格助詞
みなさんこんにちは。
今回からお待ちかね、「助詞」の勉強に入っていきます。
で、今回勉強するのは「格助詞」となります。
…まぁ、文法用語の意味はおいておきましょう。標準語に対応する秋田の言葉を覚えていけば問題ありませんのでね。
それではさっそく、勉強開始!
近代秋田方言の格助詞
近代秋田方言の格助詞と標準語との対応関係は、以下のようになっております。つべこべ考えず、ちゃちゃっと覚えていきやしょう。標準語→秋田方言、という対応関係です。
なお、対応する言葉が複数あり、条件ごとに使うものが変わるなど、複雑な使用がなされるものに関しては、ちゃんと説明を加えてありますのでご心配なさらず。
1:が
近代秋田方言には、「が」に当たる言葉は三つあります。すなわち①「か゚」、②「ぁ」、③「な」の三つです。①は標準語に一番違近い形ですが、実際には省略されることが多く、あまり用いられることはなかった模様です。
代わりに用いられたのが②と③.③は「ほん」「うん」など、語末が「ん」で終わる言葉に使われたのに対し、②は「ん」で終わる言葉以外のすべての言葉につけることが可能でした。まぁ②③は相互補完的に使われていたということでしょう。
①原則:が→か゚ (但し、この型実際にはあまり使われなかった模様)
例:花が咲く→花か゚咲ぐ 雨が降る→雨か゚降る 等々
説明:文法上は、一応「が」に対応する言葉として「か゚」が存在しました。もっとも、実際の使用に際しては、普通②、③の形式を取ることが多かったようです。
補足:むしろ、「か゚」は省略されることが多かった。
例:花が咲く→花咲ぐ 雨が降る→雨降る 等々
②実際:が→ぁ (実際に使われた形)
例:花が咲く→花ぁ咲ぐ 雨が降る→雨ぁ降る 等々
説明:「か゚」があまり実際には使われなかったのに対して、代わりに用いられたのがこの「ぁ」という言葉です。但し、「ん」で終わる言葉の直後に付ける場合は、下の「な」を使います。
③実際:が→な (実際に使われた形。)
例:本がある→本なある 運が悪い人だ→運な悪り人だ
説明:「ぁ」同様「か゚」の代わりに使われた言葉です。この「な」は、「ほん」「うん」等の例のように、直前の語の語尾が必ず「ん」で終わっていなければなりません。そこは注意。
2:の
①原則:の→の
例:私の本だ。→俺の本だ。 秋田の伝統だ→秋田の伝統だ
②例外:「のもの」という意味の「の」→「のな」
例:これは私のだ。→これぁー俺のなだ。 それは誰のだ?→それぁー誰のなだ?
説明:ご覧の通り、「のな」で「のもの」の意味を表します。
補足:因みに「のなな」「のがな」「のがん」も「のな」と同じ意味を表します。
例:これは私のだ。→これぁー俺のななだ。 それは誰のだ?→それぁー誰のななだ?
例:これは私のだ。→これぁー俺のがなだ。 それは誰のだ?→それぁー誰のがなだ?
例:これは私のだ。→これぁー俺のがんだ。 それは誰のだ?→それぁー誰のがんだ?
③例外:「こと」「もの」という意味の、用言名詞化の「の」→「な」
例:叱られるのは嫌だ。→叱られるなぁ嫌[や]んだ。 赤いのと白いのとが咲いた→赤げぁなど白れなど咲ぁだ。
補足:因みに「なな」「がな」「がん」も「な」と同じ意味を表します。
なな:
例:叱られるのは嫌だ。→叱られるななぁ嫌[や]んだ。 赤いのと白いのとが咲いた→赤げぁななど白れななど咲ぁだ。
がな:
例:叱られるのは嫌だ。→叱られるがなぁ嫌[や]んだ。 赤いのと白いのとが咲いた→赤げぁがなど白れがなど咲ぁだ。
がん:
例:叱られるのは嫌だ。→叱られるがんな嫌[や]んだ。 赤いのと白いのとが咲いた→赤げぁがんど白れがんど咲ぁだ。
3:に→に
特に説明すべきことなし。「に」は秋田方言でも「に」のままです。
例:人に言う→人に言う 学校に行く→学校に行ぐ ここにある→こごにある 等々
補足:「には」は、「にぁ」「ね」と言います。
例:人には言わない→人にぁ言わねぁ/人ね言わねぁ 行ぐにぁ行ぐども/行ぐね行ぐども
4:を
近代秋田方言では、「を」に当たる表現は三つありました。①「を」、②「長音」、③「ば」の三種類です。
①は原則ですが、実際には②を使うことの方が多かったようです。
③は、対象の強調「をば」の対訳として『秋田方言』に載っている表現です。まぁ当サイトとしては「をば」の意味ととらえて使うことにしています。青森あたりだと、「ば」は普通に「を」に当たる表現として使われているようなのですけどね。秋田方言の場合は不明なんで。
①を→を
例:人を泣かせる→人を泣がせる 山を見る→山を見る
②を→長音(前の語を「ー」と伸ばす)
例:人を泣かせる→人ー泣がせる 山を見る→山ー見る
③をば→ば
例:人をば泣かせる→人ば泣がせる 山をば見る→山ば見る
5:へ
秋田方言では、「へ」に当たる言葉としては①さ、②どさ、③ゃ、の三種類があります。
①が原則、②は「人へ」「動物へ」という文脈の時に、③は「こっちへ」「町へ」など、「-ちへ」となるときに使われる形です。
①へ→さ
例:山へ行く→山さ行ぐ 実家へ手紙を書く→実家さ手紙ー書ぐ
②へ→どさ
例:親どさ手紙ー書ぐ 犬どさ餌やる
説明:「親」は人、「犬」は動物。なので「どさ」を使うというわけです。
③へ→ゃ
例:こっちへ来い→こっちゃ来い 町へ行く→町[まっち]ゃ行ぐ
説明:「こっち」「町」はどちらも「ち」で終わる言葉ですね。だから「さ」ではなく「ゃ」を使うというわけです。まぁただ、町に関しては秋田方言でも「まぢ」に訛るはずなんですけどね。「まっちゃ」に関しては決まり文句なのかもしれません。
参考:「さ」が訛って「ちゃ」と言う例も見られたらしいです(「俺ちゃ持って来い」等)。まぁこれは『秋田方言』としても一般的な形として見ていないようなので、当サイトとしても採用しません。
6:で→で
例:包丁で切る→包丁で切る 事故で遅れる→事故で遅れる 等々
7:と→ど
例:知らないと言う→知らねぁど言う あいつとは喋るな→えぁづどぁ喋るな
補足:「~という名詞」は「~って名詞」と言う。
例:阿仁という村→阿仁って村 太郎という人→太郎って人
8:から→がら
例:私から始めよう→俺がら始めろー 今から行くってかい→今がら行ぐってげぁ
補足:「~てからに…する」→「~てがに…する」と言う。
例:集まってからに話そう→集まってがに話すべ これができてから休もう→これぁーでぎでがに休もー
説明:秋田方言の場合「て」は直前の音が「っ」以外の時は必ず「で」に濁る。
9:より→おが
秋田方言の場合、「より」に当たる言葉に「おが」というものがありますが、これは標準語の「より」にはない意味「~より他に…ない」の意味も持っているので注意が必要です。
①比較対象「より」→「おが」
例:私よりあいつの方が大きい→俺ぁおが彼奴のほ大っき これより綺麗な石はない→これぁおが綺麗だ石ぁねぁ
②唯一無二「~より他に…ない」→「~おが…ねぁ」
これ一つよりほかにない→これぁ一っつおがねぁ 一つより他にもらえなかった→一っつおがもらわれねぁがった
補足:ちなみに「おが」は、「おっか」「よが」「よっか」とも言います。
おっか:
例:私よりあいつの方が大きい→俺ぁおっか彼奴のほ大っき これより綺麗な石はない→これぁおっか綺麗だ石ぁねぁ これ一つよりほかにない→これぁ一っつおっかねぁ 一つより他にもらえなかった→一っつおっかもらわれねぁがった
よが:
例:私よりあいつの方が大きい→俺ぁよが彼奴のほ大っき これより綺麗な石はない→これぁよが綺麗だ石ぁねぁ これ一つよりほかにない→これぁ一っつよがねぁ 一つより他にもらえなかった→一っつよがもらわれねぁがった
よっか:
例:私よりあいつの方が大きい→俺ぁよっか彼奴のほ大っき これより綺麗な石はない→これぁよっか綺麗だ石ぁねぁ これ一つよりほかにない→これぁ一っつよっかねぁ 一つより他にもらえなかった→一っつよっかもらわれねぁがった
10:によって→にかって
「にかって」は、秋田方言独特の格助詞です。その意味はおおむね標準語の「によって」の意と同じですが、敢えて用法を細かに分ければ、①受動の加害者明示「~によって…れる」、②原因「~によって」の二つに分かれます。
①「~よって…れる」→「~にかって…れる」
人によって酷い目に遭わされた→人にかって酷で目に遭わされだ 犬によって噛まれた→犬にかって噛まれだ
②原因「によって」→「にかって」
例:蚊にかって寝られねぁ 雪にかって埋まった
補足1:②は、「~たにかって」で「~たことによって」という意味も表したようです。「た」は過去の助動詞ですね。
例:落第したために力落ちた→落第しだにかって力落ぢだ 寒かったために震えていた→寒びがったにかって震えであった
説明:『秋田方言』では、特に「たにかって」で熟語として載せてあるわけではありません。「にかって」には「によって」の意味があると説明し、その例の一つとして「落第しだにかって力落ぢだ」というのがあるのみ。であれば、単に「用言の連体形+にかって」で「~ことによって」の意味を表せたのかもしれません。まぁ「たにかって」以外で例文がないのでこればかりはどうとも言えませんが。
補足2:「にかって」は、「にか゚って」も言います。
例:人によって酷い目に遭わされた→人にか゚って酷で目に遭わされだ 犬によって噛まれた→犬にか゚って噛まれだ 蚊にか゚って寝られねぁ 雪にか゚って埋まった 落第したために力落ちた→落第しだにか゚って力落ぢだ 寒かったために震えていた→寒びがったにか゚って震えでぁった
おわりに
以上にて今回の勉強はおしまいです。
まぁ助詞は文法の勉強というよりは、ほとんど単語の勉強です。対応する秋田方言を暗記できれば、まぁ勉強終了と言っていいと思います、助詞については。
ともあれ今回はこの辺で。あばやー。
対応する現代秋田弁の記事:こちらとなります。
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