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第8課:いであった・てあった・んだ・あんだ

第8課:いであった・てあった・んだ・あんだ

 みなさんこんばんは。

 

 今回は、標準語の過去「いた」「ていた」に当たる表現と、標準語の相槌「そうだ」に相当する表現、そして、断定「のだ」に対応する秋田方言を、秋田弁会話を通して学んでいきますよ。

 

 ではどうぞ。

本文:

太郎:大輔、ん前ぁ昨日どごンでいであった

太郎:大輔、君、昨日どこにいた?

大輔:どごンでいであったって、昨日ンだば図書館いであった

大輔:どこにいたって、昨日は図書館にいたよ。

太郎:おや、んだってげぁせば人違いンであったえんだな。

太郎:おや、そうなのかい?じゃあ人違いだったようだな。

大輔:なに、昨日なにがあったなげぁ

大輔:なに、昨日なにかあったのかい?

太郎:ん?なもよ、昨日ん前ぁさ似だ人、若げぁ女子がだ連れで居酒屋ンで飲んであったがらしゃ、秋子かって知られれば大変だごどなるあんでねぁべがなって心配[しんぺ]ぁしてあったあんだ

太郎:うん?いやさ、昨日君に似た人が、若い女性たちを連れて居酒屋で飲んでいたからさ、秋子に知られれば大変なことになるんじゃあないかなって心配していたんだよ。

大輔:なんと、ん前ぁまだはんかくせぁごど言うごど俺なして秋子どご放って、若げぁ女子ど遊ぶにあぐって

大輔:なんと、君もまた馬鹿らしいことを言うなぁ。私がどうして秋子を放って、若い女と遊びに行くって言うのさ?

太郎:…んだやなん前ぁンだば昔っから秋子一筋ンであっものな。んであった、んであった。悪り悪り。今のごどンだば忘れでけれ

太郎:…そうだよな。君は昔から秋子一筋だったもんな。そうだった、そうだった。悪い悪い。今のことは忘れてくれ。

大輔:…んだンども似だ人そんだごどしてあったってげぁ?それンだば秋子さンだば見せられねぁな。それ見であれかって誤解されれば俺らたいした困るでぁ

大輔:…しかし私に似た人がそんなことをしていたってかい?それは秋子には見せられないな。それを見て彼女に誤解されると私はとても困るよ。

太郎:本当にんだな。近所ンで自分似だ人いるっていうも、ながなが恐ろしものンだな。要らねぁ誤解されるがもしれねぁもの

太郎:本当にそうだな。近所で自分に似た人がいるというのも、なかなか恐ろしいものだね。不用な誤解をされるかもれないからね。

語釈:

()だば:は。例文:今ンだば駄目ンだ。忙しもの。明日ンだば良たって。

②んだってげぁ?:そうなのかい?決まり文句。例文:太郎明日がらまだ旅行さ行ぐどや。―あい、んだってげぁ?あれまだよぐそんだ銭[じぇん]あるごど。 俺も昨日そンでいであったや?―んだってげぁ?せばなして俺らん前ぁどご見ねぁがったべ?

③せば:じゃあ。なら。例文:なんと、これも嫌ンだってげぁ?せばなにンだら良な? 分がった。せばそーするべ。 んだが?せば良ンども。

④なに:なに。なになに。なんだい。相手に質問する前によく使う言葉。例文:なに、ん前ぁどさが行ぐな? なに、明日まだ学校ンだな? なに、あれも来るなが?

⑤なにが:なにか。例文:あいー退屈ンだごど。なにが面白れごどねぁが?

⑥~なげぁ:~のかい。例文:あれも県外さ出だなげぁ?せばあど誰も居ねぁねぁは。 なんと、こんでに難しなげぁ。んだら最初がらやらねぁば良がったは。 あい仕方ねぁ。まンだそれやってだなげぁ?ん前ぁンだば本当になにするにも遅せごど。

⑦なもよ:いやさ。いやね。例文:なした、片息なのつで?―ん?なもよ、人生ままならねぁものンだなーって思って。

⑧女子[おなこ゚]:女。女性。年を問わない。

例文:最近の女子がだンだばまんず騒く゚ごど。 老人会、女子がだばりンで男人いねぁがったは。

⑨せぁ:さ。標準語同様、特に意味はない。例文:俺もせぁ、そー思ったンどもせぁ、やっぱりながなが、そー簡単にンだば行がねぁえんだな。

⑩べがな:かなぁ。例文:今日あれも来るべがな? 明日雨降るべがな?

⑪ん前ぁまだ~ごど:お前もまた~なぁ。相手に驚き呆れた時に使う慣用句。前半は、「めぁもまだ」「ん前ぁもまだ」とも。例文:めぁもまだ人悪りごど。ちゃんと言ってければいがったのに。 ん前ぁもまだ短気ンだごど。そんだごどンで怒らねぁってもいべせぁ。

⑫はんかくせぁ:馬鹿らしい。軽蔑に値するような言動を指して言う言葉。例文:あいー、はんかくせぁ。こんだ女子[おなこ゚]見でなに楽しって? ん前ぁまだはんかくせぁごど言うねぁが。そんだごどあるわげねぁべしゃ。

⑬なして~って。:どうして~というのか。

例文:なしてこんだごども分がらねぁって? なして今やらねぁって?

⑭どご:を。特に人や動物が対象の時に使われ易い。例文:人どご悪りぐ言う。 猫どご飼う。 熊どご撃づ。 太郎どご見ねぁがったが?

⑮あぐ:歩く。例文:外さあがねぁば体さ悪りや? 腰病んでどごさもあがねぁぐなった。

⑯んだやな:そうだよね。例文:んだやな。そー簡単にンだば行がねぁやな? んだやな。ん前ぁそんだごどするわげねぁやな。悪り。変だごど言って。

⑰悪り:悪い。ごめん。有難う。悪いの意味にも謝罪にも感謝にも使う。例文:あー天気悪りごど。 あの人悪りごどしてつかまったあんだどは。 あいー、悪りごど。わんざに家まンで送ってもらって。 あいー、悪りがったごど。こんでに手伝ってもらって。 あっ、悪り。それ俺壊したあんだ。 太郎、悪りンどもこれあっちゃ持ってってけねぁ? おや、ん前ぁ手伝ってけるな?悪りな、こんだごどまンでさせでしまって。

⑱んだンども:けど。例文:休みの日ンだば退屈ンだ。んだンども楽ンだ。 

⑲ってげぁ:ってかい?例文:まンだでぎねぁってげぁ? あの人も来ねぁってげぁ?

⑳たいした:とても。すごく。例文:冬ンだばたいした寒びンども、夏ンだば涼し。 あの子たいした美人さんだごど。 この服、たいした良ー。

㉑でぁ:(尻下がりの強めの)よ。例文:早えぁぐ行げでぁ。 うるせぁでぁ。

㉒んだな。:そうだな。そうね。例文:んだな。せばそーするが。

㉓要らねぁ:[形容詞]不要だ。例文:要らねぁごどするなな? 要らねぁぐ喋って人怒らせだ。 ん前ぁまず要らねぁごど言うな!

―今日の学習―

①動詞「いる」の過去

 「いる」という表現の過去「いた」は、秋田弁で「いであった」と言う。

例文:ん前ぁ日曜日どごンでいであった君、日曜日どこにいたの?日曜日ンだば俺ら図書館でいであったや?日曜日なら私図書館にいたよ?昔俺らがだ秋田ンでいであった時期あったねぁ。昔私たち秋田にいた時があったじゃない。

 

②秋田弁の「~ていた」

 標準語の過去の「~ていた」は、秋田弁では「~てあった」と言う。

例文:太郎さきたまンでそンでいで勉強してあった太郎はさっきまでそこにいて勉強をしていた去年まンでずっと塾さ通ってあった去年までずっと塾に通っていた俺ら行った時期、あどあれ寝であった私が行った時、もう彼は寝ていた

 

③特殊な用言「んだ」

 標準語の相槌の言葉「そうだ」は、秋田弁では「んだ」と言う。

 

標準語

秋田弁

連用形1

そうで

んで

連用形2

そうだっ

んであっ

終止形

そうだ

んだ

連体形

そうな

んだ

仮定形

そうなら

んだら

注意:①秋田弁の「んだ」は連体形にて「そんな」の意味をも表し、名詞を修飾できる(例:「んだ人」=「標:そんな人」)。②仮定形は、直後に仮定の助詞「ば」を付ける場合には、必ず「んだば」という形となる。絶対に「んだらば」とはならない。

例文:ん前ぁ悪りあんだべ?んでねぁ?お前が悪いんだろう?そうでないか?あの子めんけごど。―ん前ぁも昔んであったあんだや?あの子可愛いなぁ。―お前も昔そう[=可愛い]だったんだよ?あれ、今日日曜日ンだっけが?―んだ。今日ンだば日曜日ンだな。あれ、今日日曜日だっけっか。そうだ。今日は日曜日だね。太郎あど結婚してるあんだや?―あい、んだな?太郎はもう結婚してるんだよ?―あら、そうなの?んだ人いるってげぁ?そんな人いるってかい?んだら/んだ困るごど。そうなら/そうなら困るなぁ。

 

④断定の助動詞「あんだ」

 標準語の断定表現「~のだ」は、秋田弁で「~あんだ」と言う。本テキストでは、これは助動詞として扱っている。

 

標準語

秋田弁

連用形1

ので

あんで

連用形2

のだっ

あんであっ

終止形

のだ

あんだ

仮定形

のなら

あんだら

注意:仮定形は、仮定の「ば」を直後に付ける場合には、必ず「あんだば」という形をとる。決して「あんだらば」とは言わない。

例文:誰が来たあんでねぁが?誰か来たのではないか?んでねぁ。これ俺ら買って来たあんであった。そうではない。これは私が買って来たのであった。ん前ぁ盗ったあんだお前が盗ったのだ寒びあんだら服着ればいねぁ。寒いのなら服を着ればいいじゃない。寒びあんだ服着ればいねぁ。寒いのなら服を着ればいいじゃない。

 

終わりに

 これで今回の秋田弁会話の勉強はおしまいです。

 

 ではまた。へばなー。

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