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36.副助詞

副助詞

 みなさん、お久しぶりです。齶田浦です。

 

 今回は、近代秋田方言の副助詞について勉強します。

近代秋田方言の副助詞

 標準語と近代秋田方言の副助詞の対応関係は、以下のようになっています。

 

1:も→も

例:私も行こう→俺も行ごー 今日も学校だ→今日も学校だ

 

2:でも→でも

例:今でも覚えている→今でも覚べでる 私でも分かる→俺でも分がる

 

3:こそ→ごすか

例:雨こそ降らないけど嫌な天気だ→雨ごすか降らねぁども嫌[や]んだ天気だ それこそ大事だろう→それぁごすか大事だべ

 

補足:「こそ」は、「ごそ」「ごす」とも言う。

例:雨こそ降らないけれど…→雨ごそ降らねぁども…/雨ごす降らねぁども…

 

4:まで→まで

例:今まで辛かった→今まで辛れぁがった お前までそう言うかい→汝までそー言うげぁ

 

5:ほど→ほど

例:あいつほど優しい男もいない→彼奴ほど優し男もいねぁ 今ほど苦しくはなかった→今ほど苦しぐぁねぁがった

 

6:とか→どが

例:これとかどうだ→これぁどがなんとだ 春とか夏とかに咲く花だ→春どが夏どがに咲ぐ花だ

 

7:だの→でぁの

例:人生は勉強だの務めだのと忙しいものだ→人生ぁ勉強でぁの務めでぁのど忙しものだ

 

8:くらい→っくれぁ

例:それくらいでよいのだ→それっくれぁで良[い]なだ 飽きるくらいまで遊んで来い→飽ぎするっくれぁまで遊んで来い

 

補足「ぐれぁ」とも言う。

例:それくらいでよいのだ→それぐれぁで良[い]なだ 飽きるくらいまで遊んで来い→飽ぎするぐれぁまで遊んで来い

 

9:ばかり→ばり

例:水ばかり飲む→水ばり飲む 泣いてばかりいる→泣ぁでばりいる

 

補足:「ばり」は、「ばし」「ばっこ」「ばんこ」とも言います。

 

「ばし」

例:水ばかり飲む→水ばし飲む 泣いてばかりいる→泣ぁでばしいる

 

「ばっこ」

例:水ばかり飲む→水ばっこ飲む 泣いてばかりいる→泣ぁでばっこいる

 

「ばんこ」

例:水ばかり飲む→水ばんこ飲む 泣いてばかりいる→泣ぁでばんこいる

 

10:は→ぁ

例:私は秋田の生まれだ→俺ぁ秋田の生まれだ 今日は風が強い→今日ぁ風ぁ強[つ]れ

 

補足:直前の音が「ん」で終わる場合、「な」と発音されることがある。

例:この本は面白い→この本な面白れ 人に言わせて自分は言わない→人さ言わせで自分な言わねぁ

説明:この現象については、『秋田方言』は文法のところで言及してませんが、単語篇にその手の例があったので私の方で補足しておきました。まぁ言及してなかったところからして、それほど頻繁に言われる現象ではなかったのでしょう。『秋田方言』には「な」にならない例文が沢山収録されてますし。

 

11:だけ→だげ

例:朝だけ寒い→朝だげ寒び 君にだけ言おう→お前[め]ぁにだげ言おー

 

12:など→だの

例:嫌だなどと言う→嫌だだのど言う 歌などを歌った→歌だのー歌った

 

13:やら→でぁら

例:十人やら二十人やら集まっている→十人でぁら二十人でぁら集ばってる 白やら黒やらてんで分からない→白でぁら黒でぁらてんでぁ分がらねぁ

 

補足:同じ意味内容を「だやら」「だが」でも表すことができる。「だ」は指定の助動詞。
「だやら」

例:十人やら二十人やら集まっている→十人だやら二十人だやら集ばってる 白やら黒やらてんで分からない→白だやら黒だやらてんでぁ分がらねぁ

説明:おそらくは「だやら」が本来の形で、それが約まって上記の「でぁら」となったのでしょうね。

 

「だが」

例:十人だか二十人だか集まっている→十人だが二十人だが集ばってる 白やら黒やらてんで分からない→白だが黒だがてんでぁ分がらねぁ

説明:これは、意味内容的には「でぁら」「だやら」と同じですが、標準語との対応関係で言えば、「やら」ではなくそのまま「だか」と対応しています。

 

14:しか→しけぁ

例:これしかない→これぁしけぁねぁ こうするしかしかたない→こーするしけぁしかだねぁ

 

補足:「しか」は、「はんて」とも言う。

例:これしかない→これぁはんてねぁ こうするしかしかたない→こーするはんてしかだねぁ

説明:「~するしけぁしかだねぁ」「~するはんてしかだねぁ」は、『秋田方言』の例文記載の表現。まぁ現代日本語で言えば「~するしかない」でしょうね、意味的には。

 

15:さえ→せぁ

例:水さえ喉に通らない→水せぁ喉に通らねぁ 死ぬとさえも思った→死ぬどせぁも思った

 

16:ごと→まずら

例:皮ごと食ったってかい→皮まずら食ったってげぁ 骨ごと飲んだ→骨まずら飲んだ

 

補足:「まずら」は、「がらみ」とも言うらしいです。

例:皮ごと食ったってかい→皮がらみ食ったってげぁ 骨ごと飲んだ→骨がらみ飲んだ

 

17:まま→まんま

例:そのままにしておけ→そのまんまにしておげ 袋のままやろう→袋のまんまやろー

説明:これは、多分本当は「まま」とも「まんま」とも言ったのでしょうね。現実の秋田弁を聞くに、秋田方言というのは、東北方言の特徴である鼻濁音の他、普通の鼻音(例:なにぬねのまみむめもの音等)も小さく「ん」を入れたような鼻から出る音になりますから。ゆっくり言えば「まんま」、早く言えば「まンま」になるというのが現代秋田弁の現状ですから、マァ多分近代も本当はそうだったと思いますよ。とりあえずは『秋田方言』に従っておきましたが。

 

補足:「Aが~するままになる」の意味では、「Aぁ~するなりぎになる」という表現が、一例だけ『秋田方言』に記載されています。今、下にその例文を引用しましょう。

例文(『秋田方言』p230より引用):人ぁゆーなりぎになてる(人が言ふなりになってゐる)

『秋田方言』ではだいぶわかり辛い訳になっていますが、多分「人が言うままになっている」という意味で訳しているのでしょうね。品詞を無視して意訳すると「人の言い成りになっている」という意味です。あと「なてる」は「なってる」のことだと思います。秋田弁は「っ」とか「ん」とか短く言う傾向が強いのですが、『秋田方言』では基本的に、「っ」を短く言うものについては表記を省き、「ん」を短く言うものについては「ん」と表記するか「ん」と表記するかのどっちかです。

 

18:ずつ→ずづ

例:三人ずつ座れ→三人ずづ座れ 一つずつ配った→一っつずづ配った

 

19:か→か。但し普通訛って「が」に濁る。

例:来るか来ないか分からない→来るが来ねぁが分がらねぁ これでいいか聞いてみた→これぁでいが聞ーでみだ。

 

補足:標準語同様、疑問詞について不定疑問詞を作ることができます。

例:なに+か→なにが どご+か→どごが/どっか いづ+か→いづが 等々

参考:秋田方言の動詞の名詞的用法

 標準語の動詞は、「手紙を書きに行く。」「彼女は笑いもしないでどこかへ行った。」「歌いでもしないと気分が塞がる。」の「書き」「笑い」「歌い」のように、格助詞や副助詞の直前に置くことで、名詞のように格助詞や副助詞の目的語となることがある。
 この際、動詞は連用形の形を取ることになっているのですが、秋田方言においては連体形の形を取るのが原則なので注意が必要である。

 

例:

手紙を書きに行く→手紙書ぐに行ぐ
笑いもしない→笑うもさねぁ
歌いでもしないと気が晴れない→歌うでもさねぁば気ー晴れねぁ

説明:ご覧の通り、「書ぐ」「笑う」「歌う」と、動詞の連体形の形を取っています。これが秋田方言の特徴となりますので、覚えておきましょう。

注意事項

 ところで、副助詞のうち、「も」「どが」「が」「だげ」の4つは、『秋田方言』において特に言及がなされておりません。これらは現代秋田弁の使用状況から、私が勝手に近代秋田方言として追加したものです。

終わりに

 以上にて今回の勉強はおしまいです。

 

 それではみなさん、またこんど。あばやー。

 

対応する現代秋田弁の記事:こちらとなります。

 

 

 

 

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