。英語ぐれぁ喋れれでぁ。英語くらい喋られろよ。

 

また、「する」の可能表現「できる」は、現代秋田弁で「でぎる」という。命令形は「できろ」→「でぎれ」となる。

サ変動詞:できる→でぎる 勉強できる→勉強でぎる

例文:悪り。俺ん前ぁどご理解でぎねぁ。悪い。私は君を理解できない。昔ンだばもっと早えぁぐ計算でぎだあんだンどもな。昔はもっと早く計算できたんだけどねぇ。めぁこの暗号解読でぎるが?君、この暗号を解読できるか?俺どご理解でぎる人いねぁもんだべが?私を理解できる人はいないものだろうか。俺も英語ンでコミュニゲーションでぎればいたってな。私も英語でコミュニケーションできればいいけどね。車の運転ぐれぁでぎれでぁ。車の運転くらいできろよ。

 

補足:能力可能表現の打消は、「ら抜き言葉+ねぁ」や「でぎねぁ」と言う。

例文:年行ったっけ歩げねぁぐなった。年を取ったら歩けなくなった。あの時分足弱[]ゑぁして遠ぎどごまンであげ(※1)ねぁがった。あの頃足が弱くて遠いところまで行けなかった。俺らそんでに速えぁぐ走れねぁでぁ。私はそんなに速く走れないよ。理解でぎねぁ人もいるべ、こんだ難し問題ンだば。理解できない人もいるだろ、こんな難しい問題じゃあ。今の時代、人ど上手ぐ付ぐ合えねぁば社会ンで生ぎで(※2)ねぁや?今の時代、人とうまく付き合えなければ社会で生きていけないよ?

※1:あげ(※1)ねぁがった…「あぐ」とは、秋田弁で「行く。うろつく。移動する。」の意味。

※2:生ぎで(※2)ねぁや?…「生ぎでいがれねぁ」の「い」が抜け落ちた形。第10課の今日の学習参照。

 

②状況可能を表す表現

 秋田弁では、「(状況的に)~ことができる」は、「~するのによい」、すなわち、「連体形+に+良[]という表現を用いる。「良」は形容詞活用

例文:今ンだば携帯電話ンでどごンでいでも連絡するにいぐなったもんな。今は携帯電話でどこにいても連絡できるようになったものね。百円で買うにいがったが?百円で買えたかい?ん前ぁ今日俺ら家さ来るにいが?君、今日は私の家に来られるか?寝るにい時期寝ねぁば大変だや?寝られる時に寝なければ大変だよ?年末帰るにいば帰って来[]な?年末帰れれば帰って来なさいね?子供がだンだば、勉強するにいっても「んた」どって勉強さねぁもんな。子供たちは、(環境的に)勉強できても「嫌だ」と言って勉強しないものね。

 

③状況可能の打消表現

 状況可能の打消表現は、受け身の助動詞「れる」「られる」+打消「ねぁ」で、結果的には「未然形+れねぁ/られねぁ」という表現形式を使う。

 

参考:「れねぁ」「られねぁ」の使い分け

(a)五段・サ変動詞→「未然形+れねぁ」を使う。

五段:書ぐ→書が-れねぁ 読む→読ま-れねぁ

サ変:する→さ-れねぁ 勉強する→勉強さ-れねぁ

 

(b)上下一段・カ変→「未然形+られねぁ」を使う。

上一:見る→見-られねぁ 飽ぎる→飽ぎ-られねぁ

下一:寝る→寝-られねぁ 開げる→開げ-られねぁ

カ変:来る→来[]-られねぁ

 

例文:台風ンで飛行機さ乗られねぁぐなった。台風で飛行機に乗れなくなった。日―昇るな遅せぐなったっけ、朝間起ぎられねぁぐなった。日が昇るのが遅くなったところ、朝起きられなくなった。今年の正月忙しして家さ帰られねぁがった。今年の正月は忙しくて家に帰られなかった。昨日停電あってテレビられねぁがった。昨日停電があってテレビを見られなかった。時間ねぁして本読まれねぁ時間がなくて本を読めない仕事ンで朝間まンでゆっくりられねぁ仕事で朝までゆっくり寝られないなんともれねぁごどもある。なんともできないこともある。られねぁ事情ンでもあるあんだが?来られない事情でもあるのか?外ンで遊ばれねぁば子供体弱るや?外で遊べなければ子供は体が弱るよ?アニメられねぁばストレスンで死んでしまうどは。アニメが見られなければストレスで死んでしまうってさ。

 

④属性可能の表現

 事物の属性・性質的に「~することができる」は、秋田弁では状況可能と全く同じ表現形式を使う打消表現も状況可能のそれと同じ形式を取る。

例文:軟水ンだば飲むにいンども、硬水ンだば飲まれねぁ軟水は飲めるが、硬水は飲めない自分悪りって自覚でぎる人ンだば諭すにいンども、自分なんでも正しど思ってる人ンだば諭されねぁ自分が悪いと自覚できる人なら諭すことができるけれども、自分がなんでも正しいと思っている人は諭すことはできない

 

 

 

終ぁに

 以上にて今日の秋田弁会話は終了です。

 

 ではまた。まずなー。

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